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翌日はポーションのおかげもあって元気に起きる事が出来た。食後またホールでダンス練習を開始、終わりは勿論夕方。くったくたになるまで練習したわ。
ポーションを飲んで寝る日々が10日ほど続いた頃くらいかな。
体がダンスに慣れてきたと思う。筋肉痛も殆ど無くなったし、ダンスの方も順調に進んでいるわ。先生にも褒められる事が多くなってきたわ。
「ファルマ嬢、中々いいですね。これなら来週には再試験を受けても大丈夫でしょう」
「先生、本当?頑張った甲斐がありましたわ」
ようやく終わりが見えてきた。ホッと胸を撫でおろす。師匠にも来週にダンスの試験を受ける事を連絡しなくっちゃ。ウッキウキでこの日は自室で師匠にお手紙を書いて侍女にお願いした。
翌日の師匠からの返事は、そろそろかと思っていたので迎えに行くって書かれてあった。
そして、避けて通れぬ王族との食事。食堂にはタナトス様をはじめ、2人の王子が食卓に着き、後ろには執事と従者、毒味係、配膳係がいて一同の視線が集まっている気がする、私に。
「ファルマ、どうじゃダンスの方は」
「陛下、最初に比べれば少しはマシにはなった位ですわ」
「義父上だぞ、ファルマ」
「・・・タナトス様。師匠と結婚していないですよ?大体私みたいな小娘を相手にするはずはないですから」
「そうかのぉ?まぁよい。すぐ分かる」
前回の食事に比べて味がするようになってきた。
慣れって怖いね。
こんなに見目麗しい人達に囲まれて食べる食事。陛下だってまだまだモテるわ。王妃様も亡くなった事だし、新しい妃を迎えても可笑しくはないのよね。
「レンスの連絡ではあれから日を追うごとにあの森の魔物は格段に減っているらしいよ。やはりあの欠片のせいだったんだね。レンスからの報告は読んだ。ファルマ嬢はあの場にいたのだったよね?どうだったの?」
フィンセント殿下が興味深そうに聞いてきた。その横でヴィル殿下も目を丸くさせ聞いている。
「えっと、虫達の案内で沢山の魔物が居る所に向かったのですが、その様子は異様な有様でしたわ。魔物達は我を忘れて互いを攻撃しあっていたのです。
そのすぐ側に洞窟を見つけました。私達は魔物を避けて洞窟に入り、遺物を持ったままフェルナンド団長さんに抱えられて魔物から逃げるのは生きた心地は全くしませんでしたわ」
思い出しただけでもブルっとなるわ。
「ファルマ、魔物って怖い?僕だったらバリバリーって簡単に倒しちゃうよ」
「ヴィルはまだ魔物を見たことが無かったね。魔物は恐ろしいんだよ?もう少し鍛えたら父上と討伐に出てみるといい」
「兄上、父上となら討伐に行ってもいいの?父上、今度連れて行って下さいね」
「ヴィル、さっき言っただろう?もう少し鍛えて、そうだな魔法も使いこなせるようになったら連れてってやるぞ」
「じゃぁすぐに行けるように頑張る」
なんとか本日も無事食事を終えて自室に戻った。
そういえば食事の中でダンスの話があったので聞いたのだけれど、ダンスの試験って庶民も受けるらしく最低限決められたステップを踊れていればいいらしい。試験にも希望が持てたわ。先生が教えてくれたステップは上級者も含まれているらしい。
えー最低限でいいよって思ったのは言うまでもない。
そして師匠は王宮からの連絡もあって試験の前日に王宮へとやってきた。
「ファルマ、元気そうでなによりです。心配しましたよ」
「師匠、大変だったよ。フェルナンド団長さんって酷いんだよ!」
師匠に駆け寄って話をする。ふと師匠を見ると少し痩せたように見えた。
「師匠、少し痩せた?エトさんがご飯を作ってくれていたんじゃないの?」
「ええ。ご飯は食べていましたよ。けれど、ファルマの作る食事では無いので胃があまり受けつけなかったのです」
「そうなの?じゃぁ、急いで作らないとね。いっぱい食べてもらいたいもん。ちょうど明日試験だからってダンスも午前中で終わるし、夕食に師匠が食べれる物を作るね。ベンヤミンさんに厨房を借りるよ」
「それは嬉しいですね。是非お願いしたい」
「・・・さて、話は終わりましたかな?ファルマ嬢、ダンスの続きをはじめますよ。ちょうどいい、ホルムス様もファルマ嬢のダンスの相手をお願い致します。忘れたわけではありませんよね?」
そうだ、ダンスの授業の最中だった。
