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11 燃える展開

 アイリスの告白の日以降、リリーとミーティアとの訓練が終わると、2、3日に1回ペースで教会に足を運んでは、アイリスとの仲を深めている。


 もちろん、毎回金貨20枚支払ってだ。

 稼ぎがそこそこ安定してきたので、無理のない範囲で通っている。


 少し無理めの魔物を、「偶然弱っている個体と遭遇した」と言って納品しても、「運が良いんですね」「日頃の行いが良いんですね」「気をつけてくださいね」で毎回済んでしまう。

 この世界の人は、疑うことを知らないのかと思うくらい、チェックがザルである。

 せめて、悪い人に騙されないように注意してほしいものだ。



 そんな感じで収入はかなり増えた。


 年収5,000万円どころか、それくらいなら1日で稼げる額だ。


 もっとも、あまりやりすぎるとまずいことになりかねないので、適度にアイリスのところに通えるくらいの額に抑えている。



 それに、収入以上に、本来冒険者たちが最もお金を使うであろう、装備品の購入やメンテナンス、道具類の購入にお金がかからないことが大きい。


 高性能な武具だと数百万から数千万、更に魔法の効果が付いていたりすると、軽く億単位で取引されるていらしい。


 しかし、私たちは、基本的に平服と素手と魔法で完結する。

 稼ぎに対する原価など、宿代とか食事代といった誤差レベルのものだ。


 なお、真偽のほどは分からないけれど、神器と呼ばれるレベルの武器は、相応しい使い手が使えば、山を砕いて海を割るそうだ。

 人間がミーティアに挑むなど自殺以外の何物でもないと思っていたけれど、そういうことができる人もいるのなら、チャンスはなくもないのだろうか。



 さておき、リリーはまだ訓練段階なので、真剣を持つにはまだ早い。

 ミーティアは、武器が無くても山くらいなら砕ける。

 私は呪いのせいで、使いたくても使えないのは言うまでもないだろう。


 また、生半可な攻撃では私やミーティアを傷付けることは不可能で、私たちの手合わせを間近で見続けているリリーも、防具の意義に懐疑的になってしまった。

 私たちの攻撃を食らえば、防具なんて着けていてもいなくても即死するだろうしね。


 安全を疎かにするのは良くないけれど、相手が弱いうちは全て避けるくらいのつもりで、緊張感を養うのもいいかもしれない。


 ただそれも、リリーのレベルが50を超えて、Cランクの狩場でも、無駄に素材を傷付けないように配慮した狩り――いや、収穫ができるまでに成長しているのでは望めない。

 リリーには素質があると聞いてはいたけれど、それを差し引いても子供の成長は早いものだ。


 というか、当初はここまでレベルを上げさせるつもりはなかった。

 レベルを上げさせたのは、生きる力を身につけさせるのが目的であって、戦士を作っているわけではないのだ。



 むしろ、戦闘などという殺伐としたものではなく、子供らしい楽しさを知ってもらいたい。


 そんな想いから、鬼ごっこと雪合戦を合わせたような遊びを提案して、時にはミーティアも交えて遊ぶようにしていた。


 もちろん、追われるのは私で、雪玉の代わりは魔法を使う。

 その途中で発見した魔物はボーナスで、私より先に倒すとご褒美がある。


 回避能力に自信がある私でも、システムのサポートが受けられないため、機動力に制限がある。

 なので、弾幕のように魔法を撃ち出されると、全てを避け切ることはできないし、奇策だとか展開次第では当たることもある。


 もちろん、本気を出せばその限りではないけれど、そんなことをしても大人げないし、私にとっても良い訓練になる。

 それに、私が本気を出すと、ミーティアも張り合おうとしてくるだろうし。


 普通の人には危険極まりない遊びだと思うけれど、私のレジストを貫通することはまずないし、そもそも、当てることを優先した、威力を抑えて速度とコントロールを重視した魔法なので、環境にも(※比較的)優しい。

