<< 前へ次へ >>  更新
99/100

16 ニャンニャンアーミー

 車両展示場をひと回りして、いろいろな種類の車両を「もう端から端まで」状態で購入した。


 だって、私たちには車の良し悪しなんて分からないし、職員さんの説明を聞いていると、何だかどれも良い物に思えて、「買うしかない!」ってなるよね?




 そうして、満を持して本日のメインイベントである、兵器区画へ移動する。


「ロボット……?」


 そこで私たちを出迎えたのは、傷だらけの大きな人型――といってもいいような巨大なロボットである。


 そのロボットは、頭部と左腕が大きく損傷していて、逆間接の脚部を折り畳んでいる状態なので正確な全長は分からないものの、おおよそで二十メートルはあるだろうか。


「あれは、今から約四百年前にこの国で召喚された勇者様が、その時に乗っておられたものです。勇者様はこの国の守護者として数々の伝説をお作りになり、最後は古竜の襲撃から命懸けでこの国を守って亡くなられた、と記録にはあります」


 巨大ロボットがある日本。

 男の子心が擽られて、素直に格好いいと思う反面、機械の苦手な私にはとても生きづらそうな世界だとも思う。


 そんなことを思いながらふとミーティアを見ると、儂ではないとばかりに首を横に振っていた。

 時期的、地理的、性格的に考えると、魔族領付近にいるという赤竜のことではないかと思う。

 当時のその竜が、仮にミーティアと同レベルくらいの戦闘能力だとすれば、単騎で撃退できただけでも相当なものだ。


「恥ずかしい話ですが、未だにあれに使われている技術がどういったものなのかは完全には解析できておりません。ですが、その過程で生まれたのが、この国の基盤を支える兵器産業なのです!」


 やはり売り込みが上手い。

 彼らの技術力がドワーフ族の中でも頭ひとつ以上抜けていて、古竜を退けた実績のある兵器を参考にして造っていると言われると、いやでも期待してしまう。

 現代の地球と比べても、SFチックな形状の車両や武器が多いように思えたのは、それが原因だったらしい。



「勇者様の鉄巨人の再現に当たって、一番の障害は出力の問題でした。かの鉄巨人は、我々には再現できない手法で膨大なエネルギーを生み出すことができていたようで、各部の動力や武装に供給していたようなのですが――」


