44 自分の武器 最高の関係 肉食系
昨日、俺は号泣した……が、それが良かったのかもしれない。気持ちのリセットが出来た。
ブロド教官が俺が弱いと言ったのは戦闘面だけではなかったのだと、昨日のチート主人公の伝説を知りそう思った。
けどチート主人公より俺が勝っている点が一点だけあった。もしかすると伝記には出てきていないだけかも知れないけど、師匠を初め、メラトニ支部の冒険者ギルドの皆や、俺の為にデモをしてくれる人達。
今回のように俺一人で解決しなくても、俺は素晴らしい人達に囲まれていることに気がつけた。まぁ先輩の言葉を思い出したからっていうのもあるけど、勝手に虚像を造り上げるのは柄ではないし止めよう。
俺の目標は寿命で死ぬこと。調子に乗りやすく、ビビリな性格でヘタレな部分もある。それは認めよう。では、俺に残されたものは?努力すること?継続出来ること?どれも違う。
「人に頼れるってことだ。実際には面倒見の良い人たちに恵まれているから俺は頑張れているんだけど、頼れるって凄い武器だよな? だったら俺も、頼られる分野で頼ってもらえば、win-winだ。最強じゃなくても最高だよな 」
こうして昨日の涙をポジティブに捉えた俺は、初心に帰ることにしたが流石に本当に初心に戻ってメラトニに行くことは出来ないので聖都の冒険者ギルドへ治療活動をすることに決めて自室を出た直後に呼び止められた。
「おはよう、ルシエル君。今日の演習に参加しないか?」
「おはよう御座います。ルミナ様。演習と言われても、俺はフォレノワールにしか乗れませんよ?」
「分かっている。今日は乗れるようにしてあるから安心しろ。それに君はまだ先と言っても旅に出るんだろ?だったら魔物と戦うこともあるだろう。ここの迷宮と違い魔物はたくさんの種類がいる。それらに慣れておいたほうがいいぞ」
なんだか、最近は彼女達が戦闘狂に見えるから不思議だ。こんなに美人なのに職業が聖騎士になるとこうなるのだろうか?そう思いながら参加することにした。
「宜しくお願いします。ところで魔物って本当に感情があるんですか?」
「ああ。中には命乞いをする魔物までいる」
「迷宮の魔物の方がいいですね」
「ああ」
この人が凄く格好が良いのはどうしてなのだろうか?考えながら戦乙女聖騎士隊とはあの演習から会っていなかったので聞いてみることにした。
「そういえば皆さんのレベルってどのくらいなんですか?俺は昨日で11レベルになったところなんですが?」
「そうなのか? 誇っていいぞ。戦乙女聖騎士隊は全員130よりは上だ。その訓練にレベル1で参加していたのだからな」
「それじゃあ勝てないのも仕方がなかったんですね」
「まぁ、そうだな」
「今日はどうに行く予定ですか?」
「聖都の周辺を回るだけだから安心してほしい」
「了解しました。」
こんな他愛もない話をしながら、聖騎士戦乙女隊と皆さんと合流して皆が各々の愛馬に乗馬すると、俺の前に来たフォレノワールが俺に乗れと言っているように思えて乗馬した。
「宜しく頼む」
こうして俺が参加する初の演習がスタートした。
これが乗馬かぁ。結構な速度で走り前後に振られる感じはするもののしっかりと股の内側に力を入れて落ちないように、フォレノワールを信じて乗っているだけだった。
ただ話しかけられても話をする余裕はなかった。いつもと違う俺に初めは戦乙女聖騎士隊の皆が、困惑気味だったが俺の乗馬姿を見て、笑い全てを察してくれた。
まるで単車に初めて乗った時のようにドキドキしながら、ただ揺れが激しいので落ちないように休憩の声が掛かるまでそんな状態が続いた。
「それでは此処で、一旦休憩に入る」
そう言ったルミナさんの声に従い、フォレノワールから下りると、直ぐに股が吊りそう?になっていたことに驚きながら、フォレノワールに浄化魔法を掛けながら礼を言う。
「ありがとう。もう少しうまく乗れるように頑張るな」
「ブルゥウルルル」
その鳴き声は頼むぜ。そんな感じに聞こえた。ヤンバスさん曰く、下手な人が乗ると馬もそれだけ大変だと言われてから単車は文句を言わないけどタイヤが磨耗したりメンテが早くなったりするもんなぁと思いだした。
