29 修行の成果?三十階層のボスとの戦闘
目を覚まして、ストレッチをしてから食事を摂り、物体Xを飲んでから気合を入れて攻略に出る。
一対一で、死霊騎士先生のオーソドックスな剣と盾の使い方を学び、十階層のボス部屋で大人数と戦い、自分の動きから無駄を省き、判断力の向上を促す。
三十階層までのグール、ミイラ、ゴースト、骸骨剣士、骸骨弓兵の連携攻撃を捌く。
こうして俺は三ヶ月という時間を過ごしてきた。
人は環境に慣れるらしく、最初はかなりの傷を負っていても回復は出来るので、致命傷を喰らわない様に相手を倒して、ゆっくりと回復する。
努力が少しずつであるが、蓄積して俺の経験になっていきている、そう思っている。
三ヶ月も進まないことに何も言われないが、少しずつゲームクリアを目指していないようで、チートアイテムをもらった手前、心が痛み始めていた。
「ハァアアア、甘い、喰らえ 」
剣と槍の二槍刀流の超攻撃的スタイルと、剣と盾の一般的なスタイルに、今では蹴りも大きな武器になってくれて、三十層で囲まれても軽傷しか負わない。
アンデット達の攻撃が直線的なのと、こちらの攻撃が一撃でもまともに入れば、霧のように魔石へと変わることが、最大の勝因となっている。
潜っては、大量のPを貯める俺を待っていたのは、ドワーフ達が新しく武器を入荷する時に、Pでオーダーメイドの武器を製作をしてくれるという情報だった。
さらにPで、本部から貰ったローブよりも魔法耐性を高める素材が使われたマジックローブがあると言われて白金貨10枚よりも性能の良いローブって、200万Pで買えるのか?
そんなことを考えながら購入したが、まだ魔法を受けていないので実際に何が違うのかは分かっていない。
そんな話をカトレアさんから聞きながら、ドワーフの人たちには会ったことは無いのだが、治癒士の近接戦闘員として面白がられているらしいことも聞いて、知らないところで変な噂が立たなければいいなぁと思ったのが本音だった。
「まぁ応援してくれる人たちもいるし、俺も少しは強くなってきているだろうけど、三ヶ月やそこらで、レベルも上がっていないのに、大きな飛躍はない。ブロド教官が言っていた、ステータスに踊らされるなって言葉もあるけどな 」
生身の魔物や盗賊をこれだけ斬っていたら、精神がやばかったから思いっきり攻撃することが出来るこの訓練に関しては感謝しているけどな。
そうやって悩やみながら、三日後、俺は三十階層のボス部屋の前で、最後の準備を行なっていた。
「武器良し、防具良し、魔法の袋良し、魔法付与良し、物体Xよし。」
俺は一気に物体Xを煽った。
「プゥー。さあ、行きますか。」
三十階層のボス部屋の扉をゆっくりとを開いた。
薄暗いボス部屋を警戒して入る。扉が閉まり、明かりが灯ると、広さは今までと一緒だったが、四角い部屋ではなく、違い、すり鉢状の部屋だった。
しかし、それを考えられるほどの余裕が今の俺には無かった。
何故なら「マジかよ。」と呟くほどの光景を目が捉えていたからだ。
ボス部屋にいたのは、ワイトが三体と赤い目が灯った死霊騎士が五体、こちらを睨むように待ち構えていたのだった。
戦闘は俺が口火を切った。
浄化魔法を詠唱しながら距離をとり、すり鉢状のバンクを走り回る。一斉に囲まれるのを避けることと、集中攻撃をかわす意図があったのだ。
浄化魔法を発動して、更に同じ浄化魔法を紡ぐ、案の上、一体も消えてくれる優しい設定ではなかったのだ。
ただ、発動後は身体が硬直したように止まってくれたため、短剣に魔力を込めて投擲し、数を減らせればと思いながら行動に出た。
死霊騎士の頭に突き刺さる、ワイトに向かったものは死霊騎士が盾で受け止めた。
ワイト達が各々、杖をかざして魔法を発動してくるが、ずっと動いている為に当たらず、死霊騎士達もワイトを護衛している為に、中心から動けず、大きな魔法を使用してくることも無かった。