 そんな工夫を自分で思いつくのは良い傾向だと思う。


 それに、褒められたりご褒美を貰うのが嬉しいのか、本気で向かってくるようになったのもまた良い傾向だ。


 ただひとつ問題を挙げるとすれば、レベルが上がりすぎるていることだろうか。


 この鬼ごっこは、魔物を倒すより遙かに効率が良い。

 リリーのレベルのほとんどは、この鬼ごっこで上がったのだ。


 何となくまずいかな――とは思いつつも、私に撫でられながら嬉しそうに尻尾を振っているリリーに、「この遊びはもうおしまい」とは言い出しにくい。


◇◇◇


 今は狩場も随分奥地へ移っていて、沼沢地の更に向こう、ギルドではC〜Bランクに指定されている狩場に足を踏み入れている。


 といっても、Bランクの魔物にはまだお目にかかったことがない。

 Bランクといえば、私が殺した双頭のイヌ――オルトロスとやらもBランクだった気がする。

 あの程度であれば、今のリリーの敵ではないと思う。


 とはいえ、Bランクの中でもそこから更に細かく分類されて、Bの中でも上位と下位は、危険度にかなりの差があるらしい。

 また、当然ながら個体差もあるので油断は禁物だ。


 中でも、【ネームド】といわれる固有名称をつけられた魔物の能力は、通常の個体とは天地の差があるのだとか。

 ミーティアが「銀竜」とか「銀」と色で呼ばれているのも、それに近いものだそうだ。



「それ、名前じゃなくて見たままでは?」


 恐らく、誰もがそう思うだろう。

 しかし、通常種の竜と古竜種を区別して、更には自身が古竜種の中でも特に力を持った特別な存在なのだと自慢気にアピールするミーティアに、水を差すほど野暮ではない。

 何より、クラスが「可愛い」になっている私に言われたくもないだろう。


◇◇◇


 その日もリリーと鬼ごっこに興じていると、遠目に、緑色の肌で、猪のような牙を生やした亜人さんの武装集団がいるのを見つけた。


 まだ距離があるので彼らはこちらに気づいていないけれど、私の目でも辛うじて――という距離では無理もない。


 しかし、リリーもその勘の良さで彼らの存在を発見して、ご褒美を貰うべく駆け出そうとしたので、慌てて止めた。



 確かに、人型ではあるものの、肌は緑で顔はガラの悪い猪っぽく、少なくとも人間には見えない。

 しかし、武装しているということは、会話ができる知性もあるかもしれない。 

 だとすれば、肌の色や容姿の優劣で差別するようなことは避けたい――リリーにはそんな大人になってほしくはない。


 しかし、相手が気づいていないのであれば、無駄な争いを避けるためにこの場を離れる――というのが最も正解に近い。

 別に彼らに用事があるわけでもないのだから。


 なのに、彼らは一直線にこちらに向かってくる。


 気づかれているわけではないと思う。


 恐らく、彼らの手にしている道具――魔物を探す魔法道具のせいだ。

 その高額さから広く普及している道具ではないけれど、私たちに反応するのは良いことではないのでもちろん対策はしていた。


 私の胸にできていた物は、取り除いても取り除いてもすぐに再発するものの、元より(くだん)の装置には反応しない。

 そして、ミーティアの物は、魔法による隠蔽で反応しなくなったはずだ。



 ちなみに、本来の魔石は白、黒、赤、青など、属性に応じた単色の物で、大きさ以外にも、その色味が深く輝きが強いほど高級な物になる。

 しかし、私から採れる物は、小ぶりではあるものの七色に輝く変わり種で、正確には魔石ではなく【神の秘石】といわれる超希少品――伝説の中の存在らしい。


 なぜそんな物が私から採れるのか?

 やはり、邪神――朔を飼っているからか?



 とにかく、伝説に謳われているその秘石の効果は、「何でも願いが叶う」というもの。

 魔石のように燃料になるとか、賢者の石のように卑金属を金などに変換する触媒とは、一線を画すレベルのものだ。


 もちろん、それを聞いた瞬間に、「家に帰りたい!」と願ったのは言うまでもない。その結果は今私がここにいることから察せられるとおり、願いは叶わなかったけれど。

 そのくせ、石だけはしっかりと消えた。

 何この役立たず?

