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義理を果たしに



「……遠藤?」


 ハジメの呟きに〝!〟と某ダンボール好きな傭兵のゲームに出てくる敵兵のような反応をする黒装束の少年、遠藤浩介は、辺りをキョロキョロと見渡し、それでも目当ての人物が見つからないことに苛立ったように大声を出し始めた。


「南雲ぉ! いるのか! お前なのか! 何処なんだ! 南雲ぉ! 生きてんなら出てきやがれぇ! 南雲ハジメェー!」


 あまりの大声に、思わず耳に指で栓をする人達が続出する。その声は、単に死んだ筈のクラスメイトが生存しているかもしれず、それを確かめたいという気持ち以上の必死さが含まれているようだった。


 ユエ達の視線が一斉にハジメの方を向く。ハジメは、未だに自分の名前を大声で連呼する遠藤に、頬をカリカリと掻くとあまり関わりたくないなぁという表情をしながらも声をかけた。


「あ~、遠藤? ちゃんと聞こえてるから大声で人の名前を連呼するのは止めてくれ」

「!? 南雲! どこだ!」


 ハジメの声に反応してグリンッと顔をハジメの方に向ける遠藤。余りに必死な形相に、ハジメは思わずドン引きする。


 一瞬、ハジメと視線があった遠藤だが、直ぐにハジメから目を逸らすと再び辺りをキョロキョロと見渡し始めた。


「くそっ! 声は聞こえるのに姿が見当たらねぇ! 幽霊か? やっぱり化けて出てきたのか!? 俺には姿が見えないってのか!?」

「いや、目の前にいるだろうが、ど阿呆。つか、いい加減落ち着けよ。影の薄さランキング生涯世界一位」

「!? また、声が!? ていうか、誰がコンビニの自動ドアすら反応してくれない影が薄いどころか存在自体が薄くて何時か消えそうな男だ! 自動ドアくらい三回に一回はちゃんと開くわ!」

「三回中二回は開かないのか……お前流石だな」


 そこまで言葉を交わしてようやく、目の前の白髪眼帯の男が会話している本人だと気がついたようで、遠藤は、ハジメの顔をマジマジと見つめ始める。男に見つめられて喜ぶ趣味はないので嫌そうな表情で顔を背けるハジメに、遠藤は、まさかという面持ちで声をかけた。


「お、お前……お前が南雲……なのか?」

「はぁ……ああ、そうだ。見た目こんなだが、正真正銘南雲ハジメだ」


 上から下までマジマジと観察し、それでも記憶にあるハジメとの余りの違いに半信半疑の遠藤だったが、顔の造形や自分の影の薄さを知っていた事からようやく信じることにしたようだ。


「お前……生きていたのか」

「今、目の前にいるんだから当たり前だろ」

「何か、えらく変わってるんだけど……見た目とか雰囲気とか口調とか……」

「奈落の底から自力で這い上がってきたんだぞ? そりゃ多少変わるだろ」

「そ、そういうものかな? いや、でも、そうか……ホントに生きて……」


 あっけらかんとしたハジメの態度に困惑する遠藤だったが、それでも死んだと思っていたクラスメイトが本当に生きていたと理解し、安堵したように目元を和らげた。いくら香織に構われていることに他の男と同じように嫉妬の念を抱いていたとしても、また檜山達のイジメを見て見ぬふりをしていたとしても、死んでもいいなんて恐ろしいことを思えるはずもない。ハジメの死は大きな衝撃であった。だからこそ、遠藤は、純粋にクラスメイトの生存が嬉しかったのだ。


「っていうかお前……冒険者してたのか? しかも〝金〟て……」

「ん~、まぁな」


 ハジメの返答に遠藤の表情がガラリと変わる。クラスメイトが生きていた事にホッとしたような表情から切羽詰ったような表情に。改めて、よく見てみると遠藤がボロボロであることに気がつくハジメ。一体、何があったんだと内心首を捻る。


