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66 積極的に聴取を受ける男達

 どれくらいの時間が流れたか分からない……なんてことは無く、男達はすぐに騒ぎ始めた。


「ない、俺のマスクがない」

「俺のマスクゴーグルも無くなってる」

「俺のマジックパンツもない」

「俺のフルフェイスメットが……」


 ……男達は物体Xのニオイを遮断出来る、そんな装備をしていたんだろう。

 あえてツッコミは入れないが……あの二人が武具や魔道具を得る為なら、色々と躊躇しないってことを理解出来た。

 彼らは俺にそのことを理解させてくれた尊い犠牲者だ。


「S級……俺のマジックブラジャーどうした?」


 俺がそんなことを考えていると、一番先に起したリーダー格の男がそんなことを言い出した……が、もしやこの風貌で女?……一応確認をしてみることにした。


「……お前は女なのか?」


「そんな訳ねぇだろう! あれは……そうだ、あれをしていると落ち着くんだ!」


 力説するのは良いが、その言い訳には無理がある。それに俺は相手が男なら容赦はしない!


「そうか。諸君の所持品や装着物は、さっきのドワーフ二人が持っていったと報告を聞いた。だから既に調べたり、改造したりしているだろうから、諸君の手元に戻ることはない。諦めてくれ」


 彼らが言っていた装備は臭いを遮断するものなのか? それとも状態異常にならないものなのか? ただ言えることは、それが彼らにとって必要なもので、ないと分かったら絶望的な顔をするものだったということだ。


「大丈夫。喋らなくても明日には奴隷になって、この物体Xの原液を飲んでもらってから冒険者ギルドに諸君を譲ることにするから」

 俺が追い討ちを掛けた瞬間に男達から声が上がる。


 鬼畜、悪魔 人でなし。



 だが、その発言から数分後には一人の男が喋り出した。


「……俺達を雇ったのは薬師ギルドとこの街の代表だ!」


 思ったよりもずっと早かった。

遠目でライオネルも呆れているように見えた。


 他が喋るなと言っていたが、俺は喋り始めた男に誓約をしてもらう。

「もし知っていることを全て話したなら、物体Xの樽は取り払う。物体Xも飲ませないことを神に誓おう。が、嘘があれば物体Xを飲みたくなるという誓約を掛ける。奴隷になってから当分は物体Xだけがお前の食事になる。今から言うことを神に誓えるか?」


「ち、誓う!嘘を言わなければ、飲むことはないんだろ?」


「ああ。少なくともここにいる間は人道的に扱うことを約束しよう」

 男はホッと息を吐いて話し始めた。


「まず俺達の仕事は、治癒士ギルドの破壊工作と今日の治癒士の回復披露会を潰すことだった。治癒士ギルドの破壊工作は警備が今朝までは硬かったから無理だったが、あんた達が冒険者ギルドへ大勢で来ていたから、こっちも今ならやれると踏んで、この様だ」


 男がそこまで言っても変化は無いので、物体Xは回収した。すると他からも声が上がる。


「こっちも聞かれたことには全て喋るから、これを遠くにお願いします」


「S級治癒士様、俺も知っていることを全部喋りますから、取っ払ってください」

 ……そんなに嫌なのか?まぁいいか。



「いいでしょう、ピュリフィケイション」

 一番先に話した男の牢に浄化魔法を掛けると男が不思議そうにしてから、声を上げる。


「臭いがない? あれだけ臭かった臭いが消えてる?! 」


「人道的に扱うと約束しましたからね」


 俺は笑ってそう答えると他の男達も声を上げ始めた。そんなに物体Xのニオイが無理か?


「わかりました。じゃあ皆さんの分は彼の牢の前に置きますか」


 襲撃のリーダー格の男の前に樽を並べてから彼らの聴取に入った。


 彼らの中に嘘を言う者はいなかった。


 彼らを雇ったのは薬師ギルドが最初だったらしい。

 現在、犯罪奴隷として治癒士ギルドの警備をしている面々は、ここにいる男達の組織では下っ端だったが、組織自体が小さなもので彼らが居なくなった為に、今回は幹部が動かざるを得ない事態となった。


 昨日シャーザが薬師ギルドに現れ、薬師ギルドの副ギルドマスターを怒鳴り散らしたらしい。何故勝手に俺へ襲撃者を放ったのかと。


 そのあと、今日冒険者ギルドで治癒士のデモンストレーションが行われることを伝え、妨害活動をするようにと厳命して帰っていったらしい。



 男達はこうして今回の騒動の依頼を受けることになった。


 殺しに来なかった理由を聞くと、耐毒の装備をしている可能性と、瞬時に暗殺可能な毒がないこと、あとは護衛が強過ぎて近寄ることが難しかったと話した。


 その為、魔法封じの粉を使って治癒士が治療出来なくなれば、少し煽っただけで評判が一気に悪化し、昔から獣人達に根付いている獣人軽視の治癒士だと噂が広がり、勝手に暴動もしくは治癒士ギルドの運営が立ち行かなくなると踏んでの計画だったそうだ。


 男達はそう語った。


シャーザはそこまでルシエルを追い込みたいのか?

