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「はぁ。助かりました!!君が通ってくれなければ本当に行倒れになるところだった」
「・・・はぁ。それは、良かったですね・・・」
何?この小説のような展開。
私が石をぶつけた時に気が付いたけれど、動く事もままならず、近づいてきた私の足を離すものかと掴んだのだとか。怖かった。マジでホラーだったわ。王都に住むか弱い貴族令嬢なら絶対心臓を持って逝ってたね。
私が攻撃魔法が得意だったら即座に燃やしてたね絶対に。
なんとか落ち着いてから男を座らせて、腰に着けてあるドクダミを魔法で炒って煎じてお茶にして男に飲ませた。
「ふぅ、喉が潤いました。そしてお腹が減ったのですが、食べるものありますか?」
そう男は聞いてきた。仕方がないなぁ。
私は眉間に皺を寄せながら先ほど虫たちに採ってきてもらった木の実を渡す。私が食後のデザートにと思って採っておいた木の実。
「これはクワの実です。美味しいですよ。それとこっちはヤマモモの実です。爽やかな味で美味しいです」
男は驚いたように木の実を口にする。
「君、よく見つけられましたね。植物をよく知っていないと出来ない事ですよ。それにこの実、とっても美味い。もっと食べたいですね」
男はがばっと口を開けて一気に木の実を口の中に放り込んだ。
「えぇ、スキルもあって私は見つけるのが得意かもしれないですね。では、私は街に向かっているのでこれで」
そう言って立ち上がろうとした時に手を掴まれる。
「君、まだ子供でしょう?何故1人で山を越えようとしているんです?危険ですよ?何か訳ありですか?」
矢継ぎ早に質問をされる。特に隠す必要もないけれど、親しい人でもないので適当に答えてみる。
「・・・私は親に捨てられたのでどこか自分を受け入れてくれる安住の地に向かって歩いているだけです。気にせずに」
「捨てられたのですね。では私が拾っても問題はなさそうですね。私はこの先の街のもう一つ先の村に住んでるのです。君、しっかりしてそうだし、私の弟子になりませんか?」
「弟子?そもそも貴方の名前すら知らないのにですか?」
男はニコニコと上機嫌で手を離す気は無いらしい。
「私の名前はホルムス。21歳。スキルは薬師。魔法は火と風魔法が得意です。珍しいでしょう?自慢じゃないですが薬師としては超一流。家事類は一切出来ません」
・・・何か良からぬ者と縁づいてしまったようだ。
まぁ、人が良さそうな感じではあるし、行く当ても無いし、住む場所が確保出来るなら弟子になってもいいかもしれない。
「ホルムスさんはスキル名を明かしてもいいんですか?」
「ええ、構いませんよ。薬師として生活していますからね。君の名前は?弟子よ」
ホルムスさんの中で私はもう既に弟子となっているようだ。
「私の名前はファルマ。12歳です。この実を採ったのもスキルを使ったからだけど、私のスキルは蟲使いです。魔法は生活魔法が使えます。趣味は野菜を育てること。多分家事一般は出来ると思います」
「おぉぉ。それは素晴らしい。是非、僕の弟子になるべきですね。よろしく!ファルマ」
良い拾い物をしたとでもいうようにホルムスの後ろにパァァッと花が咲いたような背景が見えたのは気のせいか。
「ホルムス師匠。よろしくお願いしますね。で、師匠はここで何で行倒れていたんですか?」
「何をしていたかって?この山に自生している薬草を探して歩いていたのですよ。見つけて採取したはいいけれど、そこで食糧が尽きてあそこで少し休憩を取っていました」
いや、絶対休んでたんじゃないよね!?
私はあっけらかんと説明している師匠に驚きを隠せないでいた。
「あぁ、偶にあるんですよね。行倒れって。私は幸運の持ち主なのかよく生きてこれたなーって自分でも思いますね」
あぁ、ダメンズに引っかかった気が激しくするんだけど!
「よく、生きてこれましたね」
「もう大丈夫です。ファルマがいますから」
「ははっ。なんとかなるといいですね。師匠、これからどうするんですか?」
「薬草も採取出来たので村へ帰ります」
「わかりました」
私はホルムス師匠と一緒にまた山道を歩き始めた。先ほど師匠の為にドクダミを使ってしまったのでまた道すがら植物を探しつつ歩いている。
「おや、ファルマ?さっきから何をキョロキョロとしながら歩いているんですか?」
「えっと、街へ出るまでにまた何かあるといけないですからね。食糧を探しながら歩いているんですよ師匠」
「そうなのですか?私より植物に詳しそうですね」
「いえ、薬草の知識としては本を読んだ程度しかありませんよ。ただ野菜の知識が多いだけです」
「野菜の知識・・・。そこいらに生えてる草は野菜ではありませんが」
ぶつぶつと師匠は言いながらでも歩いている。
そしてお昼と思われる頃、お昼ご飯にする事にした。もちろん師匠は食糧なんて1つも持ってはいない。ただ私と違ってリュックには一応調理器具は持ち合わせているみたい。仕方がないので師匠の調理器具を使って手早く調理する事にした。もちろん火起こしは師匠がしてくれた。
私はギシギシ等の植物を片手鍋に入れてベーコンを切り、水を入れて煮る。簡単だけれど野菜スープの出来上がり。コンソメとか欲しい所だけど、今はベーコンの塩味で食べるしかない。
「師匠、今はこれだけしか物が無いので作れなかったけど、野菜スープとパンをどうぞ。今、蜂さん達がデザートを持って来てくれますから食べながら待っていましょう」
私は師匠にパンとスープ、お水を渡す。
「おぉ。有難うファルマ君。やはり木の実だけではお腹が鳴りっぱなしでした。これはとても美味しい」
師匠はペロリと平らげてしまった。私もパクパクと食事をしていると、スキルでお願いしていた蜂さん達が帰ってきた。ハチの巣を一部と木の実を持って。
「師匠、蜂さん達が戻って来ましたよ」
私は蜂さんにお礼を言って巣に戻らせてからスキルを解除する。本当は怒るんだろうけどね。蜂の子やイナゴも昔は食べたけど、今は他に食糧もあるので昆虫食はなるべく避けたいと思ってるわ。
そして師匠は虫たちが蜂の巣と木の実を皿に載せて巣に帰って行くのを興味深そうに見ていた。
「これは・・・もしや高級はちみつかな?ファルマ君」
「えぇ。よく知っていましたね、師匠。これ美味しいですよね。全部巣ごと持っていくと可哀そうだからいつも少しだけ分けてもらうんです。
そうすれば自然に影響しないですしね。この蜜は美味しいし、巣も栄養があるんですよ?因みにこの巣を溶かしてワックスにしたり色々使えるんですよね」
「よく知っていますね。はちみつも蜂も蜂の巣も薬として珍重されているが、なんせあいつら刺してくるから採るのが難しいのですよ。ファルマがいて助かります」
そう言っている間にお皿の上にあったハチの巣も木の実もすっかりと消え去っていた。結構な量だったんだけどね。余程お腹が減っていたのか。
倒れるほどだ、きっと数日食べていなかったんだわ。
私はその食欲に驚きを隠せないでいた。そうして腹ごなしをした後、また歩き始める。キョロキョロと見回して道すがら食べられそうな植物を探しながら歩いていく。
師匠はお腹も満腹で上機嫌なのか鼻歌を歌いながら歩いていた。そうして歩き、森も薄暗くなってきた。