15 邪神
翌日は、ミーティアとアル、そしてアイリスと一緒に最下層に向かった。
グレゴリーさんたちの選択次第になるけれど、何にしても、アルの貴族としての力が必要になるだろうし、真偽の確認にはミーティアに任せればいい。
アイリスは朔と一緒に問題点を洗い出して、現実的な解決手段を考えてくれる手筈になっている。
これこそ、適材適所である。
もちろん、私の役割は肉体労働だ。
アルの奥さんたちとテッドさん、リリーを除くみんなには、昨日のうちに大まかに状況を説明している。
これは私の独断ではなく、アイリスとアルと相談した上での決定である。
世の中には知らない方がいいこともあるのだ。
ひとまず、魔王とは和解した――のかどうかは分からないけれど、水には流した。
物理的にも。
ああやって希望を見せた以上、私と敵対しても得るものはないと理解しただろうし、もう無意味に暴れることはないと思う。
暴れても特に問題無いしね。
問題は、種子の情報――朔の能力の大半がバレることだ。
とはいえ、既にネタが割れた状況では、アルなら私抜きでもいつかは最深部に辿り着けるだろうし、私には他に目的がある以上、アルを見張り続けるのも現実的ではない。
私だけで対処する方法もなくはないけれど、思いつく範囲では皆殺し以外にないし、それがバレた場合にも信頼を失ってしまう。
何より、私の目的に反した行動になるので、それは本当に最後の手段だ。
とにかく、私にとっては協力者を失うことが一番の悪手なので、多少の能力バレに関しては諦めるしかない。
それにアルにバレても、王国にまでバレなければ被害は少ないはず。
◇◇◇
グレゴリーさんと研究員さんたちは、魔王に全面的に協力するという結論で一致していた。
だからなのかどうなのか、今日の魔王はとても大人しい。
むしろ、気持ち悪いくらいにニコニコしていて、昨日のことはもう根に持っていないように見える。
ということで、事前にアルと相談していたとおり、研究員さんたちは彼の領地で監視付きの軟禁状態にはなるものの、匿ってもらう方向で調整する。
外界とは完全に隔離された町に研究所を造って、その町と迷宮を転移装置で繋ぐ。
動力源は種子があるので問題にはならないし、迷宮からの脱走もできないようにも細工する。
当時の記憶のある人――特に、種子を見た人を外に放つわけにはいかないのだ。
気の毒ではあるけれど、彼らには一生その町で暮らしてもらう。
ただし、新しく生まれた子供や、記憶に残らないほど小さな子は除外する。
もちろん、機密となる情報を知らないままというのが条件になるけれど。
人口が最大でも数千程度の町なら、アルの自重無しチートとやらであれば、一か月もあれば完成するらしい。
最近のイケメンは料理以外にDIYもこなすらしい。
というか、日曜大工どころではないのだけれど?
すごいね、チート。
とはいえ、ここ最近は予定が立て込んでいるので、実際にはもう少しかかるそうだ。
半分くらいは私絡みのことらしいので、その点は本当に申し訳なく思う。
過労で倒れない程度に頑張ってもらいたい。
ということなので、準備ができ次第、逐次受け容れてもらうことにして、それまでは迷宮を拡張してそこで暮らしてもらう。
不便だとは思うけれど、私たちにもそこまで気にかける余裕は無い。
魔王については鎖の付けようがないので、私たちのことや余計なことを口外しないように釘を刺すに留める。
次の問題は、種子から新たに取り出した人が納得するかどうか。
協力したくない人に無理やりやらせても邪魔になるだけだろうし、だからといって自由にさせるわけにはいかない。
そういった人にはいくつか選択肢を用意するつもりだけれど、嘘を吐いて逃げ出す機会を窺う人や、自棄になって問題を起こす人もいるかもしれないと考えると、場合によっては見せしめが必要になる。
