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グラハムという男 2


「なるほど……この魔法は簡単に言えば、空間を繋げたり壊したりできる魔法ってことか」


 グラハムは間違いなく己の武器となる、己の系統外魔法についての理解を深めていくことになる。

 界面魔法とはものすごく簡単に言えば空間を操ることのできる魔法だ。


 空間を接合したり、固定化させて足場にしたり……応用性が高く、できることは一言で説明することが難しいほど多岐に渡っている。


 たとえば彼の右腕が攻撃を放つ空間をA、彼の敵の胸元の空間をBとする。

 この場合グラハムが魔法を使いAとBの空間を接合することで、攻撃は相手の胸元に吸い込まれていくことになる。


 これとは逆に空間をまったく別の空間Cへと飛ばすことで、相手の攻撃を見当違いの方向へ飛ばしてしまうこともできる。


 ただしこの魔法の少し面倒なところは、空間と空間を正確に繋げるわけではないというところだ。

 たとえば上の例でいけば、大体の位置を指定することができても、実際に攻撃が放たれるのはBの手前であったり奥だったり、厳密に細かい指定ができるわけではないのだ。


 なので魔法によって繋がる場所は、グラハムの勘による部分がかなり多く、彼がさじ加減を間違えただけでまったく見当違いの場所と繋がってしまう。


 デメリットはそれだけではない。


 空間を大量に、グラハムの魔法の許容量を超える数を繋げてしまうと、繋がりが途切れたり意味のわからないところと繋がってしまったりすることもある。


 以前一度どこかわからない場所と空間が繋がり、見たことも聞いたこともない新種の魔物が飛び出してきたこともあった。

 その時の魔物はあまりにも強く、なんとか倒せたもののグラハムはその後一ヶ月もの間、まともに動けなくなるほどに死にかけてしまった。

 流石の彼もそれ以後、自分に無理な量の空間は繋がないようにしている。


 三つ目、空間を繋ぐことにはいくつかの制約が存在している。

 たとえば最初に二つの空間を繋ぐ面を作ったとする。

 そうした場合、この二つの入り口を、新たな空間であるEに繋げることはできない。

 同じ場所を再度別の場所と繋げるためには、今ある空間の繋がりを一度壊さなければならない。


 彼は空間を割り、空間を繋げる。

 繋がる場所が面であり、一つ一つに境が生まれることから、彼はこれを界面魔法と名付けた。


 死ぬ直前に開花したこの力はどこまでも強力だった。

 少なくとも王国の騎士程度では、相手にもならないほどには。


 グラハムは空間の中で己の攻撃を加速させることができる。

 故に彼は衝撃波が発生するほどに加速させた拳を、空間を繋げて距離を無視して相手へ放つことができる。


 防御不可避の神速の一撃。

 界面魔法を極めていく中で、グラハムは王国内で頭角を現していくこととなる――。



 彼は両親と同じ傭兵の道は選ばなかった。

 傭兵というのは、使い捨てにされることがほとんどだ。

 上手く立ち回りでもしない限り、基本的にはカモにされてしまう。


 捨て駒にされることや契約金の不払いなども日常茶飯事であり、食っていくためにはしっかりとした交渉能力が必要だ。

 そんな面倒なことやってられるかと、グラハムは冒険者の道を選んだ。


 冒険者というのは、金さえもらえばどんな依頼も受ける何でも屋だ。

 依頼をしっかりと絞れば、ソロでやっていくこともさほど難しくない。


「一人が一番気楽だぜ」


 グラハムは一度、家族も同然と思っていた傭兵団に両親を殺されている。

 誰かとつるんで裏切られるくらいなら、一人でいた方がいい。

 ソロ冒険者は、彼にとっての天職だった。

 瞬く間にランクを駆け上がったグラハムは、王国内で十本の指に入る冒険者であるAランクへと手をかけた。


 下級貴族と同等の権威を持つといわれるAランク冒険者に至ったグラハムが最初にしたことは……復讐だった。


「ま、待ってくれ、あの時は俺が悪――」

「命乞いなんか聞くわけねぇだろ」

「あがっ……」


 両親を殺したバードを仇討ちで殺した。

 バードがした不正の証拠を揃えておいたというのに、殺した後も色々と面倒な段取りを取る必要はあったが、目的は無事に達成された。

 そして両親の復讐を果たしたグラハムが感じたのは、虚しさだった。


「……こんなもんか」


 両親を殺されたことはたしかに憎かった。

 けれど人間、憎しみを長期間維持することは非常に難しい。

 グラハムは界面魔法を手に入れ、冒険者として生きていく中で成長していた。

 彼にとっては両親の死は既に一つの思い出になってしまっていたのだ。


 やらなければいけないことではあった。

 けれど実際にやり遂げても、達成感は感じられない。


 仇は討った。

 冒険者としての名声は手に入れた。

 金もそう簡単に使い切れない程度にはある。


 次に何をしようか……そんな風に考えても、結局答えは出なかった。

 彼は冒険者としての自堕落で少しだけ退屈な日々を過ごしていくことになる。


 その時には既に、グラハムは二十五歳になっていた。

 そしてその歳の夏、彼は運命の出会いをすることになる。

お知らせです!

『宮廷魔導師、追放される』の第一巻が8/25日に発売されました!


挿絵(By みてみん)


作品の今後にも関わってきますので、ぜひともご購入の方よろしくお願いします!


また各書店用や通販用のssもありますので、自分が気になったものを手に取っていただけたらと思います!


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