宿敵討伐
「むぐ、むぐ……ウサギ肉ってもマズイことに変わりねぇな……」
現在、ハジメは拠点にてモリモリとウサギ肉を喰っていた。そう、蹴りウサギの肉である。かつて自分を見下し
それでも丸一匹、ペロリと平らげる。
〝胃酸強化〟を手に入れてから食べようと思えばいくらでも食べられる気がするハジメ。特に固有魔法を使ったときは物凄く腹が減り、この蹴りウサギを殺った時も使ったので収支はトントンと言ったところだった。
神水があれば死にはしないが、使いすぎると再び飢餓感に襲われそうなので考えて使わなければならない。
ちなみに、蹴りウサギは罠を張って倒した。スタート地点の川から水を汲んできて蹴りウサギを誘導、爆進して来た蹴りウサギが撒き散らした水の上を通った瞬間、〝纏雷〟の最大出力で感電させる。
全身から煙を噴き上げながらも、案の定、突進してきたので、電撃で鈍ったところを正面からドンナーで撃ち抜いた。
流石に、電磁加速された秒速三・二キロメートルの弾丸は避けられなかったらしく頭が
「さて、初めて蹴りウサギの肉を喰ったわけだが……ステータスは……」
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南雲ハジメ 17歳 男 レベル:12
天職:錬成師
筋力:200
体力:300
耐性:200
敏捷:400
魔力:350
魔耐:350
技能:錬成[+鉱物系鑑定][+精密錬成][+鉱物系探査]・魔力操作・胃酸強化・纏雷・天歩[+空力][+縮地]・言語理解
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やはり魔物肉を喰うとステータスが上がるようだ。二尾狼ではもう殆ど上がらなかったことを考えると喰ったことのない魔物を喰うと大きく上昇するらしい。
早速、〝天歩〟とやらを調べる。まず一番最初にイメージしたのは、蹴りウサギのあの踏み込みだ。焦点速度が間に合わなくて体がブレて見えるほどの速度。〝天歩〟の横に[+縮地]とあるのはその技能ではないかと当たりを付ける。縮地といえば地球でも有名な高速移動のことだ。
ハジメは足元が爆発するイメージで一気に踏み込んでみる。体内の魔力が一瞬で足元に集まる。踏み込んだ足元がゴバッと陥没し……ハジメは吹き飛んで顔面から壁にダイブした。
「痛ッー!? か、加減が難しいな、これ……」
だが、成功は成功である。これから鍛錬を続ければ蹴りウサギのような動きもできるようになるだろう。銃技と組み合わせれば、より強力な武器になる。
次は[+空力]だ。だが、これが中々発動しない。名称だけではどんな技能なのかわかりづらい。あれこれ試す内に、ハジメは蹴りウサギが空中を足場にしていたことを思い出す。
早速、ハジメは、踏み出した空中に透明のシールドがあることをイメージする。そして、前方に跳躍してみた。
顔面から地面にダイブした。
「ぐぅおおお!?」
右手で顔面を押さえゴロゴロと地面をのたうち回る。しばらく身悶え、痛みが引くと憮然とした表情で神水を飲む。
「……まぁ、一応できたな……」
前方に跳躍して顔面からダイブした原因は中途半端に足場ができたせいだった。要は躓いて転けたのである。どうやら[+空力]は空中に足場を作る固有魔法で間違いないようだ。
なんだか一度に二つの固有魔法を手に入れた気分だが〝天歩〟という固有魔法の派生技能らしい。
得した気分でハジメは鍛錬を開始する。
目標は――爪熊。
おそらく、遠距離からの銃撃で片はつくだろうが、念の為に鍛えておく。あの化け物より強い魔物がふらりと現れる可能性も否定できないのだ。迷宮では楽観視した者から死んでいく。爪熊を倒したら、この階層からの脱出口も探さなければならない。
ハジメは気合を入れ直した。
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迷宮の通路を、姿を
ハジメである。〝天歩〟を完全にマスターしたハジメは、〝縮地〟で地面や壁、時には〝空力〟で足場を作って高速移動を繰り返し宿敵たる爪熊を探していた。
本来なら脱出口を探すことを優先すべきなのだろうが、ハジメはどうしても爪熊を殺りたかった。一度は砕かれた心、それをなした化け物を目の前にして自分がきちんと戦えるのか試さずにはいられなかったのだ。
「グルゥア!」
途中、二尾狼の群れと
ドパンッ!
