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35 試練の迷宮踏破

 不貞寝して気がついたときには、体力も魔力も完全に回復していた。

 本当に天使の枕もチートアイテムなんだな。チートアイテム様に感謝を告げたい。

 俺は伸びをしてから起きると、先程と変わっている点が一つあった。


 大きな扉があった。それを見ていると何故か心が癒される。そんなオーラが出ていた。

「・・・なんだろう。ただの扉があるってことがなのか、この扉が放つオーラなのか、胸にこみ上げてくるな 」

 俺は立ち上がり、扉に触れた。


 すると扉が俺から魔力を吸い取り始めた。

「ちぃ、俺の感激を返せ 」

 手が扉から離せない。扉に魔力が入り、徐々に魔力を吸い込んだ扉が模様を描いていく。

 そしてどれぐらい吸われたのか、俺の魔力を吸いきる直前に扉が発光して開いた。


「これってフラグを立てたくないけど、ラスボスがいるんだろうね 」

 仕方なくマジックポーションでMPを回復して俺は扉の中に入ると半地下のように下の階層が直ぐに見えた。


 俺はゆっくりと中間まで下りると嫌な予感がしてしゃがんだ。別に攻撃があったとかではない。

 これ以上進むな。脳が、直感的にストップを掛けた気がしたのだ。その証拠に鳥肌が凄い勢いで立ったので間違いない。

 しゃがみ込み俺が視界に捉えたのは、「ここでカトレアさんに伝えたフラグ回収とか教皇様ってどんだけの鬼畜なんですか? 」

 俺が視界捉えたのはアンデッドドラゴンだったのだ。

 ドラゴン、竜、龍とあるが、今回は龍だ。

 この世界のドラゴンの分類では、翼はあるが、胴が重く飛ぶことが上手くないタイプを竜、身体が長く飛行するタイプをを龍と呼ぶ。

 ワイバーンなどは飛竜の分類でブレスも吐かない為、また違うのだが今はどうでもいい。


「……マジでいるのかよ。それも龍種。某ゲームのⅤで次元の狭間で宝箱に入っている槍を守っている。最強系じゃないか 」

 アンデッドドラゴンは半分が黒く炭化したように黒くなり、半分は聖銀に輝き神秘的な雰囲気をしていた。


「こんなの治癒士が勝てるかよ。あれ?でもあのアンデッドドラゴン・・・動かないな 」

 ここで俺はいくつか気がついたことを脳内に瞬時にまとめた。

 ・これ以上、近づかなければ攻撃されない。

 ・龍は知性あるものだから、喋れるかもしない。

 ・聖域円環ならアンデッド化を元に戻せるかもしれない。

 俺は気合を入れて遠隔魔法陣詠唱で、龍の全体を覆うぐらいの魔法陣を即効性のある高級マジックポーションを飲みながら、魔力ブーストで魔法陣を展開していく。

 サンクチュアリサークルを魔力ブーストも使用して発動した。

【聖なる治癒の御手よ、母なる大地の息吹よ、我願うは我が魔力を糧とし、天使に光翼の如き、浄化の盾を用いて、全ての悪しきもの、不浄なるものを、焦がす聖域を創り給う サンクチュアリサークル。】


 聖なる光が現れると眠っているように動かなかった龍が、起き上がり暴れようともがく。

 だが、聖域円環は龍を離さないまま、天井まで伸びた光の柱が、中まで青白い光を放ち龍の姿が見えなくなると、「グゥォオオオオオオオオオ」と凄まじい断末魔が聞こえた後にドスンと地響きがした。

「これっていけたか?」

 そんな安易なフラグを突き立てた俺は龍に向かう。

 直感がそうしろって言っている気がしたからだ。


 光が止むと目の前に龍が大きな口を開けて迫る。

 俺は動くことなく喰われて、あ、これ死んだわ。そう思った。が、痛みはなかった。

 そしてそのアンデット化していた骨が黒から白に変わった龍は俺を見ながら、唐突に喋り始めた。


「我ヲ一撃トハ、オ前ニ、褒美ヲヤロウ。コノ迷宮ハ、試練ノ迷宮。故ニ、魔法陣ヲ通レバ、祝福ガ与エラレル。オ前ノ様ニ、臆病者ガ丁度イイ。此処ニ来レルノハ一度ダケダカラ、全テ持チ帰ルトイイダロウ 」

