18 ボス戦決着と教皇様への交渉
俺は肩掛け鞄の状態になっている、教会ローブの下にある魔法の鞄に手を突っ込み、聖銀の弓と矢筒を取り出した。
「覚悟しろ」俺は弓を構えた。
「ブォオオオ」と鳴くように声を出し、威嚇をしてくるワイトに弓を構えたまま俺は停止していた。
痺れを切らしたのか魔法を唱えようとしたワイトに向かい、俺は矢を放った。
直ぐ様次の矢を構えて、止まる。
「ギョゴオゴオォオ」とワイトは怒りの声を上げた。
魔法の邪魔をされたことに怒ったのか、それとも法衣に放った矢が当たったことが気に障ったのか、はたまた両方か殺気が膨らんだ気がした。
「さっさと次の魔法を唱えろよ」
俺は挑発しながら、魔力の回復と体力の回復を図る。
やってて良かったブロド式。本当に感謝してますから給料入ったら何か贈らせて頂きます。
俺はそんなことを考えながら二射目を放った。
緊張状態が続く中、十三本目の矢を放った俺は少しの間なら全力で動けそうだと感覚的に判断し始めていた。
カトレアさんが言っていた武器を使いながら魔法が使えないっていうのは、魔法にはイメージと集中が必要だったからだ。
アンデッドにも同じ現象が起こるかは不鮮明だったけど、本当にヒントくれてて良かった。
そんなワイトは現在、俺への敵対心が限界突破したと思われる程、凄まじい殺気を醸し出している。
あれが普通の高齢の老人だったら、プッツリと血管が切れていてもおかしくない。それぐらいの形相だ。
「額に血管を浮かべて、そんなに怒って大変ですね。人は十五分以上怒る場合は、他の怒る材料がないと疲れて怒れないものなんですけどね。あ~あ。あなたって魔物でしたよね」
こうして挑発を繰り返し、深呼吸をして間合いを計る。
脳内シミュレーションを何度も重ね、十七射目を放ったあとに俺は全力でワイトに向かって駆け出した。
ワイトはローブが汚れるの嫌なのか矢を避けようとするが、俺が近寄ってきたことで魔法を発動しようと杖に魔力を集め始めた。そこを見逃さず俺は残り三本の矢をワイトに向け放ち射抜くと魔法は発動されず杖に集まっていた魔力は弾けた。
俺は魔法の鞄からブロド教官にもらった剣を取り出して、ありったけの魔力を注ぐとワイトへ最後の一歩を踏み切り、斬った。
俺はワイトを斬ったのだ。袈裟切りのように肩から右脇腹まで綺麗にだ。
しかし、ワイトは高位のアンデッドなのだ。後ろを向いている生者の命を奪おうと魔法を放つ・・・ことはなかった。
「手応えはあったよ。ただ、ここを作ったやつは鬼畜だ。なら当然死んでないってことくらい分かってるんだよ」
俺は反転し、拾った短槍に魔力を込めて全力で投擲すると、ワイトに駆け出す。
短槍が胴体を貫くと同時に押し込みながら、そのまま回転して左手に持った剣を両手で持って首を斬り飛ばした。
「ぐぎゃぎゃぎゃアアァアァァ」と飛んだ頭部が叫びながら、煙のように消えていった。
法衣と杖と首飾りはそのまま残り、消滅したワイトの身体があった場所には今までのアンデッドよりも数倍大きく濃い魔石を残した。
「よっしゃ~。痛ッつつ。【聖なる治癒の御手よ我が魔力を糧に彼のものを癒した給う ヒール】」
俺はボスが居ないのだからとヒールを詠唱するといつもの青白い光が俺を包んだ。
「こういう作り方はゲームも異世界の幻覚迷宮も一緒だな」
俺は浄化魔法で身体を綺麗にして、念のためにリカバーを唱えた。
「これで呪いや状態異常も平気だな。さてと・・・」
俺は傷口のみミドルヒールで治して、筋肉の炎症やら疲労感は自然治癒に任せることにした。
「今度ブロド教官にあった時に弱くなってたら申し訳なさ過ぎる」
重たい身体に鞭を打ち、部屋の全体に散らばった魔石を回収して、残った法衣や首飾り、杖は念のため浄化魔法で浄化した。
全てのものを拾うと突然ゴゴゴゴォォという地響きがなり下層への降り口が出てきた。
「えっ?! 続きがあるの? もうお腹いっぱいなんですけど」俺は暫らくその場から新しく出来た下へと向かう階段を見ていた。
