77 本当の黒幕と新たな問題
迷宮から外へ出ていくと既に太陽が昇っていた。
それと同時に俺の腹が鳴り、恥ずかしい…そう思っていると、どうやら皆もお腹が空いたような感じでお腹に手を当てているのを見て朝食にすることにした。
「それにしても本当に扉があったのですな?」
「ああ。加護がないと入れないみたいだ。俺は龍の加護を持っていたから扉が見えたし中に入れた。これは炎龍が言っていたから間違いない」
「……炎龍ですか?」
ライオネルは戦ってみたかったと思っているように見えた。
俺は笑いながら答える。
「別に戦うことはないぞ? ただ、苦しんでいる龍を治癒しただけだ」
「なるほど……」
料理が出来るのを待っていると、ライオネルが消えた後のことを聞いてきたが、龍とも戦いたいとは本当に戦闘狂なんだなぁと思いながら、彼が他のことで悩んでいるような気がしたが、語らない相手にそれを聞こうとは思わなかった。
冒険者達の数人はフォレノワール達の世話をしているので残っていたが、それ以外は既にイエニスの街へと戻ったらしく、せっかちだなぁ~と思いながら残っていてくれた冒険者たちを朝食に招き食事を摂った。
快晴の空の下で食べる朝食はとても美味しかった。
今度部下さん達とバーベキューでも出来ればいいなぁ。
俺はそんなことを考えていた。
朝食が終わり、各自の準備が整ったところで俺はフォレノワールに跨った。
皆が護衛の陣形を取り、俺達はイエニスの街へと出発した。
「さっきまで拗ねていたが、浄化魔法がそんなに気持ちよかったか?」
フォレノワールの首筋を撫でながら声を掛けた。
それについての返答はなかったが、機嫌が良くなったことが分かり安心した。
さすがに五日も放置されて体臭を気にしたのかもしれない。
いつの間にかきれい好きになっていたフォレノワールに声を掛けながら進むのだった。
(ステータス オープン)
迷宮に向かう際はジャスアン殿が話しかけてくれたていたので、良い暇潰しになっていた。
帰り道は最初こそフォレノワールと戯れていたが、何もない平坦な道を進につれて暇となり誰も話し掛けて来ないので、暇つぶしにステータスを開いてみた。
名前:ルシエル
JOB :治癒士Ⅹ 聖龍騎士Ⅰ
年齢:18
LV :102
HP :3020 MP:2610
STR :366 VIT:389 DEX:351 AGI:369
INT :422 MGI:460 RMG:454 SP :205
【スキル】
熟練度鑑定- 豪運- 体術Ⅵ 魔力操作Ⅹ 魔力制御Ⅹ 聖属性魔法Ⅹ
瞑想Ⅷ 集中Ⅸ 生命力回復Ⅷ 魔力回復Ⅸ 体力回復Ⅶ
投擲Ⅴ 解体Ⅱ 危険察知Ⅴ 歩行術Ⅵ 身体強化Ⅱ
並列思考Ⅴ 詠唱省略Ⅶ 詠唱破棄Ⅴ 無詠唱Ⅱ 魔法陣詠唱Ⅳ
剣術Ⅴ 盾術Ⅳ 槍術Ⅳ 弓術Ⅰ 二槍剣流術Ⅳ
罠感知Ⅱ 罠探知Ⅰ 地図作成Ⅳ 魔力増幅Ⅲ 思考加速Ⅲ
HP上昇率増加Ⅸ MP上昇率増加Ⅸ
STR上昇率増加Ⅸ VIT上昇率増加Ⅸ DEX上昇率増加Ⅸ AGI上昇率増加Ⅸ
INT上昇率増加Ⅸ MGI上昇率増加Ⅸ RMG上昇率増加Ⅸ 身体能力上昇率増加Ⅲ
毒耐性Ⅸ 麻痺耐性Ⅸ 石化耐性Ⅸ 睡眠耐性Ⅸ 魅了耐性Ⅴ
呪耐性Ⅸ 虚弱耐性Ⅸ 魔封耐性Ⅸ 病気耐性Ⅸ 打撃耐性Ⅵ
幻惑耐性Ⅶ 精神耐性Ⅸ 斬撃耐性Ⅶ 刺突耐性Ⅴ
【称号】
運命を変えたもの(全ステータス+10)
運命神の加護(SP取得増加)
聖治神の祝福(聖属性回復魔法の効力が1.5倍になる)
聖龍の加護(聖龍騎士となり、属性強化戦闘技能及びステータス上昇。龍族と会話が可能となる)
龍殺し(対龍での攻防に強くなる)
封印を解き放つもの(邪神の呪いを受けない。封印されし龍の力を得るもの)
NEW
炎龍の加護 (炎龍騎士となり、属性付与。戦闘技能及びステータス上昇。龍族と会話が可能となる)
竜殺し (対竜での攻防に強くなる)
龍神に導かれるもの(龍族、龍がつくものと結び付きが強くなる)
俺は目を疑った。レベルが一気に十ニも上がっていたのだ。
ステータスもかなり伸びていた。
さらにSPが100レベルを境に2から3に増えているようだった。
……このレベルの上がり方は赤竜だけじゃないだろうな。
やはりパワーレベリングは可能なのか?