燃焼粉の乾いた破裂音が響き、〝纏雷〟で電磁加速された弾丸が狙い違わず最初の一頭の頭部を粉砕した。
そのまま空中で〝空力〟を使い更に跳躍し、飛びかかってくる二尾狼に向かって連続して発砲する。全て命中とまではいかなかったが、どうにか全弾撃ち尽くす前に仕留め切った。
ハジメは肘から先のない左腕の脇にドンナーを挟み、素早く装填する。そして二尾狼の死骸には一瞥もくれずに再び駆け出した。
しばらくそうやって出会う蹴りウサギや二尾狼を瞬殺していると、ようやく宿敵の姿を発見した。
爪熊は現在食事中のようだ。蹴りウサギと思しき魔物を咀嚼している。その姿を確認するとハジメはニヤリと不敵に笑い、
爪熊はこの階層における最強種だ。主と言ってもいい。二尾狼と蹴りウサギは数多く生息するも爪熊だけはこの一頭しかいない。故に、爪熊はこの階層では最強であり無敵。
それを理解している他の魔物は爪熊と遭遇しないよう細心の注意を払うし、遭遇したら一目散に逃走を選ぶ。抵抗すらしない。まして、自ら向かって行くなどあり得ないことだ。
しかし、現在、そのあり得ないことが目の前で起こっていた。
「よぉ、爪熊。久しぶりだな。俺の腕は美味かったか?」
爪熊はその鋭い眼光を細める。目の前の生き物はなんだ? なぜ、己を前にして背を見せない? なぜ恐怖に身を竦ませ、その瞳に絶望を映さないのだ?
かつて遭遇したことのない事態に、流石の爪熊も若干困惑する。
「リベンジマッチだ。まずは、俺が獲物ではなく敵だと理解させてやるよ」
そう言って、ハジメはドンナーを抜き銃口を真っ直ぐに爪熊へ向けた。
ハジメは構えながら己の心に問かける。「怖いか?」と。答えは否だ。絶望に目の前が暗くなることも、恐怖に腰を抜かしガタガタ震えることもない。あるのはただ、純粋な生存への渇望と敵への殺意。
ハジメの口元が自然と吊り上がり
「殺して喰ってやる」
その宣言と同時にハジメはドンナーを発砲する。ドパンッ! と炸裂音を響かせながら毎秒三・二キロメートルの超速でタウル鉱石の弾丸が爪熊に迫る。
「グゥウ!?」
爪熊は
弾丸を視認して避けたのではなく、発砲よりほんの僅かに回避行動の方が早かったことから、おそらくハジメの殺気に反応した結果だろう。流石は階層最強の主である。二メートル以上ある
だが、完全に避け切れたわけではなく肩の一部が抉れて白い毛皮を鮮血で汚している。
爪熊の瞳に怒りが宿る。どうやらハジメを〝敵〟として認識したらしい。
「ガァアア!!」
咆哮を上げながら物凄い速度で突進する。二メートルの巨躯と広げた太く長い豪腕が地響きを立てながら迫る姿は途轍もない迫力だ。
「ハハ! そうだ! 俺は敵だ! ただ狩られるだけの獲物じゃねぇぞ!」
爪熊から凄まじいプレッシャーを掛けられながら、なお、ハジメは不敵な笑みを崩さない。
ここがターニングポイントだ。
ハジメの左腕を喰らい、心を砕き、変心の原因となった魔物を打ち破る。これから前へ進むために必要な儀式。それができなければ、きっと己の心は〝妥協〟することを認めてしまう。ハジメはそう確信していた。
突進してくる爪熊に、再度、ドンナーを発砲する。超速の弾丸が爪熊の眉間めがけて飛び込むが、なんと爪熊は突進しながら側宙をして回避した。どこまでも巨躯に似合わない反応をする奴である。
自分の間合いに入った爪熊は突進力そのままに爪腕を振るう。固有魔法が発動しているのか三本の爪が僅かに
ハジメの脳裏に、かつてその爪をかわしたにもかかわらず両断された蹴りウサギの姿が過った。ハジメはギリギリで避けるのではなく全力でバックステップする。
