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38 S級治癒士兼祓魔師 ルシエルの宣言

 あなたは知っていますか?表彰される側の気持ちを?

 あなたは知っていますか?それがほとんど知らない、自分を心良く思っていない人の中でされる気持ちを?

 あなたは知っていますか?若くして出世すると、自分以上の歳の人から受けるプレッシャーが殺気に感じることを?


 前世で出世をした時もスピーチってものがありました。

 まず上司にお礼を述べて、回りの人に支えられてと定型分を読むように始まるのです。そして出世までのエピソードを少し面白く、そうでなければ努力したことを述べて、次の目標を宣言し、最後にまたお礼を言って終わる。

 さぁ私の上司であるグランハルト氏は、私に尋問して魔導エレベーターのカードと本部全員に配られるローブを渡してくれた人である。

 また、ジョルド氏は浄化魔法で魔物の倒し方を実戦でみせてくれた人であり、十階層のボス部屋に入ったことがなかったことが分かっているので助言の恩はない。

 ルミナさん率いる聖乙女聖騎士隊は訓練をつけてくれたが、言ってしまえばそれだけなのだ。厳しい味方になるが、カトレアさんのアドバイスやオバちゃんのお弁当にお礼を言いたい。

 後は教皇様から頂いたチートアイテムの魔法袋と天使の枕。これがなければ今の俺はここにいない。

 更に言ってしまえば、物体X様や豪運先生が俺を此処まで導いてしまったのだ。


 出世をしたいからこの世界に来ることになった。それはいい。

 だが、死なないために努力して来たのに、何故、どんどん戦いを強いられることになっていくのかがわからない。

 打算で強い人の側にいれば死なないと思っていた。

 打算で親しい人が多ければ死とは直結しない人生を歩めると思っていた。

 打算だったはずが尊敬するブロド教官やグルガーさん達と接するうちに、その生活が当たり前になり、こういう人生も悪くないと思えるようになった。

 打算で安全な生活を手に入れたことが運命神を怒らせてしまったのか、今度は味方がいないところに放りこまれた。

 もうこの時打算では動いていなかった・・・そのつもりだ。

 迷宮を進み冒険者ギルドで治癒を行い慕ってくる人も現れた。

 善の行い全てが人の為になることはない。それは前世でも一緒だった。

 だから慈善活動と称してお金の無い人を救った。優しさがいつか返ってくることを信じて。

 一生懸命に仕事に取り組んだ。…最初は違ったが、そのはずだ。

 それなのに神様、私は何故、目の前にこれだけの敵がいるこの場所が、職場なのでしょうか?


「長きに渡り存在してきた迷宮が活動を休止した。ここにいる治癒士ルシエル祓魔師が、迷宮の最奥まで踏破したことによる為だ。当面の間、魔素が溜まった迷宮には魔物が出現するが、いずれ魔物も出なくなるであろう。定期的な討伐は、今後騎士隊を統括するものが割り振るので、各自、日々の研鑽に努める様に妾は願う。さて、今回の功績による褒賞だが、ルシエルをS級治癒士に任命し、教会の内外に渡って指導で出来る立場とし、階級を司教と同格とすることとする。また、妾以外の一切の命令を拒否する権利を与えることにより、此度の褒賞とすることを妾、教皇フルーナ・アリュデリー・ド・シュルールの名を用いて宣言するものである。それではS級治癒士ルシエルよ、一言頼むぞ 」


 教皇様、何ですか、その何かを期待するような眼差しは? はぁ~…胃が痛い。暗殺されないように飛空挺でずっと空にいたい。この世界に飛空挺はありませんでしたけどね。

 知っていますか?今から私が言わないといけないことを?知りませんよね?そうですよね。

 ・・・豪運先生、俺、安全な生活がしたいです。


「ご紹介に預かりました、S級治癒士という大任を仰せつかった、S級治癒士兼祓魔師のルシエルと申します。まだ若輩者で、皆様にとっては面白くない存在です。功績は迷宮を踏破しただけですので、当然です。ですが、そんな面白くない若輩者がさらに面白くないことを今から申し上げます。私が治癒士になって三年と半年、教会の権威はもはや崩壊寸前です。」

 ざわざわし始めるし、殺気も凄い。そして教皇様も、カトレナさんも、戦乙女聖騎士隊も笑いを堪えてますけど、これってあなた達が仕組んだんじゃありませんか。まぁ此処からは開き直りますがね。


「崩壊寸前になった理由は、まず治癒士の傲慢な治療方針によるものでした。治癒士ギルドが出来た当初は、お金だけでなく食料などでも治療を行ったと聞いています。なるほど。聖人君子たる方達が創設した素晴らしいギルドだったと思います。ですが、それでは治癒士という職業はずっと豊かになれないではないか。治療したのに文句を言われたりして、納得出来るわけがない。仰る通りです。ですから私は治癒に関してお金を取ることが問題だとは言いません。あなた方の中にも、世界中で活動している治癒士の中にも、志が高く懸命に治癒している人は多くいます。だったら何故、治癒士は金にがめついと言われるのか?それは法の整備が進んでいないからです。ですから、お金儲けしか考えていなかった治癒院には大打撃になるかもしれませんが、治療費のガイドラインを作成することを宣言します。これは教皇様初め、全十名の大司教様にも了解を得ています。続いて聖騎士と神官騎士についてですが、汚職事件などを起した場合、きちんと調べた上でですが、その職を解任するとともに、主神クレイヤ様に背任した行為で、賜った職を騎士に降格させます。以降、教会の権威を笠に着る行為が出来なくなるので、日々研鑽を積んで教会の権威を復活させていきましょう。私も教会の為になることをしていく。それを生涯の目標として尽力していくことをここに誓います。ご静聴ありがとう御座いました。」


「そういうことだ。本来は此処でS級治癒士ルシエルの祝賀で終わるが、本日もう一件の人事を発表する。カトレアの現在の任を解き、もう一度カトリーヌ・フレア騎士隊長として復活させることを宣言する。今回カトリーヌが復帰する理由は、諸君等には関係がないことであるが、教会内に蔓延していた、不正、汚職を徹底的に精査して、既にその者達は罰が下った。知っているものがいない場合はそういうことだ。今後は徐々に監査対象を拡げていくので、力を合わせて教会を盛りたてていってほしい。頼む 」


教皇様が頭を下げるなんてあってはならないことだが、この式典に参加した者達は一斉に敬礼をした。

こうして俺のS級ランクの昇進?昇格?が決まり、敵だらけの場所を少しずつ改善していけるように主神クライヤ様と運命神様と聖治神様とご先祖様に祈りお願いした。


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