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もぐもぐ

「思ってたより引き離せてないな……」


 父母の参観が許されている『覇究祭』では昼食を家族と取る者も多かったが、マーロンはクラスに用意されているスペースで軽食を摂っていた。

 はむはむとレタスとハムを挟んだパンを口に入れている彼の隣には、イザベラが同じパンを食べている。そして二人の周囲には、彼らと同じものを食べているクラスメイト達の姿があった。


 皆が食べているのは、A組の団結を高めようということでイザベラが用意した軽食だ。

 内容自体はただの具を挟んだパンなのだが、その使っている素材も王族基準の最高峰のものであり、それを用意したのは王室御用達の料理人だった。

 マーロンなどは美味いパンとバクバク遠慮なく食べているが、実は一つが金貨数枚を超えるような超がつくほどの高級料理だったりする。


 皆が王女からの差し入れに歓喜しており、『覇究祭』も半分を過ぎたところだというのに未だ志気は衰えを見せてない。

 腕を高く振り上げながら、意気軒昂な様子だった。

 学年優勝するのは俺達だと、あちこちから息巻いている男女の声が聞こえてくる。

 しかしそんな中にあっても、熱に浮かされず真面目な顔をしている者達もいる。


「そうは言っても当初狙っていた学年一位の座には就いている。そこまで憂慮するようなことはないと思うが?」

「いや、そういうわけにもいかない。最後の『一騎打ち』までには、一位の座を揺るぎなくできるくらいにC組を引き離しておきたい」


 マーロンとイライザは、ジッと得点表を見つめていた。

 現状一年生の得点はA組が一位、それをわずかに下回るC組が二位。そこから大分点差が開いたところに他のクラスがいる。

 このまま順当にいけば、優勝争いをするのはA組とC組になるだろう。

 そして番狂わせが起きないだけの実力がこの二クラスにはあるということを、二人は知っていた。


「にしてもこれ、美味いな」

「そ、そうか……?」


 だが根を詰めてばかりいては疲れてしまう。

 マーロンは食事の方に意識を向け、しっかりと味わい始める。


「それならこれも食べてみてくれ」

「これは……?」


 イザベラが出したのは、今まで食べてきたものと比べれば若干不揃いになっているパンだ。

 レタスがパンからはみ出し、ハムの方は逆にずいぶんと小さい。


 はむり、とマーロンは言われたままにパンを食べる。

 素材は最高級品であり、そもそも具材を挟むだけだから創作の余地はない。


「美味しいか……?」

「え? うん、普通に美味しいけど……?」


 パクパクとマーロンがパンを食べ終えると、ホッと息を吐くイザベラ。

 マーロンがその意味に思いを巡らせるよりも早く、スッと一つの影が飛び出す。

 そこにいたのは、マーロンの幼なじみであり彼と同じく特待生枠で入学したヘレネだった。


「こ、こっちも食べてほしいな?」

「うん、いいけど」


 日々あり得ない量の鍛錬をこなしているマーロンは、細身ながらもその身体にみっちりと筋肉が詰まっている。

 エネルギー消費も多く、そこに育ち盛りという要素も手伝って、マーロンはヘレネにさあし出されたパンも軽く食べきってしまった。


「むむむ……」

「ほう……」


 バチバチと交わされる、稲妻のように鋭い視線。

 ヘレネとイザベラの間で繰り広げられているらしい見えない争いからはそっと目を背けながら、マーロンは少し離れた広場の一画へ目を向ける。


(どうやらお金を持っている立場ある人間というのは、考えというのも似てくるらしい)


 内心で苦笑しながら見つめるその視線の先では、ヘルベルト率いるC組が食事を摂っていた。

 そして彼らが食べているのは分厚いローストビーフを挟んだパンだ。


 ――明らかに『覇究祭』という場には似つかわしくないように見える、シェフがヘルベルトの隣に立っている。そしてそのすぐ側には、ドカンと居座る肉塊。


 シェフが肉をスッと切り分けパンに挟めば、ヘルベルトがそれを手に取り、クラスメイトに渡しながら何やら一言を添えている。


 ヘルベルトのそのパフォーマンスに彼らしいとひとしきり笑ってから、マーロンはふと気付いた。


(あれ、そういえば……ネルはどこにいるんだろう?)


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