24 二十階層のボス戦、その先は・・・。
目が覚めていつものようにストレッチを始め「痛みはないな 」と安堵しながら朝の準備を始めた。
昨日、戦乙女聖騎士隊と訓練を順調に消化して、演習に向かうために馬に乗ることになった。
しかし、「申し訳ありません。フォレノワールは少し体調を崩していまして、他の馬をご用意させていただきます 」
ヤンバスさんは一頭の栗毛でフォレノワールよりも大きな馬を連れて来た。
「大きいですね 」
「ええ。こいつはフォレノワールよりも少し気性が荒いですが、演習でも魔物には屈することはないでしょう 」
「強そうですもんね 」
俺は前に教わった通りに正面に立ってから馬体の横にゆっくりと移動して馬体に触り、乗る合図をして鞍に跨った。
次の瞬間、後ろの二本足で急に立ち上がった馬に反応出来ないまま俺は背中を強打した。
その後に数度試してみたが結局同じことの繰り返しで、更には他の馬二頭からも、背中に乗った瞬間に落とされるか、ぐいぐい振り回され何度も挑戦したけど乗りこなすことは出来なかった。
勿論、演習にも行けずに戦乙女聖騎士隊が帰ってくるまで、何十回と落とされて身体中が痛かったが、馬に舐められると思って回復魔法は使わなかった。
全身傷だらけになった俺を見て、「当面は乗馬訓練だな 」とルミナさんは肩に手を置き呟いた。
こうして二回目の戦乙女聖騎士隊での訓練が終了したのだった。
俺は朝食を済ませて、お弁当をもらうと迷宮に入った。
「昨日の鬱憤を晴らさせてもらうぞ 」
十階層のボス部屋で浄化魔法を使っては、剣と盾のスタイル、剣と短槍のスタイルで何度も訓練していった。
現在魔法袋には、三本の聖銀の短剣が入っている。
これは一つ75,000Pと高く、Pを全て使い果たしてしまったが、魔法袋に(聖銀の短剣を左手に)と念じただけで本当に左手に現れる。
そのタイムラグは殆んどなく、追い込まれた時、相手が油断した時に絶大な効果を発揮すると考えている。
ただ、それを今の俺は使いこなすことが出来ないので、ここで訓練しているのだ。
俺はお弁当を食べながら、疑問に思っていたことが口から零れ落ちた。
「ここって出ないとどうなるんだ?」
その疑問を調べるべく、魔法の訓練、剣や槍を振り続けた。
しかしいつになっても魔物は現れなかった。
「そういう仕組み?オーラコートしてれば、潜り続けても大丈夫ってことか?」
俺はこうして四日間を自分の戦い方を研究していった。
そして訓練を明日に控え、二十層のボス部屋の前で、最終準備をしていた。
「武器良し、防具良し、回復アイテム良し、付与魔法良し、景気づけの物体X良し。」
俺は今日、二十階層をクリアすることにした。
十階層のボス部屋で魔法を使わないでも、ノーダメージで勝てるようになったからだ。
「さて、神様仏様ご先祖様、力をお貸しください。そして魔法が使えますように何卒お願いします 」
最後の祈りを捧げて二十階層のボス部屋を開けた。
十階層と同じく錆びたような音がなると薄暗い雰囲気だった。
「これって完全にボス居ますよって感じだな。最近のボス部屋は明るかったから忘れてたぞ 」
扉が閉められて、部屋が明るくなるとそこにいたのは、禍々しい装備を身に付けたスケルトン騎士が二体とワイトが一体いた。今までのスケルトンなら、こいつ等は死霊騎士って感じだな。嫌な予感しかしない。
俺は直ぐに「聖なる治癒の御手よ、母なる大地の息吹よ、願わくば我が身と我が障害とならんとす、不浄なる存在を本来の歩む道へと戻し給え。ピュリフィケイション」
と浄化魔法を発動した。
浄化魔法は三体を飲み込み消える、そんなことはなかった。
「ですよね~。」
「「「グギョギョグッゴ」」」
声をあげ、苦しんでいるのは分かった。
しかし倒すには至らなかったのだ。
俺は再度、浄化魔法を発動した。
しかし、死霊騎士達はそんなものは関係ないと言わんばかりに、盾を前に出して突撃してきた。
魔法が当たり突進するスピードは遅くなったが止まることはなかった。
俺は剣と盾を構えながら、突進してきた二体を避けた。
するとそこに黒い火の槍が三つも同時に飛んできたのだった。
「南無三 」俺は一つを盾で受けるルートを選択して盾で受けると盾が一気に溶けていくそんなイメージが頭を駆け巡り、盾を離して魔法の袋から新しい盾を出して装備しながら、浄化魔法を詠唱して後ろに発動した。
距離にして三メートルまで近づいて来ていた二体の死霊騎士に三度目の浄化魔法が当たる。
