21 ルシエル、認めたくない通り名が戦乙女聖騎士隊にばれる。
食堂に着き順番に食事を受け取っていく。そこで俺は少し違和感を覚えながらも「おはよう御座います。今日は少しハードに動いたんでいつもよりも少し多めでお願いします。それと今日はお弁当は無しで大丈夫です 」
「あら、おはようルシエル君。あれより食べて平気なの? 」
「ええ。食べないとお昼まで持たない気がします 」そんな運動部の様なやり取りをして、大盛りの食事を受け取り二人が居る席に向かった。
「お待たせしました 」と腰を下ろす。
「ルシエルっていつも思うけど、そんなに食べて大丈夫なの?」とルーシィが聞いてきた。
「ええ。二年前までガリガリでひょろっとしていたんですけど、冒険者ギルドのマスターが食べるって事が強くなる為の第一歩だ。って言われて、今もそうですけど死にたくなかったんで食べ続けていたら、いつの間にかこうなりました 」
「私も疑問がある。なんで給仕とあんなに親しげに話を? 偉くもなんともない人でしょ? 」
「えっ?だって偉い人に対しては礼儀を弁える必要はあるけど、そうじゃない人だからって別に見下してみないでしょ? それに私は様付けで呼ばれるほど偉くもありませんし 」
「「これがルミナ様が言っていた、無知 」」二人は口を揃えて同じ言葉を発した。
リアルに被るって凄いな。
「貴方は助祭で祓魔師なのよ? 」
「そうですね 」
「助祭でも祓魔師は司祭以下、但し各騎士隊の隊長並の権限と給金が与えられる 」
「へぇ~。だから給金があんなに高かったのか 」
「何を暢気に言っているのよ。そのうちあなたの態度を面白く思わない人が出てくるわよ 」
「ん~。そのときは迷宮で頑張って教皇様に泣きつきます 」
「「はぁ~ 」」二人は盛大に溜息をついた。
まぁ本当に厄介ごとになりそうなときは迷宮(仮)で製作者(教皇様)を喜ばせれば何とかなるだろう。
こうして一度部屋に戻り物体Xを飲んでから、関係者以外立ち入り禁止と書かれたエリアの前で待っていてもらった二人に頭を下げて訓練場に向かった。
「それでは、早朝訓練の続きを行なう。今回はルシエル君もいるから要人警護の任務だ。時間を決めて時間内に襲撃側が攻撃を要人に当てれば襲撃者の勝ち、時間切れなら防衛側の勝ちにしよう。何か質問はあるか?」
「はい 」俺は手を上げる。
「聞こう 」
「私は当たるとも思わないので、攻撃はしませんが、魔法を使ってもいいのでしょうか?」
「そうだな。私達が警護するなら想定される現場だ。許可する。それではまず、防衛側と襲撃側の数を5対5とする。私が審判をするから止めるまで続けろ。あとルシエル君を要人だと思って警護せよ。」
『はい 』
こうして訓練場の端から、中央を歩くといったシンプルな現場で移動することになった。
この世界の要人警護も要人から話しかけられない限り警護しているものは要人に声を掛けない。
勿論緊急事態を除いてであるが。
今回防衛にはルーシィーさん、クイーナさん、朝に迎えに来てくれたリプネアさん、そしてポニーテールが凛とした雰囲気を醸しだしているマイラさんと露出の高い鎧を着て腹筋がボコボコ割れているサランさんが担当する。
少し挨拶をしたのだが、マイラさんはあまり多くを語らない武士の女版で、まだ良くはわからないが、サランさんはおっさん発言をするが心は乙女タイプだと思う。
こうして五人に警護されながら歩いていると襲撃が始まった。正確には襲撃されていた。いつの間にか矢を射られていたのだ。
俺は身を屈ませられた。何が何だか分からなかったが、【聖なる治癒の御手よ、母なる大地の息吹よ、我願うは我が魔力を糧として、我を中心に全てを守護する盾となれエリアバリア。】
俺がしゃがみ込んでいることで襲撃側が近づいてくる。
「あちらに移動します 」と声が掛けられて三人で防衛をしながら二人に守られて壁際に向かうことに成功した。
そして一人を残して防衛を続けていると「そこまで 」と声が掛かった。
ルミナさんに一旦集められて反省会が行なわれた。
「まず防衛側の諸君おめでとう。襲撃側の諸君残念だったな。さて今回の反省点だが・・・・」
ルミナさんの言った反省点、要点をまとめるとこうなる。
襲撃側の反省点
・襲撃側の五人が、人数が下回る防衛側三人を倒す事が出来ずに熱くなったこと。
・全員が近距離で仕掛けたこと。
・最初しか俺に攻撃を仕掛ける、仕掛けようとすることをしかなったこと。
防衛側の反省点
