第七話 巨人の足音
「さて、目標はあとスマイル六体か。装備も整ったし、レベルも上がった。手早く狩ってしまいたいところだな」
「クライは別換算なんですね……」
ルーチェが苦笑しながらそう零す。
休憩を終えた俺とルーチェは、また〈
ひとまず、今のレベル帯にあった最低限の装備は整えることができた。
だが、できれば、もうワンランク上の装備を購入できる準備をしておきたいところだ。
あくまで黒鋼装備はお手軽に強いコスパのいい武器であって、今のレベル帯での最強格の武器とは言い難い。
武器は強ければ強いに越したことはない。
そのためにも金策に手を抜くわけにはいかない。
金銭が足りないからやりたいことができない、欲しいものが手に入らない、なんて場面に陥りたくはない。
特に特定のレア〈
〈死神の凶手〉の〈
この世界で買い逃せば、次の入手機会が何年後になるのかわかったものではない。
俺とルーチェが洞窟内を進んでいると、ズゥンと遠くから音が聞こえてきた。
「な、なんでしょう……? 巨大スマイルですかね?」
「そんな魔物はいないんだが……」
〈
ここの〈
討伐報酬金目当てで焦って動いた冒険者が〈
それに、ここの〈夢の主〉は、こんな音を立てないはずだ。
「ミスリルゴーレムか!? まさか、そんなレアモンスターが出てくるなんて……」
答え合わせをするように、ズゥンズゥンと、音が響く。
間違いない。
この音は……魔銀の巨人、ミスリルゴーレムの足音である。
ツイているにも程がある。
ミスリルゴーレムは〈百足坑道〉の超レアモンスターである。
スマイルに交じって出てくるクライの比ではない。
倒せば、強力な武器の素材となるミスリルをドロップしてくれる。
ただ、クライなんかとは比にならないくらい強い。
ここ〈百足坑道〉は動きの読みやすい敵が多いのだが、ミスリルゴーレムは一撃が重すぎる。
〈マジックワールド〉では低確率とレアアイテムに釣られて挑んだプレイヤーがこの手の魔物に全滅させられるのはよく笑い話にされる風物詩だったのだが、この世界でそんなことで死んではシャレにならない。
逃げるなら、探索を打ち切って逃げた方がいい。
他の魔物と戦っている最中に追いつかれたら一巻の終わりだ。
「ハイリスク、ハイリターンだな。どっちかでいえば、退いた方が賢明なんだろうが……」
正直、ミスリルは滅茶苦茶欲しい。
ファンタジーにおける強い金属の代表格のようなもので、その威光はこの世界でも変わらない。
ミスリル装備は、黒鋼装備とは比べ物にならない程に強力だ。
「悩むんだったら、行きましょう! アタシは臆病ですけれど……それだけだったら、冒険者なんてとっくに辞めてますよ!」
「いいのか?」
「エルマさんが悩むってことは、そっちの方が分があるってことですからね! 無謀だったらそもそも悩んでないだろうなって、アタシはそう信頼してますから!」
ルーチェがぐっとガッツポーズを取る。
「ルーチェ……!」
初対面のときはルーチェは気弱でお人好しな性格なのだろうと思っていたのだが、彼女はここぞという場面で勇敢だ。
「……それにぃ、多分アタシの幸運力で引き寄せたんだろうなぁって思うと、なんだか放置するのが申し訳なくって。ミスリルゴーレムって、多分アタシの〈豪運〉のせいですよね……?」
ルーチェがいじいじと、指先を合わせ、言い辛そうにそう口にした。
「ま、まあ……多分、そうだな……」
〈
入ってきた冒険者達に合わせて新しい魔物が発生するくらい、別に珍しいことでもなんでもない。
ミスリルゴーレムは、ルーチェの幸運力の高さが呼び出した魔物と考えて間違いないだろう。
通常であれば、こんなにあっさりエンカウントできるような魔物ではない。
「何にせよ……ルーチェがやる気なら、遠慮なく挑めるな。ミスリルの巨人狩りと行こうか」
俺は自身の手のひらを拳で打った。
ミスリルゴーレムはレベルがかなり高く、ステータスも強大だ。
タフで、攻撃力も高い。
あまり馬鹿正直に攻めるわけにはいかない。
「さて……まず、あいつと戦う地形を選定するか」
「地形ですか?」
「ああ、〈天使の玩具箱〉で成金ラーナを倒すときも、通路の幅が重要だっただろう?」
通路の幅が広すぎれば、成金ラーナに逃げられる。
しかし、狭すぎれば、成金ラーナを刺激せずに背後を取ることができなかった。
エンブリオ戦でも、天井の高さと奴の高度が同じだったからこそ、ルーチェが天井に足を付けて体勢を整え、奴を倒しきることができたのだ。
エンブリオがボス部屋にいれば天井が高すぎてあんな芸当はできなかっただろうし、そもそも広いボス部屋内を飛び回っていれば、奴にダメージを与える難易度も跳ね上がっていただろう。
強敵と戦う場合には、その場所の地形が重要になってくる。
「ここは洞窟系の〈