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閑話3 白狼の血脈と治癒士の異端児

ここはメラトニの冒険者ギルドの休憩所だ。

俺の名前はバザン。白狼の血脈というパーティを組んでいる。


セキロスとバスラという二人の幼馴染と一緒にパーティーを組んでいる。

俺が聖獣と崇められていた白狼の末裔で獣人であり、三人の中で一番強いことからそういうパーティー名になった。


この世界で獣人が住みやすい土地はそこまで多くない。

遺伝によって体毛が長く直ぐに生え変わったり尻尾があったりで、普通の獣人は大半の人族から敬遠される。

そんな中で愛玩系の獣人は人族たちからは、まるでペットのような扱いを受けている。


その日は、たまたまBランクの報告をしに、メラトニの冒険者ギルドに来たときだった。

ヒョロッとした男が、受付のナナエラちゃんになにやら頼み込んでいた。

「あいつが、何かしたら直ぐに行くぞ 」

「あんまりやりすぎるなよ。ヒョロ過ぎて死んじまう 」

「それだけは勘弁だよ 」

「分かってるよ 」

俺は、嫌、俺と同じ思いの奴が何人もいるようだった。


このメラトニの冒険者ギルドは、他では珍しく色んな種族が働いている。

まぁ俺達の中では旋風と言ったら雲の上の存在だし、獣人族の伝説となっている料理熊さんや隠遁さんがこのギルドにいるから、いけ好かない治癒士ギルドや魔法士ギルドも手を出せない。

そんなことを考えていると、ナナエラちゃんが席を外してヒョロ長が一人になった。

普通ナナエラちゃんが逃げたのなら男は追うはずだ。それにナナエラちゃんが困ったように笑ったことから、人族なのに獣人を忌避していない珍しいタイプかもしれないと思った。


