<< 前へ次へ >>  更新
13/416

閑話2 メラトニ冒険者ギルドの重鎮三人衆 ルシエルの未来を憂う。

ギルドの種類に関わらず、二十四時間三百六十日年中無休というのがギルドだ。

メラトニの冒険者ギルドも例外ではない。

早番と遅番と宿直のシフトが存在する。だが、それが存在しないもの達がいる。


「おう。明日も朝から走っておけよ」

「はい。ブロド教官」

ルシエルは地下の仮眠室へと帰っていった。


「よし、じゃあ飲むか」

ブロドがカウンターにいるグルガーに話しかける。ギルドの中にある食堂では、普段酒は置いていないが、これもギルドマスター特権だろう。


「そうだな。ところでブロド、あんた最近若返ってきてないか?」

「自分でも驚いている。あいつに教えていたら、俺の体術レベルがⅧになったんだぜ。」

「へぇ~そいつは凄い。剣術と瞬動術でSランクにまで上った旋風様が、まさか体術のスキルレベルが上がるとはね」

「違いない」

くっくっく。声を殺して笑う。


「それで? ルシエルは、今の環境をどう思っているんだ?」

「死なないように、それだけだな。まぁ訓練には必死に喰らいついているだけで、他が何も考えられないのが本当のところだろうな」

「はぁ~。あいつ、もうずっと、あれの原液を飲み続けているんだが、あの効果って知っているか?」

「知らない。昔の文献には賢者が作ったあれは、身体が丈夫になったり、ステータスが上がり易くなったってのは書いてあったはずだぜ」

「それで実際の効果は出ているのか?」

「う~ん。此処に来た時よりは格段に強くなっているのは間違いないが、それでもF級の戦士とどっこいだな」

「それでもあれを飲み続けるって凄いな。あれ飲んだあとの口臭はきついだろ?」

「ああ。あいつの周りには俺しかしないし、俺以外が近寄る時は鼻栓をさせている。まぁ食後に近寄らなければ問題は無い」

「あのガルバ兄さんでさえ、酷い臭いって言ってたからな」

「まぁ飲んでから、三十分もすれば臭いが消えるから、何とか他には気がつかれなかったり、嫌われずに済んでいるがな」

「なるほどな」

二人は思春期のルシエルに、同情しながらも、少しでも強くなりたいと願うルシエルに、心を鬼にしてあれを飲ませていたのだった。



「あ、ブロド、グルガーお疲れ様」

そこへ、グルガーの兄であるガルバがやってきた。

「ガルバご苦労だったな」

「いえいえ。ギルドマスターの仕事よりは楽だからね」

「おう兄貴、エールでいいか?」

「うん」

「それで?」

「ああ。うまいこと交渉が済んだから、これで彼が向こうに行っても、狙われることは無くなったよ」

「黒幕は?」

「珍しくボタクーリだったね。でも、あそこの奴隷長がクーデターを起こそうとしていたのには吃驚したよ」

「ほう。それは大変だな」

「それで? 兄貴はこれから如何するんだ?」

「治癒士ギルドの長へ随分な金が流れているらしいから、そろそろ潰れてもらうことにするよ」

「くっくっく。隠遁のガルバが本気を出すときが来るとな」

この会話から分かるように、実はガルバの仕事は解体だけではない。影での情報収集と証拠集めといった探偵みたいなことと、昔はそれに暗殺などもしていた。


「ルシエル君は何か隠し事をしているけど、いつも一生懸命に生きているし、死にたくないって、冒険者ギルドの門を叩く変り種だよ? そんな子を放ってはおけないよ」

「確かにな」

「それで? あと五ヶ月で、何処まで鍛えられそうだ?」

「そうだな。あいつはレベル1だし、E級の戦士を倒せるぐらいが、せいぜいだな。裏技でC級くらいは倒せそうだがな。まぁ、将来的にはだが、まだまだ伸び代はあるぜ」

「・・・もし彼が数年後変わっていなければ、私も鍛えてあげましょうかね」

「・・・お前が教えたらあいつは死ぬぞ」

「大丈夫ですよ。あなたのように本当にバッサリ斬るのとは違いますから。それに彼は何だか混沌に巻き込まれる体質な気がしますし」

「ガルバの読みは不吉なのが多いが、よく当たるからな」

「あいつが恋愛をするようになるのはいつだろうな?」

「あれ? でも受付の子達はみんなルシエル君を好きみたいだよ?」

「あれは弟としてらしいぞ。背もあって顔も悪くないけど、通り名がゾンビとドMだからな」

「・・・それって鬼畜教官と料理熊のせいなんじゃない?」

「俺は飯とあれを厚意でやっているだけだ。何処かの戦闘狂と一緒にするな」

「誰が戦闘狂だ。しかしなぁ…あいつの好みはわからんが、あいつを男として好きになってくれる奴がいればいいが」

「大丈夫だよ。あと彼は笑顔が素敵で、しぐさが可愛い子が好みらしいよ」

「それはまた・・・」

「・・・ああ」

「騙されたら騙されたで慰めてあげよう」

「「はぁ~」」


翌日からブロドとグルガーは少しだけルシエルに対して優しくなったとさ。

<< 前へ次へ >>目次  更新