閑話2 メラトニ冒険者ギルドの重鎮三人衆 ルシエルの未来を憂う。
ギルドの種類に関わらず、二十四時間三百六十日年中無休というのがギルドだ。
メラトニの冒険者ギルドも例外ではない。
早番と遅番と宿直のシフトが存在する。だが、それが存在しないもの達がいる。
「おう。明日も朝から走っておけよ」
「はい。ブロド教官」
ルシエルは地下の仮眠室へと帰っていった。
「よし、じゃあ飲むか」
ブロドがカウンターにいるグルガーに話しかける。ギルドの中にある食堂では、普段酒は置いていないが、これもギルドマスター特権だろう。
「そうだな。ところでブロド、あんた最近若返ってきてないか?」
「自分でも驚いている。あいつに教えていたら、俺の体術レベルがⅧになったんだぜ。」
「へぇ~そいつは凄い。剣術と瞬動術でSランクにまで上った旋風様が、まさか体術のスキルレベルが上がるとはね」
「違いない」
くっくっく。声を殺して笑う。
「それで? ルシエルは、今の環境をどう思っているんだ?」
「死なないように、それだけだな。まぁ訓練には必死に喰らいついているだけで、他が何も考えられないのが本当のところだろうな」
「はぁ~。あいつ、もうずっと、あれの原液を飲み続けているんだが、あの効果って知っているか?」
「知らない。昔の文献には賢者が作ったあれは、身体が丈夫になったり、ステータスが上がり易くなったってのは書いてあったはずだぜ」
「それで実際の効果は出ているのか?」
「う~ん。此処に来た時よりは格段に強くなっているのは間違いないが、それでもF級の戦士とどっこいだな」
「それでもあれを飲み続けるって凄いな。あれ飲んだあとの口臭はきついだろ?」
「ああ。あいつの周りには俺しかしないし、俺以外が近寄る時は鼻栓をさせている。まぁ食後に近寄らなければ問題は無い」
「あのガルバ兄さんでさえ、酷い臭いって言ってたからな」
「まぁ飲んでから、三十分もすれば臭いが消えるから、何とか他には気がつかれなかったり、嫌われずに済んでいるがな」
「なるほどな」
二人は思春期のルシエルに、同情しながらも、少しでも強くなりたいと願うルシエルに、心を鬼にしてあれを飲ませていたのだった。
「あ、ブロド、グルガーお疲れ様」
そこへ、グルガーの兄であるガルバがやってきた。
「ガルバご苦労だったな」
「いえいえ。ギルドマスターの仕事よりは楽だからね」
「おう兄貴、エールでいいか?」
「うん」
「それで?」
「ああ。うまいこと交渉が済んだから、これで彼が向こうに行っても、狙われることは無くなったよ」
「黒幕は?」
「珍しくボタクーリだったね。でも、あそこの奴隷長がクーデターを起こそうとしていたのには吃驚したよ」
「ほう。それは大変だな」
「それで? 兄貴はこれから如何するんだ?」
「治癒士ギルドの長へ随分な金が流れているらしいから、そろそろ潰れてもらうことにするよ」
「くっくっく。隠遁のガルバが本気を出すときが来るとな」
この会話から分かるように、実はガルバの仕事は解体だけではない。影での情報収集と証拠集めといった探偵みたいなことと、昔はそれに暗殺などもしていた。
「ルシエル君は何か隠し事をしているけど、いつも一生懸命に生きているし、死にたくないって、冒険者ギルドの門を叩く変り種だよ? そんな子を放ってはおけないよ」
「確かにな」
「それで? あと五ヶ月で、何処まで鍛えられそうだ?」
「そうだな。あいつはレベル1だし、E級の戦士を倒せるぐらいが、せいぜいだな。裏技でC級くらいは倒せそうだがな。まぁ、将来的にはだが、まだまだ伸び代はあるぜ」
「・・・もし彼が数年後変わっていなければ、私も鍛えてあげましょうかね」
「・・・お前が教えたらあいつは死ぬぞ」
「大丈夫ですよ。あなたのように本当にバッサリ斬るのとは違いますから。それに彼は何だか混沌に巻き込まれる体質な気がしますし」
「ガルバの読みは不吉なのが多いが、よく当たるからな」
「あいつが恋愛をするようになるのはいつだろうな?」
「あれ? でも受付の子達はみんなルシエル君を好きみたいだよ?」
「あれは弟としてらしいぞ。背もあって顔も悪くないけど、通り名がゾンビとドMだからな」
「・・・それって鬼畜教官と料理熊のせいなんじゃない?」
「俺は飯とあれを厚意でやっているだけだ。何処かの戦闘狂と一緒にするな」
「誰が戦闘狂だ。しかしなぁ…あいつの好みはわからんが、あいつを男として好きになってくれる奴がいればいいが」
「大丈夫だよ。あと彼は笑顔が素敵で、しぐさが可愛い子が好みらしいよ」
「それはまた・・・」
「・・・ああ」
「騙されたら騙されたで慰めてあげよう」
「「はぁ~」」
翌日からブロドとグルガーは少しだけルシエルに対して優しくなったとさ。