とはいえ、先のことはそのときに考えるしかないので、とりあえずグレゴリーさんたちのリストに従って、新たに10人を取り出す作業に入る。
「これはヤバい代物だなー。こんなもんが世に知れたら大惨事だなー。戦が始まる。キリッ」
「これが朔と同じ存在ですか? ――朔と違って、自我とか意思は無いんですね」
「儂のときは菊、今回は百合か。種子が芽吹き、そして咲き誇る。なるほど、言葉にすれば――いや、見た目までじゃと風情があるが……」
「私のときは蓮だったわ。ああいうのを本当の徒花っていうんじゃないかって思ったわ」
『最期を飾る花にはピッタリでしょ?』
「どんなに綺麗な花でも、食虫植物――いや、食人、食竜――」
「悪食ね」
「集中させてくれないかな?」
みんな――魔王までもが、私と種子とを交互に見て言いたい放題。
いいじゃないか、男が花を好きでも。
名前なんかの知識はなくても、見ているだけで癒されるのだから。
◇◇◇
「ふざけるなあ!」
本日最初のサルベージ対象となった研究員さんが激昂していた。
はて、今後のことを考えて、必要な順にと指示してリストを作らせたはずなのだけれど。
魔王の妹探しに協力させるという目的は、魔王に私の邪魔をさせないための餌であって、私に協力させるのはその傍ら――ということを考えれば、人手はいくらあっても足りない。
そのためにも有能な人材からサルベージして、説明の手間も含めて効率化を図ろうとしたのに、初っ端から躓くとは。
やはり、エリート研究員さんにはこの扱いは耐えられないのか?
「貴様――グレイ男爵家次期当主の私を軟禁するだと!? そんなことが許されると思っているのか!」
などと、グレゴリーさんたちの制止を振り切って、顔を真っ赤にして私の方へ向かってくるグレイ? 男爵の息子さん。
ややこしいな。
なお、今日はアイリスの指示でバケツを被って顔を隠しているので、莫迦にされていると思われるのは仕方がない。
私が素顔を晒すと面倒なことになるかもしれないと、朝から少々酷いことを言われて、アルまでもがそれに同意していたけれど、バケツを被っていても面倒ごとは起きている。
というか、バケツを被っていたからではないだろうか?
「親戚?」
とにかく、面倒なことだけれど確認しないわけにもいかない。
「いや、知らない。ってか、千年以上も前の人だろ? 今のうちとは関係無いし、今はグレイ男爵家なんて無い」
それはそうか。
「何を莫迦な――私を愚弄するなど、ただでは済まんぞ!」
と、存在しない家の次期当主さんは、アルに掌を向けて、口の中でモゴモゴと詠唱を始めた。
髪の毛は薄いのに、血の気の多いことだ。
「《詠唱隠匿》とは、随分と懐かしいスキルじゃのう。《無詠唱》も《詠唱短縮》もメジャーではなかった時代に、微妙に流行ったやつじゃな」
「うるさい、黙れ! 《爆ぜよ》《炎の竜》《火砕竜》! ――あれ?」
「? 詠唱も合ってるし、魔力も充分っぽいけど」
「魔法風すら発生しませんでしたね」
一応程度の警戒をしていたアイリスやアルは、魔法発動前後に発動者周辺に巻き起こる風――魔法風が発生しないことに、首を傾げている。
首を傾げたのはもうひとり、次期当主さんもだ。
『研究に攻撃魔法なんて必要無いだろうから、スキルを壊させてもらったよ』
問題を起こさせなくする方法その一。
攻撃や逃走に使用可能な魔法やスキルの破壊。
魔法やスキルは魂に根付いているものだったので、そこにちょいと手を入れれば簡単に取り除ける。
それでも、頑張れば再獲得は可能だと思うけれど。そこまで可能性を制限してしまうと、他のことでも役立たずになりそうだったし。
とにかく、それなりに自信はあったものの、上手く機能しているようで何よりだ。
「そんなことが――」
『さて、君にはいくつかの選択肢がある』
何かを言いかけた次期当主さんに構わず、朔が続ける。
どうせ大したことは言わないだろうし、良い判断だと思う。
『ひとつは種子の中に戻ること。もちろん、二度と外に出ることはできない。
