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09 初めての

誤字脱字等修正。

 その日は午後の訓練を早めに切り上げて、単身で教会を訪れていた。

 結構な額のお金が貯まったので、解呪を試してもらうためだ。




 変装を始めてから十日ほど。

 ギルドの適当すぎる営業のおかげもあって、収入が驚くほど激増していた。


 リリーの斃した獲物に加えて、Cランク冒険者なら問題にされないレベルの魔物の素材を交ぜたのだけれど、無駄な傷が一切無い素材――というか生体は、最低買取り価格の倍以上の価格で引取られた。

 単品の素材や魔石も、戦闘による損耗や死後の劣化が見られないと、相場よりもかなり高い値がついた。



 それらの割り増し分をすっかり忘れていたので、宿代を支払っても余りある――むしろ、稼ぎすぎたかと不安になったけれど、エリート冒険者さんたちが温かく祝福してくれたことを思えば、Cランクだとこのくらいは稼ぐのかもしれない。



 なので、様子を見ながら、徐々に格上とされる魔物の素材を交ぜていったところ、当然、収入は更に跳ね上がっていった。


 エリート冒険者さんたちも、私の稼ぎを横から確認すると、そのたびに賞賛してくれるし、不審がられている様子は全く無い。



 それでも、いくら不審がられていないといっても、ルーキーが荒稼ぎしていると、反感を買ったり、妬まれることにもなりかねない。


 そこで、折を見て、ほどほどに良いお酒を差し入れたりして、エリート冒険者さんたちとの交流を図ったりもした。

 実力者に取り入って、防波堤になってもらうための投資である。


 ミーティアには、「お主だけ飲むなどずるいではないか!」などと文句を言われたけれど、これも仕事なのだ。

 そして、ミーティアには、まだ飛ぶ可能性のある時間にお酒を飲ませるわけにはいかないのだ。



 また、エリート冒険者さんたちは、口と人相と頭は悪いけれど、気の良い人たちばかりだった。

 殺伐とした世界にあっても、強さだとか経済状況に余裕があると、心にも余裕が生まれるのだろう。


 そうして、何かにつけて冒険のコツや小ネタなどを惜しげもなく教えてくれて、それらはリリーの教育の役にも立っている。



 そんな感じで、変装してから全てが順風満帆である。

 今なら宝籤も当たるかもしれない。


 何より、いちいち「俺は男だ」と訂正しなくていいのは楽でいい。

 女装の効果を疑っていた自分が恥ずかしくなるほどだ。


◇◇◇


 さておき、都市のほぼ中央、貴族街区と平民街区の中間に建っているそれは、教会というより神殿といった方がしっくりくる、巨大で豪華な建物だ。

 よほど儲かっているのだろう。


 内部には、大病院のロビーのような空間が広がっていて、受付の背後には、料金表と、恰好よく、若しくは可愛らしく描かれた、神官さんや巫女さんの似顔絵と指名料が掲示されている。


 病院のような役割も兼ねているとは聞いていたけれど、こんな病院は見たことがない。

 というか、亜門さんから聞いた、特殊なお店にしか見えない。


 もちろん、アイリスさんの似顔絵もある。

 ピースサインをして可愛らしく微笑んでいる素敵な絵だけれど、立てられた指が金額を示しているようにしか見えない。

 私の心が汚れているのだろうか。



 自分でもよく分からない罪悪感と、多少の見栄を張って、金貨30枚をお布施として納めて、アイリスさんに取り次いでもらう。


 受付職員さんが、「アイリス様、指名入りましたー!」と大きな声を出すと、ロビーに集まったお客――患者さんの間から「おお!」という感嘆の声が漏れ、次いで「百合だ」「百合だね」「良い……」と聞こえてきた。