「待てよ」俺は走って入ってきた扉を開けと祈りながら引くとギィイイイと扉が開いた。
「流石に迷宮から帰れる道具とか魔法を覚えてないから焦ったぞ」
「さてと、どうしようかな。物体Xが四樽、ブロドさんからもらった剣、オバちゃんの弁当が入った弁当箱…これをここで捨てるなんてどんでもない。絶対的なものだからなぁ。まずクリア報酬の三つは持って行くことが決定だとすると……
」
聖銀の剣、槍、弓と矢筒のうちの一つしか魔法の鞄に入れられないぞ。
「って、別に帯刀しても問題ないじゃないか? 安心したらお腹が空いてきたしお弁当を食べよう」
いつものようにオーラコートとピュリフィケイションを使ってからオバちゃんの弁当に舌鼓を打って、物体Xを飲んで「あ、入る前も飲んだの忘れてた」
さすがに今日は疲れたので俺は階段を上がり、アンデッド迷宮(仮)から脱出した。
迷宮から出るとカウンターにカトレアさんがいた。
「あ、カトレアさんこんにちは」
「あら、この時間に帰ってくるなんて珍しいわね」
「ええ。今日は流石にダメージを受けましたからね」
「慣れないとそういう時ありますよね」
「いや~慢心していた自分に一渇入れたい気分ですよ」
「だったら今日は少ないかしら?」
「いつもより多いかもしれません。それとポイント化が終わったら見ていただきたいものだあるんですけど?」
「気になるわね。じゃあ背嚢を置いて」
ドォンと置いた背嚢の一番上にはワイトの魔石が置いてあった。
「こ、これはどうしたの?」
「ああ。十階層のボス部屋があるじゃないですか? そこにアンデッドの大群がいて、更に魔法も使えなくて物凄く焦りましたよ。何とか倒したら空中に浮かんで魔法を放ってくる王冠をつけたワイトが登場して死ぬ(ゲームオーバー)かと思いましたよ」
ちなみに鑑定したときの杖や首飾りは冒険者ギルドで鑑定してもらおうかとも思ったがそもそもこれが誰のものかも分からない為、カトレアさんに聞くことにした。
「・・・なんでそんな無茶をしたの?」あれいつものほんわかオーラが消えた?
「無茶するつもりはなかったんですよ。あんなのが居るなんて思いませんでしたし、ましてや魔法が使えないことになるなんて誰も教えてくれませんでしたし」
「・・・事前説明は受けてないの?」
「ええ。まだ配属されて十一日目ですし、迷宮に潜るのが祓魔師の仕事ですよね?」
「そう・・ね。えっとこのあと時間はある?」
「ええ。今日は疲れたので帰るだけですし」
「じゃあちょっと一緒に行きたいところがあるの。付き合ってくれないかしら?」
「ええ。いいですよ」
「じゃあ今日のポイントだけど、108,914Pね」へっ?
「あの、桁がおかしい気がしますけど?」
「いえ、合っているわ」
「そうですか」あれってやっぱりボーナスキャラだったんだな。
「そういえば見せたいものって?」
「ああ。私は鑑定出来ないので、倒したワイト?が消えた時にそのまま残ったワイトの装備を浄化したものなんですけど」
俺はカードを回収して話すと次の瞬間カトレアさんの顔が正面にあった。
「見せて!!」美人に真顔に迫られると凄い怖い事が判明しました。
「じゃ、じゃあ、まずこの法衣ですね。続いて首飾り、最後に杖です」
一つずつじっくりと手にとってカウンターに戻した。
「・・・それを鞄にしまって直ぐに付いて来て」
次の瞬間、無動作でカウンターを飛び越えエレベータに向かうカトレアさんがいた。
「早く!!」
「はい」
俺は状況が飲み込めずただカトレアさんの後を追った。
「あれ、カトレアさんとルシエル君じゃないか。そんなに急いで何処へ行くんだい?」とジョルドさんが声を掛けてくれたが、「ジョルドさん今は急いで居ます」
「失礼しました」と少し青い顔したジョルドさんが道を譲ってくれた。
「すみません。私もイマイチ状況を理解していませんので」それだけ告げてカトレアさんを追う。
歩きながら俺は不安に駆られている。さっきから俺とは一生無縁だと思われていた関係者以外立ち入り禁止エリアに入っているからだ。