「……つまり、迷宮の深層から自力で生還できる上に、冒険者の最高ランクを貰えるくらい強いってことだよな? 信じられねぇけど……」

「まぁ、そうだな」


 遠藤の真剣な表情でなされた確認に肯定の意をハジメが示すと、遠藤はハジメに飛びかからんばかりの勢いで肩をつかみに掛かり、今まで以上に必死さの滲む声音で、表情を悲痛に歪めながら懇願を始めた。


「なら頼む! 一緒に迷宮に潜ってくれ! 早くしないと皆死んじまう! 一人でも多くの戦力が必要なんだ! 健太郎も重吾も死んじまうかもしれないんだ! 頼むよ、南雲!」

「ちょ、ちょっと待て。いきなりなんだ!? 状況が全くわからないんだが? 死んじまうって何だよ。天之河がいれば大抵何とかなるだろ? メルド団長がいれば、二度とベヒモスの時みたいな失敗もしないだろうし……」


 ハジメが、普段目立たない遠藤のあまりに切羽詰った尋常でない様子に、困惑しながら問い返す。すると、遠藤はメルド団長の名が出た瞬間、ひどく暗い表情になって膝から崩れ落ちた。そして、押し殺したような低く澱んだ声でポツリと呟く。


「……んだよ」

「は? 聞こえねぇよ。何だって?」

「……死んだって言ったんだ! メルド団長もアランさんも他の皆も! 迷宮に潜ってた騎士は皆死んだ! 俺を逃がすために! 俺のせいで! 死んだんだ! 死んだんだよぉ!」

「……そうか」


 癇癪を起こした子供のように、「死んだ」と繰り返す遠藤に、ハジメはただ一言、そう返した。


 ハジメの天職が非戦系であるために、ハジメとメルド団長との接点はそれほど多くなかった。しかし、それでもメルド団長が気のいい男であったことは覚えているし、あの日、ハジメが奈落に落ちた日、最後の場面で〝無能〟の自分を信じてくれたことも覚えている。そんな彼が死んだと聞かされれば、奈落から出たばかりの頃のハジメなら「あっそ」で終わらせたかもしれないが、今は、少し残念さが胸中をよぎる。少なくとも、心の中で冥福を祈るくらいには。


「で? 何があったんだ?」

「それは……」


 尋ねるハジメに、遠藤は膝を付きうなだれたまま事の次第を話そうとする。と、そこでしわがれた声による制止がかかった。


「話の続きは、奥でしてもらおうか。そっちは、俺の客らしいしな」


 声の主は、六十歳過ぎくらいのガタイのいい左目に大きな傷が入った迫力のある男だった。その眼からは、長い年月を経て磨かれたであろう深みが見て取れ、全身から覇気が溢れている。


 ハジメは、先程の受付嬢が傍にいることからも彼がギルド支部長だろうと当たりをつけた。そして、遠藤の慟哭じみた叫びに再びギルドに入ってきた時の不穏な雰囲気が満ち始めた事から、この場で話をするのは相応しくないだろうと判断し大人しく従う事にした。


 おそらく、遠藤は既にここで同じように騒いで、勇者組や騎士団に何かがあったことを晒してしまったのだろう。ギルドに入ったときの異様な雰囲気はそのせいだ。


 ギルド支部長と思しき男は、遠藤の腕を掴んで強引に立たせると有無を言わさずギルドの奥へと連れて行った。遠藤は、かなり情緒不安定なようで、今は、ぐったりと力を失っている。


 きっと、話の内容は碌な事じゃないんだろうなと嫌な予想をしながらハジメ達は後を付いていった。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



「……魔人族……ね」


 冒険者ギルドホルアド支部の応接室にハジメの呟きが響く。対面のソファーにホルアド支部の支部長ロア・バワビスと遠藤浩介が座っており、遠藤の正面にハジメが、その両サイドにユエとシアがシアの隣にティオが座っている。ミュウは、ハジメの膝の上だ。


 遠藤から事の次第を聞き終わったハジメの第一声が先程の呟きだった。魔人族の襲撃に遭い、勇者パーティーが窮地にあるというその話に遠藤もロアも深刻な表情をしており、室内は重苦しい雰囲気で満たされていた。