 名前負けも甚だしい。



 忌々しい過去はさておき、そうすると、何が理由で捕捉されたのかが分からない。


 何にしても、ここを離れるという選択肢が有効なのは、気づかれる前の話である。

 気づかれた後で逃げても、それを覚えられていると、次の接触時には問答無用で敵と看做されるかもしれない。

 そうなってしまうと、もう弁明の機会は無いと思うべきだろう。

 逃げなくても警戒はされると思うけれど、逃げれば不審者として確定するのだ。


 それなら、幾分条件のマシな初遭遇時に頑張った方がいい。


 最善は最初から敵を作らないことであって、次善はお互いに妥協点を探ることである。

 それでも駄目なこともままあるけれど、最善を尽くした結果であればそれはそれで仕方ない。



 とにかく、リリーを動くもの全てに襲いかかるような、狂戦士にするわけにはいかない。

 両手を上げて戦う意思がないことを示して、彼らが接触してくるのを待つ。


 そうしていると、先方もこちらに気づいたのか、何やら仲間内で相談していたかと思うと、こちらにやって来るなり見事に包囲されてしまった。



 私たちを取り囲んだ緑の亜人さんは6人。


 武器の多くは鉄製ではあるものの、あまり状態は良くなさそう。

 防具も、あまり状態が良いとは言い難い――いや、お粗末な胸鎧や革鎧を身に纏っている。

 武器種は槍や棘付き棍棒など、中には大きな弓を担いでいる人もいるけれど、どう評価したものかは分からない。


 つい先ほどまで、彼らを獲物だと看做していたはずのリリーは、すっかり怯えて私の腰にしがみついている。

 獲物だと怖くはないけれど、人として見ると、まだ知らない人が怖い――といったところだろうか。



「こんにちは」


 とりあえず、挨拶してみる。

 本当は対話を持ちかけたかったのだけれど、今の私は無口キャラということで、どこまで話していいのか分からなかったので、それだけで終わってしまった。


「人間? 冒険者――いや、こんな軽装でこんな所にいるのは不自然だ。お前たちは何者だ?」


「針が指してたのはこいつらじゃないぞ! ――だが、こんな所に美女がいるわけもない。悪魔ではないのか!?」


「み、見てるだけで理性を失いそうだ……! も、もうヤッちゃっていいよな!?」


「気持ちは分かるが落ち着け! 我々は誇り高き村の戦士、今なすべきことを思い出せ!」


「しかし、こいつらが元凶ではないのか? あまりにも怪しすぎる」


 言葉は話せるようだけれど、身体的な構造上の問題なのか、くぐもったような感じの声で、非常に聞き取りづらい。



「何を言うとるのか良く分からんのう。こやつら魔物――【オーク】じゃし、狩ってもよいのではないか?」


 彼らが内輪揉めのようなことをしている間に、早くも待つのに飽きたミーティアが、物騒な提案をする。


 もちろん、それは彼らの耳にも届いていて、彼らの間で緊張が走る。

 先制攻撃してこなかったのは、野生の勘的なもので何か感じるところがあるからなのか、見た目に反して理性的な人たちなのか、それとも他に理由があるのか。


 個人的には、理性的に対話で解決できると嬉しいのだけれど。



 しかし、ギルドの魔物図鑑に、オークという魔物の記述があったのだけれど、確か、他種族を集団で襲っては、男は殺し、女は犯す残忍な種族だったか。


 個体での危険度はE、集団ではC〜B相当――そんなことが書いてあったように思う。


 正直、それほど危険な魔物には見えないし、容姿の醜悪さもどうにか許容範囲内。清潔にしてお洒落でもさせれば、愛嬌が出るかもしれない。


 それに、意思の疎通ができるなら、亜人も魔物も変わらないのではないかと思う。



「くっ、この忙しい時に――」


 しかし、彼らは何かに焦っていて、対話をする余裕も無いらしい。

 というか、私たちが目的ではなかったようなことも言っていた。


 その時、遠目に奇妙なものが見えた。


 体長は軽く十メートルを超える大蛇だ。

 しかも、6匹――いや、ひとつの胴に頭が6本あるように見える。

 この世界では、頭の数を増やすことが流行っていたりするのだろうか?