神官騎士、聖騎士エリアを抜けて、司祭の上の司教の上の大司祭のエリアを越えてまたエレベータに乗った。絶対これって普通には乗れない、乗っちゃいけないやつだ。
この間カトレアさんは一言も発することはなかった。ただ目的地に向かって歩き続けて、またエレベーターに乗って下りた場所には大司教の上の上の教皇室と書かれた部屋の前だった。
カトレアさんがノックし「教皇様、カトレアです。火急の件でお目通りを願いたく」
「許す。入れ」と声が聞こえた。
中には侍女たちが何人もいたが、カトレアさんには目を向けず、俺に戸惑いや不振の視線を向けてきた。
物語によく出てくる謁見の間の様な作りになっていて、こちらからは顔が見えないようになっていた。
「カトレアよく来たな。もう一人は知らんが、何の用じゃ?」その声の主は若く、しかも女性で何処か神秘性を感じさせる声だった。
「はっ。この者が先日祓魔師の任を受け継いだ新しい祓魔師で御座います。任に就いてから迷宮に赴き、驚異的な数のアンデッドを倒して来ています」
「ほう。しかしそれだけではないのじゃな?」
「はっ。本日十階層の主部屋でワイトと戦闘。気付かぬうちに魔封じされていたとの事です。そしてそのワイトが持っていた装備を見事持ち帰って来ました。鑑定し、虚偽の報告でなかった為にこちらへ参りました」いつものカトレアさんじゃないな。
「ふむ。直答を許す。御主名は何という?」
「ルシエルと申します」
「ではルシエルよ。持ち帰った道具を出してくれ」
「はい。ですが、呪いが掛かっている可能性がありましたので、浄化魔法を発動しています。その点はご了承くださいませ」
「うむ」
側に来た侍女に三つのアイテムを渡した。
「……まさかとは思っていたが、やはりか。まさしくこの法衣は12年前に行方知れずになったオザナリオの法衣ではないか。そして精霊の首飾りと魔乱の杖じゃな。よく持ち帰ったぞ」
なんか偉いレアアイテムなんじゃないでしょうかそれ?
「精霊の首飾りは魔法を使う際に消費される魔力を半分にする効果を持ち、魔乱の杖は自分の魔力を拡散し、狭い場所であれば他者の魔力を乱して使用出来なくした上に、拡散した魔力を集めて強力な魔法を発動する強力な杖じゃ」
何そのチート武器。
「これを買い取らせてもらいたい」
これって絶対に断ったら駄目でしょ。だって隣から断るなよ。ってオーラがビンビンに出てますもん。いいですよ。此処からは営業で培った演技を発動しますから。
「思い入れがあるんでしょうね。それだけ凄い性能ですし。いくらとかではないんでしょうね。分かりました。お譲り致します」
「うむ。大儀じゃ」
「教皇様の為ですから。ですが、不躾なお願い事が御座います。実は探索において私が持つ魔法鞄では容量が少なくて困っております。ですので、物が多く入るものをいただけないでしょうか?」
「おお、それなら案ずるな。魔法の鞄では無く、魔法袋をやろう。魔法袋の中は異空間になっていて時も止まっておる。それに何が入っているかも分かるし、容量はこの部屋ほどのものが入るであろう」
「そんな物を頂いて良いんですか?」だってこの部屋三十畳はありますよ。……分かった。あれを作ったのはこの教皇様だったんだな。じゃないとそんな物普通はくれないだろう。
「よいよい。妾にはこちらの方が助かる。それにまた迷宮に潜って何かあればカトレアと共に来い。褒美を取らせよう。魔法袋はカトレアに明日にでも渡しておく。それを受け取ってくれ。大儀であった。もう良いぞ」
俺とカトレアさんは頭を下げて退出するのだった。
「ルシエル君って肝が据わっているのね」
「えっ? そうですか?かなり緊張してましたけど?」
「そう?教皇様に謙譲するものに対して対価を要求するなんてこと普通は出来ないわよ」
「……厚かましかったでしょうか?」
「ふふふ。あれでいいと思うわ。適度に弁えていたから、魔法袋を頂けるぐらい気に入られたのよ。安心しなさい」そう言ってくれたが安心出来ません。
俺が分かるところまで一緒に戻るとそこで別れた。
こうして初めてのボス戦で俺はチートアイテムを手に入れた。