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第十五話 破壊神の一撃

「ジジジジジジジジジジジジジジィッ!」


 デスアームドが激しく全ての脚で、地面を打ち鳴らす。

 周囲一帯が揺れ、ルーチェが慌ててデスアームドから距離を取る。


「攻撃しましたけれどっ! あの、あのあの、これどうすればぁっ!」


「ルーチェ! 目前にある巨大な岩の周囲を回れ!」


「わ、わかりましたぁっ!」


 ルーチェが大急ぎで大岩目掛けて走る。


「ジジジジジジジジジジジッ!」


 デスアームドはその巨体をぐるりと回し、顔の方をルーチェへと向ける。

 俺からルーチェへとターゲットを移したのだ。


 ルーチェはデスアームドの逆鱗である尾へと斬り付けたのだ。

 そして、これまでデスアームドの相手をしていた俺は〈シールドバッシュ〉で一度距離を取ったため、関心が薄れた。

 攻撃対象の優先度が、デスアームドの中で入れ替わった。


「ジジジジジジジジジッ!」


 デスアームドは怒りを露にしつつ、ルーチェの姿を追う。

 デスアームドは速いが、尾の先にいたルーチェへと追い付くまでには、少しばかり時間が掛かる計算だった。


 俺はその間に岩の上を走り、目標の位置へと移動する。

 ここに立っていれば、デスアームドの決定的な隙を突くことができる。


「ルーチェが回り込んだ大岩の周長は、デスアームドの全長に等しい……」


 つまり、ルーチェが大岩の周囲を一周した際、目の前に再びデスアームドの逆鱗である尾が姿を現す。


「エ、エルマさん! ここからどうしたらっ……! こ、これっ! もうっ! 持ちそうにありませんっ!」


 再び俺の視界に入ったルーチェは、背をデスアームドの頭部に追われつつ、目前には奴の尾がある、という状態になっていた。


「奴の尾を踏んで、岩の上へと跳べ!」


「ひゃ、ひゃいっ!」


 俺の言葉に、ルーチェがデスアームドの尾を踏み付けた。


「ジイィイイイイッ!」


 デスアームドが憤怒の咆哮を上げる。

 ルーチェがまた、自身の触られたくない尾を斬り付けようとしていると思ったのだろう。

 強靭な顎を開き、一気に速度を上げてルーチェへと飛び掛かっていった。


 ルーチェは素早く宙へと跳び、そのまま〈曲芸歩術〉で大岩を昇って逃げていく。


 デスアームドの顎が、奴の尾へと突き刺さった。

 引き千切れた尾が宙を舞い、夥しい量の奴の体液が周囲へと飛び散る。


「ギギヂアアアアアアアアアアアアアッ!」


 デスアームドが大きな悲鳴を上げた。


「や、やや、やりましたよぅっ! やり遂げましたよぅ! エルマさん!」


 ルーチェが泣きそうな声を上げる。


 デスアームドは大ダメージを受けて尾が欠損した際……ほんの短い時間だが、スタン状態になって無防備になる。

 この瞬間は、あの奴の身体を守る、夥しい数の脚も機能しない。


「よくやったぞ、ルーチェ! 後は俺が終わらせる!」


 俺は〈ステータス〉を開いた。


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【スキルツリー】

[残りスキルポイント:14]

〈重鎧の誓い〉[34/100]

〈初級剣術〉[5/50]

〈燻り狂う牙〉[5/70]

―――――――――――――――――――


 スキルポイントを【10】……〈燻り狂う牙〉へと投下する。


 今までは攻撃特化クラスの真似事ができていた程度だったが、ここからは違う。

 重騎士の……〈マジックワールド〉のバランスブレイカーだった頃の力を引き出すことができる。


――――――――――――――――――――

【スキルツリー】

[残りスキルポイント:4]

〈重鎧の誓い〉[34/100]

〈初級剣術〉[5/50]

〈燻り狂う牙〉[15/70]【+10】

―――――――――――――――――――


【〈燻り狂う牙〉が[15/70]になったため、通常スキル〈不惜身命〉を取得しました。】


 来た……〈不惜身命〉!