 正直、キモい。 



「【ガラハッド】、あそこだ!」


 私に遅れること数秒、彼らも奇妙なヘビに気づいた。


「ガラハッド、ここは俺に任せて先に行け! クソッ! もうあんな所まで!」


 焦るオークさん。


 もしかすると、例の道具で探していたのはアレなのだろうか?

 だとすると、私たちはそれを邪魔してしまい、今の状況はとても悪い――いや、まだ挽回できる状況だ。


 しかし、行動に移す前に確認をしておかなければならない。



「仲間?」


 ヘビを指差し、ミーティアに尋ねる。


「お主はまた喧嘩売っとるのか? 竜と蛇を――それより、知性の欠片も無いのと一緒にせんでくれ」


 ミーティアがものすごく不満そうな顔をする。

 仲間なら《竜殺し》が効くかと思ったのだけれど。



「倒す?」


 ヘビを指差したまま、リーダー格の――ガラハッドと呼ばれていたオークさんに目を向ける。


「何を言って……」


「戯言に付き合っている場合ではないぞ! 早く行け!」


「迷子かと思ったら狂人か、厄介な」


 ガラハッドと呼ばれたオークさん以外のオークさんたちが、好き勝手なことを言っている。

 しかし、この手の反応は織り込み済みなので、いちいち腹が立ったりはしない。


 むしろ、私たちを見て「よし、頼む!」と即答する方が心配になる。

 主に頭が。



 彼らの焦りようを見るに、あれは彼らの独占しようとする獲物ではなく、彼らには荷が重い相手であることが推測できる。


 なので、リリーの肩をポンポンと優しく叩く。

 ただの大きいだけの蛇なら、頭がいくつあってもリリーの敵ではないだろう。


 私の意図を察したリリーは、オークさんたちの包囲をするりと抜けて蛇へと駆け出す。

 賢い子だ。


 帰ってきたら、またご褒美をあげなければ。



「なっ!? アンタ鬼か!?」


 鬼とか悪魔とか、さっきから酷い言われようだけれど、聞き流す。


 知らない人から見れば、虐待に見えてもおかしくないことは認識している。


 子供対大蛇――言葉にすると、外道でしかない。



「あれ、結構えぐい毒持っとるぞ」


 ミーティアが、遠ざかるリリーを見送りながら、ポツリとそんなことを言う。

 そういうことは早く言ってよ。



 不要だとは思うけれど、念のために少し援護射撃でもしておこう。


 朔に向けて、(投擲用の武器を出してほしい)と念じると、スカートの裾からショートソードといわれる、刃渡り五十センチメートルほどの剣が4本出現して、地面に突き刺さる。


 これらはお金に余裕ができてから、町中の武器屋を巡って、投擲に向いた安い武器を買い漁った物だ。


 短剣や短槍ではなく、なぜ小剣なのか――まあ、(あた)れば何でもいいのだけれど、格好いいからという理由で、スカートの裾から出すのはどうかと思う。

 というか、どこが格好いいのかも分からない。



 本来、私や朔の領域内ならどこにでも出せるのだ。


 それを、ミーティアが「影から出し入れして、影魔法を装った方がよいぞ」と言うので従っているとはいえ、効率的にいうなら、(かざ)した掌から出せば拾う手間も省けるというのに。


 なのに、朔は『演出って大事だよね』と、まるで聞き入れてくれない。


 何のための演出なのか――とは思うものの、実際に私がスカートからいろいろと物を取り出す様子を、リリーが目をキラキラさせて見ているのを目にすると、頭ごなしに否定もできない。