数分後、ナナエラちゃんはブロドさんを連れて来た。

・・・あいつ大丈夫か?ブロドさんの凄い威圧を受けながらも何かを説明していた。

「あのヒョロッとしたの結構強いのか?」

「ああ。あれだけの威圧に耐えられるんだ。もしかすると何処かの魔法士かもな 」

このときの予想はまるっきり外れていた。いや、胆力だけは一流の冒険者だったのだから、あながち間違ってはいなかったのかもしれない。



冒険者ギルドで珍しく告知が出た。

メラトニの冒険者ギルドからの告知は三日後から治癒士をメラトニ冒険者ギルドに滞在させるといった内容のものだった。

新米の治癒士でヒールしか掛けることが出来ないが、種族、性別に関わらず一律銀貨一枚で治療をする。

なお、男はひょろとした体型でみれば直ぐに分かる。

絡んだら、罰則により冒険者ランクを落とす。

そんなぶっ飛んだものだった。


まず驚いたのがランク落としだ。これは異例のVIP待遇なのだ。それを旋風がやるってことが驚きだった。

次に種族に関わらずって項目だ。最初に話した通り獣人は忌避されたりもする為に、治療拒否や法外の値段を吹っかけられることもある。

それが無いってことは、俺達には有りがたいことだった。


「もしかしてさっきのやつか? 」

「ああ。そうだろうな 」

「あんだけ胆力がある奴が、治癒士とはな。まぁ話半分で行こうぜ 」

「ナナエラちゃんも絡まれているわけじゃなかったしな 」

「ああ 」


こうして俺達はひょろ長い治癒士、ルシエルをただの治癒士としてみていた。

それが治癒士らしくない治癒士、ルシエルとの最初の出会いだった。

俺達は、その二日後にメラトニからイリマシア帝国までの護衛依頼を受けて旅立った。



遠征が終わりメラトニのギルドに来た時にはあれから三ヶ月の月日が経っていた。

「今回の遠征は長かったな 」

「あの商人ががめつくて参ったぞ 」

「まぁ魔物を倒したら、大人しくなったじゃないか 」

「まぁそうだな 」

「そういえば冒険者ギルドにあの治癒士がまだいるか賭けをしないか? 」

「いいね。俺はいないと思う 」セキロスが真っ先に答えた。

「・・・俺はいると思う 」バスラがその選択をするのは珍しいな。

「俺もいないと思うがバスラなんでいると思う? 」

「あの治癒士より、旋風があれを逃すとは思えない 」

「なるほどな。じゃあ報告が終わったら飲み代をかけるぞ 」

「おお(ああ) 」


こうして俺達は冒険者ギルドに向かった。

「どこにもいないな。くっくっく。酒代が浮いたぜ 」

「チッ 」バスラが舌打ちをした。


「あ、いらっしゃいませ。白狼の血脈様、今回は報告ですか? 」

「ああ。ナナエラちゃん。それにしてもあの三ヶ月前に来た治癒士ってどれくらいの間来たんだい? 」

「えっ?もしかしてルシエル君のことですか? 」

「君付けって珍しいね。その感じだと一月はもったのかな? 」セキロスが聞く。

「ふふふ。いいえ 」明るく笑うナナエラちゃんに嫌な予感がした。

「くっくっく。もしかしてまだ来ているのか? 」バスラが妙に元気になって聞きやがった。

「ぷぷふっふふう。あ、ごめんなさい。ルシエル君なら冒険者ギルドの地下にある仮眠室に住んでますよ 」

「「「はぁ〜?」」」俺達は珍しく声を揃え叫んでいた。


その後、聞いた話ではその治癒士ルシエルは、冒険者ギルドに本気で住んでいてグルガーさんが新人冒険者に飲ませるあれを毎食後にきちんと飲み干すらしい。

それどころか一日中旋風に立ち向かっているらしく、冒険者ギルドに住み始めて一度しか外に出て居らず、鍛錬中毒と言われていた。

「それどころか味覚障害、ドM、ゾンビなどが通り名って凄くないか? 」

「今日はやけに饒舌だな 」

「ああ。お前達の金だからな 」

「チッ。まぁ良い奴らしいから、怪我でもしたら診てもらうか 」


このときの俺は、いやセキロスもバスラもルシエルを変わった治癒士程度にしか思っていなかった。

三ヵ月後によもやの事態をこのときの俺達は知る好もなかった。



ある鉱山で俺達は魔物を倒した。それが依頼だったからそれは問題が無かった。

ゴホッゴホッと俺とセキロスは咳き込んだ。

鉱山で、煙というか着けたら引火しそうな霧を吐く魔物と戦った。

「二人とももう直ぐつくから我慢だぞ 」

「・・・そんな顔すんなよ。大丈夫だ 」

「そうそう。俺達がそんな簡単に死ぬ玉かよ。寝てれば治る 」

「いや、このまま治癒院だ 」

バスラは魔法士の癖にこのときは異様に力があり、俺達は大人しく治癒院へと向かった。

しかし、待っていたのは想像に容易い未来だった。


「そっちの犬は知らん。こっちの男は金貨15枚だな 」

「なぁ?! そんな払えるわけないだろ 」

「知らんな。こっちだって忙しいんだ。嫌なら帰れ 」

「そこを何とか頼む 」