レベルが上がればMPの量は増える。これが確立出来れば……。
そこまで考えて安易にレベルを上げることで弊害があるかも知れないと思い、教皇様や教会本部の人達に話をした方が無難だと頭を切り替えた。
あとは相変わらず伸びないスキル達を眺めながら、ステータス画面を消そうとしてある事に気がつく。
(炎龍の属性付与ってなんだ? ちゃんと説明してくれないから全然意味が分からないぞ?)
「ブッルルルゥ」
俺が考えごとをしながら跨がっている事を良く思わなかったのか、フォレノワールに叱られた気がしたので、謝りステータス ウインドウを消した。そこから俺はイエニスまでの乗馬を楽しむことにした。
「これは何なんだ?」
イエニスに着いた俺が一番最初に発した声はそれだった。
俺が見た光景は俺達の帰還を待っていた溢れんばかりのイエニスの住人達だった。
俺達……いや、俺の姿を見つけた住民達が歓声を上げ始めた。
その光景を目の当たりにし、俺は頭を抱えたい心境になった。
あのジャイアス殿(脳筋)に、「触れ回ることをしないでくれ」と、しっかりと口止めするのを忘れていた。
フォレノワールに乗った俺に住民達が近づき過ぎないよう皆が護衛してくれなかったら、本当に大変なことになっていたと思うのだった。
俺は歓声に応えることはせずに引き攣り笑いを浮かべ、人が作った道に誘導されながら治癒士ギルドではなく、シャーザの屋敷へ向かうことになるのだった。
ケフィンを含む犯罪奴隷達が最後に屋敷に入ると屋敷の扉は閉められた。
「……さっきの歓声を聞いたか? まるで御伽噺の英雄を見るような目で「竜殺し」「竜殺しの聖騎士」「聖治神様の遣わせた使徒様」「最強のS級治癒士」「竜殺しの治癒士」だぞ」
「……まぁ事実だから仕方ないですな」
「確かに竜殺しニャ」
「殆ど一人で倒した」
「ワシ等はオマケじゃ」
「S級様が竜の攻撃をまともに喰らって死ななかったその頑丈さ、竜の攻撃を避けて一撃入れた戦闘力、運はあったかも知れないが倒したことは事実であり称賛されることです」
「マスターの懸念されていることも察しはつきますが、マスターがいれば治癒士ギルドは安泰でしょう」
ライオネルから始まりナーリアが締めくくった。
他の奴隷達もそうだが、彼らも何故か嬉しそうにしているので、これ以上この話にケチをつけることは止めた。
俺はシャーザの屋敷に歩き出した。
「おおっ! ルシエル殿……ルシエル様?何故か加護が強くなられていませんか? それに何故そんな怖い顔を?」
元気いっぱいに声を掛けてきたジャスアン殿にイラッときながら、俺は断固たる決意を持ち彼に告げる。
「加護は赤竜を倒したからでしょう。そんなことよりもあの凱旋パレードの様な状況はどういうことですか?」
「あれだけのことを成し遂げられたのです。新たな英雄の出現を祝うには些か小規模なものでしたが、当然のことです」
そう満足気に語るジャスアン殿の前に俺は静かに物体Xの樽とコップを二つ取り出した。
「なるほど。では私を想ってくれるなら乾杯と致しましょう」
俺は無表情から笑顔に切り替えてジャスアン殿に近寄る。
「ル、ル、ルシエル様? な、何か御気に障ることをしましたか?」
「……いえ、ただあなたとこれで乾杯したいのですよ? まさか嫌だとは言わないですよね?」
「…………」
ジャスアン殿は身体を激しく震わせるが、容赦は出来ない。
ここで彼が気絶しても困る人はいない。
そして助けに入る獣人もいなかった。
ほぼ全員が土下座の体勢となっていたからジャスアン殿が救いを求めても応じるものはいなかったのだ。
「じゃあ乾杯」
俺が一気に物体Xを飲み干すとジャスアン殿は大きな口を開けて一口で飲み干した……が、その瞬間白目を向けて後ろに倒れた。
「あ~スッキリした。臭いから浄化とリカバーを掛けておきましょう」
俺は倒れたジャスアン殿を休憩出来るところに運んで欲しいと頼むと我先にとジャスアン殿を連れていてしまった。
「さて、お話を聞かせてください」
俺が微笑むと素直に順を追って話してくれた。
今回の首謀者である薬師ギルドの副ギルドマスターが、実はイリマシア帝国からイエニスの国力を削ぐために仕向けられていたこと。
シャーザを含む各種族の武闘派がイリマシア帝国から勧誘を受けて、穏健派を黙らせるように知恵を授けられていたこと。
そして彼らが縛られていた原因が、特定の種族に薬を販売しないことだった。
迷宮では追ってくる冒険者達と話すことを禁じられていたために、話を聞くことも出来なかったのだとか。
迷宮をあそこまで進めた理由として、魔物が好きなニオイのするものを撒きながら、敬遠するニオイのする薬品を身体につけていたから平気だったのだとか。
まるで物体Xみたいだな~と思いながら、黒幕として名前が上がった帝国について考える。
また帝国がここで出てきたか……俺って帝国の邪魔ばかりしている?