 あまりにもリスクが大きいが、それに見合う爆発的な威力を付与してくれ……そして、かつ重騎士と強大なシナジーがある。

 重騎士の火力の根底を支えてくれるスキルだ。


――――――――――――――――――――

〈不惜身命〉【通常スキル】

 残りHPが50%以下の場合のみ発動できる。

 防御力を【0】にし、減少させた値だけ攻撃力を上昇させる。

 発動中はMPを継続的に消耗する。

――――――――――――――――――――


 この〈不惜身命〉は……装備を除いた自身の防御力を【0】にするが、減少させただけ攻撃力を上乗せしてくれる。


 ただ、使用状況が限られ、背負う莫大なリスクに対してのこの恩恵はかなり控え目だといえる。


 HPが50%以下の状態でしか使えないため、強敵相手だと一撃死のリスクを背負うことになる。

 その上、発動時にも解除にも大きな隙が生じるため、咄嗟に切り替えることができない。


 そして何より〈マジックワールド〉では、防御力は他のステータスよりかなり低めに設定されていることが多いのだ。

 攻撃特化クラスであれば、防御力は攻撃力の半分程度であることが多い。


 攻撃力50%アップ。

 悪い割合ではない。

 ただ、もっと安全で広い状況で使え、MPコストも軽いスキルがいくらでもある。

 故にあまり強力なスキルだとは〈マジックワールド〉初期では思われていなかった。


 だが、重騎士に限っては、防御力は攻撃力の倍である。

 このスキルを使った瞬間、実質的に攻撃力が三倍に膨れ上がる。


 おまけに恐ろしいことに、〈不惜身命〉は〈死線の暴竜〉の効果と重複する上に、〈不惜身命〉の攻撃力上昇が先に計算される。

 つまり攻撃力と防御力を足した値を、倍にした値が上昇後の攻撃力になるのだ。


 俺の今の攻撃力は【40】で、防御力は【73】だ。

 〈不惜身命〉と〈死線の暴竜〉の効果を適用すると、俺の攻撃力は【226】まで膨れ上がる。

 新しい黒鋼装備を合わせると【241】となる。


 この数値は成金ラーナの防御力を、クリティカルの防御半減効果無しで二周分貫通できる威力だ。

 ただでさえ大きい攻撃力だが、称号によるステータス強化も乗る。

 この無防備なスタン間に連撃を叩き込めば、デスアームドの高いHPも、頑強な装甲も、厄介な回復能力も関係ない。


 今の俺のステータスでは〈不惜身命〉をそう長くは維持できない。

 デスアームドの目前で〈不惜身命〉を発動し、かつそれから数秒の内に敵へと連撃をお見舞いすることができ、奴のスキルや蠢く脚に攻撃されない状況を作り出す必要があったのだ。

 厳しい条件ではあったが、ルーチェの奮闘のお陰で無事に達成することができた。


「〈不惜身命〉!」


 俺は剣を構えて叫ぶ。

 〈死線の暴竜〉の赤い輝きに、〈不惜身命〉の青白い輝きが交差する。


 乗っている岩塊を蹴り、デスアームドへと飛び込んだ。


「くらいやがれ!」


 無防備な奴の身体目掛けて、刃の一撃を振り下ろす。

 〈マジックワールド〉のバランスブレイカーの攻撃。

 デスアームドの頑強な甲殻に、一撃で大きな亀裂が走った。

 奴の巨体が攻撃の衝撃で跳ねる。


「ギヂジジジジジジジジジジジジジジジィッ!」


 デスアームドが悲鳴を上げる。

 返す二振り目の刃が、奴の命を絶った。

 デスアームドの身体が左右に分かたれる。


 重騎士の通常ステータスの数倍の超火力は、〈マジックワールド〉において重要視される格上殺しを、常識外れの域で達成できる。

 もっとも、この世界でこんな危なっかしい戦い方をするつもりはなかったが。


【経験値を4059取得しました。】

【レベルが54から62へと上がりました。】

【スキルポイントを8取得しました。】


 莫大な経験値が流れ込んでくる。


 思わぬ事故だったが、今度こそ終わった。

 存在進化した〈百足坑道〉の主を討伐することに成功した。

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