69 作戦会議、そして迷宮へ
年末に入って忙しくなってきました。
何とか二話目です。
治癒士ギルドのギルドマスター部屋に集まったのは、俺と購入した奴隷のライオネル達と冒険者ギルドのジャスアン殿を含めた三名の獣人だった。
「今から冒険者ギルドが攻略を進めている迷宮について、作戦会議を行います。この趣旨は攻略することではなく、速やかに怪我を負わずにシャーザ達を捕らえることが目的です。では迷宮の地図はありますか?」
鳥獣人の冒険者が羊皮紙の束を出してきてくれたが、綺麗な地図ではなかった為に確認していくことになった。
「まず迷宮の広さですが、どうなっていますか?」
「最初の方は百メートル四方に広がっている。十階層ごとに五十メートル四方広がって魔物も強くなる」
試練の迷宮よりも大きいかもな。……あ、忘れてた。
「瘴気とか食事はどうしていたんですか?」
「瘴気避けのマント等があるからそれを装備して、マント等が無ければ薬師ギルドで販売している薬を飲めば瘴気の影響を一日受けなくなる効果がある。攻略には携帯食料があるから問題はなかった」
あの味がない、もの凄くパサパサする食べ物か……俺なら泣くな。
きれいではない地図に罠があった場所等を聞いて製図していく。
それが終わったら今度は魔物図鑑を開きながら、どんな魔物が出てくるかをチェックしていくと、俺のテンションは下がり、ライオネルとケティの顔には喜びが見て取れた。
その横では大人しく聞いているポーラとドラン……と見せかけて、チェックした魔物は火属性だということが分かり、二人はその魔物が落とす火属性魔石をどう使うかを思案していることが何となく分かる。
どうやら今回は炎龍とかが出てきそうだなぁ~。俺もそんなことを考えているとジャスアン殿が口を開いた。
「……ルシエル殿も迷宮に入ってもらえるのか?」
俺は一瞬思考が停止して、直ぐに起動した。
「えっ? ジャスアン殿がそう言いましたよね?」
「てっきり迷宮の外まで来て、仮設治癒院を作るのだとばかり思っていた」
「……なんでそう思ったんですか?」
「そっちのドワーフは建設要員で、こっちは護衛奴隷だと思っていた」
「…………それでもいいですけど、むしろ大歓迎ですけど」
入らなくても良いならそうするよ?それでも入らないといけない気がするし、結局いずれは浅い階でレベル上げをする予定だから。
「そんなことは言わずに宜しくお願い申し上げる」
また頭を下げたジャスアン殿に顔を上げてもらいながら、治癒士ギルドから迷宮へ向かう為の人選を始めると、意外な人物が声を上げた。
「マスター、私もお連れください」
そうナーリアがスカートを少し抓んで頭を下げた。
「連れて行くのはいいが、ライオネルとケティが許せばの話だ。二人は強いがナーリアはどうなんだ?」
俺はライオネルとケティに聞く。
「問題はない」
「投擲用の短剣と長い鞭があれば、賛成だニャ」
別段問題はないようだ。本来は治癒士ギルドで給仕をしていて欲しかったが、特に問題があるわけではないしな。
「許そう。ただ自分の身は自分で守ること、前衛に出ずに牽制役として行動してくれ」
「ありがとうございます」
今度は深々と頭を下げたところで、ドワーフコンビも声を掛けてきた。
「ワシも」「私も」
二人がそう言って身を乗り出す。この二人は始めから連れて行くつもりだった。置いていったら、治癒士ギルドが崩壊しそうな気がするからだ。
「……命令だ。勝手に動き回らない、勝手に物を作らない、迷惑を掛けない。自分の身は自分で守れ。はぁ~」
結局ここに居るメンバーで行く場合は六人パーティーになるのか。
ライオネルが盾役、ケティが攻撃役、俺が回復兼補助、ナーリアが牽制兼料理番それと気配察知が得意なら警戒役で……ドランとポーラは?
「二人はどうやって戦うんだ?」
「ワシは大槌振って魔物をブッ飛ばす」
ドランは腕を組んでそう笑う。
「ゴーレムあるから大丈夫!」
ポーラは左腕を突き出した。すると左腕には腕輪があった。
ん? ゴーレムってあのゴーレムか?