ふたつ目は、素直に彼女に協力すること。ただし、軟禁は受け容れてもらう。
三つ目、記憶を消去した上で自由になる。
四つ目、ソフィアに許してもらえたなら、呪いくらいで勘弁しようか。
赦しが必要なのはボクたちじゃなくて、君の方だよ。
最後に、力尽くで意志を貫くこと。お薦めは2と最後のだよ。
そのどれもが嫌だというなら――そうだ、話は変わるけど、グレゴリーを人間に戻す方法って存在する?』
唐突といえる話題の転換に、何ともいえない沈黙が生まれる。
「解呪は可能ですが、魂の戻るべき肉体がないので……。回復魔法、再生魔法共にアンデッドが相手では効果がありません」
「可能性だけでいえば、解呪、再生、蘇生の順で行えば――でもこれ、理論だけで成功例はないからなあ。無理なんじゃないかなあ」
「アンデッド化は手軽にできる延命方法じゃが、代償は大きいのう。もしや、その男の身体を依代に使うのか?」
「魂は他人の身体には定着しないってのが定説なんだけど、お前には常識って通用しないしなあ」
『それでもいいなら楽なんだけど、家族に会わせてあげるのに骸骨や他人の身体じゃまずいでしょ?』
「できるのかよ!? いや、朔の口からそんな思いやりに満ちた言葉が出る方が驚きだ」
「そんなことが……! まさか……、また、家族と触れ合えるというのですか!?」
『ボクにだってそれくらいの機微は分かるさ。分かってても無視するのがボク。気づかない天然がユノ』
「胸を張って言うことではないですね……」
「あの、無いってことでいいのかな?」
みんなが一斉に話すものだから、話がまとまらないのだけれど?
「私を無視するなあ!」
この状況は、次期無職さんも不満だったらしい。
『無視してたわけじゃなくて、後回しにしただけなんだけど。それで、どうするか決めたの?』
「どうもこうもあるかあ! なぜグレイ男爵家次期当主である私が、こんな頭のおかしい小娘に頭を下げねばならぬ!? 道理に合わん! 私は私の好きにさせてもらう!」
これは見せしめにするしかないかな。
「ええと、グレイ殿? どの小娘のことを言っているのかは知りませんけど、そっちの小娘は魔王で、こっちの小娘は邪神だって分かってて言ってます?」
「え、この娘、邪神だったの!?」
魔王の顔が何ともいえない感じに歪む。
それと、邪神は私じゃなくて朔。
私は50%だけ。
というか、アルにはばれていたのか。
「何だ貴様は? 私を莫迦にするのもいい加減にしろ! どこの世界に売女のような魔王や、バケツを被った邪神がいるというのか!?」
「あ、あの、継ぐ家どころか帰る家もないのに、何をそんなに――って、そっちの小娘様は現王国の王族! てか、後ろ! ――ああ、花ってこういうこと!?」
「彼岸花……ですかね」
貴族の跡取りなんて肩書はどうでもいいのだけれど、優秀な研究者を潰すのはもったいない。
しかし、話が通じないのであれば、見せしめにするのが最も有効な利用方法か――と、彼岸花を模した領域で、じき人柱さんを捕らえる。
やりすぎてドン引きされないように、それでいて充分な恐怖を与えられる感じで――彼が内臓や虫や正体不明の生物にならないように、細心の注意を払って侵食する。
「あ、が? あああ! ああ、あっあ―――っ!」
人柱さん――じきに人間ではなくなるものが絶叫している。
まずは、うるさいので口を塞ぐ。
あっという間に口なし人間の出来上がり――食事はとりあえず臍からでも摂ってもらおうかな。
まだまだ序の口なのに、この時点でみんなドン引きしている。
やはり、大きく原形を損なうのはまずいみたい。
しかし、暴れられても迷惑なので手は要らない。
逃げ出そうとされても面倒なので、足も――といって、ミミズのようになるのは勘弁してほしい。
手足の機能を失うのは最低限に、あとは簡単に中身が飛び出さないように皮を強くすればいいだろうか?