 物事を知らない私でも、「百合」が何の隠語かくらいは知っている。

 主に妹たちのおかげというか影響なのだけれど、何でもかんでもそこに結びつけるのは、恐らく彼らが頭か心に異常を抱えているからだろう。


 しかし、一旦そう意識させられてしまうと、何だか意味も無くドキドキしてしまう。

 この程度のことで心拍動が再開するとか、修行が足りないとしかいいようがない。



 ほどなくして通された部屋で、まず目についたのは、床に大きく描かれた魔法陣だ。

 次いで、その中央にある石造りのシンプルな寝台。


 その室内を燭台の灯りが薄く照らしていて、不気味に浮かび上がる魔法陣の様子から、解呪というより、解剖とか生贄にされそうな雰囲気がある。


 こんなサービスは頼んでいない。



「お待たせしました、ユノさん。寝台に横になって楽にしてくださいね」


 待ったというほど待ってはいないけれど、旅の時より華美な衣装に身を包んだアイリスさんが、ミントさんを伴って入室してきた。


 ここにいることからも分かるように、ミントさんと神殿騎士さんたちも、私がお金儲けに勤しんでいる間に帰還していた。

 それと同時に、アイリスさんの謹慎も解かれていたらしい。



 その後、恐らく私たちに対する監視役だと思うのだけれど、宿の仲居さんや出入りの業者さんに新しい顔が増えた。


 今のところはただ増えただけで、直接的な脅威は感じないけれど、勘の良い――良すぎるリリーが少々神経質になっているので、そのうちひとこと言っておいた方がいいかもしれない。



 儀式の準備が済むと、ミントさんも退出させられて、アイリスさんとふたりきりになった。


 表向きの理由は、《解呪》に成功した際、呪われていた装備品が外れることがあるそうで――つまり、私の場合は全裸になるということだ。


 実際のところ、アイリスさんには悪いけれど、《解呪》には大して期待はしていない。

 アイリスさんの能力を否定しているわけではなく、竜の禁呪をレジストする俺に、人間の魔法が効くのかという話である。

 賢者と大魔法使いは、人生を懸けた執念の勝利だったのだろう。


 もちろん、直接俺に触れた状態で、俺も可能な限りレジストしないように頑張れば効果は出やすくなると思う。

 しかし、万一効きすぎて、服だけでなく、朔や俺の半分にも《解呪》が及ぶとなると都合が悪い。

 これ以上縮んだり若返ったりは御免被る。

 上手くシステムにだけ繋がるようになればいいのだけれど、そんな都合の良い話を期待するほど無邪気ではない。



「では始めますので、目を閉じて楽にしていてください」


 アイリスさんに言われるまま目を閉じる。


「痛かったり、違和感があれば右手を上げて合図してくださいね」


 えっ?

 解呪って一体何をするの――と警戒するも、アイリスさんは囁くように、祈るように、謡うように詠唱しているだけ。


 もしかすると、詠唱が完了した途端に何か酷いことが起きるのかもしれない?

 しかし、魂が安らぐようなアイリスさんの歌声を間近で聴けるのなら、それくらいは致し方ない――と私でも思ってしまうくらいなのだから、悪霊が成仏したり呪いが解けたりしてしまうのも頷ける。



 そんな安らぎの時間も長くは続かず、詠唱が終わると、アイリスさんの荒い息遣いだけが室内に響く。

 短時間のことだったけれど、よほど体力とか魔力を使ったのだろう。


 残念ながら効果は無かったようだけれど――というか、もう終わったのだろうか?