すると距離が近かったからか、三発目だったからか、死霊騎士達は動きを止めた。
俺は此処しかない。そう思い盾も上げずに立ち尽くした死霊騎士に近寄って、一体を剣で斬り捨てて、剣を手放して短剣を取り出し、魔力を込めてもう一体の死霊騎士に短剣を投擲したのだった。
しかし、魔物はそこまで甘くなかった。
ガァンと盾で短剣は弾かれてしまったのだった。
俺は一度距離を取りながら二体の魔物をどう倒すかを考えながら浄化魔法を発動しては距離をとる。
一体は倒したけど、そのせいでワイトを守るように構える死霊騎士と黒い炎の矢を放ってくるワイトは予想以上に強い。
問題は盾があの黒い魔法を盾で受け切れないことだ。
先程、魔法攻撃を受けて直ぐに捨てた盾は、現在も中央に穴を開け、そこを中心に燃えているのだ。
あれをもらったら一撃でゲームオーバーになりかねない。
もう一人の死霊騎士が斬り掛かってくるが、何とか剣で防いだものの少し斬られた。
「だったら、行くしかないよな。」
ワイトが火の魔法を放ったと同時に、先程と同じく盾で受け、捨てて何とか死霊騎士の前まで来ると近距離で浄化魔法を発動した。
しかし、止まることなく剣を振り下ろしてきたところを何とか横っ飛びで避けて、苦し紛れに短剣を取り出し、魔力を込めて死霊騎士に投擲すると見事に眉間に突き刺さった。
「よしっ!!」会心の投擲に自画自賛したくなったが、残りのワイトを倒してからだ。と目を切ろうとした瞬間、死霊騎士に赤い灯り、その目がギョロッとこちらを向いた。、
「ぬりゃあああああ」とあまりの怖さに気合を入れながら、右手の出した剣で首を撥ねた。が、いらない置き土産をもらってしまった。
「グゥウウウ」その焼けるような痛みをヒールを使うがとれず、もしかしてと浄化魔法を掛けると痛みが引いていった。
玉のような汗が額から落ちる。
「ハァハァ、あれが呪い?幻覚なのにやばすぎる。ただあとはお前だけだ。覚悟しろ 」
俺はマジックバリアとオーラコートを使って最大限に警戒レベルを上げてワイトを倒すことに決めた。
ワイトから一度に複数の魔法が放たれる。
盾の三つ目が駄目になるが、一対一での為に、ワイトにも隙が出来て俺は浄化魔法で対抗しながら弓を出して発動の邪魔をしては浄化魔法を放つ。
「マジかよ。」するとワイト自分に黒い魔法を唱えて、黒い光に覆われた。
「明らかにマジックバリアの黒い版じゃないか。・・・物理で倒せないなら魔法で倒せ、魔法で倒せないなら物理で倒せ 」
矢を放ち、ワイトの魔法を一度止めた瞬間に近寄って、浄化魔法とエリアヒールを発動した。
一部分だけじゃなく全体を包むエリアヒールが予想外だったのか、ワイトはうめきながら止まり、そこへ三本目の短剣を頭に投擲、さらに槍を追加で胴に投げその身体を突き抜けるとワイトは後方に倒れ消滅した。
「はぁ~。終わった。ていうか、前のワイトと攻撃方法も違うし、強かった気がする。なにより初見じゃなくて良かった。死霊騎士も強かったしな 」
俺はワイトの大きな魔石と、それよりは小さいものの、今までのアンデッドよりも大きくて、色の濃い死霊騎士の魔石を二つ、残された武器や防具、アクセサリを浄化してから魔法の袋に収納した。
その瞬間「ゴゴゴゴォォ」と地鳴りする音が響いて、扉が現れてそこが開くと下へと向かう階段が現れたのだった。
「だろうね。でも何処まであるんだろうな? これ以上進んだら正直きついよな。とりあえずお弁当タイムだな 」
疲弊した俺は弁当を食べてから、瞑想を行なって体力、魔力の回復に努めた。
「下に行って覗いてから、死霊騎士と戦って帰る。よし。これでいこう 」
そして二十一階層に下りてみた瞬間に悟った。レベルが違いすぎると。
まずゾンビが普通に歩くグールへと変わり、俺を見つけると近寄ってきた。
浄化魔法を掛けて溶ける様に消えていったが、あれは少し怖すぎる。俺は橙色の壁を見ながら階段を上ってボス部屋に戻ると一体の死霊騎士がいたので戦い倒した。
「アイテムは落とさないんだな。それに浄化魔法一発で死んだし。どういうことなんだろうな? 」
俺は数回の戦闘をこなして、斬られたらやっぱり痛いと実感しながら、いつか魔法に頼らないで勝ってやると魔石になった死霊騎士に宣言して階層を上り、二十層のボスを倒したことを実感したころ迷宮を脱出した。
治癒士ギルド本部に来てから、一月が経つ少し前日のことだった。