第三十四話 班分け
周囲を徘徊するアンデッド達を避け、時に交戦し、ようやく〈嘆きの墓所〉の入り口へと辿り着いた。
「……いかにもってところだな」
今回探索する〈嘆きの墓所〉……そこは、鬱蒼と茂った森の奥にあった。
空は青黒い葉に覆われていて仄暗く、周囲には朽ちた墓石が不規則に立っている。
いるだけで気の滅入るような場所だった。
墓石の中央に虹色の渦が浮かんでいる。
お馴染みの〈
その地のマナの性質に沿った〈
墓場跡にアンデッド系の魔物の徘徊する〈
もっとも〈マジックワールド〉時代はそんなものただの演出で、フレーバーテキストくらいの意味しかなかったのだが。
「もう少し丁重にできなかったんですかねぇ……こんな〈
ルーチェが墓石を眺め、そう呟く。
「大昔は近くに村があったのかもしれないが、滅んだか……或いは、都市ラコリナに保護されて移住したんだろう」
高レベルの魔物の闊歩するこの地で、墓石を悠長に移すような真似は不可能だ。
それに仮にこの森に彷徨う霊魂の影響がなかったとしても、また別系統の〈
「〈嘆きの墓所〉の調査は四人前後の五つの班に分かれて行動してもらう。効率的な調査のために班ごとに別々の道筋で内部を進み奥で合流する」
ギルドから今回の指揮を任されているカロスが、俺達へと説明する。
手には地図の束があった。
〈
いわゆるランダム自動生成という奴だ。
事前の調査と、他の冒険者達がギルドに売った情報から、既に〈嘆きの墓所〉の大まかな道筋は割れているらしい。
後はこの〈嘆きの墓所〉が、まだできてから若い〈
調査が終わり次第、人海戦術で〈夢の主〉を叩く。
〈マジックワールド〉では同時に〈
それはこの世界でも変わらない。
ただ報酬を結局頭割りすることになるので、〈
こうした都市からの依頼でもなければ実入りが悪すぎる。
それに、本来〈夢の主〉は数頼みの戦いがあまり有効ではない。
HPやMPより、攻撃力と防御力に素早さ、多彩なスキルが厄介であることが多いからだ。
無論それでも人数が多いに越したことはないのだが、レベルの及ばないものを引き連れていっても死体の山を築く結果になる。
今回は回復役以外はB級以上の冒険者ばかりなので、数で格上の〈夢の主〉を倒すというより、少しでも安全かつ確実に処理するというのが目的であるため、また話が違ってくるのだが。
「〈嘆きの墓所〉の〈夢の主〉は骨の騎士……ナイトボーン。【Lv:65】だから、ここにいる冒険者が徒党を組めばまず負ける相手じゃない。一人で倒せる者だっているかもしれないな」
カロスの説明が続く。
ナイトボーンは、鎧を纏った真っ赤な骸骨だ。
二メートル以上の背丈を持ち、重い大剣の一撃をお見舞いしてくる。
火力が高いのが厄介だが、遠距離攻撃のスキルは持たないのでその点では事故の心配も少ない。
確かにロックセンチピードの存在進化体、デスアームドよりも一回りレベルが低い。
あちらは【Lv:75】であった。
集団で叩かずとも、俺とルーチェでもどうにかなりそうな相手だ。
「それでも、今この〈
まぁ、当然のことだ。
今回の
「五つの班分けについては、クラスとレベル、既存の人間関係からこちらで考えさせてもらった」
カロスが各班を発表し、ルートの記された地図を手渡していく。
俺の班はルーチェに僧侶のメアベル……そして、狩人のケルトだった。
B級の新人二人に回復役と、場数を踏んできた熟練のB級冒険者を配置するのはまぁ妥当である。
メアベルはともかく、よりによってケルトか、というのが本音だが。
「おいおいさっきのガキ共かよ。足を引っ張ってくれるんじゃねえぞ」
ケルトは言葉とは裏腹に、余裕ありげな笑みを浮かべている。
一度本性を言い当てた俺と組むことになったというのに、全く気にしている素振りがない。
立場と経験の差があるため、俺程度なんとでもできると思っているのかもしれない。
ルーチェがケルトを威嚇するように腕を構え、キッとケルトを睨みつけていた。
「わぁ、さっき話した人達で嬉しいんよ。エルマさんらは優しそうだし、ケルトさんも頼り甲斐があるし。ウチらの方針はケルトさんに任せるんよ」
メアベルがにこやかにそう口にする。
「よくわかってるじゃねえか小娘。まぁ、当たり前のことだよな。俺と行動する以上、俺の判断は絶対だ。異論は認めない。何せ〈
ケルトは満足げに口笛を吹き、カロスから渡された地図を手に〈
メアベルは向けられたケルトの背を、薄笑いを浮かべながら眺めていた。
「勿論ウチは、熟練者のケルトさんの言葉はしっかり聞かせてもらうんよ。さっきのお言葉の通りに、ケルトさんに使うMPはゆっくりゆっくり温存させてもらうんよ」
メアベルが小さくそう漏らした。
微かに笑って肩を揺らした後、ケルトの背を追い掛けていく。
ほ、本当にいい性格をしている……。
「……エルマさん、大丈夫なんでしょうか、あの子」
「……まぁ、こっちから裏切らなければ、滅多なことはされないだろう」
俺はルーチェの言葉にそう返す。
「師匠にお供させていただけて幸いです! やっぱりオレを認めてくれていたんですね!」
「だから君の師匠になった覚えはないのだが……。今の鎌装備の君は、他の班に押し付けるとただの足手纏いになってしまいかねないからね。押し付けるわけにはいかなかった」
ヒルデの大きな声に振り返れば、カロスがなかなか辛辣な言葉を彼女へぶつけていた。
「師匠、そう思っているのでしたら、あの、何か剣を……」
「戦力的には今回の依頼は余力があるからね。鎌装備で君が突っ走れなくなっていた方が丁度いい」
散々な評価である。
元々カロスは今回の