 いや、終わったのだとすれば朔が教えてくれるはず。


 私は目を閉じているので周囲の様子など全く分からないけれど、朔は半径100メートルの範囲であれば全てを認識しているはずだし、だからこそ私もこんなに油断していられるのだ。



 それに、今では物理的手段を用いなくても、朔と意思疎通ができるようになっている。

 ミーティアと戦っていた時に何かの変化が起こったせいだと思うけれど、素直に喜んでいいのかは分からない。

 とはいえ、起きてしまったものは仕方ない。


 頭の片隅では「仕方がない」で済ませていいことではないと警鐘が鳴っているけれど、仕方がないものは仕方がないとしかいいようがない。

 どのみち、私には先のことなど見通せないし、見通せたところで器用に立ち回ることなどできないのだ。


 いつだって自分で決断して、自分にできることを精一杯するだけで、その時もそうしただけ。

 その結果であれば、どんなことも甘んじて受け入れるしかない。


 それで何か問題が起きても、私だけのことならそれでいい。

 妹たちのことも、妹たちの意思とは無関係に、私がそうしたいというだけ。

 妹たちのためなんて口が裂けても言うつもりはない。


 しかし、アイリスさんとの関係だけは、いまだにどうすればいいのか分からないままだ。

 特殊な事情もあって、恋愛なんて縁のないものだと諦めていたし、そもそも、恋愛感情自体にピンとこないけれど、アイリスさんの容姿、性格、生き方、それら全て好ましく思うのは事実である。

 やはり、それが恋愛感情なのかは分からないけれど、利用されてもいいやと思うくらいには好きだと思う。


 だからこそ、同時にあれもこれもとできない不器用な自分がもどかしい。


 努力して、それだけの能力を身につければ済む話なのだけれど――と思索に耽っていると、突然口を塞がれた。


 反射的に目を開けると、至近距離にアイリスさんの顔があった。

 どうやらキスされているらしい。

 なぜだ?



 突然のことにどう対処していいのか分からず、とりあえず右手を上げてみた。


 しかし、俺の唇を啄むことに夢中のアイリスさんには気づかれなかったようだ。

 仕方がないので左手も上げてみたけれど、やはり気づかれなかった。

 というかこれ、お手上げポーズだ。


 どうにかして気づいてもらおうと、上げた両手から電波でも送れないかと、朔とコミュニケーションを取る感じで念を送ってみる。

 初めてのキスが斬新すぎる。



「すみません」


 ヤバい。

 マジで手から声が出た。

 手が口ほどにものを言っちゃったよ。


 しかし、さすがにアイリスさんも気づいてくれたのか、ふたりの距離が開いて――再び口を塞がれて、今度は舌まで入れられて蹂躙された。


 認識していたのに避けられない攻撃――いや、口撃か。

 ある種の到達点ともいえる奥義を見た気がした。


 というか、舌の動きもまた奥義と呼べるものだった。

 私じゃなければヤバかったかもしれない。


◇◇◇


「呪われた王子様――いえ、お姫様を救うのは、お姫様の口付けかと思ったのですが」


 私の唇を存分に堪能して、正気に戻ったアイリスさんが、赤い顔のまま弁明する。

 内容が少しおかしいのは愛嬌か。

 愛嬌って何だ?


「ごめんなさい。解呪に失敗したこともそうですけど――その、ユノさんのお顔を見ていたら、ムラムラっときてつい出来心で――でも後悔はしていません! ご馳走様でした!」


 まだ正気には程遠かった。


 というか、朔も教えてくれてもいいものを――いや、人間の心の機微が分からないのであれば無理はないのか?