 おっと、そんなことを考えている場合ではなかった。

 すぐに脇道に逸れるのは私の悪い癖だ。


 地面に突き刺さったショートソードを、ほんの少し屈んで引き抜くと、両手を使って素早く4本全てを投擲する。


 投げるに適した形ではなく、距離もあるので狙いに若干の誤差は出る。

 それでも、小剣は全てがヘビに命中すると、肉片やら血煙を上げながら、首の半数が吹き飛んで、胴にも大きな亀裂が入った。


 あれを素材だと考えると、価値を下げるような傷はご法度なのだけれど、あんな気持ちの悪いものを持って帰りたくないので、どうでもいい。



 大ダメージを受けたヘビは、首をビッタンビッタン地面に打ちつけのたうち回る。

 それに加えて、吹き飛ばされた部分の肉が泡立つように盛り上がっていて、どうにもこうにも気味の悪い光景が繰り広げられている。

 視力が良いのも、こういう時に困る。



「あれ、えぐい再生能力持っとるぞ」


 そして、またもやミーティアがそんなことを言う。

 だから先に言ってほしいと思っても、蛇の再生は止まらない。


 救いは、プラナリアのように、切断された首の方から身体が生えることがないことか――いや、それならそれで新手の養殖になるのか?

 何に使えるのかは知らないけれど。



 私の投擲が着弾するのとほぼ同時に、リリーが戦闘状態に入っていた。


 現在のリリーの主力は、《狐火》という、リリーの意思で自由に操れる炎を複数発生させる固有魔法である。


 リリーは、持ち前のスピードと幻術で、蛇を足止めしたり、攪乱したりして、動きが止まったり遅くなった頭の眼窩や口内に、《火矢》や《火槍》の集中砲火を浴びせている。

 そうして蛇が怯むと、高威力の《狐火》で追い打ちをかける。


 鬼ごっこで培った魔法のコントロールや、相手の行動を制限する使い方が活きているね。

 後で褒めてあげねば。



 《狐火》がヘビに接触すると、激しく燃え上がって、見事にその部分を炭化させる。


 私はグロいのが苦手なので、こうして傷口が見えなくなる攻撃は、正直羨ましい。

 しかも、炭化した部分は、なぜか上手く再生できない模様である。


 それを証明するように、私が投擲で吹き飛ばした首の再生はほぼ終わっているのに対して、リリーが丸焼きにした所はまだ再生に難航している。


 私の援護は……。

 いや、一度に相手にしなければいけない首の数が減っていた分くらいは援護になっていたはずだ。



 さておき、リリーにはまだ武器を持たせていないので、戦闘は魔法のみで行っている。

 一対一でも集団戦でも扱い方が難しいといわれる魔法だけれど、ヘビのような知性の無い魔物であれば、間合い操作や工夫次第で立ち回ることもできる。


 リリーの立ち回りは、私の間合い操作と、ミーティアの魔法理論が融合したスタイルである。

 《狐火》と幻術で相手を確実に追い込んでいく様子は、まだまだ発展途上ながらも、将来性に大きな期待を抱けるものだ。


 現状では、決め手が弱いことと、戦闘時間の長期化や消耗の大きさが次の課題になるだろうか。


 幻術のいくらかを体術で補うとか、もう少し身体ができてきたら、武器を持たせてみるか――。


 いや、一度に多くを望みすぎてもいけない。

 たかが十数日で巨大な魔物を完封するような戦い方ができるのだから、楽しく訓練することを優先しよう。



「すごい……! あんな子供がひとりで……」


「しかも完封しちまいそうだぞ!?」


「むしろ、ネコがネズミを甚振るようにも見える……」


「悪い夢でも見ているようだが……助けられたのか? あんな小さい子に?」


 オークさんたちは、私たちへの警戒も忘れて、リリーの戦闘風景に見入っていた。

 リリーは私が育てた――というつもりはないけれど、リリーの努力が認められているようで気分が良い。

 もっと称賛したまえ!



 そうこうするうちに、残る首は1本。


 蛇に既に戦意は無く、リリーを相手にというより、ただ生きるために足掻いている感じだ。

 問題の再生も、生命力とか魔力が尽きればできないらしく、リリーの勝利は時間の問題だった。


 やはり、知性も何もない魔物では、リリーの相手にはならないらしい。


 しかし、私の教えを忠実に守っているリリーは、確実に敵の息の根を止めるまで――息の根を止めてもなお油断することはない。


 残心、大事。


 リリーが気を抜くのは、私の下にいる間だけ――あれ? そう表現すると、ものすごく優秀な猟犬みたいだ。


 などと考えている間にヘビはこんがり焼き上がり、それと同時にリリーが倒れた。

誤字脱字等修正。

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