 ……のだが、ハジメの膝の上で幼女がモシャモシャと頬をリスのよう膨らませながらお菓子を頬張っているため、イマイチ深刻になりきれていなかった。ミュウには、ハジメ達の話は少々難しかったようだが、それでも不穏な空気は感じ取っていたようで、不安そうにしているのを見かねてハジメがお菓子を与えておいたのだ。


「つぅか! 何なんだよ! その子! 何で、菓子食わしてんの!? 状況理解してんの!? みんな、死ぬかもしれないんだぞ!」

「ひぅ!? パパぁ!」


 場の雰囲気を壊すようなミュウの存在に、ついに耐え切れなくなった遠藤がビシッと指を差しながら怒声を上げる。それに驚いてミュウが小さく悲鳴を上げながらハジメに抱きついた。


 当然、ハジメから吹き出す人外レベルの殺気。パパは娘の敵を許さない。


「てめぇ……何、ミュウに八つ当たりしてんだ、ア゛ァ゛? 殺すぞ?」

「ひぅ!?」


 ミュウと同じような悲鳴を上げて浮かしていた腰を落とす遠藤。両隣から「……もう、すっかりパパ」とか「さっき、さり気なく〝家の子〟とか口走ってましたしね~」とか「果てさて、ご主人様はエリセンで子離れ出来るのかのぉ~」とか聞こえてくるが、ハジメは無視する。そんな事より、怯えてしまったミュウを宥める方が重要だ。


 ソファーに倒れこみガクブルと震える遠藤を尻目にミュウを宥めるハジメに、ロアが呆れたような表情をしつつ、埒があかないと話に割り込んだ。


「さて、ハジメ。イルワからの手紙でお前の事は大体分かっている。随分と大暴れしたようだな?」

「まぁ、全部成り行きだけどな」


 成り行き程度の心構えで成し遂げられる事態では断じてなかったのだが、事も無げな様子で肩をすくめるハジメに、ロアは面白そうに唇の端を釣り上げた。


「手紙には、お前の〝金〟ランクへの昇格に対する賛同要請と、できる限り便宜を図ってやって欲しいという内容が書かれていた。一応、事の概要くらいは俺も掴んではいるんだがな……たった数人で六万近い魔物の殲滅、半日でフューレンに巣食う裏組織の壊滅……にわかには信じられんことばかりだが、イルワの奴が適当なことをわざわざ手紙まで寄越して伝えるとは思えん……もう、お前が実は魔王だと言われても俺は不思議に思わんぞ」


 ロアの言葉に、遠藤が大きく目を見開いて驚愕をあらわにする。自力で【オルクス大迷宮】の深層から脱出したハジメの事を、それなりに強くなったのだろうとは思っていたが、それでも自分よりは弱いと考えていたのだ。


 何せハジメの天職は〝錬成師〟という非戦系職業であり、元は〝無能〟と呼ばれていた上、〝金〟ランクと言っても、それは異世界の冒険者の基準であるから自分達召喚された者とは比較対象にならない。なので、精々、破壊した転移陣の修復と、戦闘のサポートくらいなら出来るだろうくらいの認識だったのだ。


 元々、遠藤が冒険者ギルドにいたのは、高ランク冒険者に光輝達の救援を手伝ってもらうためだった。もちろん、深層まで連れて行くことは出来ないが、せめて転移陣の守護くらいは任せたかったのである。駐屯している騎士団員もいるにはいるが、彼等は王国への報告などやらなければならないことがあるし、何より、レベルが低すぎて精々三十層の転移陣を守護するのが精一杯だった。七十層の転移陣を守護するには、せめて〝銀〟ランク以上の冒険者の力が必要だったのである。


 そう考えて冒険者ギルドに飛び込んだ挙句、二階のフロアで自分達の現状を大暴露し、冒険者達に協力を要請したのだが、人間族の希望たる勇者が窮地である上に騎士団の精鋭は全滅、おまけに依頼内容は七十層で転移陣の警備というとんでもないもので、誰もが目を逸らし、同時に人間族はどうなるんだと不安が蔓延したのである。


 そして、騒動に気がついたロアが、遠藤の首根っこを掴んで奥の部屋に引きずり込み事情聴取をしているところで、ハジメのステータスプレートをもった受付嬢が駆け込んできたというわけだ。