 職員さんの説明は適当に聞き流して、私の想像を超えた様々な武器を見て回る。

 さすがに、専門的な話とか科学の話になると理解できないし。



 さておき、実弾を発射する銃は、現代の地球とそう大差がないように見える。

 人間が使う前提で、効率を追求すると、ある程度似たような物になってしまうのだろう。


 しかし、こっちの世界では、弾に様々な魔法を込められるようになっていて、それを用途によって使い分けることで様々な状況に対応できる。


 ただ、少々お高いのと、発射の衝撃で魔法が暴発することが多々あるそうなので、そういう用途なら最初から魔法専用の銃を使った方がいいらしい。


 その魔法の銃は、イメージ的にはレーザーを出すようなSFチックな銃で、各種属性が込められた魔石を使用して、その属性の攻撃をするそうだ。

 ただし、やはり値段がお高いのと、威力はそこそこなのだけれど、連射速度と、射程も二百メートルくらいしかないのが難点だった。

 そんなにワームに近づくのは危険すぎる。



 やはり、物理攻撃は全てを解決するのだ。

 特に、あんな感じのロボットに乗れば虫なんて怖くもなんともないのだけれど、いかんせんロボットの販売はしていないようだし、していても私に操縦できるとは思えない。


 ここで一番重要になるのは、「私でも使える」ということだ。

 できる人に任せればいいやと使い魔にやらせていたら、それができない状況だと詰むことを知った。

 その考えが駄目な訳ではないけれど、最低限の自衛できる力は確保しておかなければならないのだ。



 そういう意味では、引き金を引くだけで弾が飛び出る銃器は素晴らしい。


 私の手に伝わるのは、発射したときの反動だけ。

 骨や内臓を押し潰す感触でも、返り血の生暖かさでもない。

 中てるために観る必要があるけれど、それは近接攻撃でも同じことだし、反撃を受けない間合いなら、朔の力を借りることもできるだろう。



 銃の知識など皆無に等しいので、物理のみの物に限定して、いろいろな種類を買い込んでいく。


 ただ、車載用の大型の兵器などは、重量的には持ち上げられるのだけれど、人が手に持って運用することを考慮していないためか、どうにも使いづらい。

 台座とか何かに取り着けて運用することが前提の物は、そこを支点に持ち上げなければ歪んだり壊れたりの原因になるし、そこを持ては引き金に手が届かないなんてザラだった。


 それでもどうにか使えそうなものを選んで、来たるべき戦いに備える。


「ははは、どこかと戦争でもされるのですか?」


 職員さんの説明を受けつつ、使えそうと判断したものをやはり片っ端から購入していく。

 種子の収納容量はもちろん、お金にもまだまだ余裕がある。


 とはいえ、ここまで一気に買う個人客は珍しいのか、職員さんが冗談めかした様子で訪ねてきた。

 本気で言っているわけではないだろうし、咎められている様子でもない。

 そもそも、売却することで自分たちの立場が危うくなるような物は売ったりしないはずだ。

 今私が買っている物も、ほとんどが型落ちかモンキーモデルなのだろうし、それを承知の上で買っているのだ。


「虫と」

 しかし、これはやるかやられるかの真剣勝だ。

 私にとっては、戦争といっても過言ではない。



「ははは、そうでしたね。ではこちらなどどうでしょう?」


 いまだに冗談だと思っている職員さんに案内されて向かった先には、汎用性の低い物や特殊兵装などを展示してあるコーナーがあった。


 そして、お勧めされたのは火炎放射器だった。

 これは良い、買いだな――と思いつつも、他にも気になる物が目に留まった。


「これは?」

 腕甲に妙な装置が付いた、とにかく奇妙な物としかいえない物があった。

 防具のコーナーに置いてあったのなら気にも留めなかっただろう。

 とにかく、銃器の中にポツンと腕甲があるのは、場違い感が甚だしい。


「ああ、これは魔力や魔石を動力にして、高出力の魔力の刃を形成する武器です。勇者様の鉄巨人の装備のひとつに【レーザーブレード】なる物がありまして、それを参考に制作したのですが――」


 話を聞くと、この手甲は膨大な魔力を圧縮して、超高温の刃を生成する武器だそうだ。

 また、アタッチメントを付けることによって、様々な属性を付与することもできるらしい。


 分かりやすくいうと、人造の魔剣だろうか。


 しかし、本体価格こそ天然の魔剣に比べれば格段に安いものの、攻撃能力は消費する魔力に依存するため効果の一切が保証されていない。

 さらに、その威力は、同量の魔力消費なら天然物に遠く及ばない。

 はっきりいって研究開発段階の代物で、本当の意味では実用化に至っていない物である。


 そもそも、魔力の剣や槍を発生させる魔法は、特に珍しいものではない。


 現にリリーだって使える。


 そんな理由から、蒐集家すら見向きもしない不人気商品なのだとか。


 それでも、勇者の使った兵器を再現したいと、研究が続けられているのだそうだ。



「試してみていい?」

 しかし、そういった努力が詰まった物と聞くと、無性に試してみたくなる。


「はい、結構ですが……、大量の魔力を消費しますよ? マスターレベルの魔法使いでも、三十センチメートルほどの刃を一分も維持できないほどですよ?」


 随分と念の入った警告だけれど、精霊のように、存在の維持を魔力に依存しているならともかく、人間は魔力が枯渇しても昏倒する程度で済む――限界以上になれば別らしいけれど。


 職員さんは、純粋に客の心配をしているのか、それともこうやって言っておかなければゴネる客がいるのか、ここで疲れさせては売上げに影響するからなのか、あまり乗り気ではない様子。


 もっとも、私は普通の人間とは少し違う存在になっているので、魔力が枯渇すればどうなるのか私にも分からない。

 というか、私の魔力はゼロだったし、今は女子力になっている。

 意味が分からないけれど、これは女子力でも動作するのだろうか?


 何にせよ、これが私の女子力を枯渇させるような物なら、それはそれで優れた兵器だと思う。

 とにかく、大丈夫だとは思うけれど、女子力を流しすぎて爆発しても困るので、慎重で繊細な女子力操作が要求される。

 もう、何をいっているのか分からない。


 確か、マスターレベルというのが13で、アルのレベルがその十倍強と考えて――分からない!

