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エピローグ

「ヘルベルト様、ハーブティーでございます」

「……ふぅ、やはり落ち着くな……」


 夏も盛りを過ぎ、以前と比べると暑さもずいぶんとマシになった。

 薄着一枚でパタパタと扇子を扇ぐヘルベルトは、自室で一人冷やした茶を飲んでいた。

 彼の後ろには、帰りを待ちわびてくれていたケビンの姿がある。


 ヘルベルトがグラハムとズーグを引き連れて屋敷へと帰ってきた時、一番動きが速かったのはケビンだった。

 なんでも帰った際にすぐに申しつけができるよう、常に待機していたのだという。


 ケビンは既に家宰の地位から退いているため、ヘルベルトがいないとほとんどすることがなかったと言っていたが……それならもう少し有効的な時間の使い方をするべきではと思わなくもない。

 ただまあ、本人が楽しそうにしているのでこれでいいのだろう。

 わざわざ野暮なことを言う趣味は、ヘルベルトにはない。


 ヘルベルトはグラハムとズーグというどちらがバレてもとんでもない事件になるような二人を連れ帰って来たことで、とんでもなく叱られた。

 その説教は実に三時間を超えるほどの長時間に及び、ヨハンナによる取りなしがなければまだまだ続いていたのは想像だに難くない。


 今はなんとかマキシムの説教を乗り越え、一息ついたところだ。

 今回は完全に自分が悪いため、文句を言うつもりはないが、それでも疲れるものは疲れる。

(なんにせよ、これで一件落着か……)


 ここ数ヶ月の思い出が、走馬灯のように浮かんでは消えていく。

 『覇究祭』で優勝するために、同じクラスの皆を引っ張っていった思い出。

 リャンル達とはなかなか仲直りができなかったが、最後の最後で再び気持ちを通じ合わせることができた。

 最終競技である『一騎打ち』の決勝戦でのマーロンとの激闘。

 あちらも隠し球があったが、こちらも奥の手を残していた。

 ギリギリ勝てたので、これで戦績は二勝零敗だ。

 このまま無敗のままで終えていきたいところである。


 学年優勝ができたことで、ネルに改めてプロポーズをした。

 ネルとの関係は、完全に修復できたといっていいだろう。

 そして『覇究祭』で頑張ったことで、後回しにしてしまっていたローゼアにも自分の雄姿を見せることができた。

 結果として、悪くない関係に戻ることができた。


 今回の大樹海の旅ではティナとも剣術仲間として改めて仲良くなることができた。

 グラハムという現状では最高の師匠(ただし魔法と戦闘に関してのみ、他は全て反面教師)に師事することもできるようになったし、ズーグという修行仲間も増えた。

 夏休みが明けるまでにはまだ数日あるが、ヘルベルトがやろうとしていたことは概ね達成できたと言っていいだろう。


 抱えるものがまた増えてしまったヘルベルトだが、彼は当然ながら何一つとして捨てるつもりはない。

 学生の身分ではできることに限りはあるが、それでも自分にできる精一杯をこれからもやっていこうと思う。


「ケビン……」

「なんでしょう、ヘルベルト様」

「俺は……やりきった……ぞ……」

「それはようございましたね。今のヘルベルト様のお顔には、自信が漲っておりますよ」

「そう、か……」


 こくこくと舟を漕いでいたヘルベルトの頭が、かくんと落ちる。

 どうやら色々と頑張りすぎたせいで、身体が限界を迎えたらしい。


「すぅー……すぅー……」

「……」


 ケビンは何も言わず、ヘルベルトの身体にそっとタオルケットを掛ける。

 眠りこけているヘルベルトを見るケビンの目は、とても優しかった。


 こうしてヘルベルトの夏は終わる。

 切り開いた未来を確かなものへと固めていくためには、彼は走り続ける。

 今までの清算とやり直しはひとまず終わったが、最良の未来を描くためのヘルベルトの歩みは、まだまだ止まらない――。

これにて第二部は終了となります。

第三部の開始までしばらくお待ち下さい!


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