 そんなわけで、遠藤は、自分がハジメの実力を過小評価していたことに気がつき、もしかすると自分以上の実力を持っているのかもしれないと、過去のハジメと比べて驚愕しているのである。


 遠藤が驚きのあまり硬直している間も、ロアとハジメの話は進んでいく。


「バカ言わないでくれ……魔王だなんて、そこまで弱くないつもりだぞ?」

「ふっ、魔王を雑魚扱いか? 随分な大言を吐くやつだ……だが、それが本当なら俺からの、冒険者ギルドホルアド支部長からの指名依頼を受けて欲しい」

「……勇者達の救出だな?」


 遠藤が、救出という言葉を聞いてハッと我を取り戻す。そして、身を乗り出しながら、ハジメに捲し立てた。


「そ、そうだ! 南雲! 一緒に助けに行こう! お前がそんなに強いなら、きっとみんな助けられる!」

「……」


 見えてきた希望に瞳を輝かせる遠藤だったが、ハジメの反応は芳しくない。遠くを見て何かを考えているようだ。遠藤は、当然、ハジメが一緒に救出に向かうものだと考えていたので、即答しないことに困惑する。


「どうしたんだよ! 今、こうしている間にもアイツ等は死にかけているかもしれないんだぞ! 何を迷ってんだよ! 仲間だろ!」

「……仲間?」


 ハジメは、考え事のため逸らしていた視線を元に戻し、冷めた表情でヒートアップする遠藤を見つめ返した。その瞳に宿る余りの冷たさに思わず身を引く遠藤。先程の殺気を思い出し尻込みするが、それでも、ハジメという貴重な戦力を逃すわけにはいかないので半ば意地で言葉を返す。


「あ、ああ。仲間だろ! なら、助けに行くのはとうぜ……」

「勝手に、お前等の仲間にするな。はっきり言うが、俺がお前等にもっている認識は唯の〝同郷〟の人間程度であって、それ以上でもそれ以下でもない。他人と何ら変わらない」

「なっ!? そんな……何を言って……」


 ハジメの予想外に冷たい言葉に狼狽する遠藤を尻目に、ハジメは、先程の考え事の続き、すなわち、光輝達を助けることのデメリットを考える。


 ハジメ自身が言った通り、ハジメにとってクラスメイトは既に顔見知り程度の認識だ。今更、過去のあれこれを持ち出して復讐してやりたいなどという思いもなければ、逆に出来る限り力になりたいなどという思いもない。本当に、関心のないどうでもいい相手だった。


 ただ、だからといって、問答無用に切り捨てるのかと言われれば、答えはNOだ。なぜなら、その答えは愛子先生のいう〝寂しい生き方〟につながっていると思うから。


 それに、ハジメは、あの月下の語らいを思い出していた。異世界に来て〝無能〟で〝最弱〟だったハジメに「私が、南雲君を守るよ」と、そう言った女の子。結局、彼女の感じた不安の通りに、ハジメは無茶をして奈落へと消えてしまった。彼女の不安を取り除くために〝守ってもらう〟と約束したのに、結局、その約束は果たされなかった。あの最後の瞬間、奈落へ落ち行くハジメに、壊れそうなほど悲痛な表情で手を伸ばす彼女の事を、何故か、この町に戻ってきてから頻繁に思い出すハジメ。


「白崎は……彼女はまだ、無事だったか?」


 ハジメが、狼狽している遠藤にポツリと尋ねる。いきなりの質問に「えっ?」と一瞬、疑問の声を漏らすものの、遠藤は、取り敢えず何か話をしなければハジメが協力してくれないのではと思い、慌てて香織の話をしだす。


「あ、ああ。白崎さんは無事だ。っていうか、彼女がいなきゃ俺達が無事じゃなかった。最初の襲撃で重吾も八重樫さんも死んでたと思うし……白崎さん、マジですげぇんだ。回復魔法がとんでもないっていうか……あの日、お前が落ちたあの日から、何ていうか鬼気迫るっていうのかな? こっちが止めたくなるくらい訓練に打ち込んでいて……雰囲気も少し変わったかな? ちょっと大人っぽくなったっていうか、いつも何か考えてるみたいで、ぽわぽわした雰囲気がなくなったっていうか……」