『トランス状態っぽかったし、儀式の一環なのかと思ってた』


 私の心を読んだわけではないと思うけれど、朔が止めなかった理由を口にした。


「仕事でこんなことしません! さっきのが初めてです!」


 アイリスさんはキッパリと否定したけれど、過去のことまで穿り返して責めるほど狭量ではないつもりだ。

 たとえ、教会がそういうお店であったとしてもだ。



 思いもしない事態に発展してしまったけれど、これもいい機会だと捉えよう。

 それに、主導権を取れないにしても、だらだらと流されるままだとか、アイリスさんのペースのままというのは、いろいろな意味で情けない。



「私はアイリスさんが好きです」


 寝台から体を起こして、アイリスさんの目を真っ直ぐに見て、少し気恥ずかしいけれど、正直な気持ちを口にする。


「私もユ――ユノさんのことが好きですよ」


 即答された。

 しかもとても良い笑顔で。

 とても後の言葉が続けにくい。


「ただ、それが恋愛感情なのかどうかは、経験が無いので分かりません」


 情けない話だけれど、これも本当のことだ。

 それに、好き嫌いでいえば、リリーやミーティアも好きの方に分類される。

 そして、私にはその差が分からない。


「それ以上に、私には目的があって、同時にあれもこれもできるほど器用ではありません」


 後者はただの言い訳だけれど――まあ、できないからと諦めずに、努力は続けよう。


「それも理解しているつもりです。ですから、ユノさんが日本に帰る、若しくは連絡を取ることについては、できる限り協力するつもりです」


 申出は有り難いのだけれど、他人の好意や厚意に慣れていないせいか、戸惑いの方が大きい。

 クリスさんたちには理解し難いものであっても理由があったし、彼らの道楽にも付き合っていることで、どうにか折り合いは付けているのだけれど、アイリスさんの方は何も分からない。


 結局、彼女の目的は何だったのだろう。

 利用されているならそれでも構わない。というか、その方が安心だし、

 目的のためにも役に立ってあげようと思う。


 とにかく、分からないのが怖い。

 この疑り深さは好き嫌いとは別のところにあって、私の弱さそのものでもある。


 最悪、ぶち壊してもいいものなら、こんなに悩まないのだけれど。



「戦闘では大してお役に立てませんが、交渉力や政治力でしたらお役に立てると思います」


 アイリスさんと、リリーやミーティアとの違いは、利用価値――決して彼女たちが無能だというわけではないけれど、アイリスさんの能力は俺たちに不足していて、今の俺に最も必要なものだ。

 どのみち、目的のことを考えればアイリスさんに頼るしかない。


 家に帰ることは諦めないけれど、覚悟を決めて、アイリスさんのこともきちんと受け止めよう。

 妹たちよ、お兄ちゃん、異世界で結婚することになるかもしれない。



「不束者? ですが、よろしくお願いします」


 できるだけ良い笑顔になるよう意識してそう言うと、アイリスさんも「こちらこそよろしくお願いします」と慎ましやかに返してくれたのだけれど、その目は若干興奮気味というか、情欲の炎が灯っているように見えた。


 私はいろいろな意味ですごい人と付き合うのかもしれない。


◇◇◇


「時間、余ってしまいましたね」


 再び落ち着いたアイリスさんが、砂時計に目をやって残り時間を確認する。


 60分コースで残り時間は半分。

 つまり、30分。



「延長しますか?」


 時間が余ったのに延長?

 何をするつもりなのか、とても気になるところだ。


「リリーやミーティアを宿で待たせていますから」

 しかし、リリーには言い訳できたとしても、ミーティアは《遠視》のスキルで覗き見しているはずなので、迂闊なことはできないのだ。



「そうですね。では、私の秘密を聞いていただけますか?」


 俺の返答に落胆した様子もなく、アイリスさんが残りの時間の使い方を提案する。


『そうしてくれると有り難いね』


 朔が先に答えてしまったけれど、俺にとっても願ってもないことだ。



「私の目的は、私の人生を私の手に取り戻すことでした」


 過去形なのが少し気になったものの、とりあえずは話の先を聞くことにする。


「私はこの世界で王族として生まれ、王位継承権は無いに等しいくらいに低くて、その割には様々な義務や制約はありましたが、概ね満たされた人生を送っていました。――婚約者の存在を知るまでは」


 穏やかに語っていたはずのアイリスさんの顔が、徐々に影を帯びていく。



「私の物心がつく前に決まっていたその相手は、私より7つ年上の公爵家の次男でした。肩書だけなら充分な人物なのですが、中身は救いようのないボンクラ――私との初顔合わせの時に、これ見よがしに女を連れてくるような下種でした」