・襲撃が開始され認識できたのが、矢を放たれて到達してからだったこと。
・安全ルートを事前に話しあっていくつもの経路を考えておくこと。
「ルシエル君からの感想はあるか? 」
「気がついたら風きり音もなく矢が通り過ぎていて吃驚しました。後は襲撃者が何人いるのかや何で攻撃してくるのかがしゃがんでいるので分からなかったことですかね?」
「なるほどな。今後の参考にしよう。では誰か意見があるものは挙手を、エリザベスなんだ? 」
「今回の襲撃側が負けたのは、確かに先程ルミナ様が仰られた通りですわ。ただ最大の敗因はそちらの方がいたからですわ 」と俺に指を差された。
同様に襲撃側の他の四人も頷く。
「そうだろうな。この隊に配属されて三年未満に普通はそれ以上のお前達が負けることはない。言っておくがルシエル君は十七歳にして既に治癒士のレベルがⅤの変人だ。」
「そんな、いくら才能のある治癒士でも普通そんなことは不可能ですわ 」とエリザベスさん?が言うと防衛側も含めて頷く。
「言っただろう。変人なのだ 」とルミナさんは言い切った。
「変人って、さっきからルミナさまでも失礼ですよ 」と俺は一言物申した。
「ほう。治癒士ギルドに登録して十日後に治癒院ではなく冒険者ギルドで三度の食事と寝床、戦闘訓練を対価に治癒を無償で行ない続けたと報告を聞いたが虚偽だったか? 」
「……いえ、本当のことですけど、死にたくなかっただけなんです。それでですよ?」
「朝から晩まで殴られては向かっていき、通り名がつけられてドM治癒士、ゾンビ治癒士、治癒士のドMゾンビの異名を持つのに変人ではないと? 」
「すみませんでした。必死に生きてたらそう呼ばれるようになっただけなんでご容赦いただけないでしょうか? 」俺は土下座を敢行した。
「まぁ、ドMはともかくゾンビのように一心不乱に戦闘訓練を行ないながら、毎日冒険者だけでなく、住民も無償、正確には一律銀貨一枚で治癒し続けたらしい 」
「そんなまさか 」とあちらこちらから困惑した声が聞こえた。
「まぁそんな訳で、ルシエル君の治癒士としての腕前は既にベテランの域だと考えてから行動するように 」
こうして貶されているのか、持ち上げられているのかよく分からない状態から、要人警護の訓練は攻守を入れ替え、人数を変え昼間で続けられた。
「よし。そこまで。昼食を摂ったあとは森に演習に向かうので、あとでもう一度ここに集まってくれ 」
『はい 』
こうして聖騎士の皆さんと食事を摂りながら、メラトニでの話を根掘り葉掘り聞かれることとなる。
それが騒がしかったのか、何となく周りの方々から視線(嫉妬や妬み蔑みじゃないと願いたい)を受けながら昼食を済ませた。
「さあ諸君、これから近郊の森、荒野までと回り魔物退治に向かう。各自の馬を用意して集合してくれ 」
『はい (?…はい?)』一人だけ疑問系で答えてしまった俺に視線が集中した。
「何か分からないことがあったか? 」
「ええ。というか今まで馬に乗った経験がありません 」
「・・・さすがにそれは想定外だった 」その目は無知だったなぁと言葉に出す時の顔ですよね?他の皆さんも同じような顔をしている。
「仕方がない。ルシエル君は厩舎を管理している者達に馬の乗り方を聞いて練習していくれ。さすがに演習へ行くから外の目があるしな 」
「なんかすみません 」
「いや。こちらも考えていなかったわけだからな。それでは此処を馬術訓練で使うといい。私達も演習が終われば、ここに戻ってくるからな 」
「わかりました。気をつけて行って来てください 」
「そうだな。厩舎に案内しよう。では、各自移動 」
厩舎に着くと厩舎の責任者に紹介された。
「ルシエル君、彼がここの責任者のヤンバスだ。ヤンバス、彼が先日から新しく祓魔師の任に就いたルシエル君だ 」
「初めましてルシエルです。馬には乗ったことも触ったこともない(道中の馬の管理はバザンさん達がやってくれていたので機会がなかった。)のでご指導ください。宜しくお願いします 」
「ルシエル様そんな畏れ多いですから頭を御上げください。ヤンバスと申しまして一応ここの管理をさせていただいております 」
「ではヤンバス、ルシエル君を頼んだぞ? 」
「畏まりました 」
「ルシエル君、頑張りたまえ 」
それだけ言うと表に並んでいた馬に跨り颯爽と駆けて行った。
「凄い格好良いなぁ。それではヤンバスさんお願いします 」
「はい 」
こうして俺は生まれて初めて馬に乗ることになった。