 物理的な加減ならまだしも、魔力――女子力的な加減など、システムのサポートでもなければ難度が高すぎる。


 それを腕に装着してみて、それこそ巨大ロボに乗って針に糸を通すような感覚で、魔力――女子力を流すか流さないかという微妙な努力をしていると、一メートルほどの青白い刃が生成されて、周囲を眩く照らした。

 供給を止めると瞬時に消滅した。

 とりあえずは女子力でも使えるらしい。


「!? ……えっ?」


 職員さんの言葉が詰まった。

 その反応を見るに、少しやりすぎたのかもしれない。


 しかし、私には女子力を消費したような感覚は全くなく、いきなり想像以上に大きな刃が出たので、ちょっと驚いた。


「ユノにしてはよく調整できた方でしょうか……」


「ユノさんすごいです!」


「お主の能力を考えると曲芸レベルじゃな」


「努力の方向が間違ってるような気がするけどね」



「お、お見事です! とってもお似合いですよ? お嬢様方の美しさを際立たせるための光源にもなりますね!」


 職員さんも混乱してはいるようだけれど、客を逃がすまいと、すぐに取り繕う姿は正にプロフェッショナル。

 儲けのためなら多少の問題には目を瞑る。

 さすが商人、逞しい。


 光源はともかく、この魔力の刃には領域特有の感覚がないので、これで壊れなければ、武器として使えるかもしれない。


 許可を得て、もう一度慎重に女子力の刃を発生させて、朔の中にあった投擲用の剣を出して刃を通してみると、まるで融けたバターのように焼き切れた。


 女子力の熱量、とてもすごい。


 もちろん、装置の方は壊れていない。

 これでようやく素手で首を落とす作業とおさらばできるかもしれない。

 手刀は手応えを感じないからといっても気持ちの良いものではなかったので、これは非常に助かる。


「一番強いのを」

 しかし、こんなに繊細な力加減が必要な物を、毎度扱うのはつらい。

 なので、出力が欲しいということではなく、出力に耐えられる物が欲しい。



「ではこちらなどどうでしょうか? 保有魔力に定評のあるエルフですら発動できず、筋力に定評のあるドワーフでも振り回すのに難儀する重量ですが、お嬢様でしたらきっと!」


 なぜそんなものを作った?

 そして売っている?

 と、ツッコみたいところだけれど、あるなら文句は言うまい。



 職員さんに紹介されたのは、先ほどの物とは全く違って、独特な形状で――強いていうなら、ショーテルとかいう曲剣に似ているだろうか。

 厚みとか幅が全然違うけれど。


 刀身――というのだろうか。普通の武器でいえば刀身に当たる部位は、幅広で分厚い金属製の板状の物で、一般的な刀剣とは逆方向に弧を描いている。


 魔力の刃の発生装置は、その曲剣の刃の部分――弧の内側に、鋸の歯のように多数取り付けられている。

 そのひとつひとつは、ごく短い超高密度の魔力の刃を発生させるもので、それを密集させて、更に内側に向けて収束させることによって、威力を向上しているそうだ。


 さらに個性的なのが、普通の剣のように刀身の延長線上に柄があるのではなく、刀身の峰の部分の下端に近いところに切り欠きがあって、キャリーハンドルのようなグリップになっていることだ。

 あるいは、ナックルガードが刀身と一体になっているというべきか。


 恐らく、通常の形状だとグリップとの接続部が刀身の重量に耐えきれないのだろう。

 重量だけでいえば鈍器としても優秀そうだ。


 私も、持ち上げることはできても、勢いよく振り回そうとすると、慣性で身体が持っていかれそうになる。


 とはいえ、別に振り回して斬る類の武器ではないし、出力と慣れ次第でどうにかなりそうな気はする。


 肝心なのは、斬ったときに気持ち悪くならない近接武器という一点のみだ。



「勇者様の巨人の武器と同じコンセプトで、十分の一のサイズの物です。出力は供給さえできれば据え置き――とまではいきませんが、竜の鱗ですらも切り裂けることでしょう!」