「キモっ」
次期男爵ということで、てっきりジャガイモのようになると思っていたところが、まさかのヒトデになった。
人のものだった手足と頭部は、海にいる五芒星型のヒトデのように変質していて、私の指定どおりに手足としての機能を失っている。
しかし、身体の前面中央から、五芒星それぞれの頂点に向かって深い溝が出来ていて、そこには小さな人の手の形をした触手がいっぱい生えている。
人手が欲しいと思っていたのは確かだけれど、こんなキモイのはいらない。
「自分でやっておいて、それは酷いんじゃないか?」
『こんなはずじゃなかった』
「一歩間違えておれば、儂もこうなっておったのか……?」
『ミーティアは普通に殺すだけかな。これは見せしめだし』
「あのとんでもない気配が出てなかったんだけど?」
『領域と気配は別物。ユノのはボクのとは違う感じでヤバいよ』
何ともいえない雰囲気になっていたのだけれど、アルがツッコミを入れたことを切っ掛けに空気が動き出すした。
しかも、少しでも雰囲気を明るくしようと、わざとお笑いっぽくツッコミを入れてくれたのだろう。
気配りの達人か。
「それじゃあ、グレゴリーさんもやってみる?」
「おい、これの後でよく言えたな!? それに『こんなはずじゃなかった』って言ってなかったか!?」
「それを言ったのは朔」
『真っ当な回復手段があるならそれでよかったんだけどね。まあ、さっきのとは違う能力だから』
「それを元に戻せるなら、私に頼らなくても元に戻れるけどね」
それというのは、もちろん巨大ヒトデ人。
そういう意味では、種子の扱いを学ぶ良い教材になるのか?
仮にここの種子を使いこなせたとしても、こんなちっぽけな欠片では私に対抗はできないけれど。
というか、量より質の問題かな。
あれ? 結果オーライ? さすが私!
「「「申し訳ございません!」」」
どうするかを訊いているのに、突然土下座して謝罪するグレゴリーさんと研究員さんたち。
「ユノ様の指示に従わず、私怨を晴らすためにリストを作成しました! どうかお許しを!」
「我々に罪は無いとは申しませんが、多くの非人道的実験は奴の出世欲――野心で強行されたのです!」
「私たち平民出の者では逆らうこともできず……! 家族を守るために仕方なく……」
「お怒りはごもっともかと存じますが、今後はユノ様の命に従い、誠心誠意尽くすことを誓いますので、どうか――」
ツッコミどころが多くて、どこからツッコんでいいのか分からない。
『ボクらは正義の味方じゃないから、君たちの過去を責めるつもりはない。それと、尽くすのはボクらじゃなくて、こっちの魔王ソフィアに。
最後に、嘘を吐くのはこれで最後にしてね。面倒になったら全部壊すよ?』
「「「ははーーー」」」
見事な朔裁き――ではなく、私に過剰な敬称がつけられているとか、額が擦り切れるくらいに床に頭を擦りつけていることとか、そっちも注意してほしかった。
私が力や恐怖で支配するような人間だと思われているようで、世間体がよろしくない。
私自身はあまり気にしないけれど、リリーの教育によくない。
「それで、グレゴリーさんはどうするの?」
復讐なんてくだらないとは思うけれど、その考えを他人に押しつける気は無い。
むしろ、それで区切りをつけて前を向けるなら、それでいいのではないかとも思う。
片棒を担がされたと思うと面白くないものの、彼がグレゴリーさんたちの復讐対象ではなかったとしても結果は同じだろうし。
むしろ、今後嘘を吐くなと釘を刺せた分、儲けたともいえる。
「お願いします! 元の身体に戻れるなら、再び家族に会えるのなら、悪魔に――いや、邪神に魂を売っても構いません!」
おい、「お願いします」の後は要らないよね?
何だかとてもやりづらくなるのだけれど?
