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25 教皇様と二度目交渉(商談)

 

 迷宮から出ていつも通りにカトレアさんに買取をお願いする。

「買取をお願いします 」

「は~い。最近ルシエル君が頑張ってくれているおかげで負債が減ってきたわ 」

「負債ですか? 」

「ふふふ? もしかして二十階層の主部屋に行ったの? 」

「はい。二十階層のボス部屋に行きました。ワイトと騎士のように鎧を着込んだ骸骨騎士と戦闘を行ないました 」

「じゃあ先にポイントだね215,342Pよ。かなりの稼ぎですね 」

「ありがとう御座います。これでまた色々買えそうです 」

「それは嬉しいわ 」

「じゃあ今日は疲れたので失礼しますね 」

「ふふふ。面白い冗談だけど、私はそういう冗談はあまり好きじゃないなぁ 」

「…は、ははは。そうなんですね 」

「そうなの。じゃあ行きましょうか? 」

 こうして俺はカトレアさんに教皇様の部屋まで連行されていった。


「カトレア、それと確かルシエルだったな。良く来た。して今回の火急の件は? 」

「はっ。祓魔師殿がまた攻略を進めまして本日は二十階層の主部屋でワイトと骸骨騎士と戦闘し勝利して帰還しましたので伺いました 」

「ほう。ルシエル、二十階層とは順調なようだな? 」

「はい 」

「存外、ルシエルは強いのだな 」

 興味があるぞ?みたいな声がする。

「滅相もありません。苦戦しましたし、今回も運が良かっただけです。前回頂戴しましたこの魔法袋が無ければ確実に大怪我を、下手をすれば死んでいました 」

「なるほど。では妾も少しは役に立てたようじゃな 」

「はい。教皇様のお力添えを頂けたことが、最大の転機となったことは間違いありません 」

「くっくっく。短期間でこれだけの殊勲を立てたのが、妾のおかげと本気で思ってその言葉を発するとは面白い奴じゃ 」

「ありがとう御座います 」

「ふむ。では今回も持ち帰ったものを妾に見せてくれ 」

「はっ。今回のワイトは火、聖のダブルの属性を使ってきました。それとお付きのようにワイトを守る骸骨の騎士…死霊が乗り移ったように見えたので死霊騎士と呼びますが、それが二体おりました。そしてこちら落としたものです 」

 ワイトが残した法衣と二つの腕輪、死霊騎士が残した剣と盾、鎧を置いていった。侍女達が持っていったが、カトレアさんが少しだけ動揺したように見えたのは気のせいだったのだろうか?

 教皇様は一つ一つを手に取りながら、じっくりと見て漸く言葉を発した。


「これも、やはり・・・ルシエル、大儀であった。お主が以前と今回倒したワイトが所持していたのは、元司教や大司祭が生前所持していたものだ。二人とも十年以上も昔に行方不明になっている者達なのだ 」

「それでは迷宮で死んだ後、死者となり治癒士ギルド本部に牙を剝いたということでしょうか? 」

「ふむ。正確には聖シュルール協和国と聖都シュルール教会、治癒士ギルド全てを含めてじゃな 」

「それは・・・ 」

「ああ、地下が迷宮化してから早五十年以上も経つ。何故迷宮が出来たのかも誰も分からない。昔は此処も今では考えられないほど本当に賑やかだったのじゃ。多くの神官騎士、聖騎士が切磋琢磨していたのじゃ 」

 確かに俺の部屋は二人部屋だけど一人で使用しているしな。なるほど。そういう現実と虚実の情報を織り交ぜることで、迷宮攻略に対するやる気を向上させ迷宮の攻略武器をくれるんですね。

「しかし、当時の教会が突如迷宮化したことにより、多くのものが迷宮の封印にあたり、何とか地上に魔物が溢れてくる事態は避けられたのじゃ 」

「迷宮って封印出来るのですか? 」

「出来る。穢れを払う魔法を使えばな。大量の聖属性のみの魔力が必要になるがな。まぁ当時は完全に封じることが出来なかったんだがな 」

「なるほど。それ以外に封印することは出来るのでしょうか? 」

「ああ。瘴気を出す迷宮の核を破壊すれば迷宮の活動が停止して大きくなることはなくなる。そこから封印をすれば穢れがなくなり消滅する 」

「消滅ですか? 」

「教会に迷宮があっては困るのじゃ。迷宮は魔力が溜まる場所に、瘴気と人々の欲が合わさることで、生まれると言われておる。教会にあっていいものではないのが分かるじゃろ? 」

「はい。確かにそうですね 」


「話を戻すが当時迷宮に潜っていたのは神官騎士や聖騎士のもの達であった。探索は驚くほどのペースで進んだ。一日五階層から七階層といった感じだったのじゃ。しかし、あまりの臭いと瘴気の為、徐々に進行速度は落ちていった 」

 俺は平気なんですけど?これって遠回しに変人って言ってないか?

