第八話 アンデッドの群れ
ついに問題のアンデッドの群れと……そのボスである、グールヘッドと衝突することになった。
群れのアンデッドは〈マジックワールド〉において最も一般的な魔物……ワイトばかりであった。
腐った死体に、穢れたマナが定着して魔物として復活したものだ。
三十近くいるが、ワイトばかりで別の魔物は存在しない。
そのことにひとまず安心した。
こっそり厄介な魔物が紛れ込んでいるなんて〈マジックワールド〉ではよくある話だからだ。
そしてボスのグールヘッド。
「ウオオオオオオオオオオ!」
緑色の巨大なゾンビの頭部から、足と太い腕が生えている。
コミカルともいえる外見だが、むしろその不格好さが嫌悪感と忌避感を煽る。
「……手にしている棍棒も、特に変わったアイテムじゃないな」
俺は一応グールヘッドの持つ棍棒を確認し、安堵していた。
たまにあの手の魔物が低確率でとんでもないレアアイテムを有していたりするのだ。
ゲームなら開発の茶目っ気で済むが、この世界ではそうもいかない。
そんな珍事で壊滅に追い込まれては堪ったものではない。
「よし、テイル、ポール! 儂の露払いとしてついてこい! 他の奴らは、適当にワイトの数を減らしておれ!」
ゴウタンはそう言うと、斧を構えて突撃していった。
赤魔術師のテイルと、ポールらしい剣士の男がその後に続く。
……ゴウタンの大雑把な指揮を見ていると、どうにも不安になる。
まあ、俺はとっとと、ワイトの数を減らさせてもらおう。
今のレベルでグールヘッドとなんてぶつかりたくはないし、ゴウタンの戦闘の邪魔になるだけだ。
「とっととあのデカ顔の取り巻きを片付けるぞ」
俺は周囲の冒険者へとそう言った。
「あ、あんな数の魔物に突っ込むのか? ワイトとは言え、死角を取られちまったら一撃もらうことになる。ゴウタンさんがいるから散らしてくれるかと思ってたのに、ボスに掛かりっきりになるつもりみたいだし……」
一人の冒険者が、言い辛そうに俺へとそう言った。
ああ、だからどうにも消極的に見えたのか……。
皆、魔物の群れを相手取るのは初めてなのだ。
それも外見の不気味なアンデッド系統、おまけに指揮官はロクな命令も残さず先に突撃していったとなれば、尻込みする気持ちもわかる。
こっちにいるのは、七人だな。
ただ、俺は独立して動きたい。
「三、三で別れて部隊を組むといい。互いの背を補えば、まずワイト相手に後れを取ることはない。俺は一人で動いて、敵の目を引いてそっちに向かうワイトの数を極力減らす。それでいいだろう」
「わ、わかった、俺達はそうする……」
俺の言葉に反対する冒険者はいなかった。
道中では他の奴もテイル同様に俺を見下していたようだったが、この場で俺が冷静なのを見て頼りたくなったのだろう。
「もし、不測の事態が起きそうになったらすぐに仲間に知らせろ。俺も手助けに入る」
俺達はワイトの群れへと突撃した。
俺は単独で動いたためすぐにワイトの群れに囲まれたが、元よりワイトは低レベルの魔物である。
それにアンデッド系統は動きが遅く、動作も大きい魔物が多い。
「〈パリィ〉! 〈パリィ〉!」
細かく動き回り、腕の一撃を剣で受け流し、相手の態勢を崩す。
ワイトの攻撃タイミングなんざ〈マジックワールド〉で散々予習済みだ。
そして俺には、〈マジックワールド〉での知識を十全に活かせる剣の技量もあった。
この世界では当主個人の力量が一族の権威に繋がる。
腐っても俺はエドヴァン伯爵家の元次期当主だったのだ。
ワイトの攻撃を捌く程度、なんてことはない。
「よし……想像以上に〈パリィ〉が活きている」
受け流しのスキル、〈パリィ〉。
強力ではあるが、敵の攻撃タイミングを完全に読み切る必要があるため、知識と技術がなければまともに使い熟せないスキルなのだ。
〈パリィ〉を完璧に使い熟せるかどうかだけでも、重騎士の評価は大きく変わる。
俺は〈パリィ〉でワイトの体勢を崩し、〈ディザーム〉の刃を叩き込み、敵の攻撃力を減少させる。
そしてその後はいつも通り、鎧で受け止めてのカウンターへと持っていく。
「〈城壁返し〉!」
ワイトの殴り掛かった右腕が爆ぜて、軽々吹き飛んでいく。
【経験値を11取得しました。】
【レベルが12から13へと上がりました。】
【スキルポイントを1取得しました。】
よし……!
この調子でどんどん上げていきたいところだ。
この数で、このレベルの相手は効率がいい。
そういう意味でも大当たりの依頼だった。
俺は次々に相手の攻撃を躱し、受け流し、〈城壁返し〉を決めていく。
あっという間に十近いワイトの残骸が出来上がっていた。
〈マジックワールド〉では相手とのレベル差が大きくなると一気に取得経験値量が渋くなるのだが、それでも充分レベルを上げることができた。
【経験値を4取得しました。】
【レベルが15から16へと上がりました。】
【スキルポイントを1取得しました。】
よしよし、順調だ。
これでスキルポイントは【5】溜まった。
次にこれを割り振るときが楽しみだ。
周りのワイトが減ったため、俺は〈ステータス〉を確認した。
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【エルマ・エドヴァン】
クラス:重騎士
Lv :16
HP :29/47
MP :14/19
攻撃力:13+5
防御力:34+5
魔法力:15
素早さ:15
【装備】
〈下級兵の剣〉
〈鉄の鎧〉
【特性スキル】
〈なし〉
【通常スキル】
〈城壁返し〉〈ディザーム〉
〈パリィ〉
【称号】
〈不動の者〉〈F級冒険者〉
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よしよし、順調に上がっている。
「あいつ、ワイトを引き付けるって言ってなかったか……? 一人で大半をぶっ倒してるぞ」
「重騎士だって話だったよな? なんであんな俊敏に捌いて……あんな馬鹿げた火力で吹き飛ばせるんだ?」
他の冒険者達が、俺の方を指差してひそひそと話しているのが聞こえてきた。
俺のステータスは、同格の冒険者と比べればとても速いとは言えない。
ただ、ワイトの方が動きが遅く大きくて読みやすいため、先回りして的確に動いている俺の動きが速く見えるのだろう。
〈城壁返し〉にしても、ただの雑魚狩りスキルである。
序盤の〈重鎧の誓い〉の防御力補正の影響が大きいために格好がついているだけだ。
「……頼りにはなるが、ワイトよりあいつが怖くなってきたよ」
おい、聞こえているぞ……。
とはいえ、正直、今の俺は重騎士の強みをほとんど引き出せていない状態なんだがな。
とっとともう少し自由にスキルポイントを振れるところまでレベルを持って行きたいものだ。