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58 この人は何者?

 何度も説得を試みて漸く祈りのポーズを止めてくれた。これで全能感に浸ることが出来る人はある意味凄いと思いながら、いつまでも俺は小心者だと苦笑しながら皆に声を掛ける。


「落ち着いたところで、ここの建物の構造だけど、地上三階地下一階の建物で三階は治癒士ギルドのマスター部屋になる。二階は俺と一緒に教会本部から来たものが使うことにした。だから皆には地下一階で生活をしてもらう。質問はある?」


 俺は一度皆を見渡すが特に異存は無いようだ。


「じゃあ続けるよ? 地下は三部屋あるからドランさんとポーラの相部屋、ケティとナーリアが相部屋、ライオネルさんは一番小さい部屋で悪いけど一人部屋になる。次に馬のフォレノワール達をギルド内に入れているけど、さすがにこのままではマズい。そのため治癒士ギルドの改造を認める。拡張は出来ないと思うけど、皆はドランさんに要望を伝えてくれれば、出来る出来ないの判断は別として、大抵のことは自分達の城になるんだから許可する」


 それを聞いた部下さんたちは満面の笑みを浮かべながら、もう話なんて上の空状態になってしまった。そこに上げた手をニヤニヤ見ているドランさんがいた。

「何でしょうか?ドランさん」

「あ、おう。ルシエル様がさっき言った拡張だが、魔法を使えば地下は簡単に拡張できるぞ? まぁ一階より上を拡張するには木材や鉄が必要だがな」

 ドランさんはそんなことを言い出した。


「・・・はっ?」

 俺には理解が出来なかった。


「ワシ等ドワーフは火と土の精霊の力を借りて生活しておる。だから土を動かしたり、火力を強める様にすることも出来る」

「お爺は火力を上げ過ぎて工房が爆発した」


 そうポーラが付け加えるとドランは頬を掻きながら明後日の方角を向く。



「もしかして地下を拡張することが出来るってことですか?」

「ああ。下手に弄ると建物の基礎が歪んで最悪の場合は崩壊するが、ワシ等ドワーフには精霊様の声が聞こえるから、深くも掘れるし、横に拡げていく事も可能だ」


 なんてチートをドワーフは持っているんでしょうか? 俺は驚きのあまり、頬が固まりヒクヒクしてしまったのは仕方のないことだった。


「・・・分かりました。そのことについては徐々に詰めましょう。次にケティ、ナーリア、ポーラ料理は出来るか?」


 ケティとポーラは目を逸らしたがナーリアは出来るらしく頷いた。


「分かった。料理は俺が趣味で作るが、手伝いを頼む」

「畏まりましたご主人様」


 そう言われて気がついたが、俺に対する呼称を考えていなかった。俺はここで少し考えてから口を開く。

「教会に居た時から様付けをされるのは苦手でしたから、この際治癒士ギルドを立て直すまではマスターかルシエル殿と呼んでください」


『はい〔はっ〕。ルシエル殿〔マスター〕。』


 これで住むところと炊事担当は決まったから、後は衣服も含めた買い物になるけど……さすがにこの人数でまた出かけるのはマズいよな。


「今から衣服やベッド、食料なども購入してくる予定だ。ライオネルは剣が使えるか?」

「大抵のものは使えます。一番の得物は大剣か長槍になります」


 なんでこの人は武器の話になると目がギラっとするんでしょうか? 怖いと思っているのは俺だけか?

「じゃあ俺の師匠から貰った剣を貸しますから、護衛をお願いします」

部下さん達には別の仕事をお願いする。


「皆さんの私物と魔道具も置いて行きますので、皆さんは整理をしていてください」

 ポーラが魔道具に反応した気がしたが、そこは敢てスルーした。


「さすがに病み上がりのライオネル様だけを連れて行くのは心配だニャ」


 ケティがそう宣言するので、女性の下着などもある為、同行するのを了承した。

武器は転売とは判断されなかったのか、聖銀の片手剣が消えることも無かったので装備してもらった。

 その横で師匠から貰った剣をじっと見つめていたライオネルさんが気になったが、鞘に戻すとこちらを見て一言だけ告げた。

「ルシエル殿は師匠から大事にされているみたいだな」と。

 俺は笑顔で頷いた。


 その後にライオネルのボサボサした髪ナーリアが切ってあげたいと申し出たが、時間が無いので髪を結って髭だけを剃らせると、老人が威厳のある親父に早代わりした。


 それを見た神官騎士たちは手を止めて固まっていたが、それは驚くだろう。そんなことを考えてローブのお古を二人に貸して纏ったところで買い物に出かけるのだった。

 ちなみに今回は徒歩だ。


 買い物は野菜や果物を売ってくれるところから大量に購入していく。そう。ここでも売ってくれないお店があったので、仕方なく大量購入になってしまった。


 次にドランから言われた通りに、鈍らでも良いからと鉄製の剣などの鉄製品を購入出来るところで大量に購入していき、木材を販売しているところでは妨害は無かったが、かなりの値段がした。


