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83 未開の森へ

 翌朝にイエニスを出た俺はライオネル隊、ケフィン隊、ヤルボ隊を率いて未開拓地の森に向けて出発していた。


「最近ストレスが溜まっているようですな?」

「……ああ。それでもやらないといけない時があるだろ?」

「でも頑張り過ぎニャ」

「あのような内政をやったことはないのだろう?」

「ああ、全くない。でも我慢したおかげで。スラム街を改造する言質を取れたんだから、このストレスは仕方がないだろう?」


 ライオネルとケティは「ブルルル」それとフォレノワールは俺のことを気遣ってくれていた。

 この十日間は色々大変だった。


 各獣人の得意なことや新しい事業をどうするかなど、実は雁字搦めで何をやろうにも出来ない状態だということに気が付いたのだ。

 国民の八割が働き、残りの二割が子供と身体の動かない者や老人だった。

 あれを健全だと思ってしまえば、獣人の闘争本能まで奪われかねない。


「しかし冒険者ギルドへ手紙を出していたようですが?」

「ああ。獣人の国を知っている獣人達に現在の状況を教えようと思ってな」


 ライオネルやケティは首を捻ったが、着々と準備は進み始めていた。



「それで今日は森まで向かって、どれくらいの木を伐採する予定なんですか?」

「えっ? ああ、今日は彼女達がどれだけ切っていいかを指示してくれるさ」


 俺は後方の馬車にクイックイッと親指を向けた。


「しかしやっぱりラッキーだったのか、それともアンラッキーだったのかは未だに悩むな」

「……グロハラが喋った通り、あの奴隷商が帝国からの奴隷を斡旋していたことがですかな?」

「ああ。結局捕まえられなかったし、奴隷を置き去りにしたのも何かを計画をしていたかも知れないが、また帝国からの恨みを増幅させた気がするんだよなぁ」

「くっくっく。まぁ孤児院に似た施設も作れたので良かったではないですか」

「それはドランとポーラが孤児院を作って、ナーリアが教育係を買って出てくれたからだ。それにしても……」

「奴隷に戻りたいって言うのは仕方ないニャ。殆どが四肢欠損していたりした子だったし、食事も満足に食べていなかった子達ニャ。見ず知らずのところで放り出されるよりもルシエル様に感謝しているニャ」

「……やっぱり様付けは慣れない」

 俺は少し恥ずかしくなり前を見据えた。


 ライオネル達を売ってくれた奴隷商は帝国からの刺客だった。

 ただどちらかと言えば、奴隷商は金を持っている獣人や欲望の強そうなものを選別する役割があったそうだ。


 その話を聞いたジャスアン殿達が奴隷商に直行すると奴隷として扱われていた彼等や彼女達は衰弱していたが、念のため変な命令を受けている可能性もあった為、俺が呼ばれてディスペルで奴隷契約を解除したのだった。

 十四人の奴隷達を助ける際に、その場にいる全員と回復魔法を掛けられた事を喋らないという誓約をしてもらい、俺は彼等や彼女達の治療も含めて全権を任せてもらうことになったのだった。


