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65 治癒士ギルドへの襲撃者

本日2話目

 治癒士が使う回復魔法のデモンストレーションは大成功に終わった。

 冒険者ギルドのギルドマスターのジャスアン殿、副ギルドマスターのジャイアス殿からも高評価を受けた。今後、病気以外は治癒院が出来るまで治癒士ギルドに連絡すると言ってくれた。


「それにしても皆さんが、あれだけ薄情だとは思いませんでしたよ。特に神官騎士のブリッツさんとドータスさんは俺を守りましょうよ」

 二人は申し訳無さそうにしてから、まずはブリッツさんが謝罪を口にした。


「申し訳ありません。竜人を初めて見たのですが、友好的だと思ったものですから……」

「同じく申し訳なかったです。彼がギルドマスターで、攻撃対象ではなかったので……」


 二人は瞬きが多くなり、上を向いたりして話をした。う~ん、本音ではないな。


「……それで本音は?」

 俺はニッコリ笑って聞く。


「……あれは怖いですな」

「……ルシエル殿があれほど勇敢に立ち向かったのを見て感動しました」 


 二人とも今度は本音だった。


「一応護衛なんですからね。それと……ライオネルとケティは仮設治癒院が出来るとしても連れて行かないからな」

 俺はそう告げると先程までニコニコしていた顔が驚愕の表情に変わった。


「ルシエル殿、そんな殺生なことは言わないで下され」

「そ、そうニャ。今日のように遅れを取ってマスターを危険に晒さないためにも連れてってほしいニャ~」

 二人は嘘を言っていないのだろう。


「全部正直に話そうか。」

 だけど俺の勘はそう告げていた。


「襲撃者に遅れをとったのを実戦感覚が鈍っていたと言い訳にするつもりはない。ただ筋力が全体的に落ちていて、直ぐに行動できなかったのだ。だから鍛え直したい」

「……迷宮に入って冒険してみたいニャ。昔から憧れだったニャン」


 ライオネルはどれぐらいの期間歩いていなかったのか、上半身と下半身では筋力のつき方が違っていることは分かるし鍛えたいのも本当だろう。

 ケティがもしライオネルの部下だったのなら、何処かの国で軍人でもおかしくない。

 だからあながち嘘ではないのかも知れない。


「……まだ先のことだから分からないが、俺が二人を信頼出来るように頑張ってくれ」

「承った、まずは犯罪奴隷達を鍛えよう」

 ライオネル壊さないでくれよ?

「頑張るニャ」

 ケティは何を頑張るかは分からないが、やる気が出るのは良い事だ。


 そして俺はジョルドさんにあの出来事について聞く。

「そう言えばジョルドさん。あの黒い粉を投げた男達をジャイアス殿は何故拘束しなかったのでしょうか?」

「分かりません。ただ男達はここにいる冒険者達を殺すことも簡単だと、そう言っていましたね。あの男が手を上げた途端、周りにいた男達がたくさんの魔法を出現させて治療を優先しろと脅してきました」

 それにしても人質までとるって、結構用意周到なのか?


 俺はそのことを考えながら、雑談に切り替えて歩みを進めると直ぐに治癒士ギルドが見えてきた。


 今回治癒士ギルドの前にいた見張りは犯罪奴隷達だった。


「ご苦労様、変わったことはあったか?」

 二人の犯罪奴隷は頷き、片方が声を上げた。


「あそこで小火騒ぎが起きて、その隙に男達がギルドに入ろうとしたけど、勝手に麻痺して今は地下に居ます」

 ……?どういうこ……と?!

「それって音か何か気になる事はなったか?」

 二人は頷き合って答える

「鳴りました」

「……ドランとポーラだな。地下って言うのは地下五階層の牢であってるか?」

 二人はまた頷いた。


「どうやらこっちも狙われたようですな」

「ええ、地下へ行きますか。じゃあ二人とも見張りを頼む」

 その言葉に二人は驚いた顔をしていたが、こっちはそれ処ではないのでギルド中へ入った。


 ギルドの中は朝と全く変わっていなかった。

 そのことに一先ず安堵しながら指示を出す。

「各自今日はお疲れ様でした。これからの時間は好きにしてください、あ、出来れば夕食の手伝いをお願いします。ライオネルとケティは付いて来て」

『はっ』「はいニャ」



 三人で魔道エレベータへ乗り込み地下五階層まで行くと神官騎士ピアザさんと犯罪奴隷が八名、それと牢に入れられた男達が七名いた。


「ピアザさんご苦労様です」

「はっ、ルシエル殿お帰りなさい。報告します。皆さんが冒険者ギルドへ向かわれてから二時間程度経った時にギルドの側で小火騒ぎが発生しました。小火の消火にギルドからも数名が消火活動の為に外へ出たところをこの男達に隙をつかれ、ギルドへ侵入されかけました」


