目的
「なぜここに魔人がっ!?」
「ヘルベルト様、ここはお逃げ下さい!」
突如として現れた魔人に、マーロンとティナ両名の目の色が変わる。
二人はヘルベルトより前に出て、パリスへと斬りかかっていく。
「ちっ」
パリスは舌打ちしながらも二人を迎撃。
魔人と人、相容れぬ者同士の争いが……。
「というわけで、僕はパリス。今回はヘルベルト様ご一行に大樹海を案内するためにやって来ました」
――始まるようなことはなく。
マーロンもティナも、少しだけ怪訝そうな顔をしながらもパリスのことをジッと見つめ、黙って話を聞いていた。
思っていたよりも、ずいぶんとすんなり受け入れるな……。
驚くのは、むしろヘルベルトの方である。
「ヘルベルトが案内を頼んだんだ。その案内人を疑うのは、お前に対する不義理になるだろ」
マーロンのヘルベルトに対する信頼が篤すぎる。
そこまで手放しでほめられると、普通に恥ずかしさが勝つ。
「お前、どこかで悪いやつに騙されるぞ……」
だがそれほど悪い気分ではなく。
素直に向けられた気持ちと真っ直ぐに向かい合うのが嫌なヘルベルトは、顔を逸らして大樹海を見つめる。
そんな二人を見たパリスとティナは目配せをし合い、お互いに笑い合うのだった。
こうして顔合わせは特にいがみ合いや争いが起こるようなこともなく、実に平和な雰囲気の中で終わるのだった……。
大樹海に住む魔物は多い。
ヘルベルト達が進んでいるのはまだまだ人里に近い場所に過ぎないが、そんな区域であってもかなりの種類の魔物が存在している。
基本的に魔物の生態は動物と近く、彼らは強い縄張り意識を持っている。
そのため強い魔物ほど、自らのテリトリーを意識し、一つの場所に長く留まる。
それができるのが強力な魔物、それができずに各地を転々とすることになるのが、弱い魔物ということになる。
ヘルベルト達が進んでいく中で遭遇することになる魔物達は、当然ながら後者。
雑魚狩りなので問題なく進むことはできるが、ただ無双するだけでは味気ない。
ということでヘルベルト達は、魔物との戦いをお互いの戦い方を確認し、連携を図るための訓練に充てることにしたのだった。
「ファイアアロー!」
「ぐぎゃっ!?」
炎の矢が緑の小鬼――ゴブリンへと吸い込まれていく。
使い続け練度が上がっているヘルベルトの魔法は、容易くゴブリンを絶命させてみせた。
「ライトアロー!」
「ギギッ!?」
次いで光の矢が、同じくゴブリンを貫く。
魔法を食らい物言わなくなったゴブリンの合間を縫うように、二つの影が勢いよく飛び出していく。
「シッ!」
「はあっ!」
腕の力に身体の捻りを加えた回転斬りが、ゴブリン達へ襲いかかる。
前に出た二人の前衛――ティナとパリスの周囲に、血の花が咲いていく。
そこに彩りを加えるのが、ヘルベルトの炎とマーロンの光だ。
粗末な布きれを身に纏ったゴブリンは、みるみるうちにその数を減らしていく。
オールレンジで戦闘のできるヘルベルトとマーロンは、今回はパーティーのバランスを取って、まずは後衛として戦ってみることにした。
即席のパーティーではあるが、ゴブリン程度であれば問題なく殲滅できる。
ただ危うく魔法の余波を食らいそうになる場面があった。
ヘルベルト達も近接戦も問題なくこなせるのだから、もう少し敵に近付き、中衛として動いていった方がいいだろうということになった。
立ち位置や戦い方に微修正を重ねていくと、数時間もしないうちに四人は息の合ったパーティーのように動くことができるようになった。
最初の頃にはあったぎこちなさも、既になくなっている。
剣の腕を認めたからか、ティナが積極的にパリスに話しかけるような場面もあった。
ちなみに前衛四人というのもロマンがあっていいとティナは主張していただが、当然のようにヘルベルトが却下した。
意見を蹴られたティナは不満げな様子だったが、こと戦闘に関してはロマンなど必要はない。
(どうやら剣術バカなところは、ロデオの血を色濃く引いているらしいな)
ロデオも若い頃はこんな感じだったんだろうか。
そんな益体もないことを考えながら小休止を取っているヘルベルトのところへ、マーロンが近付いてくる。
「なぁ、ヘルベルト。そろそろ教えてくれないか。俺達が一体どこへ向かっているのか」
「……そうだな。ここまで来ればもういいか。俺達が向かっているのは――ある人物を尋ねるためだ」
「その人物とは?」
尋ねるティナに、ヘルベルトは笑う。
その答えに、三人は言葉を失った。
「王国を出奔し姿をくらましている……とある系統外魔法の使い手だよ」
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