23 ルシエル戦乙女聖騎士隊に仮入隊?対双剣実地訓練
いつもより早く起きて、いつでも出られる準備を整えてから、魔法の鍛錬を行いながら双剣術に対してのイメージを膨らましていた。
双剣は手数を多くして相手を翻弄し倒すものだと思う。解釈は色々あるんだろうけど俺のイメージではそういうものだと思っている。
昔一度だけ大剣と呼ばれるグレートソードを片手で持とうとして持てずにグルガーさんに見られ、「まぁ飲めよ 」とエールではなく物体Xを飲まされたことがある。
そう言えば、あれから物体Xが希釈されないで原液で出てくるようになったんだったなぁ。
(※注グルガーは優しさから、物体Xを原液で飲ませれば、いくらルシエルでも気絶して、前後の記憶が飛ぶと踏んでいた。しかし予想外に全部飲み干してしまい成長計画が変更された。)
そんなこと思い出していたら、コンコンコンとノック音が聞こえた。
「はい。どちら様ですか? 」
「私は戦乙女聖騎士隊所属のエリザベスですわ。ルシエルさんをお迎えに参りましたわ 」と声が聞こえた。
「すぐに行きます 」エリザベスさんって貴族なのか?そんなことを考えて用意してあったあれを飲み干して浄化魔法を掛けてからドアノブを回した。
「おはよう御座います。エリザベスさん。ご足労いただきましてありがとう御座います 」
「構いませんわ。今日は徹底的に、双剣の使い方をその身体に刻みますから、覚悟してくださいね 」
「……何か凄く怒ってませんか?」
「気のせいですわ。行きますわよ 」
「了解です 」
それ以上は詮索するなオーラが出ていたので、戦乙女聖騎士の訓練場に向かって歩き出した。
先週と同じようにきちんと隊列を組んで、戦乙女聖騎士隊面々は俺が来るのを待っていた。
「おはようルシエル君、エリザベスもご苦労だった 」
先に会釈をしてエリザベスさんが列に戻った。
「おはよう御座います。本日も宜しくお願いします 」
俺は挨拶をして後ろに向かおうとして呼び止められた。
「ああ、ルシエル君、これを持っていたまえ 」
見るとルミナさんが手を伸ばし、その先にある一枚のカードをこちらに向けていた。俺は直ぐにカードを受け取る。
「あのこれは? 」
「それは、戦乙女聖騎士隊の関係者を表しているものだ。安心して持っていてくれ。それを持っていれば聖騎士以外立ち入り禁止のエリアにいても罰則はない 」
「いえ、そうではなく。何故、男の私が仮とはいえ、戦乙女聖騎士隊の隊員証が発行されているのかということです 」
「ある人に相談したら、それは面白いという話になって、上から許可が下りた。ただそれだけだ 」
「ただそれだけって…… 」
「男が細かいことを言うな。将来禿げるぞ。よし、では準備運動だ 」
クスクスクスと上品な笑い声がやけに耳に残り、振り返ると『はい 』と走り出したルミナさんを追いかけて皆が後に続いた。
「釈然としな過ぎる~ 」
俺は全力で後を追った。
「はぁはぁはぁ 」大きく息吐き出して大きく吸って呼吸を整える。
「先週よりは早くなったな 」
「それでも七周の周回遅れでしたけどね 」
「治癒士なら結構早いんじゃないか? 」
「何故疑問系なんですか? 」
「さてな。諸君本日はエリザベス、リプネアを除いたものでペアを組み、一対一、その後に対戦相手とペアを組んで総当りをしてくれ 」
『はい 』
「エリザベスとリプネアはまず双剣同士での模擬戦をしたあとに、ルシエル君と模擬戦をしてもらう。但し切断、急所攻撃は禁止とする。」
「「はい 」」
「それでは分かれて訓練を始めろ 」
こうして俺は初めて戦乙女聖騎士隊の模擬戦を見ることになった。
体勢を低くし滑るように、リプネアさんがエリザベスさんに接近して、左手側から通り過ぎるように右手の剣で足に斬りかかる。
それを慌てずに同じく右の剣で受けながら、右足を軸に回転して左に持った剣で背中を斬りに行く。
またもやそれを読んでいたかのように身体を浮かせて反転し剣を受けてその勢いを利用してエリザベスさんからリプネアさんが遠ざかった。
瞬き禁止の速さで連撃を繰り出すが、連撃で対応して圧倒的な速さで迫るが、片方も同じことが出来るので中々決着しない。
演舞のような攻防が続く中、双剣の攻撃を両方受け止めたエリザベスさんが左手に持った剣を首横で止めて決着になった。
リプネアさんの攻撃が両方揃ってしまったことが今回の敗因であることは間違いない。
「見ていてどうだった? 」
「お二人とも早く、そして的確に相手の嫌がるところへ攻撃をしていく、そして何手も先まで何パターンも考えて動いているようでした 」
「双剣については?」
「そうですね。思ったよりも隙が多いです。連撃するためには、行動を制限されたり、攻撃を止めていけないですし、同時に攻撃を止められてもいけないとセオリーが多数存在してました。」
「うむ。ちゃんと見えているな。その他にもフェイントは便利だが、双剣を扱う場合は軸がブレるから攻撃に最後の押しが足りなくなる。さあ欠点を認識したところで、次はルシエル君の番だ 」
「はい。やってみます 」
こうしてまずリプネアさんとの戦いになった。
俺は開始の合図と共に魔法を発動して物理防御力を上げると盾を前に出して攻撃を待つ。
上中下段に左右からの連撃を浴びて、亀の様になってしまっているが、攻撃には何とか耐えられる。
あまりのスピードの速さにブロドさんを思い出すが、あそこまでの圧迫感はなく我慢が出来る。
何度も機会を探り隙が多くなる攻撃に合わせて盾を突き出してスピードを殺して剣を振り下ろす。
次の瞬間、空が見えて顎に衝撃が走り足に力が入らなくなった。
「大丈夫か?」
「ええ。意識ははっきりとしています。それより最後はどうなったのですか?勝ったと思った瞬間この有様なので説明が欲しいです。」
「見事に防御された後に剣を振り下ろした瞬間、リプアネが後方宙返りの流れで蹴りを出しそれが顎を捉えたのだ。その後に蹴り上げられた君は頭が揺れて立てなくなったのだ 」
「なるほど 」俺は頭にヒールを掛けると足に力が戻ったので「もう一本お願いします 」と声を掛けた。
リプネアさんが連撃なら、エリザベスさんはカウンターが武器となっていた。俺の攻撃を片手で流したり、両手で受け止めたりして、隙があれば蹴ったりとバリエーションが豊富でこちらも不用意には攻撃出来ない。
俺は剣で攻撃するフリをして盾ごと突っ込むと「それは悪手ですわ。」とエリザベスさんが呟いた声が聞こえた瞬間、目の前に居たエリザベスさんが消えて足を掛けられて転んだ。
そしてゆっくりと剣を背中に突きつけられた。こうして二本目の戦闘が終了した。
「あの今のはなんですか? なんでエリザベスさんが消えたんですか? 」
「エリザベスの魔法だ。エリザベス自分で説明しろ」
「はい。私、実は光属性と水属性を持ったダブルなんですの。そのおかげで幻覚を作ったのですわ。ですから、間合いの少し前に私の幻をおいて、隙が出来た瞬間を狙っておりましたの 」
「勉強になりました 」俺は素直に頭を下げた。
こうして三人で総当りしながらルミナさんにアドバイスをもらって早朝訓練が終了した。