「竜の鱗を舐めるなよ?」

「あ、試してみてもいいですか?」

「はい、もちろんですが、無理はしないでくださいね」


 ミーティアの反論を華麗にスルーして、職員さんに許可をもらって女子力を流す――と、先ほどと同じくらいの女子力では何の反応もない。


 徐々に女子力を流す量を増やしていくと、次第に根元の方から青白い光が灯り始める。


 流したのか流していないのか分からないレベルの女子力に、更に流したか流していないかレベルの女子力をプラスしていく――やはり女子力の調整が難しい。

 恐らく、力を抑えている状態の私の女子力からしても0.01%以下での調整で、さきの物よりは少しはマシか――やっぱり気のせいか? という程度の負担である。

 実際に運用するときには、魔石か秘石を使うべきだろうか。



「ユノ、ちょっと待ってください!」


 そんなことを考えながら出力を上げていると、全体の半分くらいの女子力の刀身が出現したところで、アイリスに止められた。


「ユノさん、ちょっと熱いです」


 そこでみんなの顔を見ると、アイリスとリリーの額に汗が滲んでいた。

 ミーティアとソフィアは平気そう。

 しかし、職員さんに至っては滝のような汗が流れていて、ダウン寸前だった。


 刃の温度が高すぎて、暖房状態になっていたようだ。



「……その刃の形状から【月光】という名前を付けていましたが、これではまるで太陽ですね……。この熱では月光はともかく、使用者が耐えられそうにありません……。誤算でしたね……」


 職員さんが息も絶え絶えに欠陥を認めた。


 ロボットで使うことが前提の武器を、そのまま人間用にするのは無理があったらしい。


 試運転も人間では起動できないので、機械を繋げて魔力を流しただけで、買い手なんていないと思っていたので、それ以上の実験や確認はしていなかったそうだ。


 とはいえ、私には普通に――繊細な力加減は必要だけれど使えそうな感じである。

 それに、ひとりのとき限定になりそうだけれど、出力全開にしていれば良い感じの虫除けにもなるかもしれない。


 購入決定だ。



 最終的に私用の物は、ハンドガン、サブマシンガン、アサルトライフル、対物ライフル、ガトリングガン、火炎放射器を各数種類に弾丸多数、そして件の月光を購入した。


 また、訓練やレジャー用に、みんなの分のハンドガンやライフルなども購入した。

 余暇ができれば、ハンティングやサバイバルゲームをするのもいいかもしれない。


 ソフィアも刀よりは熱で焼き切るレーザーブレード向きだと思うのだけれど、やはり刀は趣味で使っているとのことで拒否された。



 結局、車両や船舶も含めて結構な金額――衝動買いした戦車が高かったので、大金貨で五百枚、日本円換算で五十億円くらいになってしまったけれど、これで虫が出ても対処できるはずだ。


 もう何も怖くない。


◇◇◇


 私の買い物は終わったので、次はソフィアの刀を調達するために移動する。



 職員さんに紹介された工房は、アナグラでも有数の老舗だった。


 その店内の最奥、ひと際目立つところに、刀身が赤みがかった見事な刀が飾られていた。


 やるな、ソフィア。

 大当たりかもしれないよ。



 工房の親父さんが言うには、その刀は見た目の美しさだけでなく、ヒヒイロカネという希少金属を贅沢に使っていて、切れ味も耐久性も折り紙つきだということだ。

 親父さんの最高傑作らしい。



 ソフィアは、自身の勘が当たったと喜んでいたののだけれど、それも束の間のこと。

 親方が、

「この刀が欲しいなら、それに見合うだけの技を見せてもらおう」

 と言って、ひと(ふり)の刀を手渡してきた。


 そして、鼻息荒く試験に臨んだソフィアが、見事に不合格をもらって凹んでいた。


「お譲ちゃんの刀の腕では、儂の作った刀はまだ早いな。見込みはあるが――まあ、修行を積んで出直すんだな」

 見込み……?