爪熊が獲物を逃がしたことに苛立つように咆哮を上げる。
と、その時、爪熊の足元にカランと何かが転がる音がした。釣られて爪熊が足元に視線を向けると直径五センチ位の深緑色をしたボール状の物体が転がっている。爪熊がそのことを認識した瞬間、その物体がカッと強烈な光を放った。
ハジメが作った〝閃光手榴弾〟である。
原理は単純だ。緑光石に魔力を限界ギリギリまで流し込み、光が漏れないように表面を薄くコーティングする。更に中心部に燃焼石を砕いた燃焼粉を圧縮して仕込み、その中心部から導火線のように燃焼粉を表面まで繋げる。
後は〝纏雷〟で表に出ている燃焼粉に着火すれば圧縮してない部分がゆっくり燃え上がり、中心部に到達すると爆発。臨界まで光を溜め込んだ緑光石が砕けて強烈な光を発するというわけだ。ちなみに、発火から爆発までは三秒に調整してある。苦労した分、自慢の逸品だ。
当然、そんな兵器など知らない爪熊はモロにその閃光を見てしまい一時的に視力を失った。両腕をめちゃくちゃに振り回しながら、咆哮を上げもがく。何も見えないという異常事態にパニックになっているようだ。
その隙を逃すハジメではない。再びドンナーを構えてすかさず発砲する。電磁加速された絶大な威力の弾丸が暴れまわる爪熊の左肩に命中し、根元から吹き飛ばした。
「グルゥアアアアア!!!」
その生涯でただの一度も感じたことのない激烈な痛みに凄まじい悲鳴を上げる爪熊。その肩からはおびただしい量の血が噴水のように噴き出している。吹き飛ばされた左腕がくるくると空中を躍り、やがて力尽きたようにドサッと地面に落ちた。
「こりゃあ偶然にしてはでき過ぎだな」
ハジメとしては左腕を狙ったつもりはなかった。まだそこまで銃の扱いをマスターしているわけではない。直進してくる敵や何度もやりあった二尾狼等、その動きを熟知していない限り暴れて動き回る対象をピンポイントで撃ち抜くことは未だ難しい。
故に、かつて奪われ喰われたハジメと同じ左腕を奪うことになったのは全くの偶然だった。
ハジメは、痛みと未だ回復しきっていない視界に暴れまわる爪熊へ再度発砲する。
爪熊は混乱しながらも野生の勘で殺気に反応し横っ飛びに回避した。
ハジメは、〝縮地〟で爪熊を通り過ぎその後ろに落ちている左腕のもとへ行く。そして、少し回復したのか、こちらを強烈な怒りを宿した眼で睨む爪熊に見せつけるかのように左腕を持ち上げ掲げた。
そして、おもむろに噛み付いた。魔物を喰らうようになってから、やたらと強くなった
「あぐ、むぐ、相変わらずマズイ肉だ。……なのにどうして他の肉より美味く感じるんだろうな?」
そんなことを言いながら、こちらを警戒しつつ蹲る爪熊を
爪熊は動かない。その瞳には恐怖の色はないが、それでも己の肉体の一部が喰われているという状況と回復しきっていない視力に不用意には動けないようだ。
それをいいことに、ハジメは食事を続ける。すると、やがて異変が訪れた。初めて魔物の肉を喰らった時のように、激しい痛みと脈動が始まったのだ。
「ッ!?」
急いで神水を服用するハジメ。あの時ほど激烈な痛みではないが、立っていられず
だが、そんな事情は爪熊には関係ない。チャンスと見たのか唸り声を上げながら突進する。
蹲るハジメは動かない。あわや、このまま爪熊に蹂躙され、かつての再現となるのかと思われたその時、ハジメの口元がニヤーと裂けた。
同時に、右手をスッと地面に押し付けた。そして、その手に雷を纏う。最大出力で放たれた〝纏雷〟は地面の液体を伝い、その場所に踏み込んだ爪熊を容赦なく襲った。
