第七話 レイドクエスト
〈アンデッドの群れの討伐〉の
冒険者の数は、俺を合わせて丁度十人であった。
F級、E級冒険者の集まりだが、一人だけこの中にD級冒険者が紛れていた。
「今回の参加者にふざけた冒険者がおるとは聞いていたが……貴様だな、エルマ!」
青い硬そうな髭が特徴的な、壮年の男であった。
背には馬鹿でかい斧を背負っている。
彼が此度の
昇級審査権持ちで、かつ
「よくいるのだ! 貴様のような、ギルドと魔物を舐めておる新人がなァ! アランダエイプを、たかだか【Lv:12】で討伐しただって? 馬鹿も休み休み言うがいい! 貴様の根性、叩き直してくれるわい! 冒険者が、貴様が思っている程甘いものではないと教えてやるわい!」
審査役から顔を覚えられるように頑張らないと……とは思っていたが、いきなり目を付けられていた。
それもマイナスの方面に。
出だしから最悪だった。
これではちょっとやそっと好成績を出したとしても、ゴウタンから『気に喰わん!』と言われて落とされるようなヴィジョンしか見えない。
ただ、どうにかここでE級へ昇級してしまいたい。
馬鹿正直に実績を積んで昇級機会を得るには時間が掛かり過ぎる。
昇級審査権持ちと
ゴウタンから言い掛かりを付けられないレベルの実績を出すしかない。
何せE級冒険者になれなければ、制限のせいで〈重鎧の誓い〉のスキルを伸ばすことができないし、〈
「……昇級判断は、公正にお願いする」
俺が言うと、ゴウタンは太い眉毛をぴくぴくと揺らした。
「チッ、どこまでも生意気な奴だ」
しばらく進んだところで、一人の魔術師が細身の剣を掲げた。
羽帽子を被る、金髪の男だった。
「〈サーチ〉……敵の魔物の群れ、近づいています。規模、ざっと三十前後かと」
〈サーチ〉は周囲の生物の気配を確かめる魔法スキルだ。
低レベル帯で〈サーチ〉が手に入るスキルツリーは珍しい。
装備から察するに彼は赤魔術師だろう。
身体能力が高く、攻撃魔法から回復魔法、その他様々な補助魔法まで広く覚える。
〈サーチ〉は赤魔術師の専用スキルツリー〈赤魔法〉の【8】で手に入る。
「うむ、よくやってくれた、テイル」
赤魔術師はテイル、というらしい。
ゴウタンとは顔見知りのようだった。
「ええ、私は外れクラスと違って、優秀なスキルを幾つも有していますからね。E級への昇級承認、お願いしますよ」
テイルは俺へと目をやり、くすりと笑った。
目が合うと、わざとらしく馬鹿にしたように肩を竦める。
「君のギルドでの奇行……おっと、行動はちょっとした噂になっていたよ、エルマ君。重騎士なんだって? 残念だったね、そんな外れクラスを持って」
「いや、俺はこのクラスを気に入っている。心配してくれてどうも」
「ハッ、強がりを」
俺があしらうと、退屈そうに鼻を鳴らして俺から離れて行った。
……どっちかと言えば、赤魔術師の方がキツいクラスなんだがな。
典型的な器用貧乏型であるため、ソロで格下の〈
後はパーティーで欲しい役割が埋まらなかったときに、妥協として組み込むくらいか。
まあ、ゲーム程皆が効率的に動こうとするわけではない。
ピーキーで玄人好みなクラスより、器用貧乏でも扱いやすいクラスの方が優遇視されているのは当然のことか。
「一応確認しておくが、今回のアンデッドの群れを率いているのはグールヘッドであるという。奴は、D級冒険者である儂が狩る! 貴様らは距離を取り、雑魚を狩るのだぞ! 巻き込まれても、儂は庇わんぞ!」
ゴウタンが俺達へとそう叫んだ。
「グールヘッドか……」
巨大なグールの頭部のような外見の魔物だ。
D級冒険者の目安は大体【Lv:40】である。
対してグールヘッドは大体【Lv:30】程度。
グールヘッドは攻撃スキルを持っていない。
厄介なのは死体からゾンビを造り出す〈黄泉の息吹〉くらいで、動きも単調で読みやすい。
お供のアンデッドの群れも、恐らく最下級格の魔物だ。
順当に進めば、まず冒険者側が敗れることはないだろう。
……ただ、集まった十人の冒険者は、大半がF級冒険者であり、そもそも
ゴウタンもとても面倒見がいいタイプには見えないし、敵との接触直前だというのに指示も大雑把だ。
それに依頼や〈
デスペナルティは経験値減少どころじゃないんだ。
もっと万が一を想定すべきだろう。
俺はざっと周囲へ目をやり、冒険者達の顔触れを確かめる。
これまでの様子を見るに……この調子だと、全員生還して
そりゃゲームなら充分な数字だろうが、これは現実だ。
「ゴウタン、もう少し指示を具体的に詰めておいた方がいいんじゃないのか? 万が一に備えて、逃げるときの基準や合図、その際の各自の役割も詰めておいた方がいい」
「……な、なんだと? 貴様、新人の分際で儂に難癖をつけるつもりか!」
ゴウタンは俺の言葉を聞き、顔を赤くした。
ゴウタンの性格は承知の上だ。
聞き入れてもらえるかはわからないが、さすがに言っておくべきだと思ったのだ。
「アンデッドの群れについても、報告と全く同一だとも限らない。命を預かっている以上、最悪の状況には最低限備えておくべきではないのか? 下級冒険者の監督を任されている立場なんだろう?」
「ぐ……うぐ……き、貴様……!」
ゴウタンは黙って、歯を食いしばった。
すぐに言い返さないところを見るに、さすがに俺の言葉に理があるとは思ってくれているようだった。
ただ、引っ込みが付かないのだ。
ここは俺から折れておこう。
「俺はまだレベルも低いし、冒険者としての経験も未熟で不安なんだ。熟練者からしてみればいつも通りの簡単な依頼なんだろうが、俺達のために指示を頼む」
俺はそう言って頭を下げる。
ゴウタンは咳払いをした。
「フ、フン、子守りは性に合わんが、仕方あるま……」
「『俺達のため』だって? フフ、おいおい、巻き込むなよ。たかだか最下級アンデッド相手に怖がってるのは、外れクラスのエルマ君くらいだろうよ。直前で怖くなって、ゴウタンさんにぎゃーぎゃと泣きつくとはね」
テイルが口を挟んできた。
最悪のタイミングだった。
さっき軽く流されたのを根に持っていたらしい。
「必要ありませんよ、ゴウタンさん、そんなもの! 怖いなら、勝手に後方まで逃げてればいいんだよ。そうでしょう、ゴウタンさん?」
「む、むぅ……そ、そうだな、テイルよ」
ゴウタンがまごつきながらそう口にする。
こいつ……!
ゴウタンが自分の言葉を曲げられるように俺が作った逃げ道を、見事に塞いでいきやがった。
「もっとも、そんな覚悟でよく冒険者なんて志そうと思えたねぇ。私達の邪魔だから、次から
ゴウタンはテイルに流され、どこか後ろ髪を引かれるような様子で先へと進んでいった。
俺は頭を押さえ、溜め息を吐いた。
こうなった以上、もう俺が口出しすることは不可能だ。
元より他の冒険者からの信頼が薄い。
「余計なこと……起きなきゃいいんだけどな」
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