 この人は一体何を――ああ、リップサービスかな。


「何でよー!? こんな(なまくら)じゃ本気を出せないのは当たり前じゃない!」


 ソフィアは不満そうだけれど、その出来の悪い刀は、そもそも刀線刃筋を見るための枷なのだろうから、身体能力に頼るところの大きいソフィアではお眼鏡に適わなかったのだろう。



 ソフィアの手から試験用の刀を取りあげて、ゆっくりと抜刀して正眼に構えて、そのまま納刀する。


 幼い頃に、母さんから主に棒術を習っていたので、その応用で使える武器については大体使えるのだけれど、刀の本格的な使い方は知らない。


 それでもソフィアよりは幾分マシ――いや、ただ振るだけなら、そうそう真似できない精度だと思う。



「ほう。これはなかなか。――よし、振ってみろ」


 私の技術には少し興味を持ったのか、親父さんにヒヒイロカネの刀を手渡された。

 ソフィアが「何でよー!?」と喚いているけれど気にしない。

 覚えたいなら後で教えてあげるので、今は大人しくしておいてほしい。


 今度は親父さんの目に見えるか見えないか程度の速度で抜刀すると、正眼に構えてから――どうしようか悩んだ末、ゆっくりと、スローモーションか太極拳かのように、ひととおりの基本動作を行ってから納刀する。


 単純なスピードだけならソフィアも充分に及第点だったはずなので、親父さんが見たいのはそういうところではない。

 刀の性能に見合った力を持つ人ではなく、刀の性能を余すことなく引き出せる人を求めているのだ。

 きっと。


 刀線刃筋といっても、ある程度の速度で振るえばそうシビアなものではない。

 多少ブレても、斬撃として成立するだけの幅の中にあればいいのだから。


 まあ、それを実戦で繰り返すと、刀が傷むと思うけれど。


 しかし、ソフィアのそれは「もう勢いだけで人は殺せるし、棍棒でもいいんじゃない?」状態だ。

 初めて会った時よりはマシになっているのかもしれないけれど、長年染みついた癖というのはなかなか抜けないものらしい。


 そして、私が親父さんに見せたのは、曲芸ベルの基本動作だ。

 私がやって見せた演武の速度だと、普通の人なら呼吸や心臓の鼓動で刀線刃筋がブレたりするのだけれど、私のそれは糸を引くように一直線。


 実戦ではさほど役には立たないけれど、親父さんが求めている最高レベルの技術ではないかと思う。


 とにかく、親父さんに見る目があるのであれば、私の基礎技術がどれだけのものなのか分かるはずだ。



「美しい――恐ろしささえ感じるほどに乱れがない。まるで、空気を切り裂いているようにすら見えた。いや、今でもそこが切れているのではないかとすら思う。人はスキル無しでもここまでの境地にまで到達できるのか――。くううっ、いいだろうっ!」


 親父さんは感動か口惜しさのあまり、涙まで流していた。

 少し大袈裟な気もするけれど、素直に売る気になったのは、スキル頼りの人ばかりで辟易していたのかもしれない。


 というか、親父さんの武器製作も、割とスキル頼りではないのだろうか?


 しかも、感動の度合いとは関係無く、しっかりお金は取られた。

 アイリス指名が数十回分、軽く豪邸が買えるくらいの出費だったけれど、迷宮で稼いだお金にはまだまだ余裕がある。


 そもそも、迷宮産の魔法の武器防具は更に高額で取引される――永続する魔法は存在しないけれど、効果時間を延ばすことはできるし、そうやって長く使いこまれた装備は新たな能力を獲得することもある。

 親父さんの刀は確かに見事な武器だけれど、攻撃力とか特殊能力という点で迷宮産装備に劣る。


 親父さんに限らず、人造の装備で天然――何だろう、この表現の理不尽さ? とにかく、迷宮産の装備を上回るのは難しい。

 私としては、性能よりも人の努力とか想いの詰まった物の方が好みだけれど、それは私に余裕があるからのことで、生死が装備にかかっている人には、そんなことはいっていられないのだろう。


 それでも、新たに造られた武器が真に優れた物であれば、迷宮産装備と同じく、特殊な能力を獲得することもあるらしい。

 それには恐ろしく長い年月か、死線を越え続ける必要があるけれど、不可能ではない。


 いうなれば、親父さんが造ったのは「準魔剣」だろうか。


 でも、これ、ソフィアの練習用なんです。とは言えない。


 それでも、せっかくなので、ソフィアもこの刀ももう少しマシになるように鍛えてあげようと思う。

<< 前へ次へ >>目次  更新