 それと敬称だが、ライオネルとドランに対してさん付けで呼ばないようにと厳重に二人から注意を受けて従うことになった。どうも世間体に関わるらしい。

納得はしていなかったが、年上の助言は聞くべきと判断した。


 こうして大量に入っていく買った品をケティが目を丸くしていたのが印象的だった。




「ありがとう御座いました」

 最後の店を店員に送り出されると俺は呟いた。

「結構妨害されているなぁ」

 その言葉に対してではなく二人が立ち止まった。


「そろそろ来る頃だと思ったニャ」

「フン笑止。 尾行も満足に出来ない、有象無象の輩がこれぐらいの数で襲ってくるとはな」


 訳が分からなかったが、剣を抜いた二人を見て戦闘と直感した俺は、直ぐにエリアバリアを展開してから二人に声を掛ける。


「魔物以外は殺すのは極力避けてくれ」


 二人は無言で頷き俺の前後に立った時だった。建物の陰から全部で十を超える武装した男達が襲い掛かってきたのだった。



 結論から言うと完勝。


 ライオネルは剣を鞘へ仕舞うと攻撃を避けながら、鞘で打ちつけたり拳を腹に入れ襲撃者を沈めていった。

 「甘い、甘いぞ」


 その立ち振る舞いが、どこぞのボスキャラを思い出したのは秘密だ。


 一方、ケティの方も何とか視認出来るくらいのスピードで襲撃者を圧倒していった。


 剣を避けながら拳を入れたり、顔に回し蹴りを放って吹っ飛ばしたり、剣の平で打ちつけたりしてこちらも完勝だった。


「気絶しているだけニャン。平打ちだから安心するニャ」


 そんな決めゼリフも聞こえてきたが、何で彼らが奴隷だったのかが、俺にはまるで理解が出来なかった。


 二人は襲撃者達を引きずりながら一箇所に集め、俺にロープを要求したので、俺は慌てて魔法袋からロープを取り出し渡した。


 襲撃されたことよりも二人が何者なのかのほうが凄く気になったが、証拠品も含めて治癒士ギルドに連れて行こうとするとライオネルがそれに待ったをかけた。


「ルシエル殿、こやつ等はこのままイエニスの長がいるところへ連れて行きましょう。このまま治癒士ギルドへ連れて行けば誘拐をしたと難癖を付けられかねません」


 そう助言してきた。俺はそれに従うことにした。するとライオネルは何と十三名の襲撃者を纏めたロープを引きずり出した。

一体彼は何者なのだろうか?それだけが俺の頭の中をグルグルと回り続けるのだった。



 俺の横を歩くライオネルが襲撃者を引きずり、後方にはケティが周囲を警戒しながら移動していた。

 俺達は周りから唖然とした目で見られながらも、一番大きな屋敷を目指す。


 買い物をした店から、シャーザ達が居るであろう大きな建物までは近くて五分程度の距離だった。



 建物を守衛する兵は、あまりの出来事に固まってしまっていた。

 俺だったら腰を抜かすかもしれないと彼に同情しながらも、きちんと説明を行うことに意識を集中させた。

「S級治癒士のルシエルと申します。本日宴の席を欠席させていただきましたが、街で襲撃に合ってしまいましたので、治安の改善を申し入れしたくシャーザ殿にお目通りを願いたいのですが?」


 そう告げると守衛は慌てて門の中へ駆けていった。


「待っていて欲しいの一言が有りませんでしたから、入っても良いということでしょう」

 はっ?俺は隣から聞こえてきた声に耳を疑ったが、彼はそのまま襲撃者を引きずり門の中へ入っていった。

「さすがライオネル様ニャン。さぁマスターも行くニャ」

 同じくケティも躊躇無く中へ入っていった。さすがに門の前に一人でいるのが怖かったので、二人を追いかけたが、このときの俺は不安で仕方が無かった。


「これって不法侵入にあたるんじゃないのか?」

 俺は恐る恐る聞いてみた。


「はて? 入っても問題はないであろう。S級治癒士と言えば、この世界にはルシエル殿一人なのだろ?」


「ええ。確かに一人ですがそれが何か?」

「普通は国賓が襲撃されれば、国際問題で国が動くことになる。それを大事とせずに解決してやろうというのだ。相手にとっては優しい提案だろう? はっはっは」


 何度でも言おう。貴方は何者ですか?ここまで頼もしい人が何故奴隷だったのか?

 俺はそれが未だに分からないまま、どんどん進む彼の少し後ろ姿を追った。

 ケティもケティで、このような状況に慣れているのか暢気に鼻歌を歌っていた。



 建物の手前まで来るとシャーザ達が屋敷から出てきたところだった。出てきたところに俺達がいた為、驚いた様子で固まったところにライオネルが口を開いた。


「我が主である世界に一人のS級治癒士ルシエル様が、先程街での買い物途中にこの者達から襲撃を受けた。国としてどう考えどう謝罪し償うのか。この場ではっきりお聞かせ願おう!」


 そのあまりの覇気にシャーザは借りてきた猫の様に固まってしまい、シャーザの周りの人達は顔を伏せた。


 それを見た俺は心の中で、この人って物語の主人公タイプなんじゃないか?

 そんなことを暢気に考えていた。




お読みいただきありがとうございます。

ライオネル無双を展開してしまいました。

主人公が霞む程の活躍を作者は期待していますw


見やすくなるように0話~4話を弄っていますが、加筆修正作業が終わったということではありませんのでご了承ください。

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