「ルシエル・・様? さっきの馬上していた姿は、石像みたいだったよ?」
「不恰好」
ベアリーチェさんとキャッシーさんコンビに話しかけられたと時に、目が笑っているのに真顔なのに気がついた。
「・・・様付けも必要ないですよ。俺は仮ですが戦乙女聖騎士隊の新人ですからね」
すると、どれぐらい我慢していたのだろう?目の前で爆笑されてあまりの爆笑にこちらも笑うしかなかった。
この爆笑した声が聞こえたからなのか、軽自動車が現れた・・・あ、間違えた、森猪。そうです。ガルバさんが初めて解体してくれた魔物でした。
「や、やばくないですか?」
俺はそう声を掛けたが、周りの反応は違った。
「なかなか食べ応えがありそうだね」
「ここで血抜きは必須。だったら少し食べるのは罰は当たらない」
「ちゃんとフライパンは持ち合わせてありますわ」
「エリザベスは入れてただけだろ? かぁたまんねぇなぁ。これで酒でもあればなぁ」
「あなたこそ下戸なのに、無理しておっさん発言はいらないわよ」
「これうちらで倒していいですか?」
「うちらやなくて、ルシエルさんがやりはるでしょ? そういわれはったでしょ」
「情けは無用。躊躇いで何度も傷つけられたら、魔物とて不憫」
「ルシエル少しは成長した姿を見せてみなさい」
「骨は拾ってあげます」
「切る場所は首筋が一番良いですが、頭は固いので避けたほうがいいです」
そんな当たり前のように、討伐がしかも俺一人で?決められようとしていた。
「いやいや、さすがに勝てませんよ。あれの弱点は? ルミナ様」
「君のその臆病な心は、戦いを生業にするものが、無くしていってしまう大切なものでもある…が、あれぐらいは討伐出来るはずだ。なんせ直進しかしないしブレスを持っているわけでもない。ほら、頑張りたまえ」
軽く俺の背中を押したが、俺の心は完全に萎縮していた。
「逝って来ます」
そう告げてから、フォレストボアに向かって歩き出した。
「ああ。行ってこい」
そういって見送られてた直後、他の皆さんは俺を見送ることなくさながらバーベキューでもするかのように何かを準備し始めていた。
俺はやけくそにもなれないまま、近づくと向こうからこちらに向かって走り出したきた。
「クライヤ様、聖治神様、運命神様、神様、仏様、ご先祖様、私に力を」
フォレストボアは加速して、体感で80km程で駆けて来た。その圧力に対して、俺はビビリながら、短剣を投擲した。
別に、俺は治癒士ですからね。蛮勇は懲りてます。
魔力を多分に含んだ短剣は、フォレストボアの目に直撃した。が、突進は止まらなかった。
「?!何で? まぁ、もう一刀あるけどね」
俺は更に短剣を投げてから、盾と剣…内緒でバリアを発動して、フォレストボアの突進を避けるか、受け流しながら剣を首に突き立てるかを判断しようと思ったが、二投目がまた、今度は逆の目に刺さり、その後につんのめり半回転して、俺の目の前で腹を見せたまま痙攣し始めた。
「・・・なんだかすみません。」
俺は謝りながら首を魔力の流した剣で落とした。そして振り返ると彼女達は直ぐに側まで来てくれた。
「あんな状態なのに、何で首を落とすかぁ?」
「直ぐに血抜きの用意をして」
「内臓を軽く焼いて、酒の肴にしたいぜ」
「だから貴女は下戸でしょ。それに動物と違って、魔物の内臓は瘴気を含んでいるから、浄化でもしないと食べれないわよ。」
「浄化?」
「浄化?」
「浄化?」
「ルシエル、直ぐに内臓の浄化をお願い」
彼女達はギラついた目でこちらを見た。その瞬間、俺に拒否権など存在することはないと知った。
その目の中にはルミナさんも混じっていて、さながら教会の大司教の名前を思い浮かべて、謝罪してから引用してしまった。
ルミナさん、貴女もか。と
こうして、肉食(系)女子を目の前にしながら、浄化を無駄?に使用して演習という名目のバーベキュー大会が行われた。とても美味しかったけど、何故だか目から汗が零れそうになったのは俺だけの秘密だ。
野生の魔物と遭遇することに、今後なっていくと考えただけで胃が痛くなり、一人旅は止めておこうと決心するルシエルであった。