一度釘を刺したのにも関わらず、そんなまともな判断も出来ないのか?



「……何故薬師ギルドは副ギルドマスターが指示を出しているんだ? ギルドマスターは何をしている?」


「ギルドマスターは調合しか興味が無い男で、運営は全て副ギルドマスターが舵取りをしているんだよ」


「そうか。最後にもうひとつ聞くが、何でシャーザがあれだけ幅を利かせているんだ? 代表だからと言ってもあれはさすがに不自然だ」


「……それは、俺も知らない」

 男に変化がなかったから、本当に知らないのだろう。


「他で知っている者はいるか?」

 しかし彼らは首を横に振った。


「分かった。明日諸君等は冒険者ギルドに渡すが、食事も提供しておこう」



 パンとカリーの入った器を渡していくと彼らは喜んだが、樽で姿の見えないリーダー格は先程から一言も発してしなかった。



 気になり様子を見ると泡をふいていた。

 だが幸いにもまだ呼吸はあったので、自殺を試みて直ぐだったようだ。

 この世界なら死んでいなければ問題はない。


 俺は直ぐにリカバーとハイヒールで男を回復させてから、魔法袋から水の入った樽を取り出し、水を手に掬って男の顔に掛けると男の意識は覚醒した。


「S級治癒士の前で、簡単に死ねるとは思わないことだ。それとそんなに死にたいなら最後ぐらい人の役に立ってから死ね」

 男は沈黙したままだった。


 それから夕食が出来たとケティが呼びに来た。


「ケティ、いつの間に上に行ったんだ?」

「なんだか凄く嫌な予感がしたニャ! ニャニャッ?! ここ凄く臭いニャ」

「そうか。じゃあここで俺が夕食を食べて来るまでこいつ等の監視を命ずる」


「う、嘘ニャ~!!それは酷過ぎるニャ~、ライオネル様~」

 そう言ってライオネルに縋るが、ライオネルは真顔で言った。


「私は奴隷だから、主の言うことは聞かないといけないのだ」

「目が笑ってるニャ~!」

「一人で逃げた罰だ」

 ライオネルのその一言でケティはガクッと頭を垂れた。


 俺は物体Xの樽を魔法袋に全部しまって、地下五階層の全体に浄化魔法を掛けた。

「これでいいだろう? しっかりと見張ってくれ」

「さすがはマスターニャ。これなら頑張れるニャ」


 いつも通りに戻ったケティに一言だけ伝える。

「調子に乗ったら、ケティも物体X飲ませるからね?」

「ニャ!!」

 それを聞いた瞬間、ケティはビシィっと敬礼姿勢で返事をした。


 これは使えるなぁ。

 俺はそう確信しながら、ライオネルと夕食に向かった




 SIDE 襲撃者男


 S級治癒士は護衛の奴隷と階段を上がっていった。


「なぁ! あんた奴隷だろ? 俺達を解放したら知り合いの奴隷商で奴隷から解放してやるぞ」

 獣人奴隷、しかも人族主義の治癒士が多いところなら、こいつが酷い目にあっている確率の方が強い、そう思って声を掛けたが予想は完全に外れた。


「奴隷という立場は確かに不服。でもそれだけ。それ以外はこの生活を気に入っている」


「奴隷だぞ?」

 俺はこの猫獣人が何を言っているか分からなかった。


「そう。確かに奴隷の身分。だけど特に縛り付けることもしないし、食事も同じものが出されるし、睡眠時間も与えられて、二人部屋だけどちゃんとしたベッドで眠れる」

「はっ?」

 俺はこいつが何を言っているか分からなかった。

 獣人奴隷は基本的には使い潰される。食事も残飯が出れば良いほうで、水だけの場合もある。

 驚いたのは部屋を与えられていることとベッドで眠れることだ。

 完全に奴隷の待遇ではなかった。


「……あいつは、あのS級治癒士はどんな奴だ?」


「小心者で、甘い性格をしている。でも種族で差別はしないし、あれだけの力と地位を持っていても、それを鼻に掛ける事はしないそんな人物。だから私は忠誠を誓うことにした」

「……そうか」


 猫獣人の話を聞きながら、奴ともっと早く出会っていればと思ったが、これも運命だったのだろう。

 俺達の未来はもう決まってしまっている。

 だから奴に全てを伝え、獣人を嫌いにならないでもらうこと、それに俺の命を使うことに決めた。


 SIDE END


お読みいただきありがとうございます。



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