第25話 洗濯と服飾……と誰かへの誰かの依頼。
「これ多すぎませんか?」
私の部屋何個分だろうか?超大量の服が集められていた。
「今は国中から人が王都に集まってきてるからなぁ……王都で新しい服は売れるし着てた服は持って帰るには邪魔だし売っちまうんだ。これが国の流行りってわけだな」
「なるほど、それはそれとして……多すぎません?」
「安かったんだわ、もう元は取ってるから気にすんな」
貴族は王都に来て祭りや式典に参加するのに服を新調する。それまで着ていた服は部下に下げ渡したり、売ったりする。それがまた少し上の階級の商人や従士の階級の人の手に渡り、そがまたまた平民へと上から下に服が流れるのだ。
親分さんはどこからか市場で捨て値になっている服を集めまくった。
貴族の服には宝石などの飾りもついているとかでそれらは先に回収して売ったらそれだけで元は取れたと……ウハウハだな。
つまりここに集まる服は親分さんからすると好きにしても良いもので、更に流行の何世代も前の流行のものである。触れるだけで粉になるような脆すぎるものも混じっているわけだ。
うん、なんか染め直そう。
超簡単なのは知ってるのでやってよう。錆びた鉄釘と酢と水だけでできる。錆びた鉄なんてその辺にあるし、服を集める前に作っていた実験用の鉄液に漬け込んでいた生地を出してみる。
「なんか汚い色ですね」
「それは・・悪くなってないかい?」
「実験失敗ですね、染まりはしましたが……」
黄ばんだ生地が更に濃くなった。古風な茶色さ、枯れ草と土の色の間のような微妙な色。美しさは全くない。友人のやってたリメイクではとれないシミなんかで悪くなった生地を綺麗にしたりも出来ていたが、友人も「ぶっちゃけ市販の染め剤が簡単で手っ取り早いよ。発色もいいしね」なんて言っていた。こういう作り方もありますよってのは教わったからやってみたが……駄目だな。
まぁそれでも茶色が作れるようになったわけだしこの実験は成功といえば成功だろう。
花や草木で染める方法もあるし……そうだ。
「<鉄液よ、服に染み込め>」
………無理だな。一応ほんの僅かには操作できるが私は純粋な水であるほど簡単に操作ができる。一度混ざった液体には全然使えない。逆に自分が出した水はある程度操作ができるがやはり出したてで混じり気のない水が簡単だ。オゾンなんかも練習すれば上達するかも知れないが……。
「鉄や銅、それにミョウバンでやるんだったかな……ミョウバンってなんだろ?」
「染剤は染師の秘伝なのに良く知ってますね」
「そうなの?」
「そうですよ!染師さんや薬師様……それと村長とかも知ってるかもです!」
…………そうだよね、この雑に作った鉄液ですら色はちゃんと付くが本来はこういった技術は何年も試行錯誤を繰り返して完成していくもので、これらの技術一つで一生食べていけるものかもしれない。
前世はテレビやネットの普及によって「誰でも気軽に情報にアクセスできる時代」だった。だから触り程度に知ってはいるが……元来こういったものは家族だけが知っていたり、何年も何十年も働いてようやく得られる秘匿するべき知識である。
花やコーヒーにワインなんかでも出来たような……?いや絵の具なんかではラピスラズリが高価ってテレビでやっていた。ということは鉱物や鉱物を何かしらの化学処理をして出せる色もあるはず?砕いてつけてた?江戸時代の着物なんかはとても色とりどりだったはず……ということは染めるものは自然物で…………いや江戸時代の職人は超高度な技術もあったと聞くし――――
「むむむ……」
「フリム様はなにかお考えのようだ。さぁ休憩もここまでで洗濯洗濯!」
柿渋なんかがあったら紙を撥水加工できて傘になるはず。柿渋があれば家の壁なんかも防水処理できるし染めることもできる……いや柿自体見てないんだってば、染める染める………炭、炭と膠でインク作ってたんだっけ?いや油、油と混ぜて油絵の具!だけどその前に抽出方法、知らない。蝋引きとかって紙に蝋燭を染み込ませて撥水加工を……違う違う染めるの!いや、テレビで伝統工芸でやってた気がする。蝋燭は油だから蝋燭のついた場所は水が染み込まない。だからそこに染料が塗ってない場所に色が定着するからそれを利用して………違う違う違う!染料!染料がないの!!!
「……うあー」
ちょっと気分転換しよう。何も考えずに水を出しまくっていく。賭場で飲まれる水は最近私の水が基本だ。皆、私の水を飲むし使う。人も余裕で入る水瓶いくつかに入れておけば勝手に持っていくようになった。フリムちゃん一人では全部の水を注ぎに行ってたら一人じゃ足りないの。
……どんどん考えは巡るがそれでも答えが出ない。記憶力は昔からいいほうだけど化学は専門的に習ったわけじゃない。もっと勉強しておくべきだった。
それに良く考えたら前世ではあまり言われなかったが服は染めたり素材によっては化学物質や発ガン性物質がーと昔はあったとおばあちゃんが言っていた。ということは……ということは?とゆうことはぁ…………現代日本の服ってすごかったんだなぁ。
考えに考え抜いて頭が馬鹿になってる気がする。悩んだり困ったときには「答えは自分の中にある」とか「原点回帰」とかの言葉が頭をよぎるがそもそも自分の中にない答えをどうやって導き出すのか?
