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ヒール


 初級時空魔法、アクセラレート。

 ヘルベルトが最も親しんできたこの時空魔法は、使えば使うだけ馴染んでいく。


 今では魔力球を作り、自分の肉体をその中に入れるという面倒な行程を経る必要もなくなっていた。

 自らの身体に直接アクセラレートをかけることができるようになったことで、以前のように無駄な魔力を使うこともなく、効率的に魔法を使うことができるようになっている。


「ぐうううっっ!?」


 マーロンがヘルベルトの攻撃を受ける。

 縦横無尽に、蛇のように右から左から飛びかかってくる斬撃を、マーロンは致命的な攻撃にだけカウンターを合わせる形で捌いていく。


 アクセラレートを習得してからは、三倍の速度を出すことで、ことスピードに関してはヘルベルトが優位という状態が続いていた。

 当時、未だダイエットに失敗していた時ですら、魔法を使っている間はマーロンに速度で勝っていたのだ。


 そして今のヘルベルトは既に完璧な細マッチョとなっており、しなやかな筋肉を身につけている。

 父を始めとするウンルー家から受け継いだ高スペックの肉体は、極限まで鍛え上げられるのだ。

 現在のヘルベルトは、時空魔法による加速をせずとも、剣速だけならマーロンに勝っている。


 更にそれを三倍にすれば、その差は歴然。

 閃く剣筋は、どれもヘルベルトのものばかりである。


 刃を潰されている模造刀とはいえ、当たり所が悪ければ打撲では済まずに骨折することもままある。

 けれどヘルベルトは一切の躊躇なく、思い切り剣をマーロンへと打ち付ける。


 ベギンッ!


 急所への攻撃を防ぐために前に出したマーロンの左腕から、鈍く嫌な音が聞こえてくる。

 骨折した腕が、明らかに人間の可動域を超えた方向へと曲がっている。

 ヘルベルトはその様子を見て――更に剣を振る。





「おいおいマジかよ……ヘルベルトの野郎、なんつう鬼畜だ。重傷人相手に、一切の情け容赦がねぇぞ」


 その様子に驚く観客。

 ステージのすぐ下には、『一騎打ち』に出場し敗れた選手達が試合の行く末を見守っている。

 その中には、ヘルベルトに一瞬のうちにやられたベックの姿もあった。


「いや、あれで正しいのだ」

「ん、誰――ジョゼ先輩!? 失礼致しましたッ!」


 ベックの隣にやってきたのは、この学院で強力な権力を持つ生徒会の一員であるジョゼ・フォン・スタインベックだった。

 彼は二回戦でマーロンに負けた選手だ。

 けれど既に従軍経験がある彼の実力は高く、その二回戦が実質の三位決定戦だったなどと言う人も多いほどに、彼とマーロンの戦いは熾烈を極めていた。


「そう言えばベック二回生は俺とマーロンの戦いを見ていなかったよな?」

「は、はい、お恥ずかしいことに気絶しておりまして……」

「であれば無理のないことだ。流石にあれの恐ろしさは、実際に見てみないとわからんからな」

「あれ、ですか……?」


 自分より下な人間には強く出て、自分より立場が上の人間にはペコペコする三下なベックは

 彼はジョゼの言っている通り、すぐにヘルベルトが手を抜かずに戦っている理由を知ることになった。


「ヒール!」


 マーロンがそう叫ぶと、彼の身体に淡い光が灯り出す。

 するとヘルベルトがつけたいくつもの傷達が、徐々に塞がり始めたのである。

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