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04 主人公建築無双

 海竜を連れて人魚さんたちのところに戻ると、パニックを起こされるのは目に見えているので、適当なところで朔に取り込んでからお城を目指す。



 しばらくして、私たちがお城の最寄りの砂浜に戻ったところ、お城から海岸沿いに南に五百メートルほど行った所に、人魚さん用の住居が百戸近く完成していたのが見えた。


 もっとも、その外観が巨大な巻貝のようだったので、中に人魚さんの姿が見えなければそうだと気づかなかったかもしれない。


 もちろん、私たちが出発した時には無かったはずなので、この短時間でアルが造ったのだろう。

 人魚さんたちにできることには思えないので、ひとりでやったのだと思うけれど、チートにも限度というものがある。



 というか、デザインがメルヘンチックすぎる。


 そんな物でも造れてしまう、アルの必要以上に高い建築力に恐怖を覚えてしまう。


 人魚さんたちは、そんなお伽噺の挿絵のような家をとても気に入っているようで――それ自体はまあいいのだけれど、あれやこれやとアルに言い寄っていて、アルも鼻の下を伸ばしているのはどうなのだろう。


 これが彼女たちなりの自助努力なのだろうか?


 私たちが海竜を釣っていた間に、彼女たちは男を釣っていたのか?


 アルも家の次は何を作るつもりだったんだ?