「ゴーレムってあの命令して動かす?」
「そう。魔石で作って認識させた魔力で動かすもの」
さらに詳しく聞くとポーラのゴーレムは腕輪で遠隔操作が出来るらしく、制御は一体しか出来ないが非常に強力な個体らしい。ドランには後方確認、ポーラは俺の横でゴーレム操作をする事が決定した。
迷宮はここから一時間程の山間にあるらしく、今から行っても夕方になるため明日の早朝に迷宮へ向かうになった。
「では、明日の早朝に冒険者ギルドへ行きましょう。下もそろそろ決着しているでしょうし」
「うむ。奴等を奴隷商に運ぶのもこちらで全て受け負うので安心してくだされ」
安心出来ませんがお願いします。
俺は心の中でそう思っていた。
俺達が下に向かうと、予想していなかったことが起きていた。
そこに獣人達の姿は無く、いたのは犯罪奴隷達とジャイアス殿だけだった。
そのことに驚いているとそこへジョルドさんが戻ってきた俺に告げた。
「ルシエル殿、今いる犯罪奴隷達と襲撃者達は治癒士ギルドの奴隷として、貸し出すことにしました」
その答えを全然予想していなかったので、本気で驚いた俺は直ぐに聞き返す。
「どうしてですか?」
彼は微笑みながら言った。
「奴隷だから死んでも良い、そう考えては治癒士ギルド教会の名に傷がつきます。また犯罪奴隷の彼らや襲撃者達は治癒士ギルドを守る以外にも、この国が困っていることを治癒士ギルドの名で率先して解決させます。そうすれば治癒士ギルドの威信も名声も高まる筈です。今回彼ら全員に迷宮に向かってもらいます。冒険者ギルドから貸し出し料が入りますので、それだけで彼らの食事代等は賄うことが出来ます。迷宮での命令は一つだけ。ルシエル殿を必ず命を掛けて守ることです」
最初から相談したりすれば良かった。一番報・連・相が足りなかったのは俺だったんだな。
「……ありがとうございます。明日の早朝に私と私の奴隷、犯罪奴隷達で迷宮へと赴きます。教皇様にも伝えますが、私のいない間はジョルドさんにこのギルドを任せます」
「はっ。精一杯努めさせていただきます」
「警備が神官騎士三名も居れば何とかなりそうですけど、護衛依頼でも出しますか?」
「それは必要ないです。竜人族がここは必ず死守させていただきます」
ジャイアス殿が横から口を入れてきた。
「宜しいんですか?」
「ええ。本日のことで龍族様がやはり見込んだことはあると思いました。こちらはお任せください」
そう言って胸を叩いたジャイアス殿に俺は頭を下げてお願いした。
「どうぞ治癒士ギルドと彼らを守ってください」
それを見て慌てたジャイアス殿が面白かったが、明日の準備をするためにまずは地下にいる襲撃者達の奴隷手続きの為に奴隷商が呼ばれてきた。
治癒士ギルドNGのお店だったが、今回は激安で奴隷の手続きをしてくれた。
店主が異常に震えていたが、それは気にしないで居た。
こうして全員が帰った後に、明日からの迷宮で使う装備や準備をしていった。
武器もきちんと整備されてあったために、奴隷達はドランに非常に感謝していたが、夕食時に襲撃者のリーダーだった男が口を開いた。
「奴隷になってしまった。だが、これだけ待遇が良い奴隷生活は想像もしていなかった。感謝している」
男はそれだけ喋ると口を閉じた。
俺は男に同情することはない。それでも彼らが迷宮で死なないように、頑張ることを決めた。
翌朝、チーム治癒士ギルドは総勢二十七名の大所帯で冒険者ギルドへと向かい、これまた五十名近く集まった冒険者達と合流して迷宮へ赴くのだった。
冒険者ギルドに着いた際、俺はあるものを欲しがった。
すると竜人兄弟は「「どうぞどうぞ」」と欲しがったものをくれた。
こうして憂いが無くなった俺は、フォレノワールに背に跨って久しぶりの乗馬を楽しむのだった。
お読みいただきありがとうございます。