「それでも教会の精鋭である神官騎士達と聖騎士達は教会の為に進んだ。しかし濃くなる瘴気で病に倒れ、強くなる敵…中でも精神魔法を使ってくる敵に魔法を掛けられ同士討ちさせられることになったり…… 」

 アンデッドでそれ系の魔法ってもしかしてレイスとかじゃないの? それよりもレイスも出てくるのか? 辛いな。

「無理な迷宮攻略が祟って数多くのものが犠牲となった。その結果、迷宮から魔物が出てこないように封鎖したのじゃが、ある日ゾンビが迷宮から這い出てきてこともあり建物の増設工事が始まった 」

「現在、身体能力の低い治癒士が祓魔師をしているのはもしかして 」

「ここ数十年で神官騎士、聖騎士のJOBを持つものが生まれにくく、生まれても教会に所属しないものが多い。その数は当時の二割しかいないのじゃ。はっきり言って迷宮に回す人材がいない 」

「だから治癒士も使える浄化魔法で間引き作業をさせているということですか? 」

「そうじゃ。今は迷宮からゾンビが出てこないようにする。それが最優先となってる 」

 あれ? これって攻略ばっかりじゃなくて、浅い階もたまに見回れってヒントを出してくれたのか? いい武器やアイテムをドロップしやすくなるとか?

「なるほど。以前の攻略は何処まで進まれたのでしょうか?そして分かればで結構なのですが、迷宮はどれくらい深くまであるのでしょう? 情報をいただける助かるのですが?」

「当時聞いたときは四十階層の主を倒したと聞いている。そしてその戦いで二人の指揮官が亡くなり、攻略を断念したのじゃ。」

「ちなみにその方達は現在の聖騎士と比べてどうだったのですか? 」

「強かった。当時は今と比べて戦争や戦闘が激化していた頃でもあった。それを支えた精鋭だったのじゃが・・・ 」

「そうですか 」

完全に無理ゲーじゃないですか……

「失礼を承知で申し上げますが、迷宮を潰すために冒険者に誓約の魔法を打ち込み攻略させることも出来たのではないでしょうか? 」

「うむ。そういう話は当時もあったのじゃ。が、冒険者達は迷宮に入れなかった。これは後で分かったことじゃが、光、聖の属性魔法に適性があるもの、神官、巫女、勇者、賢者、聖騎士、神官騎士、龍騎士だけじゃった 」

「あの~、勇者パーティーはクリア出来なかったのですか? 」

「うむ。迷宮に入った矢先、タイミングが悪く魔族が進行を始め、迷宮攻略どころではなくなってしまった。

その後、勇者は魔王を倒してことでその力を失くしてしまい、戦える状態ではなくなってしまったのだ 」

……ご都合主義すぎるだろ。

「今振り返れば五十年も昔のことじゃ。」

「なるほど・・・あのワイトだった方々は十数年前に何で迷宮に入られてるんですかね? 」

「実力はあった。装備をみれば分かるが金遣いが荒くそのうえ欲望が強かった。大方一攫千金を目指して迷宮に入ったのじゃろう。まぁ小金の回収が目的だったかも知れなんがな。」

「なるほど。」

「ふむ。妾が知っている迷宮についてはそんなところじゃ。そういえば先程苦戦と言って居ったが、人数が増えれば今後も迷宮の攻略は可能か? 」

「そうですね。但し…私のように臭いに耐えられて、精神耐性の魅了、幻覚などがある人ならですが 」

「……無理はしないでよい。このまま一人で徐々に攻略してもらうことは可能か? 」

「はい。少しずつであれば、ですけど 」

「ふむ。何か欲しいものはあるか? 」

「恐れながら、対アンデッド仕様の武器と防具、何か生き残れるようなアイテムが必要になるかも知れません 」

「分かった。見繕って用意させよう 」おお、やったぜ。

「すみません。あと以前にはアンデッド以外の魔物が出たという報告はありましたか? 」

これだけが問題だった。もし浄化魔法が効かなければ下の階層でゲームオーバーになってしまうからな。

「いや、なかったぞ。何か気になることが? 」

不安そうですね教皇様。一応確認してみただけですよ。

「いえ、今回の死霊騎士やワイトは浄化魔法では消滅しなかったので、この先アンデッド以外が出たら、根本的に攻略を続けることは出来なくなってしまいますから… 」

「ふむ。昔は司祭達もレベルが高かったから、倒せていたのだな 」

そうでしょうね。俺はレベル1ですから。

「そうかも知れませんね。攻略はあまり期待しないで頂ければ嬉しいです 」

「分かった。それではすまぬが攻略を続けてくれ。そうそう。治癒士のランクがⅥ以上になったら、昇格させることが出来るから声を掛けてくれ。ルシエルなら時間を作ろう 」

「昇格ですか? 」

「うむ。職業レベルとは本来、長い年月を掛け昇華させていくものだ。そして職業レベルがⅥ以上になったら昇格させることが出来る。最高のⅩになれば選択出来る職業も変わってくるが、そこまで高めてから昇格したものを妾は知らん 」

「何度も職業レベルが上げれば昇格出来るのでしょうか? 」

「それは不可能じゃ。古代の文献ではそれに似たようなことが書かれていたがな。それに職業の昇格は王、皇、巫女がついた職業のものしか昇格をさせられないからな 」

「ありがとう御座います。それに関連してマルチジョブというものがあると聞いたんですが? それとは別ですか? 」

「マルチジョブは不運にも職業を二つ持ってしまったもののことだな。職業レベルが上がり難く成長が遅いと言われている 」

「そういう研究は進んでいないのですか? 」

「うむ。なんせ稀だからな。マルチジョブを持っていたものは神に試練を与えられたものであると考えられているのだ 」

「なるほど 」

「まぁそんなところだな。今日はご苦労だった。そのうち攻略に役立ちそうなものをカトレアに預けよう。カトレアは残れ。おい、ルシエルを送ってやってくれ 」

「はい。それでは私が 」

「本日もお忙しい中、貴重な時間をいただきありがとう御座いました 」

「うむ。今後もルシエルの活躍を期待している 」

「御意 」


こうして俺の教皇様との二度目の謁見(商談)終了した。


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