このままだと帝国に恨まれないか?
そこまで考えて答えの出ないことは後回しにして、イエニスの今後をどうするかを聞いてみることにした。
国の根幹が大きく揺らぐ今回の件をどうやって修正していくのか?
そこに興味があったのだ。
住民達にどう伝え、どう盛り立てていくのか、治癒士ギルドの参考になればと思ったのだ。
「今回国の代表であるシャーザ殿が残念ながら死んでしまったので、薬師ギルドのグロハラ殿を今後も追及していかれるのでしょうが、国としてどう対応されるのですか?」
俺の問いに話をしてくれるのは前々期の代表であるシーラちゃんのお父さんだった。
「……種族代表者はまず八つの種族の代表が選出されます。犬、狼、猫、虎、竜、狐、鳥、兎から選出された者を、さらに前期代表種族と自分以外に投票することで代表を決めます」
「ええ。それは聞いています」
「今回の件のペナルティーとして虎獣人族と竜人族は五期間、イエニスの代表になる権利を剥奪しました」
「……なるほど。ただそれだけでは甘いのでは?」
「はい。ですから彼らが就いている国の役職からも全て退いてもらうことが決まりました。さらに他の部署でも不正があったりしないかを精査していくことになっています」
「なるほど。それで結局はどうするのです?」
俺がそう聞くと彼は佇まいを直してこちらを見つめてくる。
「…………」
「…………?」
俺がどうしたのか?それを聞こうとすると、きれいな土下座が敢行された。
「どうか残り任期の一年間だけ、我等にお力をお貸しください」
彼だけでなく、俺達を迎えた獣人達が一斉に土下座をして声を合わせた。
『お貸しください』
その光景にどこの時代劇?と感想を持った俺は悪くないだろう。
「へっ?」
「獣人達を纏めるには強く、優しく、誰もが憧れる指導者が必要なのです。今のイエニスが分裂しない存在はルシエル殿をおいて他にいないのです」
求心力、カリスマ性をがあるってことか?……噂に尾ひれ背びれがついたのだろう。
「……名前を貸すってことですか?」
流石に国が傾くとこちらも困るから……貸したくないが、仕方ないだろう。
「……先程、ルシエル殿をイエニスの臨時代表にさせていただける様、聖シュルール教会の教皇様に使いを出しました。話が通れば是非、イエニスを豊かにする方法を我等にお聞かせください。尽力させていただきます」
「……勝手過ぎませんか? 私にはこの地で治癒士ギルドと治癒院を盛り立てる使命があるのですよ? 代表など経験もしたことないのに出来る訳がないでしょう」
本当に勘弁して欲しい。今でさえ許容量を超えているのに、これ以上は絶対無理だ。
「治癒士ギルドと治癒院に関しては既にイエニスにおいて、治癒特区を作ることで話を進めさせて頂きました。薬師ギルドも相乗効果が認められると喜んでおられましたので、新しい建設場所を手配させて頂きます。また改造が施されております治癒士ギルドはルシエル様が居住されることも可能です。元はスラム街にいた彼らも特区設立で仕事が出来ますから、ルシエル様と治癒士ギルドに感謝することになります」
そう熱く語ったあとで、また頭を地面に擦り付けてお願いしてくる姿を見た俺は胃が痛くなった。
「……少し考える時間をください。流石に直ぐに決められる内容ではありませんし、やはり荷が重いので教皇様とも相談させてください」
ここには居たくなかった。だからもう帰ることにした。
「どうか宜しくお願いします」
『お願い致します』
こうしてジャスアン殿でスカっとした気分が一転、どんより重たいものとなり、俺は治癒士ギルドへと戻ることにした。
門を出ると流石に人は少なくなっていたが、少年少女は残っているようで遠目からこちらを見ていた。
その眼差しはあたかも物語の英雄に憧れを抱く、そんな感じに見てとれた。
俺はどう応えれば良いのかわからないまま治癒士ギルドに帰る途中で呟いた。
「ジャスアン殿だけじゃなく、これを企んだグロハラにもたっぷりと物体Xを飲ませてやる」
その呟きを聞いた獣人達が震えていたことなど、そのときの俺は気がつかないほど怒りに燃えていたのだった。
お読みいただきありがとうございます。