第11話 賭けと褒美と新魔法
ボクシングのルールをそこまで覚えていたわけではない。ルールは手探りだが賭け方はある程度決まった。
現在は「どちらが勝つ」という単純な賭けだけだが、それだけではなく「何ラウンド目に勝つ」とか「右のパンチで勝つ」とか「クロスカウンターで相打ち」などで不可能と思えるものほど賭けの倍率を上げたものを設定する。
賭け事に熱狂的になる人は多くいるがうまく行けば奴隷を殺す必要がなくなるだろう。
まずは賭場の清掃だが……これがまた汚い、壁が石レンガを組んだようなもので水の魔法が使いやすいがなんでこんなに汚くなるのかわからないというほどに汚い。
口元を覆って床も壁もガッツリ高圧洗浄魔法をかけていくが、かなり広い建物だし時間がかかって一日では終わらない。それでも見栄えも臭いもかなりマシになってきた。
「しっかし、なんであんな賭け浮かんだんだ?」
「そ、その、このお金、みたいに色んな場所に置くみたいに賭ければ面白いかなって……それとやっぱり人が死ぬのは怖い、です」
賭け自体は順調だ。
なんとなくで考えたルールだが正々堂々と殴り合って決める。反則すると審判のムキムキの奴隷が一発棒でぶん殴るからほとんど不正はない。
机の上に数えるために並べられた硬貨が賭けの元なのは……ちょっと無理があるか?
「子供の発想は凄いもんだな……拳闘は評判もいいし、賭場が綺麗になっていくのも最高だ」
「ありがとうございます、親分さんの役に立てて嬉しいです!」
ボクシングは昔からこういう賭けに使われていたし、海外では現代であってもこういう事例がある。海外の刑務所でスポーツの名目で行われていた賭けボクシングなんて最たるものだろう。
ボクシングは他の関節技や寝技がないだけあってわかりやすい。正々堂々、一対一で拳だけを使う……だからこそ古来から他のスポーツや格闘技とは一線を画す存在なんだと思う。
日本人的感性からすると「ボクシングを穢すな」とも心の中で思うがそれで助かる命があるし、文句を言いたいなら歴史を調べてからここに来て言ってみろと言いたい。来れるわけ無いけど。
「これは褒美だ、読むなり写すなりしろ」
「これは?」
「水の魔導書だ、使えるかはわからんがどうせ売るもんだし売る前に読んでみりゃいい」
「っありがとうございます!!」
重厚な革張りにベルト付きの本。こちらの文字は無論日本語ではないがなぜか大体読める。私の記憶を思い出す前のフリム勉強好きだった気がする………………あれ?何処で勉強したんだ?
―――頭が少し痛む。
なにか大事なことを忘れている気がするがなんだろうか?
まぁそれはそれとしよう、ベルトを解いて本を読んで見るがこれは本当に嬉しい。なんとなくで魔法を使っているができればもっと知ってみたい。日本にはなかった謎の技術、もしかしたら全くわからないかもしれないがそれでも自分の力になれば………。
どんな時でも、誰が相手だろうと、命の危機を脱せられるなら……こんなにも価値のあるものは他にないだろう。まぁ何が書いてあるかまだわからないのだけど。
「ズリーぞ!フリム!」
「そうだそうだ!俺等にもなんかくれよ!」
「うっせぇ!てめぇらも稼ぎの一つぐらい考えてこい!!!」
こうして、仕事が増えた中、楽しみも増えた。
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本の内容は専門的すぎたり、偉人の名前なのかそれとも特殊な言葉なのかわかりにくいものもあるが水魔法を基本にわかりやすく書かれていた。
『自分の中の魔力を使うのは初歩中の初歩だがその魔力を使う時、自己のイメージを精霊が読み取って具現化する。自己のイメージ以上のことも精霊次第でできるが体内の魔力をその分持っていかれるのでとても危険である。
制御のためには術式を使う、触媒を使う、魔法陣を使うなどをするが結局のところ自分の感覚を研ぎ澄ませるのが最も早い。しかし、もちろん例外はある。竜や精霊、魔族などの高位存在との契約であり、彼らは自身の体内の力以上にその地の力を行使できる』
なかなか難しいし本の中には掠れて読めない部分や仮説と書き足している部分もある。これは誰かが勉強した後か、それともこの本を書き記した著者のものだろうか?
自室として与えられた小さな部屋にはベッドと服掛けしか無いのでベッドに寝転んで読む。もうちょっと柔らかかったら良いんだけど…。
『魔法は自然界にあるものと近い働きをするがその限りではない。炎は形を作り、岩は炸裂し、風は光を放つ……これらは研究者たちによって様々な仮説が立てられているが結局のところ自然現象と似ているようで異なるという点だけは意見が一致している。一部の頭の悪い学者以外は。』
『様々な現象を起こせる魔法だが魔法には例外となるものも存在する。地の属性を極めたかの偉大なるレーゲファマス賢者は地属性に火の属性を足し、溶岩魔法なるものを生み出した。かの魔法は一つの属性では成り立たなかったがその現象を起こせるようになったレーゲファマス賢者の資質があったからこそかもしれない。しかし、かのレーゲファマス賢者は火の魔法を獲得したのは溶岩魔法を行使した後である。彼の魔法は以前より大地の温度を変えることも出来ていたことも考慮すべきだろう。理由は定かではないがこの偉業を研究することができれば複合魔法理論を飛躍的に前進させることができるのではないだろうか?近年の属性至上主義や各属性の名家による婚姻に 』
―――難しいし分厚くて読みきれない。
難しいなりに言葉以外にも様々なものが読み取れるし、私にとってこの本は有用だろう。
良くわからないが魔法は世界に漂う精霊が行うもので、人間は自分の中の魔力を彼らに持っていかれたりして魔法を使う。簡単な魔法であれば自分の体内魔力だけでもできるが効果はたかが知れている。
それぞれ個人には属性や資質があるがそもそも特定の属性を強く使える人間は希少で国によって囲われてるのだとか……。
まぁ魔法がイメージでできるのなら何ができるのだろうか?
「<水よ、形作れ>」
ボールペンの形には出来た。もちろん書くことは出来ないが……。
水………水といえばなんだろうか?水はH₂O、H2つとOが結合したもので地球上の多くの場所にあり、生物にはたいてい欠かせないものだ。蛇口をひねればでてくるし。川を流れて海にたどり着き、蒸発して雲になって雨となって降ってくる。
今必要なものと言えば……掃除で使うアルカリ電解水?確か酸性やアルカリ性の水を電気とかで作って出来たはず。テレビでやってたけどよくはしらない。
そこそこ固いベッドで色々考えてみるが試したくなった。
寝転びながら床に向かって手を向ける。
「<アルカリ電解水でろ>」
ジョババと水がでるが違いがわからない。確か酸性の水ならレモンぐらいの酸性値でアルカリ電解水なら結構強いアルカリだったはずだけど……効果が出てるのかわからん。
H₂Oからできるものってなんだ?海から金が取り出せるんじゃないかって研究は何かで聞いたけど……
「<金よ、ものすごくちっさくてもいいから出ろ>」
でないか、自分の魔力が減った感覚もない。
今日も一日よく掃除して働いた。疲れてもうすぐ寝落ちする頭で詳しくもない科学の事考えてもなぁ。床のアルカリ電解水(仮)よりも変化がわかるもの……?
「< オゾン(O₃)よ出ろ>」
少し魔力が減った気がして……ふわりと生臭さが鼻を通る。
ベッドから飛び上がって部屋の鍵をあけてダッシュで出る。
「はぁっはぁっ!!!??」
―――なんか、出た。
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