夜空の告白
「冬の夜って、寂しい気がしない?」
突然呼び出された公園で、彼女は俺にそう問いかけた。
切り裂くように冷たい空気が満ちた空は、本来、この手に届きもしない星空が触れられてしまいそうに見えるほど透き通っていた。
「果てしなく続く世界にまるで一人でいるみたいに感じて、私はちょっと苦手なんだよね。もちろん、それが良いって言う人もいるんだろうけどさ」
手元でマフラーを弄びながら、彼女はさらに独り言ちる。わざわざ呼び出したというのに、彼女の言葉はどれも、俺に何か答えを求めているようには見えなかった。
「ごめんね、なんか私ばっかり話しちゃって。でも、今だけは聞いていてほしい。そんなに長くはかからないから」
そう言って、彼女は俺と目を合わせた。その瞳は星空を写して、まるで様々な感情が瞳の中できらめいているかのようだった。
「これはもしもの話なんだけどね、誰にも秘密でいなくならなきゃいけない人がいて、その人は思いを告げられていない人がいるの。そんな時、その人ってどうすればいいんだろうね」
それは、とても不思議で悲しい問いかけだった。その人の気持ちはその人にしか分からないが、考えただけで胸が張り裂けそうにすらなった。
彼女は、くるくると、まるで踊るように歩きながら、さらに独白を続ける。
「私は、きっと会いに行っちゃうんだろうなぁ。会っても何にも言えないのに、会いに行っちゃうんだと思う。抑えられない思いって、そういうものだと思うから」
ひらひらと舞いながら、彼女はいつの間にか公園の入り口に辿り着いていた。俺からは完全に背をそむけていて、今にも帰ってしまいそうだった。
「はぁ、こんなにまん丸で、綺麗なお月さまなのに、永遠にこの手には届かないんだなぁ。やっぱり、冬の夜は苦手かな。月に届きそうに見えちゃうから」
彼女が何を言ったのか、最初は理解出来なかった。数秒して、彼女が何を言ったのか分かって、俺が彼女に駆寄ろうとすると、彼女はそっと手を俺に向けて、それを止めた。
「それはダメだよ。お月さまには、綺麗なままでいてほしいから」
彼女は、そう言い残して、公園から出ていってしまった。後には、呆然と立ち尽くした俺が残されるだけだった。