 そこには金銀財宝、武器、防具、魔法道具に嗜好品まで様々な物があった。

「お、お前が俺を嵌めるかもしれないだろ?龍種は神獣か魔物かの未だに議論されている問題だしな 」

「安心シロ。コノ層ニハモウ、邪気ガナイデアロウ。置イテアル魔石ヲ取レバ、迷宮ハ無クナル。ドウスルカハオ前ガ好キニシロ。オ前ダケノ特権ト言ウヤツダ」

「此処はなんの為の迷宮だ?教皇様は何を考えている?」

「我等龍種ハ、千年ニ一度生マレ変ワル。我等ガ生マレ変ワレナイ様ニ魔族ヲ束ネル邪神ガ我等ヲ襲イ魔力ノ溜マッタ場所ニ封印ヲシタ 」

「そういうのって勇者が解決するんだろ?」

「残念ナコトニ勇者ハ此処ニ現レナカタ。ソシテ封印サレタ我等ハ、邪神ノ呪イデ、アンデット化シテキテシマッタ 」

「嫌な予感しかしない。俺は治癒士だよ?聖騎士でもありませんよ? 」

「勇者ガ生マレルマデ、人ノ寿命デ四十年余リノウイチニ我等龍種ヲ、邪神ノ呪イカラ解キ放ナッテクレルコトヲ願ウ 」

「・・・それって俺じゃなくてもいいとして、そうならないとどうなるの? 」

「大気ヲ覆ウ魔素ガ、闇ニ近ヅキ魔族ノ力ガ強クナリ、勇者ガ魔王ニ勝テナクナルカモ知レナイ 」

「かも、ね。だったら弱い俺は今を一生懸命生きる。それだけだ。俺は強くないし、蛮勇でもない 」

「クックック、我ヲ倒シテオイテ、弱者ヲ名乗トハ、興ガ乗ッタ、我ノ加護モ付ケテヤロウ 」

「そういうのいいですから、えっこれってこの世界に来てから今までが、序章?そんなノリいいですから 」

「ワケガワカラナイガ、我ヲ倒シタ御主、名ヲ何ト言ウ? 」

「ルシエルだ。でも本当にいいから、俺治癒士だし、死にたくないし、自分と知っている人だけ、まず安全ならいいから 」

「安心シロ、死ニ難クシテヤルダケダ 」

「それなら宜しく 」

「クックック。ヤハリ面白イヤツダ。願ワクバ、我ガ同胞ヲ達ヲ救ッテヤッテクレ 」

「約束出来ない。センスもないし、主人公でもないし、ましてやそんな柄じゃない 」

「分カッテイル。ドウヤラ時間ノヨウダ。我ノ亡骸ハ直グニハ朽チルコトハナイ。我ガ加護ト我ノ亡骸ヲ、ルシエルノミニ与エル 」

「貰えるならありがたく 」

「魔族ハ徐々ニ勢力ヲ強メルダロウ。オ前ガ出切ル範囲デ救ッテヤッテクレ 」

「ああ。俺も死にたくないからな 」

「クックック。約束ハ果タシタゾ・・フ・・・イ・・・ル・・・ナ・・・。サラバダ」

 こうしてアンデッドドラゴンは封印を解かれて、その輪廻を再開させることが出来た・・・のだろうか?


 俺はこの迷宮が崩れるとような凄く嫌な予感がしたので、魔石だけを残して宝を全て魔法袋に入れながら、宝の中に魔法袋が二つあったことに驚きつつも、全ての道具をまとめた。

 次に龍の亡骸を整理していくと、聖龍(仮)の聖龍の鱗、聖龍の逆鱗、聖龍の牙、聖龍の骨、アンデットドラゴンの骨を魔法袋に収納した。

 そして全てを魔法袋に入れると一つの宝箱が出現して槍が一本と首飾りが入っていた。

「ただの治癒士には、手が余るものだらけだったけど、漸く帰還できるって思うとそれだけでうれしいな。でも」

 此処のことは教皇様以外には、伝えることはしないほうが良い。教皇様の侍女にも駄目だろう。俺は直感的にそう思った。

 俺は魔法陣に意を決して飛び込むと、魔法陣が光り出した。

 ピロン【称号 聖治神の祝福を獲得しました。】

 ピロン【称号 聖龍の加護を獲得しました。】 

 ピロン【称号 龍殺し獲得しました。】 

 ピロン【称号 封印を解き放つものを獲得しました。】 

 ピロン【聖龍との誓いにより、龍の封印された場所が分かるようになりました。】

光が収まると、そこは迷宮の入り口だった。


「狐につままれた気分だ。それよりも聖龍のやつ俺を嵌めやがった。・・・駄目だお腹が空いて怒る力も出ない。はぁ~戻るか 」

こうして俺は迷宮を出るのだった。


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