 現在彼等や彼女達は治癒士ギルドの未来の受付などになる為、教育を受けているだろう。

 残念ながらあの時の青年は既にいなかったので誰かに買われていったか奴隷商の護衛で連れ出されたのだろう。


「それにしてもあの奴隷商を乗っ取ったみたいで気は引けるな」

「それでも彼等や彼女達は感謝しているはずニャ。もちろん私もニャ」

「左様。恩義には恩義で返さなければな」

 二人は良い笑顔で俺の心を癒してくれた。



 途中から街道にはなっていなかったが、草が長くなっていることもなく俺達の目の前には森が広がっていた。


「じゃあ三人のエルフも降ろしてくれる?」

 そう言うとドランとポーラもエルフ達と一緒に降りてきた。



 その目には以前に会った時のような悲壮感や絶望は無かったが、ある問題が勃発していた。


「魔道具はドワーフが一番」

「私の方が貴女よりも良い魔道具が作れますわ」

 ハーフドワーフのポーラとエルフのリシアンが魔道具の腕を…今は口を競い合っている。


「火と土に愛されているワシ等ドワーフの方がルシエル様のお役に立てるわ」

「この老いぼれが良く騒ぐのぉ~。生命を運ぶ風と全てを潤す水に愛されているエルフの方がルシエル様のお役に立てる」

「誰が老いぼれだ。俺の三倍以上生きている己の方が老いぼれではないか」

 お互いの精霊を自慢合いながら、俺の役に立つと鼻息の荒いドランとミルフィーネ。


「み、皆さん、止めましょうよ」 

 そしてオロオロするのは人族とエルフのハーフでクレシアだ。

クレシアは精霊を視認できるが会話の仕方までは分からないらしい。



「はぁ~、ライオネルあれを静かに出来るか?」

「はっはっは」

 ライオネルはただ笑い、ケティは先程までこちらに向けていた顔を外へと向けた。


「はぁ~、速やかに集まってくれ。リシアンとミルフィーネはクレシアに精霊と対話出来るように教えながら、切っても良い木を選別してくれ。ケフィン隊は援護とこの紐を括りつけて行ってくれ」

『はい(ですわ)』

「ドランとポーラは伐採を手伝ってくれ。ライオネルとケティは俺を含めた護衛。ヤルボ隊はフォレノワール達を護衛しながら、外から魔物や冒険者が来たら知らせてくれ」

『はい』


 彼らはもう完全に俺の隊だなぁ~。そんなことを思いながら、それぞれの行動に移らせた。



「結構切って良い木があるんだな」

「ではこのルシエル殿から受け賜った炎が出る大剣で斬らせてもらう」

「燃やすなよ」


 この世界の超人は木に刃が食い込ませないで斬ることが出来るらしい。

 あの徐々に木が傾いて倒れる光景を見ながら、感動しているとケティが倒れた細かい木の枝を落としていく。

 その姿もやはり凄かった。

 その作業が終ったら俺は魔法袋にしまう流れ作業となった。


 ポーラもゴーレムを操って木を倒したり、自慢の鎚を大斧に変えてドランが木こりになったりしていく。


 順調過ぎる伐採は百を超えようとしていた。


「ドラン、あれと今回の計画で使う木はどれぐらい必要か分かる?」

「……この木の大きさであれば六百本もあれば、スラム街の家屋の廃材を使えば何とでもなる。治癒院は必要ないのだろう?」

「ああ。そこはちゃんと詰めたから間違いない」


 俺が作るのは五十戸の家と治癒士ギルドの三倍ほどの学校だ。

 そして今回は彼らから金を受け取らないでこれを作ろうとしているのだが、それには理由もある。


「キャー」

 そこまで考えていると悲鳴が聞こえてきた。


「……警戒しながら進む。ライオネル、敵に有効なら剣に炎を纏わすことを許可する。行くぞ」

 俺達五人は悲鳴があった方に向かうとケフィン達が倒れていた。


「……敵は何処だ?」

「……見当たらないニャ」

「トレントかも知れぬが、魔力の揺らぎも感じぬぞ」

「そうか。それなら警戒をしていてくれ 」

 俺はエリアハイヒールを唱えてから、順にリカバーをかけていていくと全員が頭を抑えたり振ったりして起き上がった。


「それで如何したんだ? 」

「木の実が落ちていると思って、拾ったら……」

「それがマンドレイクだったんですわ。お止めなさいと言う間もありませんでしたわ」

「……まぁ無事で良かったよ」

 物語でなら普通は死んでいてもおかしくないものだからな。


「これってやっぱり薬の原料になったりするのか?」

「ええ。ですが、その製法は失われたと聞いていますわ」

 エリクサーとかの材料だったりするからな……。


「じゃあこれからは迂闊な行動を……何だか揺れてないか?」

「……全員警戒だ。魔物が押し寄せてくるぞ」

 …………気絶していたら、魔物に殺されるんだな。


「絶対に死ぬな! 生きていれば必ず治す」

 俺は幻想杖と盾を取り出して装備する。


「リシアン、ミルフィーネ、クレシアはこの弓を使って、使えれば精霊魔法も許可する」

『はい(わかりましたわ)』

「ドランとポーラはゴーレムで魔物の勢いを止めてくれ」

「「おう(はい)」」

「ケフィン隊はポーラとリシアン達に魔物を近づけるな」

『はい』

「ライオネルとケティは思う存分暴れてくれ」

「かっかっか。そう言われると滾ってきますな」

「任せるニャ」


 俺がエリアバリアを掛けると敵が見えてきた。

「……多いけど頑張るぞ。勝利したらボーナスも考えるから絶対に死ぬなよ」


 ただの資材調達が予期せぬ方向に動き出したが、絶対に死なない、死なせないと俺は幻想杖を構えるのだった。


お読みいただきありがとございます。

精進致します。

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