 後で奥さんに報告しておくべきか。



「お、帰ったのか。首尾はどうだ?」

 私たちの姿を目にすると、そこはかとなく上機嫌なアルが話しかけてきた。


「そういう世界だし、不潔とまではいわないけれど、節操はなくさないようにね」

「え!? ちょ、誤解だって! 俺はただ家造ってただけ!」

「家庭を壊していた、の間違いでは?」

 私は軽く釘を刺しただけだけれど、アルを見るアイリスの目が怖い。


 アルにべったりくっついていた人魚さんたちも何かを感じ取ったようで、静かにアルから距離を取っていた。


 しかし、この流れだけを見ると、アイリスがアルに嫉妬しているように見える。

 誤解を与えないためにも、やはり奥さんたちに報告しておくことにしよう。


『アルフォンスにはもうひとつ頼みがあるんだけど。できるだけ急ぎで』

「ん? ああ、何だ? 何でも言ってくれ」

 旗色が悪いせいか、アルらしくもない安請け合いをしてしまう。


「この子飼うから。ハウス造って」

「ガウ」

 思わぬ形で言質が取れたところで、海竜を取り出す。

 人魚さんたちが予想どおりにパニックになったけれど、今回はソフィアが回り込んで逃げることを許さない。

 変なところで役に立つ魔王だ。

 あ、今は大魔王か。


「何で、何で犬猫拾うみたいにこんなの連れてくるの!?」

『人魚はよくて竜は駄目?』

 人魚さんだって魔物なのに……。


 むしろ、ここには人間の方が少ないのに。

 というか、体内に魔石の有無を基準にすると、人間はアルとアイリスだけになる。

 ミーティアとソフィアはもちろん、リリーもこっち側だ。

 将来的には、みんなこっち側になる気もする。


「影響力を考えろよ! 竜とか魔王とか、そんなに集めてどうすんの!?」

「影響力と言うが、こやつなど儂らからすると誤差のようなものじゃぞ?」

「その私たちも、ユノからみれば誤差でしかないのよ? 今更すぎない?」

「神様でもユノさんは止められません!」

「肩書で人を測るのは感心しませんね」

『ここが多くの種族が共存共栄できる地になればいいね』

 そして、この集中砲火である。


「くっ、味方がいねえ……。俺が間違ってるのか……!?」

 間違っていないと思う。

 人間同士でも3人集まれば派閥ができるというのに、それが異種族間でとなると、まとまることなど想像できない。


 そもそも、捕食者と被捕食者で共存共栄は無理があると思う。

 例外があるとすれば、動物園の猛獣と飼育員の関係だろうか。

 それも、しっかりした管理が必要だと思うけれど。


 とはいえ、思いのほかぱっと思いついたので、他にもあるかもしれない。


 もっとも、普通はそうだという話であって、そんなことにまで私が責任を負う必要は無い。

 むしろ、一応私は邪とはいえ神らしいので、直接的な加護や支配はするべきではない。

 というか、神とか関係無く面倒なのでしたくない。

 もちろん、神もやりたくない。



 とにかく、人魚さんたちに海竜の世話を任せて、海竜には彼女たちの居住地を守らせる。

 命令ではないので、従う従わないは自由だ。

 従わなかったからといって、ペナルティを与えるつもりはない。

 それでも一応問題は解決している上、新たな問題が発生するまで、私たちが何かをする必要も無い。


 そんな感じでまとまった。

 完璧だ。


◇◇◇


「人魚のことは想定外でしたが、海や海岸の掃除くらいは期待できそうですね。ですが、今はお城の方で働いてくれる人が欲しいですね」


「私はお風呂のクオリティを上げてほしい」


「これだけ広いとお掃除大変ですよね」


「儂、宝物庫が欲しい」


「私は暗室が欲しいわ。どの部屋も日当たりが良すぎて、日中は眩しすぎるわ」



 お風呂で汗を流してから再度集合して、みんなでここの問題点や要望を話し合う。


 なお、とても良いお湯でした。

 やはり、あそこに住もうか真剣に検討したい。


 とにかく、ここで出た要望をまとめて、アルが実現可能かどうかを判断する。

 可能なものについては、後日対応してくれることになった。


 ここが好きになれそうだ。



『クリスがホムンクルスを何体かくれるって言ってたから、食事や部屋の掃除くらいは何とかなりそうだけど』


「食事を作るための食材もありませんからね。お城や敷地の管理に人を雇えば、その分必要になる物資は増えますし、すぐにどうこうできる話ではありませんね」


「最初は地道にやるしかないさ。食料関係が自給自足できるだけの人手が集まれば、一気にいろいろできるようになるって」


 人手を増やすにも当座の食糧、それらの保管施設が必要になる。

 後々のことまで考えて、計画的にやるつもりなら、管理者や事務方も必要になってくるだろう。

 そして、それらのための食糧や保管庫、食料を自給自足するためにも初期投資が必要になる。

 こういうことは、専門家の意見を聞いてやるべきことなのでは?

 専門家、どこにいるの?


 アルは――専門家が別にいるような気がする。

 恐らく、こうやって悩まされているのもアル――王国の思惑どおりなのだろう。

 英雄、手強いなあ。


「当面、お城のことだけでもホムンクルスに頑張ってもらいましょう。それ以上は現実的に考えて難しいですね」


「慌てる必要はありませんよ」


 ひとまずは想定どおり、といった感じで、アルはとても満足そうだ。

 人魚さんや海竜は想定外だったと思うけれど、彼女たちの食糧問題も私たちに押しつけられると考えれば、アルにとってそう悪いことではないのだろう。

 海竜の食事は回収した半魚人の肉でしばらくはもつものの、その後は人魚さんたちだけで自分たちと海竜の食い扶持を稼げるとは到底思えないし。

 それくらいは私も何か考えておくべきだろうか。

 さすがに無理を押しつけるのも感じが悪いし。


『ユノが帝国の砦から助けた亜人はどうかな? 従順だったし、誘えば何人かは来るんじゃないかな?』


 良い案だと思うのだけれど、彼らの分の食糧はどうしよう?

 朔の中には食料になりそうな物のストックはそれほどなく、魔法の使用も禁止されているのでご飯も出せない。

 森に入れば多少の果実や動物はいると思うけれど、それで自給自足できるかは不明で、私たちの分もとなると、やはり何らかの先行投資が必要だろう。

 さきに回収した竜の骨を売って、作物の種とか苗とか家畜とかを仕入れるか?


 なお、分離に成功した天使の残骸はいっぱいあるのだけれど、さすがにそんなものを食べさせるわけにもいかない。


「攫ってくるんじゃなければいいんじゃないか? まあ、俺は他に仕事があるから手伝ってはあげられないけど」

 そんなことだろうとは思っていた。


『ついでに、魔族領での用事も前倒しすればいいんじゃないかと思うんだけど、魔族領の危険度ってどんなもの?』


「魔王の支配地域に入れば警戒も密になるけど、私の故郷はそこよりかなり離れているから大丈夫よ。ただ――」

「南方の山にいけ好かん赤竜がおるの。離れておっても、奴の縄張りを飛べば間違いなく捕捉されるじゃろうな」


「強いの?」


「儂と同等か少し上じゃな。まあ、お主と会う以前の話じゃがな。それよりも、若干あの公爵とも被る性格なのがのう……。節操無しの女好きじゃから、ユノは気をつけねばならんのう」


「面倒だなあ……」

 公爵の名が出ると全員の顔が曇る。

 あっちも早く処理したいものだ。


「どちらにせよ、ユノの回復待ちですね。それで、回復にはどのくらいかかりそうですか?」


『できれば8日くらいはほしいかな。天使の時みたいな無理をするならもっと――その倍くらいは必要かな。まあ、根拠のない勘に近いものだから、あまり当てにならないけど』


 8日というのは、能力を使っても私の外見や精神世界に悪影響が出ないと予想される日数だそうだ。

 お酒や食べ物を出すくらいならそこまでではないらしいけれど、出せば出した分だけ回復が遅れると言われると、自粛せざるを得ない。

 どちらにしても、私としてもせっかく残った人間性を失いたいとは思わないので、少なくとも本気を出すのは控えようと思う。


「じゃとしても、あれほど派手にやって十日もかからんとは、思ったより早いのう」


『普通じゃないからね。むしろ、この日数はボクの不手際によるところが大きいくらい』

 思っていても口に出さないのが優しさだと思うのだけれど、普通であろうがなかろうが、私は私でしかないので、気にしないことにした。

 それと、朔はよくやってくれていると思うので、これで懲りずにこれからも助けてほしい。



 公爵領への旅行は、天使に襲撃された場所から近い――というほど近くもないけれど、天使が哨戒していたりすれば見つかる可能性も高い。


 ソフィアの故郷にしても、ソフィアの故郷は赤竜の縄張りではないそうだけれど、赤竜の縄張りに接近せずに行くには結構迂回しなければいけないし、それでも赤竜と遭遇しない保証は無い。


 それは亜人さんたちのスカウトでも同じなのだけれど、先のものよりは可能性がかなり低い。

 ただし、8日という時間のためにリスクを冒すのは、正直微妙なところ。

 まあ、送っていった時は平気だったし、次も大丈夫なような気はするのだけれど。



 それに、アルの思惑どおりに、いつまでもここに縛られているわけにもいかない。

 全てが終われば引き籠るのもいいかもしれないけれど、そのためにも今は頑張るときなのだ。

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