#19 夢か現か
どうも、ご無沙汰だと思います。ららと申します。
(あ“あ“あ“あ“あ“!!!)
「お母さん!お母さん!」
形容し難い赤子の泣き声が聞こえる。これは誰の声だろうか。燃ゆる炎と立ち昇る黒煙と地面に転がる黒い旗が紅い炎を際立たせる。
頭に人肌の感触がある。
「綺!高!華!今助けるからな!」
燃える家屋の奥で誰かが叫んでいる。
人が来て、視点が上昇する。
「もう大丈夫だ。媽媽媽媽も爸爸爸爸に任せろ。」
そう言うと隣にいた人の胸が近づいた。
「彩はこの子達を連れて早く逃げるんだ。私の子を頼む。」
「お父様………」
「早く!」
「わかりました。姉さまと一緒に帰って来てください。」
「もちろんだ。」
視界が上下し、辺りの景色が過ぎ去っていく。
背後から轟音が起こる。つい先程までいた建物は崩れていた。
他の人達は目に涙を浮かべ、絶叫するもの、あまりのことに声すら発せないもの、この光景を目に焼きつけるもの。様々だった。
紅と黒に包まれる中、場違いな青と白が目を惹いた。炎に照らされ輝く剣を持った奴だった。
桂高は目を覚ました。背中が冷や汗で濡れている。脳裏にさっきの情景が張り付いて離れない。あれは夢か現か。
違う。夢じゃない。夢と思いたい心に対し、碌な根拠の無い確信があった。
「父さん………母さん………」
桂高はいたはずの記憶にない存在に言葉をかけた。
忘れてしまっていた記憶、きっと忘れていたかったのだろう。
「姉さん………」
脳内に流れたのはつい半年程前の忘れられない記憶。
「………」
つい先日の後悔の記憶。依頼を放り出し、復讐のために走った自分の恥ずべき記憶。
(結局いつも護りきれなかった。)
先日は依頼人への被害は無かった。だからといって依頼を果たしてそうなったわけでは無い。ただの偶然である。
それで護ったなど言える訳が無い。
桂高はいつも依頼が舞い込む場所に来た。帛のことがあってから一週間が経っていた。あの話は広まっているだろう。依頼など来るわけ無いと、むしろ来るなとすら思っていた。今の自分に人は護れない。そんな気がした。
「やっと来た。今まで何してたんだよ。」
桂高が顔を上げると孫義がいた。
いかがでしたでしょうか。
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