55 前途多難な治癒士ギルドの立て直し
自由都市国家イエニスへの旅路を進め、何度か魔物と戦うことになったのだが、現イエニスの長であるシャーザさんを含めた獣人達で構成された兵達が魔物をあっという間に倒してしまった。
こちらはバリアを張ったり、負傷した兵の治癒だけとなったのだ。そのためレベルは上がらないと思っていたのだが、上昇していた。
ジョルドさんに聞くとバリアなどの補助でもレベルは上がるとのことだった。それならばパワーレベリングが出来てしまうのでは?
そう思いながら、自由都市国家イエニスの領土に入ってから本当に三日後、首都イエニスに到着した。
シーラちゃんは休憩中によく話しかけてきてくれたが、移動中はシャーザさんと話をすることが殆どだったためにあまり相手をしてあげることが出来なかった。
そんなシャーザさんの話では、治癒士ギルドに対しての要望などもあった。
・治癒の値段を物価を見て下げて欲しいこと。
・異種族に対してイエニスの法の下で治癒を行うこと。
・絶対ではないと前置きをしてから、魔物との戦場へ一緒に参加して回復役として付いてきて欲しいこと。
「あと申し訳ないですが、治癒院の設置は聖シュルール教会にお願いしたいのです」
これが首都イエニスが見えてきたときに言われた要望だった。俺は先ほどの内容を全て返答することなく聞いてから部下さん達と話し合ってきた。だから微笑みながら返すことにした。
「そうですか。勘違いをしていただくと困りますが、私達はまず慈善団体ではありません。それにその話はもっと落ち着いてから考えることでしょう。まずは治癒士ギルドの業務が出来る様にしないといけません」
俺はそれだけ言うと話を切ることにした。
どうも嫌な予感がしてならなかった。シーラちゃんはシャーザさんが苦手みたいだし、周りにいる二年前にあったことのある人たちも必要以上に声を掛けてこなかったからだ。
そんな疑念を抱きながら漸く首都イエニスに到着したのだった。
「これは・・・」
俺や部下さんたちは声を失った。その理由は治癒士ギルドにある。
「・・・ここはスラム街ですか?」
「ええ。ですが元々此処に治癒士ギルドが在ったのは事実です。他に移そうにも土地が無いのです」
申し訳なさそうに言っているが、シャーザさん・・・もうシャーザでいいか。こいつの目は笑っていて、他の人達は顔を逸らしている。
「なるほど。分かりました。それでは治癒士ギルドを立て直すために治癒の料金はそのまま頂くことにしましょう。もし足りない場合は足りない分を身体で返してもらいます」
「奴隷にでもするつもりですか?」
好戦的な目が光るが師匠に比べたらまだまだただの猫。俺はそう自分に言い聞かせてから口を開く。
「いえ、治癒の代金を大工仕事などで相殺してもらうということです。教会では誓約といって、神に誓うことによりその者を縛ることが出来ますからね」
「それが奴隷とどう違う」
口調まで好戦的ですが?
「これは神に誓うのです。私が無理矢理に誓えと告げているわけではないのです。そのため私が神に不当だと判断されれば私が罰を受けることになるでしょう。魔法が使えなくなるか、それとも命を失うかは分かりませんが、勿論代表であるシャーザさんにも誓約はしていただきます」
シャーザーはもの凄く焦った顔をし始めた。
「そんなに怯えなくても大丈夫ですよ。誓約は身体レベルを1にするぐらいで死ぬようなことにはなりません。代表のシャーザさんなら受けていただけますよね? 私達も治癒士ギルドを立て直すことに全力を注ぎます」
「ま、待たれよ。そこまで治癒士ギルドを立て直そうというお気持ちがあるのであれば、何とか融通できる場所をこちらも探そう」
「大丈夫ですよ。奴隷商がこちらの街にもあるそうなので、そこで寝ずの番をしていただける方達を購入して、徐々に治癒士ギルドを立て直していきますから。そうでもしないと、此処で治癒院を創ろうと思ってくれる、そんな気概のある方は出て来てくれないと思いますので」
俺はポーカーフェイスを貫いた。実は言動があまりにもあれだったので部下さんたちにも探りを入れてもらいながら、少しずつ皆で方向性を決めてきたのだ。
「そうだ、今日は歓迎会があるのだ。そちらで宴をして英気を養われよ」
「それはありがたいことです」
彼の顔に少しの余裕が宿った。
「ですが、さすがにこの現状を見てしまっては……聖治神様もこのままでは悲しまれるでしょう。私達は治癒士ではありますが、教会本部から来ていますのでこれを見過ごすことは出来ません。誓約はここでしていただくことで、これから宜しくお願いします」
俺が手を差し出すと彼の顔からはみるみると汗が噴き出てきた。
「凄い汗ですが?」
「聖変様、大変申し訳ないのですが体調が優れません。また後日、機会を作りますので本日はこれにて失礼させていただきます」
「回復魔法ならすぐお使いしますよ? ハイヒール、リカバー、ピュリフィケイション、ディスペル」
俺は詠唱破棄で魔法を唱えたが、まぁ変わらないだろうね。
「おおッ。素晴らしいです。ですが、持病なのでこれにて失礼します」
彼とお付きはそう言って帰っていった。
シーラちゃんは前の代表だった人の娘さんで、彼に声を掛けないよう言われていたのだろう。必死に手を振っていた。そして代表だった彼も深く頭を下げてシャ-ザの後を追い掛けていくのだった。
「何て言っていいのか分かりませんが、これから前途多難ですね」
「ええ。まぁとりあえずは浄化魔法で綺麗にしていきましょう。それに本当に奴隷商へいかないといけない、そんな気が先ほどからしているので、粗方片付けたら皆で奴隷商へ行きましょう。分散するのは良くないと思いますので」
『は』
俺達は雨漏りしている屋根や抜け落ちそうな床、蜘蛛の巣を掃除していった。
この際だから少し治癒士ギルドを改造していこうかなぁ。そんなことを部下さんたちに言うと何故か目を輝かせていたので実行することになりそうだと思った。
全ての部屋を浄化し終わった俺は部屋決めだけして、現在フォレノワール達の警護をしている神官騎士達のこともあるので、直ぐに奴隷商へ向かうことにした。
ここで豪運先生が久しぶりに会いに来てくれるとは、まだこのときの俺は気付いていなかった。