地面の液体とは、爪熊の血液のことだ。噴水の如く撒き散らされた血の海。ハジメは拾った爪熊の左腕から溢れでる血を、乱暴に掲げることで撒き散らし、自分の場所と血溜りを繋いだのである。
伊達や酔狂で戦闘中に食事などしない。爪熊を喰らったことで痛みに襲われるとは思っていなかったが、最初から罠に嵌めるつもりだったのだ。わざわざ目の前で喰ったのも怒りを煽り真っ直ぐ突進させるためである。多少予定は狂ったが結果オーライだ。
自らの流した血溜りに爪熊が踏み込んだ瞬間、強烈な電流と電圧が瞬時にその肉体を蹂躙する。神経という神経を侵し、肉を焼く。最大威力と言っても、ハジメが取得した固有魔法は本家には及ばない。
二尾狼のように電撃を飛ばせるわけではないし、出力も半分程度だろう。しかし、それでも一時的に行動不能にさせることは十分に可能だ。ちなみに、人間なら血液が沸騰してもおかしくない威力ではある。
「ルグゥウウウ」
低い唸り声を上げながら爪熊が自らの血溜りに地響きを立てながら倒れた。その眼光は未だ鋭く殺意に満ちていてハジメを睨んでいる。
ハジメは真っ直ぐその瞳を睨み返し、痛みに耐えながらゆっくり立ち上がった。そして、ホルスターに仕舞っていたドンナーを抜きながら歩み寄り、爪熊の頭部に銃口を押し当てた。
「俺の
その言葉と共に引き金を引く。撃ち出された弾丸は主の意志を忠実に実行し、爪熊の頭部を粉砕した。
迷宮内に銃声が木霊する。
爪熊は最期までハジメから眼を逸らさなかった。ハジメもまた眼を逸らさなかった。
想像していたような爽快感はない。だが、虚しさもまたなかった。ただ、やるべきことをやった。生きるために、この領域で生存の権利を獲得するために。
ハジメはスッと目を閉じると、改めて己の心と向き合う。そして、この先もこうやって生きると決意する。戦いは好きじゃない。苦痛は避けたい。腹いっぱい飯を食いたい。
そして……生きたい。
理不尽を粉砕し、敵対する者には容赦なく、全ては生き残るために。
そうやって生きて……
そして……
故郷に帰りたい。
そう、心の深奥が訴える。
「そうだ……帰りたいんだ……俺は。他はどうでもいい。俺は俺のやり方で帰る。望みを叶える。邪魔するものは誰であろうと、どんな存在だろうと……」
目を開いたハジメは口元を釣り上げながら不敵に笑う。
「 殺してやる 」
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南雲ハジメ 17歳 男 レベル:17
天職:錬成師
筋力:300
体力:400
耐性:300
敏捷:450
魔力:400
魔耐:400
技能:錬成[+鉱物系鑑定][+精密錬成][+鉱物系探査][+鉱物分離][+鉱物融合]・魔力操作・胃酸強化・纏雷・天歩[+空力][+縮地]・風爪・言語理解
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毎度、お読みいただきありがとうございます。
感想も沢山頂いて、本当にありがとうございます。
前回は、レールガンに対するツッコミが凄かった。
うん、作者も読者の立場なら盛大に突っ込んでます(苦笑)。
一応、言い訳ならぬ説明を活動報告にも書きましたので一読してもらえると嬉しいです。
これからも、色々兵器を作っていくと思います。それはタイトル詐欺にしないための作者の悪あがきだと思って下さい。
これからも、ツッコミどころ満載だと思いますが、それも込みで楽しんでもらえると嬉しいです。
次回は、少し、クラスメイト達の様子を書きたいと思います。