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28 聖変の気まぐれな日

不死属性の魔物と戦い続ける。普通は気持ち悪くて無理だし、臭いも無理だろう。

これってもしかして本当にクリアした人がいないのではないかと思ったりもする。

しかし、ブロド教官やルミナさんのように俺が視認出来ないほどの速度で動ける人たちも果たしてクリア出来なかったのか?

そう考えると、ここまでは余裕だと思っている。

もしかすると、昔設定の人達の敗因は、大人数による混乱や精神崩壊するようなそんなスキルだったのではないだろうか?

だから一人で進ませるのではないだろうか。


剣を打ち合い、隙を探して相手の癖を盗み攻撃を加える。

「不死だから痛みが無いと思ったら、そうでもないんですよね?痛覚はあるって、先生の身体はどうなっているんですかね?ねぇ先生? 」

剣戟がなる中、チート装備を手に入れた俺は盾で剣を受け止めると脚に魔力を流して蹴りを先生の左脇腹に入れた。

ゴォと音が鳴り、そのあとでドォンと迷宮の壁に突っ込んだ死霊騎士に声を掛ける。


迷宮に篭って早三ヶ月が経とうとしていた。

一週間に一度は迷宮を出てリフレッシュするために、カトレアさんと話したり、馬術訓練でリフレッシュしたりはしている。

現在迷宮の攻略は三十階層まで進んでいるものの、ボス部屋には進んでいない。


「お疲れ様。最近の調子はどう? 」

「漸く死霊騎士に勝てるようになりました。ただ、複数相手で、あれが出たらまだまだ苦戦すると思います 」

「そうなの。そう言えばクラスアップはしないの?」

「ええ。いつか迷宮をクリアした時のご褒美だと思っていれば、まだまだ頑張れそうですからね 」

「ふふふ。結構強情なのね 」

「ええ。まぁ近いうちに三十層の主部屋には行くつもりです 」

「頑張って、そんな月並みの言葉しか言えないけれど、死んじゃあ駄目よ 」

「ははっ。勿論ですよ 」

「それでまた潜るの? 」

「いえ、ちょっと買い物があるので、一旦外に出ます。そう言えば戦乙女聖騎士隊はどうなりましたか? 」

「問題はないらしいわ。でも、身動きが取れないらしいわ 」

「まぁ治癒士を捨ててはいけませんもんね 」

「ええ。それでもあの子達の命の方が強欲な治癒士たちよりも価値があるわ 」

「私も治癒士ですけど、そう思いますね 」

「…あら、そういえばルシエル君も治癒士だったわよね 」

「…ははは」

「最近は聖変の騎士様って呼ばれている方を耳にするから、聖騎士だと思っていたわ 」

「勘弁してください 」

「ふふふ。それで今回の休日は如何するの? 」

「冒険者ギルドに行って、その後に食処でご飯を買って、また迷宮に潜りますかね 」

「そんなにアンデッドと戦ってるけど、おかしくなったりしないの? 」

「それがですね、ならないんですよ。精神耐性のスキルがついたからですかね? 」

「無理は駄目よ 」

「もう口癖ですね。じゃあ行って来ます 」

「いってらっしゃい 」


この三ヶ月で俺と敵対してくるものとは会っていない。

まず、俺は体格が良く騎士の様な格好をしているため、治癒士だとは思われない。

次に長くなった髪を結っている為に、戦乙女聖騎士隊がいた頃に俺の顔を見ていても気がつかないのであった。

まぁ部屋にはいたずらがされたりしていたが、そんなものだ。


おや、考え事をしている間に、冒険者ギルドに着いた。


「こんにちは。」

俺が挨拶して入ると、マスターが出てきた。

「おう聖変様。今日はあれか?それとも治癒の日か?」

「いつも厨房にいるのにどうしたんですか?」

「あん。あれがそろそろ切れる頃だって、分かっていたからな。それに一週間一度、休みをとるって言っていたろ? 」

「一月前のことを良く覚えてましたね 」

「けっ。あれだけのことをしてくれるやつを忘れたら、ギルドマスター失格なんだよ 」

「だったら何で厨房にいるのさ 」

「趣味だ 」

「左様ですか。早速で悪いですけど、まずはあれを十樽お願いします。あと「あ、聖変様」あ、こんにちはミルティーさん。怪我人を下に集めてください。」

「わかりました 」

「こっちも用意しておくぜ。」

こうして二人は地下と厨房に消えた。


聖変の気まぐれの日。そんな日がいつ出来た?あの聖変の通り名が出来た日から月に一度、冒険者ギルドから指名依頼が出てそれをこなしている。

対価は銀貨一枚とあらゆる情報、冒険者達との模擬戦。自分の実力を知るために戦ってアドバイスをもらう。

治癒士に負けるのは、思いの他、冒険者達には屈辱らしく、新人や低ランクは必死に訓練や修行を始めて、ここでもまた死亡率と任務失敗の案件が激減したらしい。

現在の俺はEランクとDランクの冒険者と複数で戦っても負けないが、勝てもしない。

Dランクと一対一なら勝てたりもする。そんなレベルだ。

それを見てしまったBから上のランクが、基礎訓練をするようになり魔物が活発になっても死ぬような怪我を負うものがいなくなったらしい。

そして聖変の気まぐれの日が来る前までに、高ランクの依頼を皆で受けて最近は高ランクの魔物を次々に撃破しているらしい。

何故か好循環を中心が俺ということになっている為、ここでも冒険者達からは絶大な人気があるらしい。

この情報の出所は全て酒場のマスター兼ギルドマスターのグランツとウエイトレス兼副ギルドマスターのミルティーさんなのだ。

それにしても冒険者ギルドってあの二人がトップで大丈夫なのか?と疑いたくなるのだ。


「おう、聖変様久しぶり 」

「ああ、エリッツ殿、久しぶりです 」

「少しは使えるようになったかい? 」

「ええ。それでもまだまだ難しいですよ 」

「あんだけ魔力操作が高いんだから余裕だろ?それで、まだレベル1なのか?」

「ええ。魔物を倒していませんからね。」

「かぁ~持ったいねぇ。そこまで戦えて、レベル1ってとんでもない原石なのにな。」

「俺は死にたくないだけだよ。それよりも魔力を体内で高速循環すれば身体能力が上がるって有名な話なのか?」

「ああ。ただ魔力操作が出来ないと話にならないけどな。」

「へぇ~。」

「そういえばこの間、聖変様にまけ・・・・。」


こうしてこのギルドのAランカーであるエリッツと話をしながら、物体Xを魔法袋に入れて、二度のエリアハイヒールとビュリフィケイション、リカバー、ディスペルを必要な人に掛けていった。

そのあとはメラトニの情報や戦乙女聖騎士隊の情報をもらい、模擬戦をし食事処を回ってから、冒険者ギルドで食事を大量に注文して皆で食べるように言って、帰ってきた俺は英気を養うことが出来た。


「さて、行きますか 」俺はこうして十階層のボス部屋を本日の寝床にして休むことにした。

ちなみにアンデッドを一体倒すと魔法、魔力攻撃に問わず、聖属性魔法の熟練度が上がっていることに気がついてから、俺のやる気は更に上がり比例するように熟練度も上がる。但し、レベルⅨ、ましてやⅩまでは気の遠くなる作業が必要だ。

「身体強化をもう少しスムーズに出来る様になったら、三十層のボスに挑もう。」





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