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50 遥かなる高みと歓迎会

 冒険者ギルドの訓練場では聖変のきまぐれの日が行われいた。

 青白い光がルシエルをを中心に展開されるとたちまち骨折であろうが潰れていようが綺麗に回復していくその光景を冒険者達だけではなく、帯同した治癒士や神官騎士も舌を巻く魔法の効果だった。


「なんか前より凄くなってないか?」

「まぁ俺にも色々あったってことですよ。今の人達で最後ですかね?」


「おう。よしちょっと待て。 おい新人どもこいつが二年前までこの冒険者ギルドで働いていた治癒士だ。ここのギルドで知らないのは二年前にここにいなかった奴等だけだ。如何にしてお前等の先輩が強くなったのかを教えてやるから暫らく見ていろ」

「えっ? もしかして今からですか? グルガーさんの料理は?」

「そんなもん食べる時間までに終わらせるに決まっているだろ。ちゃんと遅くなることは伝えてあるから大丈夫だ。主役は遅れていくもんだ」

「……師匠はブレませんね。」

「当たり前だ。よし、まずは今から体術だ。掛かって来い」

「胸をお借りします」


 俺は体内の魔力を高速循環させて一気に加速してアタックバリアを掛けてタックルに行った。

 ドォンと音が鳴った。

「まぁまぁのタックルだったな。だが、倒せないんだったら隙だらけだぞ」

 背中に強烈な痛みが走る。右の拳を落とされたらしい。

「っっつ、ヒール」

 痛みに耐えて回復しながら、今度は師匠の足を取りにいき、更に押すと流石にブロド師匠の身体も浮いた。すかさず腰に手を回し掴んで、股の下に右手を突っ込んで、左手で右肩付近を掴むとボディスラムに持っていく形が整った。

投げに入ろうとして首に何かが巻きついたと思った次の瞬間、俺は地面に頭から突っ込んでいた。

瞬時にヒールを無詠唱で頭に念じた。次の瞬間、頭が下となっていたが、地面に師匠の影が映り、嫌な予感がして腹に蹴りがくると読んで一気に力を入れた瞬間、重い何かが俺を吹き飛ばして何度かバウンドして止まった。

「痛ッッツ。何で頭から落とすんですか。普通なら死にますよ」

完全に変則DDTじゃないですか。


「嘘付け。でもまぁそこそこ身体は強くなっているみたいだな。これなら楽しめそうだ」

「うわぁ戦闘狂だぁ」

「こっちからいくぞ」

「うっす」

 ブロド師匠が消えた瞬間に俺はすでに真上に飛んでいた。師匠が消えるのは超スピードで移動しているからなのだが、本当に消えているわけではない。

 それを信じて下を見ると一瞬見えた!そう思った間も虚しく足を掴まれ地面に叩きつけられた後、直ぐに追撃で蹴りが降って来る。

 空中で加速するとか、ええーい、冒険者ギルドの教官は化け物か。地面に叩きつけられた痛みはヒールで消しながら横に必死に転がる。

「ほう。相変わらず受けていい攻撃とそうじゃない攻撃の時で反応速度が違うじゃないか。これは鍛え甲斐がある」

 ……師匠のやる気スイッチはどうなったら入るのでしょうか?入れてしまわない為に教えてください。そんなことを考えながら俺はブロド師匠がまだまだ手加減してくれていることを感じて聞いてみた。

「レベルを上げてステータスも上がりましたけど、ブロド教官がまだ捉えられないんですが? 参考までにブロド師匠のレベルっていくつなんですか? 勿論戦闘に関していつかブロド師匠を追い抜く為の参考までにですが?」

「はっ、馬鹿弟子が。レベルとステータスに拘るなと言っただろ?」

「勿論分かっていますよ。ただ師匠の攻撃を見切るのに同じぐらいのレベルの方が目標設定しやすいから聞いてみただけです」

「目標ねぇ・・・いいだろう451だ」

「・・・凄いですね。高い山ほど超えるのは気持ちが良さそうです」

「くっくっく。さぁお喋りは此処までだ。自分の限界を超えて掛かってこい」

「了解です」


 俺はブロド師匠に転がされてはヒールを使い、アタックバリアを常時発動しながら師匠という山に挑み続けるのだった。一時間程の体術訓練が終わったら今度は剣が出てきて剣術訓練に突入した。

