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07 Uターン

「治癒士ギルドか。職業も治癒士なのに、もう冒険者ギルドがホームみたいに感じるのはなんでだろうな」

 冒険者ギルドを出てから、直ぐに治癒士ギルドへ到着した。


 扉を開けるが、以前のように人は配置されておらず、「いらっしゃいませ」という声はなかった。


 まぁ別段困るわけではないからいいけどね。俺はカウンターへ向かい、受付さんに声を掛けた。

「すみません。治癒士の更新をお願いします。ってクルルさんですよね? お久しぶりです」

「あれ貴方って一年前に登録をした「はい。ルシエルです」そうそう。ルシエル君だったわね。元気だった?って、貴方、何だか体格が良くなってない?」

「ええ。ちょっと訓練をしまして。まぁそのおかげで元気ですよ」

 力こぶを作ってみせた。


「そうなんだ。今は何処の治癒院で働いているの?」

「えっと、治癒院では働いていませんね」

「えっ!?じゃあ、もしかしてあれからずっと治療院へは行かなかったの?」

「はい。冒険者ギルドで訓練しながら、冒険者ギルドの依頼を受けて生活をしていました」

「そうなんだ。って、それじゃあ治癒士になった意味ないじゃないの」

「はっはっは。少しのお金で僕を守ってくれる人がいるならそれでもいいですけど、世の中そんなに甘くないですからね。私のモットーは死なないことですから。そのためにこの一年は必死で自衛の技を磨いていました」

「はぁ~本当に貴方って変わってるわね。まぁいいわ。カードを更新する時に、聖魔法のスキルレベルを確認するわ。レベルに応じて、どの階級までランクを上げるかを決めるの」

「では、お願いします」

「ランクが決まったらお布施を貰って魔法書を渡すわ。じゃあカードを出して」

「はい」

 俺は素直にカードを渡す。

「じゃあルシエル君はちゃんと努力してきたのかを確認するわよ・・・・?!ちょ、ちょっとルシエル君、貴方どうなってるの?」

「えっ?何か問題がありましたか?」

「大ありよ。貴方どんな無茶な訓練をしたの?いえ、どんな生活してきたかを説明しなさい」

 え?怖っ!クルルさんがなんだか、凄い剣幕なんだが?


「クルルさん少し顔が怖いですよ。美人の顔が台無しです。お話ししますから、落ち着いてください」

 その声で我に返ったのかコホンと咳払いをして「それで?」と凄い威圧の篭った眼差しで俺を見つめてくる。

「まず私がこの支部でヒールを覚えた後に・・・・・・」

 こうして、俺の一年間の経緯を語った。


 全てを話し終えた俺に、クルルさんは抑揚の無い声で聞いてきた。

「ルシエル君って変態なの?」と。


「酷くないですか? 私は死にたくないだけですし、治癒魔法の腕も磨ける、そんなうってつけの環境を治癒士として作ったに過ぎませんよ」

「でも、治療院だってあるじゃない。最初は下積みかもしれないけど人脈だって作れるわ」

「それはそうでしょう。ですが、治癒士として必要なのは治療回数ですよね? だから誰でも直ぐに一人前になれる訳ではないですよね? それにお金が欲しいから治療するのと、治療の際に納得してもらってから治療費を貰うのは違うことだと思います。この一年で私が望んだのは自衛の力です。これはお金では買えませんから」

「・・・そうね。御免なさい」

「あ、こちらこそ偉そうにしてすみません。あと一応ですがドMでも変態でもないつもりです。私は死にたくないだけですから」

 俺は笑ってみせた。


「ルシエル君って、志が高いのね。ルミナ様が連れてきた子なのにまとも過ぎて、 吃驚(ビックリ)しちゃったわ」

 そう言って、苦笑していた。

 これってルミナ様が連れて来た子が、今まで変わった子しかいない…ってことですよね? 

 ルミナさんがディスられるのはいいけど、俺って被害者…だよね? もしや昨年から変わった子として認定されてたのか?