服の山を見て………その日は終わった。
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一晩寝て閃いた。
「というわけなんで親分さん、傷んだ生地や服の価値を上げるのに染める知識のある奴隷がいればほしいです」
「なるほどな、ウンウン唸ってたのはそういうことか……わかった」
何も自分のしょぼい知識からだけの答えを出さなければいけないわけじゃなかった。
ボロくとも色とりどりの洋服があるということはそれだけの色を染める技術や素材が既にあるということである。そしてそういった職人も必ずいるはずだ。
そもそも染めるまではしなくてもいいかも知れないが水につけただけでまだらに色落ちするような生地があるし色のくすんで微妙なものはやはり使いにくい、より価値を高めるためになにかできる方法があるならやるべきだ。
どうしようもないものはつなぎ合わせて奴隷の服に、指でこするだけで崩れるようなものや小さな端切れはクッションや寝具にいれるなりにでもすれば良い。
思い切って衣類にこだわらずに小物でも作っても良い。フリムちゃんは針も糸も家庭科の授業でしか触ったこと無いからタラリネ任せである。
洗濯は現在内部の人間のためにやっているし、外部からの金銭が発生しない以上ゆっくりやれば良い。タラリネが代表となっているお針子集団も中古の服を洗って使えなさそうなものは使えそうな部分だけでも切り取って集めている。状態の良いものは洗って乾燥させただけで売れそうだし、少しぐらいの破れであれば補修する。
だいたいやりたいことは決まっているし、道筋も見えている。後はうまくいくように少しずつ改善していくだけだ。
「フリム様、お姉様方から贈り物が届いております」
「フリムちゃん、これ上げるー!きっと似合うと思うんだぁ」
「これ食べて!お客様にもらったお菓子!美味しかったわ!」
「………ふぐぅ」
親分さんに言ってビジネスホテルサイズとカプセルホテルの間ぐらいの小さな部屋からもう少し大きな部屋に移してもらおう、せっかく洗ったものを畳んでサイズ別に箱詰めしていったのに、また足の踏み場もないほどの服が届いた。強烈な香水の良いのか悪いのかもわからないかおりに鼻がやられてしまいそうだ……。
お菓子はマーキアーたちと食べて、時間が出来たらでいいからと言ってこの贈り物共を洗濯の練習台として全て運んでもらうこととなった。
「そういやフリムよ。水浴び場と湯屋はやる意味あんのか?」
「洗濯する人間も服を取り扱う人間も汚れてたら結局服も汚れますし……清潔にしてたら病気にかかりにくいですから」
「そうなのか?」
あっやばい、そんな知識どこで手に入れたのかって聞かれても答えようがない。
「ほら、奴隷や路地裏の人間は病気で死にやすいですけど貴族様は病気にはなりにくいでしょう?ってことはそうなんじゃないかなと、なにかの本で読んだ気がしますし」
「………そうか?いや、そうかも知れねぇな」
「だとしたら病気になる人が減ったら親分さんも病気になりにくくなりますよね?」
「お前は良く気がつくなぁ……しっかし、結構な水を使ってるはずだが魔力は足りてんのか?」
結構無理やり話を持っていったし媚びすぎたか?しかし、親分さんは親分さんに利のあることをする人間には寛容だ。嘘をついたり言うことを聞かない人間には結構容赦がないが……。
「まだまだいっぱい出せます!」
「良い拾い物だったよお前は……。外の祭りが終われば杖も探してやろう。良いのがあればいいが、そんなに期待すんなよ?あぁいうのは値段じゃなくて合うもんがねぇとどうしようもねぇからな」
「そうなんですか?」
「あぁ―――親父も俺に合うもんがねぇか探したが全然でな。チッ、余計なこと話した。忘れろ」
なにか嫌な思い出でもあったのか、しばらく親分さんは不機嫌であった。
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毎年この行事は嫌になるな。
先祖からの伝統だかなんだか知らないがいくつかの家を回って挨拶をしないといけない。面倒だがこれで大家と呼ばれる王都の貴族たちの地位は保たれているし俺の支持にも繋がる。
火の大家では火で出来た上等な武具をかけて武闘会が開かれる。これは兵士の質にも繋がるし見ごたえがあるのは良いが……石の椅子が硬すぎる。
風の大家では世界中の魔導具や薬、珍獣を連れてきてくれる。空を飛んで様々なものを取ってくるだけあって何が来るかと楽しみであるが、会場が同じで座るのが辛くなる。
水の大家では酒を王都で振る舞う。酒はそれだけ明るい国となる。
土の大家では王都を作っただけあって様々な芸術品を新たな道や新たな建物に飾るがそもそも自分の像とか見たくもない。恥ずかしくて破壊したくなる。
その後は家に顔を出すが……子供の頃は庭園が王都の地形に誂えて作られた貴族像も物珍しかったが長い年月で石像は劣化しているし鬱蒼としている。貴族の領地も転封や貴族の恥部や歴史を知るようになった身からすると億劫にもなろう……地方から来る子息は皆ここに来るし彼らには面白いかも知れないが、のちの教育ではむしろそれで混乱させてるようで苦情も来ている。
いつものように闘技場や四大属性の大家や主要な家々を回るがいつもと違う点があった。
ドゥラッゲン家の像の殆どが物凄く綺麗になっている……!一部の壁や階段、手すりまで!?見てて気持ちが良いほどに………作り直した部分もあるだろうがドゥラッゲン家にはそんな余裕はないはずだ。
話を聞くと伝手のある商人の子飼いの魔法使いが特殊な魔法で行ったのだとか……。
「―――――面白そうだな」
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