一筋縄
『魔法射撃』が終わった時点での順位は、驚いたことに全学年を含めて一年C組がトップという結果となった。
全学年を通じた総合ポイントのトップをヘルベルトが獲得したこともたしかに大きい。
けれどいくら一人が優れていても、それだけでは勝てるほど甘くはないのが『覇究祭』だ。
C組をトップに押し上げたのは、ヘルベルト・フォン・ウンルーという存在そのものだった。
彼はシルフィ先生がこの学校に赴任してきて以来誰も壊すことのできなかった金のフリスビーを、この程度は造作もないとでも言いたげな様子で軽々と壊してみせた。
そしてヘルベルトはそれ以降も、魔法を使い次々と的を撃ち墜としていった。
その大きな背を見つめるC組の生徒達は、ヘルベルトが背中で自分達に語りかけていることがはっきりとわかった。
『俺はやってみせたぞ、貴様らはどうなのだ?』……と。
その背中を見て、発奮しない生徒はいなかった。
「俺だって!」
「私だって!」
次の種目が控えている生徒達が少々無理をし過ぎて倒れてしまうハプニングも起こったりしたが、皆が実力以上の力を発揮させることができた。
だからこその学院トップの成績である。
けれど繰り返すが、『覇究祭』は甘くない。
『覇究祭』第二種目は『柱割り』。
魔法の純粋な威力を競うこの競技においては、圧倒的なまでに才能が物を言う――。
「コンヴィクトソード!」
『柱割り』の概要は単純明快である。
ルールはたった一つ。
距離も問わない、手段も問わない。
魔法を使って、三本の柱をいかにして倒せるか。
ただそれだけが唯一にして絶対のルールだ。
柱はペンデュラムロックという素材でできた石柱だ。
この石材は衝撃に比較的脆く、衝撃を受ける度に表面が削れ、わずかに揺れる。
その様が振り子に似ていることから名付けられた、魔力を含有している石である。
硬度が高い分、複数回の威力の高い魔法をぶつけて倒すのが、『柱割り』の一般的な攻略法とされている。
最もポピュラーなのは、土魔法による石や砂の弾丸を使って削り倒すやり方だ。
競技はタイムアタック形式となっており、『魔法射撃』と同様に上の者からポイントが振り分けられる形となっている。
この種目で最も強い輝きを見せたのは、ヘルベルトがただ一人自らのライバルとして認めた男だった。
「――すうぅっ……」
一年A組の選抜メンバーである少年――マーロンはジッと目を瞑り、集中していた。
彼の近くには、その様子を見守るクラスメイト達が。
そして少し離れたところには、その様子を面白そうに見つめている他クラスの生徒達がいた。
無論その中には、腕を組みふんぞり返りながら、楽しそうな表情を浮かべているヘルベルトの姿もある。
「一年A組代表マーロン! 用意……始めっ!」
カッ!
競技が開始すると同時、マーロンは閉じていた瞳を見開いた。
その端正な顔を見て、ほぅとそこかしこから感嘆のため息が聞こえてくる。
だがマーロンはそんなことには欠片も意識を向けず、己の持つ剣を指でなぞった。
すると切っ先に光が宿り、刀身へ、柄へと光が薄く伸びていく。
まるで夜空を照らす灯台のような明るさで、剣のまばゆい光が会場を照らしていた。
「コンヴィクトソード!」
マーロンが剣を横に薙ぐ。
それに合わせて、刀身に宿った光が更に伸びていく。
まるでそれ自体が一つの刃となったかのような、鋭い白光。
稲光にも似た光が、柱を撫でていく。
一つ、二つ、三つ。
光は柱に遮られることなく、するりと抜けていく。
マーロンは剣を振り抜き……そのまま鞘に収める。
そしてくるりと振り返り、訝しげな顔をしている大会運営委員の司会の方を向いた。
「終わりましたよ」
彼がそう言うのと同時、柱が光が通った場所を境にして左右にズレていく。
まるで今になってようやく自分が斬られたことを理解したかのように、三柱はそのまま大きな地響きを立てながら真っ二つになっていった。
「マーロンの記録――3秒03!」
マーロンはふぅと小さく息を吐く。
そしてきょろきょろと周囲を見渡してから、持っていた剣をピッととある選手へと向けた。
切っ先を向けられた少年――ヘルベルトは、獰猛な笑みを浮かべる。
『僕もいるぞ』というマーロンのパフォーマンスに、ヘルベルトはこの大会が一筋縄ではいかないことを改めて理解するのだった――。
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