 上に居た奴隷二人と同じ証言だな。


「それでギルドに入れなかったどころか、痺れさせられてその怪しさからここへ連れ込んだ。それで合っているかな?」


「はっ!彼らの所持品はルシエル殿のドワーフ奴隷に持って行かせました」


 まぁ彼らは今、魔石がないからやることも無いからいいけど……後で少し怒るかな。


「報告ご苦労様です。皆さんは任務へ戻ってください。後はこっちでやります。ケティはドランとポーラを呼んできてくれ」

「はっ!行くぞ、お前達」

「ニャ」



 ぞろぞろとピアザさんに付いて行く彼らを見ながら、ピアザさんの奴隷に対する扱い方が厳しいと思った。


 それとも俺が甘いのか?そんなことを考えながら、ある予感が脳裏に浮かんでいたが、襲撃者たちを見ると案の定だった。



「くっくっく。これで治癒士ギルドの安全が確保出来そうですな」

「……嬉しそうだな」

「はっは。目標が出来るとは良いものです。早く鍛え直して置かなければ。きっと今度はお役に立ってみせよう」

 ライオネルはそう宣言した。


 捕まっていたのは、冒険者ギルドで俺達に黒い粉を投げさせた男とその部下だった。


「それで? 自分から捕まりに来たの?」

「ウ、ウッ…ク……たのぉ」

 男は全く呂律が回らなかった。


「あ、呂律も回らないか。でも、ちょっとそのままでいてくれ。これって冒険者ギルドに渡すのは事情聴取した後でいいかな?」


「普通は奴隷に落としてから事情聴取をするのが一般的だが、中には態と奴隷になって、逆らい死のうとする襲撃者も居るぐらいだから見極めが必要です」


「なるほどね…………来たか」


 ドランとポーラがケティに連れられてきた。

 二人は少し不満そうな顔をしていた。

 大方この襲撃者のものを弄っていたんだろう。


 俺はまず彼らを褒めることから始めた。

「ドランとポーラの今回のギルドのバリアは素晴らしい出来だったな。それにしてもどうやって襲撃者を見極めさせたんだ?」


 そうするとドランは嬉しそうに喋り出した。

「凄いじゃろ~!ポーラがバリアに電撃加えて展開させたんじゃ。あとはワシがバリアをうまく発動するように調整したのじゃ」

「凄いと思うが、どうやってバリア対象を選んでいるんだ?」

「対象は強い悪意、憎悪を持ったやつだ」

「……例えばだけど治癒士ギルド以外に強い感情を持っていても引っかかるのか?」

 その瞬間に饒舌だったドランの口が止まる。

「…………」

 無言なのでポーラを見る。

「…………」

 またドランを見る。

「…………」(サッ)

 ドランが俺から視線を逸らす。

「…………」(サッ)

 ポーラは視線が届かないようにドランの後ろに隠れた。


「……大事なことを報告しなかったので、二人にはその罰則を与える。開発作業一週間禁止……」

「ルシエル殿、改良致しますからご無体なことは言わないでください」

「マスター意地悪しない…で」

 二人は必死に罰則を解いてもらおうとしている。それはもう本当に見ていて分かる。

「……言っておくけど、一応あなた方は奴隷ですからね? 今更作業がどうこう言うつもりはないですが、今度からはちゃんと報告しないと罰則にしますから。さて言い忘れていることがあれば言ってください」

「あ、ここの牢は入ったら、余程の魔封耐性がないと魔法が使えないのと虚弱耐性がないとうまく動けなくなるぞ」


 俺は手を額に当てて思った。

(ただの牢をこのドワーフが作る訳がないって、何で俺はそんなことに気がつかなかった)

 一度深呼吸して落ち着く。


「……何か作ったりする場合は必ず報告すること。二人の腕は信頼もしてるし、信用もしている。が、行動は信頼も信用も出来ない。だから俺が信頼し信用出来るように行動を改めてくれないか」


「ぬぅう。すまんかった」


「……調子に乗った」


「じゃあ二人は夕食までバリアの改造を頑張って進めてくれ」

「わかった」

 ドランは頷きながら声を出し、ポーラは頷くだけだったが、やる気は失っていなかったのは良かった?のかな。


 二人を見送ると俺は襲撃してきた男の一人にリカバーを掛けた。すると男は立ち上がリ声を張り上げた。

「S級治癒士が失敗したんだろ!何で無事なんだよ」


 もしかしてあの場にはサクラも居たのかな?だとしたら煽っていたのは仲間か?まぁもうどうでもいいけど、これも後で報告が必要だな。


「ああ。俺は魔封耐性が高いから、全く効かなかったし、無事にデモンストレーションをやり終えたよ」

「ちっ」

 舌打ちすると男は黙った。


 これ以上話すのは得策じゃない、そう考えたのかもな。さてと、尋問を開始しますか。俺は襲撃者全員にリカバーを掛けて起してから宣言した。


「尋問を始めます。答えたくなければ答えなくてもいいです。ただこれを飲んでもらうだけですから」


 ドォンと樽を取り出して蓋を開けると物体Xのニオイが地下五階に広がる。


「あまり血を見るのは好きじゃないので、尋問は食事の変わりに物体X、水の代わりに物体Xを飲ませてあげましょう。好きな時に喋ってください」

 ライオネルはいつの間にか俺を置いて四階層へつながる階段のところまで退避していた。

 後で説教するときは彼にもこれを……?

「ああ、ちなみにですが」

 俺は物体Xをジョッキに注ぐと一気に飲み干した。

「プファ~。この通り俺はこれを普通に飲めますし、ニオイももう気にならないので、いつまでもお付き合いしますから言ってください。証言をした方は冒険者ギルドに移動出来ますが、俺はどちらでも構いませんよ」


 宣言したあとに青褪めていく彼らを見て、どれぐらい粘れるか予測しながら、魔力操作で時間を潰すことにした。


 ライオネルは何とか階段のところで立っていた。


 少し物体Xのニオイで気分が悪そうではあったが、彼らとライオネルどちらが我慢出来るかも予想しながら、時間は過ぎていくのだった。

お読みいただきありがとうございます。


今日はこれで打ち止めです。

ちょっと昨日の襲撃者のところをこれから考えます。

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