 アイリスさんらしからぬ言葉が飛び出した。


「思慮に欠け、粗暴で、傲慢で、下品で、怠惰で――思い出すだけでも嫌になるあのボンクラのものになることだけは、どうしても耐えられませんでした」


 怖い。

 私が怒られているわけではないのに、怒気を隠しもしないアイリスさんの様子にタジタジになる。



「普通であれば逃げることなど叶わないものですが、幸いにも私には《神託》のスキルがありましたので、何とか父を――王を説得して出家して、ひとまずは婚約も白紙に戻すことができました。その後のことはご存知かと思いますが――」


 あまりご存知ではなかったのだけれど、アイリスさんの言っているのは、出家したにもかかわらず、アイリスさんを自分のものだと主張し続けるボンクラさんと、表向きは婚約が解消されているのをいいことに、それ以外のボンクラさんまで湧き始めたことだ。


 それは教会の業務に支障が出るほどだったそうで、事態を重くみた国王が深く考えずに出した条件のせいで、当時の死者、行方不明者の数が激増することになってしまった。


 今でこそ竜に挑戦する人の数は減ったものの、今でも元祖ボンクラさんは政治的駆け引きで撤回させようと頑張っているのだそうだ。


 その執念を別のところに向ければいいのに――むしろ死ねばいいのにと、アイリスさんが、それほどまでにボンクラさんを嫌っていることは理解できた。



「ある神託が下ったのを、チャンスだと思いました。かねてより集めていた協力者の力も借りて、今度こそ自由を手に入れようとしました」


 なぜか手を握られた。

 確かに私は自由に生きているとは思うけれど、アイリスさんの言っている「自由を手に入れる」とはこういう意味ではないはずだ。



「そこでユーリさんに出会いました。何となく気になって、仲良くなって、徐々に惹かれていく中で、遂には竜と戦ってまで私を勝ち取るなんて、これで落ちない女の子はいません!」


 アイリスさんがずいっと身を乗り出し、私との距離を詰める。

 握られたのではなく、捕まっていたようだ。



「こんなに都合の良い話は、お伽噺でもない限りあり得ないと思っていました。吊り橋効果なのかもしれませんが、実際に自身で体験してしまうと、もうどうにもなりません」


 アイリスさんに気圧されて、再び寝台に押し戻される。


 これが俎上の鯉――いや、俎上の恋か。

 などと現実逃避気味に考えていると、壁ドンならぬ寝台ドンのような体勢に追い詰められた。



「そして、ユーリさんの秘密を聞いて、この世界で初めて運命を信じようと思ってから、貴方のことしか考えられなくなりました」


 演技には見えない――むしろ、本気も本気、彼女の目に俺が獲物として映っているのがはっきりと分かる。



「私は、自由よりも、ユーリさんが欲しくなりました。そのために、地位や状況を利用して、ユーリさんとの繋がりを作りました」


 アイリスさんの熱い吐息が顔にかかる。


 僧職なのに肉食系とは。

 私も草食ではなく、物理的に人でも魔物でも食べる雑食系だけれど、その私がこのまま食べられてしまいそうな雰囲気だ。

 というか、普通は立場が逆なのではないだろうか?



「私がひとり先走っているのは自覚していますが、徐々にでも私を好きになってもらえればと」


『先走るっていうか、暴走してない?』


 アイリスさんのことは嫌いではない。

 しかし、今は朔の意見を支持したい。


 そういうことに興味が無いわけではないけれど、もっとこう――お互いの気持ちを確かめ合って、徐々に進んでいくものだと思います。



「私が自由に拘ったのは、自由を知っているからです」


 朔の言葉を華麗に聞き流して、アイリスさんはなおも続ける。


「前世ではただ流されている間に、恋もできないままに終わりましたから。今度の人生は精一杯生きようと」


 前世?

 一体何を――?



「私は転生者といわれる存在です。――私の前世は日本人でした」

 は?

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