「仕方ない。その犬を奴隷商に売れば金は出来るだろ 」

「ふざけんな 」

「ならば出て行け 」

こうして俺達は治癒院を追い出された。


宿に戻った俺とセキロスはベッドで休み、バスラはギルドに報告に行った。

バスラが出て行って直ぐに俺は意識を失った。



なんだか暖かい感じがする。身体のもやもやが取れていく。そんな不思議な感覚だった。

「これで大丈夫だと思います。駄目だったら明日またギルドまで来てく・だ・さい・・・ 」

「おっと…お疲れだ小僧。おう。銀貨二枚だ 」

「本当にそれだけで? 」

「ああ。本人の希望だ 」

「この治癒士って一体なんなんですか? 」

「変わり者の治癒士だ。今までどういう生活をしてきたかは分からないが、死にたくないから鍛えているんだぞ 」

「銀貨二枚って採算取れているんですか? 」

「本人が言うには「私はまだまだ半人前ですから 」だ、そうだ。まぁこいつに恩を感じるならこいつが困った時に手助けしてやってくれ 」

そういうと旋風と旋風におぶられた治癒士は部屋から出て行った。



「バスラ? 今のって旋風じゃなかったか? 」

「ああ。ギルドの治癒士に来てもらった 」

「そうか。半人前なんだって? 俺の毒とか平気だろうな? 」

「・・・バザン、先に言っておくがあいつが、いやあの治癒士様がいなかったらお前達は死んでいたぞ 」

「あ、ああ。は? そうなのか? 」

「あれから旋風と治癒士様に来てもらったが、旋風の診たてでは今回倒した魔物がガスバスルって魔物の変異種だったらしい。その毒を吸い込んだら、適切な魔法か解毒薬を飲まないと治らないんだそうだ 」

「ほう。魔法っていうのはスゲエんだな 」

「俺も魔法を使うが魔法が凄いんじゃない。 それを正しく使えるかどうかが凄いんだ 」

「あん? 何が言いたいんだよ 」

「・・・あの治癒士様以外ならお前達は死んでいたって言っただろ。 お前とセキロスに何回魔法を使ったと思う? 何度も何度も解毒の回復魔法を試して、魔力が枯渇してもそれを続けてくれたんだぞ 」

「それって・・・凄いのか? 」

「普通は気絶していてもおかしくない。それを歯を食いしばって血を垂らしながら治療を仕切ったんだ。それも銀貨二枚だぞ? 考えられるか? 」

「・・・もしかして命の恩人か? 」

「だからそう言っている。あの治癒士様を馬鹿にするなら俺はお前の神経を疑う。それだけだ 」

「・・・あの子ってなんて言ったけ?ルシエル君だったか。まさか治癒士にあんなのがいるとはね 」

「ん? 気がついたかセキロス 」

「ああ。彼が治療している時に頑張れって頑張れって声が聞こえてきて、暖かい光が闇を払っていく感じがしたよ 」

「俺もそんな光を感じたぞ 」

「治癒士様に今度あったらちゃんとお礼を言えよ 」

「わかったよ 」

「了解 」


翌日、治癒士の異端児ルシエルにお礼を言いに行くと「生きるのを諦めなかったからですよ。死んだらそこで試合終了ですから 」それだけ言って旋風との戦闘に戻っていった。

「あれは聖人君子か? 」

「苦行をしているところをみると、いずれ治癒士ギルドの創設者みたいになっていくかもな 」

「ルシエル君に何かあったら恩を少しでも返してあげよう。それだけでいいと旋風も言っていたしね 」

「ああ。白狼の血脈は恩を忘れない 」


こうして俺ハザンと白狼の血脈は、ルシエルに出会えたことを感謝しながら彼が少しずつ成長していくのを応援て、三ヵ月後にAランクのパーティーとなった。


お人好しのルシエルがボタクーリと揉めた時も、教会の本部に異動するって言った時も、俺達は何にもしてやれなかったが、ギルドから出された指名依頼を俺達は銀貨二枚で引き受けた。

そんな指名依頼を出してくれた旋風に感謝しながらルシエルと旅をして聖シュルールまで送った。


これで少しだけ恩を返せたか? そんなことを考えているとバスラが口を開いた。

「ルシエルと旅したら、凄いことになりそうだな 」

それに続いてセキロスも口を開く。

「ルシエル君って本当に金に執着しないよね 」

「俺達が遠回りしてても別に気にしていなかったからな 」


俺達は最短二日で終えることが出来る旅をゆっくりと五日に延ばした。

道中で立ち寄る各村に金を持っているところは少ないし、治癒士が来ることも早々無い。

女をあてがおうとしたりする村もあったが、真顔で断ったり宿と夕食と弁当だけで逆にお礼を言っていくんだから、村人達はポカーンとしてやがった。

こっちは笑いを堪えるのに必死だったぜ。やっぱりルシエルは本物の異端児だ。


俺はルシエルがいつかとんでもない大物になることを期待しながら、メラトニの街に向けて馬車を走らせるのであった。


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