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「ファルマ、今日はここら辺で野宿をしましょう」
「了解です」
昨日と同じ手順で木の葉を散らし、枝を集めて火を起こす。私は採取した食べられる野草をスープにすべく、片手鍋に野草とベーコンを切り入れる。もっとバリエーションが欲しいわ。
今日はパンもベーコンも少し火に炙ってから野菜スープと一緒に食べる事にした。
「体が温まりますね。今日は食べられる野草スープなので後味が少し苦いですね師匠」
「体に良さそうだけれど、私は苦手かもしれません」
「好き嫌いはいけませんからね?」
「はいはい。ファルマには敵わないですね」
そう言いながら二人で残さず食事をする。もちろん今回のデザートはアケビ。種を出すのが面倒だけれど、甘さが疲れを癒してくれる。
「そうだ、師匠。疲れたでしょう?微々たる物ですがヒール要りますか?」
「おや、ヒールまで使えるのですか。掛けてくれますか」
私は自分に掛けたあと、師匠にもヒールを掛ける。やはり1度では効かないので2度3度と掛けて回復させる。そして師匠はお風呂にも入っていなかったのだろう。汗臭いのでさっさと清浄魔法を師匠に向けて掛けた。
「臭い男は嫌われますからね」
「・・・」
そうして火を囲んでウトウトと瞼が重くなってきた。人が居るだけでこんなにも怖くないんだ。昨日のような恐怖や不安を感じる事無く、いつの間にか眠ってしまったみたい。
「ファルマ、朝ですよ」
「おはようございます。師匠」
私は安心しきってぐっすりと寝てしまっていたみたい。寝ぼけ眼で清浄魔法を唱える。師匠にも忘れずに。そして朝のパンとベーコンと薬草茶を用意して食べる。
山のすがすがしい朝をほんのり苦い薬草茶で心を引き締める。食事も終えて出発準備をした所で歩き出そうとしていると、師匠が話しかけてきた。
「ファルマ、昨日は私も体力が尽きかけて魔力も少ししか残っていなかったんですが、ファルマの魔法と睡眠でかなり回復しました。一気に山越えをするんで掴まって下さい」
「?掴まればいいんですね?」
一気に山越え?何の事かよくわからずに師匠に掴まる。すると、師匠が風魔法を唱えたと思うと体が浮くと同時に風に吹き飛ばされる感覚になる。
いや、実際吹き飛ばされている。その勢いは凄まじく一瞬でも師匠から離れるとどこかの木に激突してあえなくこの世とおさらばすることは間違いない。
山道を超特急で進む様は前世の息子たちに連れて行ってもらったアトラクションを思い出したわ。映像で『ギャー』なんて声を上げながら楽しめたけれど、実際に体験してみると恐怖で声すら出ないのね。
道に沿って進んではいるが、そこは山道。アップダウンがあるわけで。体感して思い出した。立ったままのジェットコースターのような感覚だったわ。そして体感時間にして1時間位過ぎただろうか、実際は20分位だと思うけど。もうすでに山を降りて街に繋がる街道へと出てきていた。
「着きましたよ。後は街まで歩きますよ」
師匠は気にする様子もなく歩き始める。
「師匠、凄いですね!びっくりしちゃった」
私は興奮していたせいか自然と早足になった。街へと繋がる道は広く整備されていて馬車も数多く行き来している。
王都に比べると規模は小さいけれど、この街もかなり大きい方だと思う。もちろんここの街の入口にも門番が立っていて街に入る人たちをチェックしている。そうだ、私には身分を証明する物がない。どうしよう。
「どうしたのです?」
私は挙動不審になっていたのかしら、師匠が声を掛けてきた。
「師匠、私、身分を証明する物がない。街に入れなかったらどうしよう」
急に不安になる。
「大丈夫ですよ。入口で話せばいい。街の中にギルドがあるから先に登録しましょう」
街の入口に入るため、人々の列に私たちは並んだ。列自体は長いのだけれど、みんな身分証明を持っているらしく、門番に身分証明を提示してすんなりと入っているので時間は掛からずに街へ入る事が出来そう。
私は順番を待っている間、キョロキョロと辺りを見回してみる。列に並ぶ人々は様々で商人だったり冒険者のような人達だったり、村から出稼ぎに来ているのか大きな荷物を持った人が並んでいた。またその人達目当てに売り子が声を上げて物を売っていた。
「師匠、いろんな人がいるね」
「そうですね」
師匠的には早く街に入ってゆっくりしたいのだと思う。確かに疲れたよね。朝から魔法でぶっ飛んできたんだもん。野宿もしたし、死にかけてたしね。私は反対にワクワクドキドキだよ。
だって初めて王都から出て初めての街。
初めて体験が多すぎてびっくり。
「次の方~」
「呼ばれたよ!師匠」
「ファルマ、落ち着いて。子犬みたいですよ」
私はそう言われてピタっと動きを止める。
「身分証明書を出して下さい」
師匠はさっと身分証明を提示する。
「ホルムス様、お帰りなさい。お連れの方は?」
「山で拾ってきました。どうやら捨て子らしい。このまま弟子にする予定です」
ちょっ!?むしろ拾ったのは私じゃ?
目をクワッと見開き師匠に視線を向ける。師匠はその視線を全く気にする様子はないようだ。
「捨て子ですか。ではそこの女の子、こっちにきてこの水晶に手を翳して」
門番さんが後ろの台に置いていた水晶を手前に持ってくる。用意しているってことはたまに身分証明が出来ない人がいるのね。ここは素直に従って私は水晶に手を翳す。すると淡く白い光が映ったかと思うとすぐに消えた。
「はい。問題なし。通っていいよ。あとはギルドで登録をしてくださいね。モズリークへようこそ」
門番はそう言って街へと誘導してくれた。
私たちはようやく街に入る事が出来た!