 斬られては向かっていくことで外野は少々うるさかったが、一瞬でも気を緩めれば死ぬと思っていた俺は集中力を増していった。結局一度バッサリと斬られてしまったがハイヒールで何とか瞬時回復して事なきを得た。


「まぁ切りも良いしこれから歓迎会に行くぞ」

「はい」


 この日、俺とブロド師匠の訓練を見ていた二年前にはいなかった冒険者たちは自分の持っていた治癒士の概念が吹き飛ばされていた。また治癒士でも血の滲むような訓練であそこまで強くなれるのか。そう考えていた。

 また俺を知っていた者達の中に同年代の男もおり、今の訓練を見ていた。

「治癒士が俺より目立ちやがって。俺は選ばれたものなんだ。いくら回復してくれる良い奴だからって絶対に戦闘面じゃ負けないんだからな」

 闘志を漲らせていた男がいたことを俺は知らない。



 歓迎会は冒険者ギルドの食堂で行われることとなっていた。イスを無くし少しでも入れるようにビュッフェスタイルでの立食パーティーだった。これには治癒士ギルドから来た部下さん達は少し苛立っているように感じたが、俺の手前無言を貫いていた。


「おう野郎共。ルシエルがメラトニに帰ってきたぞ。これでこいつがいるときは怪我をしても早期に現場復帰出来るぞ。但しルシエルは治癒院の研修で来た。ボタクーリの治癒院で昼間は働くことになる」

 歓声がブゥーっとブーイング変わるが、この世界にブーイングがあるとは思っていなかった為、俺は少し驚いた。

「冒険者ギルドに常駐するわけじゃないが、ルシエルはこの冒険者ギルドで寝泊りすることになるから本当に危険な時は遠慮しないで来い」

 また歓声に変わった。

「じゃあルシエル、酒は無いが乾杯するから一言頼むぞ」


「えっとルシエルです。今回は治癒士ギルドの教会本部から来た私達の為に、このような会を開いていただきありがとう御座います。思い返せば此処で修行した二年間という歳月が平凡で凡庸だった俺をS級治癒士へと押し上げる土台を作ってくれたんだと思っています。最初は死なない為に冒険者ギルドの門戸を叩きましたが、メラトニに来た当初は冒険者の皆さんが本当に怖くていつも絡まれたら死ぬ想像をしながら生活をしていました。回復魔法を掛ける度に失敗したらと考えると恐ろしくて失敗しないために勉強を続けました。それから私が死にたくない様に冒険者の皆さんも死にたくないと分かっていきました。また服の差し入れや小物の差し入れを頂き優しい人が多いことに気がついてからは徐々に怖さが無くなっていきました。まぁ軟禁状態なのでは? と思ったことも一度や二度ではありませんが、間違いなくここが私の原点です。こんな私を迎え入れてくれた冒険者ギルドの職員のみなさん、冒険者のみなさんに本当に感謝しています。これからも少しずつ恩が返せるように邁進して参りますので今回一緒に来た治癒士ギルドの教会本部のメンバーにも私と変わらないご愛顧のほど宜しくお願いします。簡単ではありますが、これをご挨拶とさせていただきます。本日はありがとう御座います」


「真面目か!・・・まぁいいジョッキを掲げろ、よし乾杯!!」

『乾~杯!』


 俺はこの乾杯の後にもみくちゃになり、俺の戦いを見ていた神官騎士と治癒士、新人冒険者達はあれをグルガーさんに出されて「あいつはこれを飲んで強くなった」と少し色が薄い?あれを飲ませると片っ端から撃沈していった。

 ただ一人だけ神官騎士が飲み干してから気絶したことに新たな獲物を見つけたとグルガーさんの目が光ったことを彼だけが知らない。

 こうして最初は立食だったことで不満そうにしていた部下さんもグルガーさんの絶品料理を食べてからは満足そうにしていたのは見ていて嬉しかった。


 その半面、聖変の通り名の意味を考える冒険者とギルド職員は様々な妄想を膨らませて俺の精神力はここでも削られていくのだった。

「きっと聖属性魔法を使える変人て意味よ」

「いや、俺は聖属性魔法を使える変態だと思うね」

「えっ?私は聖人のように立派な行いをするけど、性癖が変わっているからって聞いたよ」

「そうなのか?俺は・・・」


 この後、聖変以外の通り名も検証し始めた結果、通り名が飛び火してブロド師匠の旋風や鬼畜教官、グルガーさんの料理熊に不動、ガルバさんの隠遁が出て大いに盛り上がり宴は深夜まで続いていった。


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