気持ち
「また俺の勝ちだな」
「……そうだね」
フンッと鼻息を吐き出すヘルベルト。
前はものすごく太っていた分肺活量もすさまじかったので、本当に豚のようだったが、今のヘルベルトがするとそんな仕草もずいぶんと様になって見える。
マーロンの方は樹によりかかりながら、コップを持っていた。
ヘルベルトとは目を合わさず、ゆらゆらと揺れている炎を見つめている。
ヘルベルトもそちらを向いてみると、そこかしこで踊っている男女のペアがあった。
ただ言い伝えがあやふやだからなのか、同性同士で踊っている者達も結構な数がいる。
音楽はどこから聞こえているのかと思ったが、どうやら魔道具を使っているらしい。
少しざらついた管弦楽器の音が、あたりに響いていた。
「……」
「……」
二人の顔はキャンプファイアの炎に照らされて、オレンジ色に光っている。
お互い何も言わず、ただ黙っている時間。
本来なら退屈さや気まずさを覚えるはずのそれも、マーロンと居る時は不思議とそうは感じなかった。
「前と違って……」
「おう」
「不思議と負けても悔しさは感じなかったよ」
「……そうか」
特待生のヘレネとの悶着で戦うことになった最初の決闘。
あれがなければヘルベルトは廃嫡され、婚約を破棄され、辺境の地で時空魔法に目覚めるまで、くすぶった日々を過ごすことになっていただろう。
未来の後押しがあり、あそこで踏みとどまることができたからこそ、今こうしてこの場所に立つことができている。
「行かなくちゃいけない場所があるんだろ?」
「……ああ」
変わらなければ変わらない。
それがわかったからこそ、ヘルベルトは己を変えた。
戦い続け、魔法を鍛え、そして精神面でも成長した。
だが自分で変わったと思うだけではダメだ。
結果を出さなければ、変わったと認められることはない。
だからヘルベルトは、『覇究祭』で皆を引っ張った。走り続ける己の背中を、級友達に見せることで。
頑張ってきたことへの答えが、マーロンへの二度目の勝利。
そして学年優勝という結果である。
結果を出したヘルベルトがやりたいこと、やらなければいけないと思っていることはいくつもある。
けれど今真っ先に、この気持ちと情熱をぶつけたいと思える人は、たった一人。
「彼女なら闘技場にいるよ」
「……そうだったのか」
「どこかで走り回っている誰かさんを、彼女はそこで待っている」
「――感謝するッ!」
それだけ言うと、ヘルベルトは駆けだした。
そして彼の向かう先には――。
「はあっ、はあっ、はあっ……」
「……ヘルベルト」
自分が探し続けていた人がいた。
ネル・フォン・フェルディナント。
自分がどれだけひどいことをしても見限らず、自分の婚約者で続けてくれた最愛の人。
既に愛想は尽かされているのかもしれない。
全てはもう遅いのかもしれない。
けれどそれでも、ヘルベルトはネルへと近付いていく。
やらない後悔よりも、やってする後悔だ。
そう自分を奮い立たせ、ヘルベルトは手を伸ばせば届くほどの距離まで近付いた。
そして……。
「ネル、俺はお前を――愛している。もう手遅れかもしれないが……気持ちが少しでも残っているのなら、婚約を解消しないでほしい。そして俺と共に、同じ道を歩んでほしい」
ヘルベルトは彼にしては珍しく、少しだけ曖昧で自信なさげな様子で、告白をするのだった――。
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