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バトン


「ウィンドショット!」

「アースウィップ!」


 やって来る風の弾丸と、土の鞭。

 リャンルは迫ってくる攻撃をアースシールドで防ぐ。


 アースシールドは初級の魔法であり、飛んでくる中級魔法を完全に受けきれるだけの防御力はない。


 故に工夫を凝らす。

 壁に傾斜をつけて攻撃の方向を逸らす。

 完全に速度が出る前にぶつけて、威力を殺す。


 あらゆる手を使い、手を変え品を変えながら、なんとか攻撃を捌いていく。


 明らかに、視界が広く、そして明るくなり始めていた。

 雑木林が終わりに差し掛かっているのだ。


 林を抜ければ、そこから先に残っているのは直線だけ。

 最後に求められるのは、小細工無しの全力疾走。


 必死になって走らなければいけない。

 何かに全力を出して、歯を食いしばりながら必死にやって。

 そんなのはリャンルが一番嫌いなことのはずだった。


(身体が……重い)


 だというのに彼は今、走っている。

 常に周囲に目を走らせ、バテ気味のゴレラーを引っ張りながら、ただただ前へと進んでいる。


(なんでこんなことをやってるんだ。柄でもない)


 フッと自嘲しながら、リャンルは魔法を放つ。

 彼が向けたのは――フレイムランス。


 その美しいフォルムに憧れ。

 その使い手に憧れ。

 リャンルが必死になって覚えた魔法だ。


 フレイムランスは相手の防御を貫き、ダメージを与えた。

 呻き声を上げながら減速するB組の面々。


 これで実質、A組対C組の勝負になった。


 雑木林を抜けるところで、両者の距離はほとんどゼロになる。

 その時、後ろから声が聞こえてきた。


「ぐっ……悪あがきをっ!」


 悪あがき、か……。

 たしかにその通りだ、とリャンルは笑う。


 正攻法で勝てないから、策を巡らせることしか勝ち筋がなかった。

 今の自分達にできることを全てやりきってまで、リャンル達は勝とうとしている。


 なぜ、そこまでする必要があるのか。

 その理由は、言葉で表すのは難しい。


 けれどいくつか、わかることもある。


 それは――とにかくこのまま、ヘルベルトの出る意味がなくなってしまう『覇究祭』は、つまらないということだ。

 彼の『一騎打ち』の結果が、学年ごとの点数でなんの意味もなさないなどということがあっては、面白みに欠けるのだ。


「ラストスパートだ! 死んでも遅れを取るなよ!」

「――ああっ!」

「も、もちろんっ!」


 リャンル達は駆ける。

 既に前身は泥まみれで、足取りはおぼつかない。

 疲れはインドア派の彼らの限界を超えるほどに溜まっていて、魔力も底をつきかけている。

 だというのに、どうしてだろうか。

 身体の底から、力が溢れ出してくる。

 負けたくないという気持ちは、どんどん強くなっていく。


「アースバインド!」

「ウォーターウィップ!」

「フレイムアロー!」

「ファイアアロー!」


 魔法が四方を飛び交う。

 中には自分達に掠るものもあったし、相手に当たるものもあった。

 けれどもうそんなことを気にしている余裕はない。


 リャンル達とA組のグループ達の距離が、どんどんと縮まっていく。

 けれど彼らは後ろを見ることもなく、ゴールテープだけをジッと見つめていた。


「「「負けて……たまるかあああああああっっ!」」」


 駆ける、駆ける、駆ける。

 歯を食いしばりながら、風に無様に顔を引きつらせながら、それでも彼らは走り続けた。


 そして――ゴール。


 そのタイミングは、A組とほとんど同じタイミングだった。

 けれど先にゴールテープを切ったのは……リャンル達だった。


「C組! 一着はC組です!」


 その声を聞き、ガクッと地面に倒れそうになるリャンル達。


「はあっ、はあっ……勝てた、ね」

「ああ……」


 ゴレラーとアリラエは地面に座り込みながら笑う。

 けれどリャンルはまだ座らず、最後の体力を振り絞ってゆっくりと歩いて行く。

 ――自分達のことをゴールで待っていた、ヘルベルトの前へと。


「あとは……任せ、ました……」

「ああ、任せておけ! お前達の雄姿、たしかにこのヘルベルトが見届けた!」


 自分の憧れた男の声を聞き安心したリャンルは、フッと笑ってそのまま地面に倒れ込む。


 この『三騎駆け』で、点差は開かなかった。

 そして勝負は最終競技である『一騎打ち』へと続く。

 C組が学年優勝できるか否かは、ヘルベルトの双肩にかかっている――。

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