囲まれないように戦い始めた戦略が、まさかの幸運……いや豪運先生を呼び起こしてくれた。
計五度の浄化魔法を発動して、部屋に拡がっていた瘴気が薄れた様に感じた俺は、一度試してみたいことがあり、身体強化を発動して、六度目の浄化魔法を放ちながら、中央に固まった魔物の群れへと突っ込んだ。
魔物達は走ってくる俺を捉えていた。ただ、浄化魔法が効いていて特攻を仕掛けてくることが無かった。
運命の神の加護が俺の豪運を後押ししてくれた。そう思える出来事だった。
三体のワイトが中から各々魔法を放ち、死霊騎士たちは、盾を構えるだけだった。
マジックバリアに高いだけある魔法のローブに聖騎士の鎧が全て良い仕事をしてくれた。
大規模な魔法ではなく、黒い水、風、土の槍が俺に向かってくるが、俺は気にせずに盾で致命傷だけを追わないように突撃した。
近づいた俺に今度は魔法ではなく、死霊騎士達の物理攻撃がしかけられたが、こちらの方がまだ余裕があった。
二度の攻撃を盾で弾き、全ての魔物達が俺の魔法射程距離に入っていた。
【聖なる治癒の御手よ、母なる大地の息吹よ、我願うは魔力を糧として天使の息吹なりて、万物の宿りし全ての者を癒し給えエリアハイヒール。】
俺が試したかった魔法は、エリアハイヒールだった。
浄化魔法と違い、その効果は凄まじいものがあった。
苦しみ出し、叫び声を上げる魔物達。
杖を、剣を、盾を落とし、叫びを上げる姿は、まるで俺が拷問しているかのようで、嫌な気持ちにもなったが、最大の機会を捨てるわけにはいかなかった。
エリアハイヒールをまた詠唱しながら、俺はワイト達に接近して、魔力を流した剣で首を落として、一直線に剣を振り下ろして真っ二つにする。
それを三度繰り返し、再度エリアハイヒールを発動した俺は、死霊騎士達も一気に葬った・・・というより全ての死霊騎士は絶叫をあげて、身体が勢い良く溶け出して斬ることも無く魔石とアイテムを残し消えていった。
「はぁはぁはぁ。結構完勝したんじゃないか? 」
俺は息を整えながら、マジックポーションを飲んで残ったアイテムに直ぐ浄化の魔法を唱えた。
「あの消えていく時の濃い紫の煙が瘴気だったらやばいからな。しかし、本当に聖属性魔法のエリアハイヒールが使えるようになって良かったぞ。これが初っ端だったら絶対に死んでる 」
今回の戦闘ではすべてが良い方向に転がったから完勝に見えるだけ。俺はそう自分に言い聞かせた。
「さすがに、この人数を普通に相手にするなら、ゲームオーバーだったろうしな 」
全ての武器や防具、アクセサリ、魔石を回収した。
するといつも通りに下層へと続く扉が現れて開き、階段が出てきた。
「しかし、今回のことで分かったけど、迷宮通路の死霊騎士が新人兵ならボス部屋は本物っていうかベテランの騎士って感じがして、死霊騎士にも階級があるのか?」そんな暢気なことを呟いてた。
「一応ここまでは、以前の教会騎士団も普通に来ていた設定だったな。この後がヤバ目の魔物が出るって言っていたよな?宝箱とかキーアイテムとかあるんだろうか? 」
まだまだゲーム感覚のルシエルはそんなことを考えながらも「何かこの世界に来てから、魑魅魍魎と戦う、修行僧みたいな生活を送っているなぁ 」と呟きながら、弁当を食べ始めた。
食事が終わると三十一層に向かい敵の姿は色が違うグールで俊敏性が向上していることに驚きながら、階層を引き返すとボス部屋には死霊騎士が五体いた。
こうして自分の技量より、同等以上の死霊騎士先生が五人に増えて、今後は此処が修行場することを決めて、迷宮から出る頃には腹時計がなっていた。
俺は迷宮に挑んで、百二十八日目にして三十階層のボスを討伐することに成功したのだった。