「……そうか」


 聞いてないことも必死に話す遠藤に、ハジメは一言そう返した。そして、頭をカリカリと掻きながら、傍らで自分を見つめている愛しいパートナーを見やる。


「……ハジメのしたいように。私は、どこでも付いて行く」

「……ユエ」


 慈愛に満ちた眼差しで、そっとハジメの手を取りながらそんな事をいうユエに、ハジメは、手を握り返しながら優しさと感謝を込めた眼差しを返す。


「わ、私も! どこまでも付いて行きますよ! ハジメさん!」

「ふむ、妾ももちろんついて行くぞ。ご主人様」

「ふぇ、えっと、えっと、ミュウもなの!」


 ハジメとユエがまた二人の世界を作り始めたので、慌てて自己主張するシア達。ミュウは、よくわかっていないようだったが、取り敢えず仲間はずれは嫌なのでギュッと抱きつきながら同じく主張する。


 対面で、愕然とした表情をしながら「え? 何このハーレム……」と呟いている遠藤を尻目に、ハジメは仲間に己の意志を伝えた。


「ありがとな、お前等。神に選ばれた勇者になんて、わざわざ自分から関わりたくはないし、お前達を関わらせるのも嫌なんだが……ちょっと義理を果たしたい相手がいるんだ。だから、ちょっくら助けに行こうかと思う。まぁ、あいつらの事だから、案外、自分達で何とかしそうな気もするがな」


 ハジメの本心としては、光輝達がどうなろうと知ったことではなかったし、勇者の傍は同時に狂った神にも近そうな気がして、わざわざ近寄りたい相手ではなかった。


 だが、おそらくハジメの事を気に病んで無茶をしているであろう香織には、顔見せくらいはしてやりたいと思ったのだ。ついでに、本当にピンチなら助けるつもりで。守ろうとしてくれた事や今尚、生存を信じて心を砕いてくれている香織に、義理を果たしたいとは、つまりそういうことだ。


 危険度に関しては特に気にしていない。遠藤の話からすれば既に戦った四つ目狼が出たようだが、キメラ等にしても奈落の迷宮でいうなら十層以下の強さだろう。何の問題もない。


「え、えっと、結局、一緒に行ってくれるんだよな?」

「ああ、ロア支部長。一応、対外的には依頼という事にしておきたいんだが……」

「上の連中に無条件で助けてくれると思われたくないからだな?」

「そうだ。それともう一つ。帰ってくるまでミュウのために部屋貸しといてくれ」

「ああ、それくらい構わねぇよ」


 結局、ハジメが一緒に行ってくれるということに安堵して深く息を吐く遠藤を無視して、ハジメはロアとさくさく話を進めていった。


 流石に、迷宮の深層まで子連れで行くわけにも行かないので、ミュウをギルドに預けていく事にする。その際、ミュウが置いていかれることに激しい抵抗を見せたが、何とか全員で宥めすかし、ついでに子守役兼護衛役にティオも置いていく事にして、ようやくハジメ達は遠藤の案内で出発することが出来た。


「おら、さっさと案内しやがれ、遠藤」

「うわっ、ケツを蹴るなよ! っていうかお前いろいろ変わりすぎだろ!」

「やかましい。さくっと行って、一日……いや半日で終わらせるぞ。仕方ないとは言え、ミュウを置いていくんだからな。早く帰らねぇと。一緒にいるのが変態というのも心配だし」

「……お前、本当に父親やってんのな……美少女ハーレムまで作ってるし……一体、何がどうなったら、あの南雲がこんなのになるんだよ……」


 迷宮深層に向かって疾走しながら、ハジメの態度や環境についてブツブツと納得いかなさそうに呟く遠藤。強力な助っ人がいるという状況に、少し心の余裕を取り戻したようだ。しゃべる暇があるならもっと速く走れとつつかれ、敏捷値の高さに関して持っていた自信を粉微塵に砕かれつつ、遠藤は親友達の無事を祈った。



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