『任せろ!』
邪神がものすごく良い声で返事をした。
もう、朔に全て押しつけよう。
グレゴリーさんの足元から、領域でできたカーネーションの花を出現させて、すっぽりと彼を呑み込む。
花の種類に特に意味は無い。
強いていうなら、
取り込んだ時点で、どこに問題があるのかを探るために、肉体――骨と精神、魂を一旦分離する。
なるほど、魂にある器の情報を、肉体から骨に書き換えているだけのような感じか。実際にはもう少し複雑だけれど。
そして、肉体の情報を失っているから、人には戻せないのか。
まあ、私にはあまり関係無いけれど。
グレゴリーさんの魂と精神をちょっとだけ喰って、彼の情報を読み取る。
もちろん、肉体の情報は含まれていないのだけれど、彼の記憶や他の人の記憶――人と人の繋がりというか、魂の繋がりを辿っていけば、しっかりと残っている。
それを解析して、朔が肉体を再構築する。
年齢は呑み込まれた当時のままで、面倒なので傷病履歴などは無視して、文句のつけようのない健康体として創る。
もちろん、朔のやることなので、部品余りなんてことは起きない。
この腸、ちょうっと余った! ということはないのだ。
身体が完成すると、私が魂と精神を「えいっ」と身体に詰め込む。完全に合一させるとなぜか変質してしまうので、かなりガバガバに結びつける。
理屈は分からないけれど、これで手術は無事終了です。
見事な流れ作業である。
いきなり領域外に放り出すと、脳や心臓などに大きな負荷がかかる可能性があると思うので、徐々に領域を薄めて外界へと繋いでいく。
徐々に姿を見せる三十代くらいの細身の男性に、みんなの視線が集まる――あ、服を着せるのを忘れていた。
「ででんでんででん」
今更服を着せると失敗したと思われそうなので、未来からやってきたサイボーグ的な勢いで誤魔化す。
「誤魔化してないで、服くらい着せてやれよ」
誤魔化せていなかった。
これ以上の抵抗は無意味なので、素直にローブを纏わせる。
別に見たいものでもないし。
「本当に何でもありなんだな……」
口にはしないけれど、何でもはできない。
キモいのとかグロいのは無理。
なので、これも朔がいなければ成立していなかったかもしれない。
多少は免疫もできたと思うけれど、人体の中身、超キモい。
『その身体は限りなく君を再現してるけど、創ったのがユノだから、性能が数段上がってる。まあ、それ以外は普通の人間だから、死ぬまで好きに生きるといいよ』
問題が無いかなどとは訊かない。
生きる上では問題は無いし、ちょっとした日常生活には問題がある。
自覚無くゴリラのパワーを身につけたようなもので、慣れるまでは少し大変だろう。
久しぶりの生身の肉体と、漲る何かに戸惑いながらも喜びを隠しきれないグレゴリラさんに、種子から奥さんと娘さんを取り出して引き合わせる。
昨日取り出した研究員さんたちもそうだけれど、彼らの最後の記憶は、種子に呑み込まれるところで途切れている。
つまり、ここで目にするのは、突然チャンネルを変えられたテレビのようなものである。
いきなり痴女に抱きつかれているグレゴリーさんや、バケツを被った不審人物の前で正座しているグレゴリーさんの同僚を見せられている奥さんと娘さんには、状況がまるで飲み込めていないようだ。
蠢くヒトデ人も混沌を演出している。
タイミングが悪かっただろうか?
いや、魔王が空気を読めていないだけだと思いたい。
◇◇◇
「貴方たちがどういった経緯で研究をしていたのかは分かりません。当然、当時の王家にも責任はあるでしょう。ですが、現王家に連なる者として――」
アイリスが、凍りついた場をどうにかしようと、演説を始めた。
カリスマの差だろうか、魔王までもが聴き入っている。
「種子の危険性は身に染みて理解できたでしょう。今でこそ落ち着いていますが、それもこのユノの力があってこそ。これは人の手には余るものです。貴方たちには不自由を強いてしまいますが、この情報が悪意ある者に渡れば、世界の破滅に繋がるかもしれません」
朔がいくら真っ当なことを言っても、しょせんは可愛らしい猫の人形である。
そして、私は口下手だし、今はバケツを被っているので説得力はゼロ――いや、きっとマイナスだ。
しかし、それを差し引いても、アイリスの言葉の影響力は異常に思えた。
なぜだか分からないけれど、説得力が違っている。
王族とか巫女とかは、民衆を洗脳してしまうようなヤバい能力を持っているのかもしれない。