「そういえば、ルミナ様とはあの後に一度もお会い出来なかったのですが?」

「ああ、ルミナ様はもうこの街にいないからね。とっくに聖都にある教会本部へ帰られたわ」

「聖都の教会本部って、ルミナ様ってエリートだったんですか?」

「ええ。まぁだから当分は、努力して頑張らないと会えないと思うわよ。さてと、Cランクまで上げられるけど、何処まで上げるの?」

「その前に魔法書だけを買い取れないんですか?」

「販売することは出来るわ。但しがつくけど。ランクに到達していないランクの魔法書を販売する時は、通常の十倍に価格が設定されているわ。だからお勧めはしないわ。高額な魔法書はお布施の十倍以上するから普通は無理よ」

「では、各ランクで買えるようになる魔法書の種類をお願いします」

「Fが毒と麻痺、睡眠の状態異常回復魔法でEが中級回復魔法でDが結界魔法おまけでCが複数同時回復魔法ね」

「なるほど。ではE、D、Cを貰うにはいくら掛かりますか?」

「金貨1枚と銀貨24枚だけどCランクだから銀貨90枚ってところね」

「うわぁ、全然足りない「ドンッ」」

「これがお前の給料だ。中に金貨1枚と銀貨31が入っているぞ」

 皮袋を置いた男はブロド教官だった。


「あれ? 何でブロド教官が此処に?」

「ああ。それは報酬を渡し忘れてたからだな。おい、嬢ちゃん。こいつ、ルシエルを冒険者ギルドに金貨一枚で一年間派遣してくれ。こいつへの給料はこっちが払う」

「えーと、貴方はどちら様ですか?」

「ああ悪い。俺は冒険者ギルドのブロドだ。ここのギルドマスターに、ブロドがそう言ってたと伝えれば通じる」

 クルルさんがこちらを心配そうに見ている。

「えっと、クルルさん、この人はブロドさんと言って、私の武術の師匠なので、あやしい人ではないし脅されてもいないから大丈夫です。それにしても派遣って何ですか?」

「ルシエル、お前を正式に冒険者ギルドに派遣して常駐してもらう」

「・・・まぁまだ教官を殴れていませんから、私はそれでもいいですが?」

「大丈夫? 本当にいいの?」

クルルさんが小声で心配そうに聞いてくれたのは少し嬉しい。


「大丈夫ですよ。脅されてるわけでもないですし、先程も言いましたが武術の師匠なんですよ。派遣も受けますよ」


「・・・分かりました。それでは受理します。一年間分の更新料を貰ったら、来年まで頑張って稼ぎなさいね」

「助言ありがとう御座います」

 それから冒険者ギルドへ俺を貸し出す正式な手続きが行なわれた。

 そして俺達は治癒士ギルドを後にした。


 治癒士ギルドを出て直ぐにブロド教官に話しかけた。

「しかし、驚きましたよブロド教官」

「ルシエルと戦闘訓練をしたおかげで、俺の体術のレベルがⅧになってな。お前に俺の全てを教えながら、ギルドの仕事も覚えさせてやる。あ、聖属性魔法もちゃんと勉強しろよ」

 ブロド教官はしたり顔で笑った。


 出て行って、一時間もせずに冒険者ギルドに戻ってきた俺は、皆から大いにからかわれていた。


 その後、俺の部屋に移動した。

「完全にここの主だな」

 仮眠室の札は外され、治癒士ルシエルの部屋と札が掛かっていた。

 私物で溢れていた部屋は完全に俺の私室となった。


 部屋を片付けて、机とイス、ベッドが新しくなり本棚も配置された。

 今日買った魔法書は受付カウンターにおいてあったが此処にしまう。

「一年間また宜しく」

 俺は自分の部屋にそう言葉を掛けた。


 部屋の整理が落ち着いた俺は、訓練を午後からにして買ってきたばかりの魔法書を読んだ。


 内容は重複する点が多かったが、魔力量を上げて意識的に魔法威力を上げる魔力ブーストのスキルや詠唱省略よりも詠唱破棄で、ヒールなどを覚えたほうが効率がいいなど初耳のことも書いてあった。

 しかし、これらの本にはデメリットが載っていない。それをしたらどうなるのかの記述がないのだ。実体験で言えば、詠唱に関してだが、無詠唱はスキルが発現していない、レベルⅠだと魔力を八倍消費してしまう。

 このことに関しては記述がなかったのだ。その為、魔力量の少ない俺は、無詠唱のレベルを今は上げていない。いずれ魔力量が多くなれば検討はしたいと思っているが…


 そんなことを考えながら、新しい魔法を手には入れたけど、先に魔力消費が少なくなる必要魔力減少のスキルを手に入れたいと思う。

 無論、魔力操作や魔力制御のレベルを上げないとトリガーが発生しないし駄目だろうけど、多くの魔法を使えるようになっていきたいものだ。

 焦る気持ちはあるが、最低限の旅にいけるぐらいは頑張りたいと思った。

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