「もちろんですよ」
師匠は私の手を取り、準備に入る。従者は先生の合図でダンスが始まった。師匠と初めて踊るダンスは今までの疲れを吹き飛ばした。何年も踊っていなかったとは思えない程のリードの上手さ。
私はドキドキしてしまう。
「ファルマ、ダンスが上手になりましたね。これなら試験もばっちりでしょう」
「師匠と踊るのはとっても楽しい。もっと踊りたくなっちゃう」
「私もですよ。今までダンスなんて最低限でいいとさえ思っていましたが、ファルマと踊るならもっと練習をしてもいいですね」
そうして私は師匠と明日の試験のダンスの曲を踊り終えた。
「ファルマ嬢、これなら明日は合格でしょう。ホルムス様、久々とはいえ素敵でしたよ。またいつでも我が家へ練習にいらしてください」
ダンスの授業がようやく終わった。私はお礼を言うとサウラン先生はにこやかに帰っていった。
「さて、ファルマ。私は陛下に話があるので執務室へ行きますが、晩御飯期待していますよ」
「はぁい。師匠、任せて!」
私は部屋に戻って軍服に着替えた。
何でかって?だって軍服の方がズボンだし動きやすいんだもん。
ドレスでは調理場に入れないよね。ワンピースでもいいんだけど、ズボンが一番なの。
そして騎士団食堂へと向かった。ちょうどお昼も終わって厨房が使えそうだわ。
「ベンヤミンさんいますか?」
私は厨房を覗き声を掛ける。
「おう!誰だ俺を呼ぶのは。・・・ファルじゃないか。久しぶりだな!元気にしていたか?ってなんだその格好。騎士にでもなったのか?」
「ううん。ちょっとだけ巡回騎士団に付いて行ってたんだ。その時に支給された服なんだけど、動きやすいから着てきた。ちょっと厨房を借りてもいい?ホルムス様やタナトス様に料理を振舞うんだ」
きっと師匠の為に作ったら陛下も食べたいっていうよね。
「なに!?ホルムス様と国王陛下に振舞うのか!?ま、まぁいいぞ。使ってくれ。それで何を作るんだ?」
「コロッケとてりやきチキン、野菜スープを作ろうと思ってるんだ。コロッケと野菜スープなら騎士さん達の分も一緒に作れるよ?スープは大鍋で煮込むと味も落ち着くし美味しいよ」
「よし、採用!一緒に作るぞ」
私は持ってきた荷物をガサゴソ漁る。ピーラーを取り出して人参の皮をひたすらに剥いていく。ベンヤミンさんは上手にナイフで剥いているけどね。私も出来るのよ?でも数を作るならピーラーが楽なんだもん。
「ファルマ、その道具は?楽そうだな」
「これ?ピーラーって言ってね、村で作って貰った野菜の皮を剥くための道具なの。特注品なんだよ。いいでしょう?」
「いいな。俺も欲しい」
「じゃぁ今度村の人にお願いして作ってもらったらベンヤミンさんに送ってあげるよ」
「おう、頼んだ」
そうして人参やセロリ、ズッキーニ等の野菜を1cm角に切って水に漬けて置く。玉ねぎとホーン肉を炒めて冷ましている間にジャガイモは茹でて熱いうちに皮を剥き潰していく。水に漬けた野菜を大鍋に入れて弱火で炒め煮にする。
野菜から染みだした水分は旨味も出るので時間が掛かるけどこれが一番美味しい方法だと思ってる。少し焼いてカリカリにしたパンをチーズおろし器でおろしてパン粉を作る。じゃがいもに肉と玉ねぎ塩を入れて混ぜ込む。
少しだけ別にとって何個分かはコショウを入れた。コショウは高いからね。手のひらサイズに形を整えて小麦粉と卵を付けてパン粉をまぶして揚げていく。
試食をしたベンヤミンさんはとっても美味しいと喜んでくれたわ。野菜スープも水分が出てきたわ。
本当ならこの野菜から出る水分だけでスープを作りたいんだけど、流石に人数もいるので師匠達の分だけ取り分けて後は水魔法で水を加えて野菜だしと塩を加えて味を整える。師匠の分はもちろん野菜だしを少しだけ加えて塩、コショウを入れる。
野菜を取り出して完成!
取り出した野菜は勿論騎士達が食べる鍋にいれたわ。ベンヤミンさんは至極のスープだって言っていたわ。
後はコロッケ用のソースを作る。中濃ソースが欲しい。切実に。ケチャップぽい物を作って醤油とはちみつ、ビネガーを加えてソースっぽい物を作る。まぁ、コロッケ自体にも味はあるからソースが無くても大丈夫なはず。
ベンヤミンさんはしっかりメモをしたみたい。私は小さな銅鍋に油を入れて、揚げてないコロッケと小さな鍋に入ったスープを持って王族専用の食堂へ向かう。