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第三話 スマイル

 岩塊の魔物スマイル。

 確かにマリスと同じ【Lv:45】だが、魔物と人間では全く違う。


 魔物にもよるが、人間の方がスキルが多く、知力も高く、武器やアイテムも扱える。

 特にスマイルは単調な動きしかしてこないので、同じレベルだからといって剣聖のマリスと同格には扱えない。


 俺は大きく前に出て、スマイルへと接近する。

 スマイルは俺を見つけると、勢いよく転がって速度を上昇させた。


 スマイルは基本的に〈加速〉で〈体当たり〉のダメージ上昇を狙ってくる。

 土魔法で攻撃してくることもあるが、さして威力は高くない。


「まずはスマイルが〈加速〉の助走で威力を上げ切る前に、接近して盾で凌ぐ……!」


 俺はスマイルの体当たりを盾で防ぎ、背後へ跳んで衝撃を逃がす。

 減速したスマイルへと素早く再度接近し、通路中央側に立ってスマイルを壁へと追い込む。

 〈影踏み〉で敵の移動範囲を潰した。


「こうして移動範囲を縛れば、〈加速〉で〈体当たり〉の威力底上げができなくなる」


 俺は言いながら、スマイルへと〈ディザーム〉の一撃を入れた。


 スマイルも俺も防御型で、互いに攻撃力が低い。

 〈加速〉を奪えば、泥仕合しかできない。

 そこに一撃〈ディザーム〉の攻撃力減少効果が入れば、後は盾で防いで上手く体捌きで衝撃を逃がせば、被ダメージはほとんどゼロへと持っていける。


 盾を用いた際の衝撃を逃がして被ダメージを抑える技術には、ちょっとしたコツがいる。

 タイミングはシビアであるし、攻撃パターンによっても異なる。

 ただ、この動作の練習は、前世でやり尽くしてきたことだ。

 伊達に〈マジックワールド〉で最強候補のプレイヤーだったわけではない。


「〈死線の暴竜〉で攻撃力底上げすれば楽なんだが、〈夢の穴(ダンジョン)〉探索でいきなりHPを捨てたくはないからな」


 特に今は〈死線の暴竜〉を補助できるスキルも少なく、防具の性能も決していいとは言えない。

 それに懸かっているのはデスペナルティではなく命である。

 慎重めに動いて丁度いいだろう。


 スマイルが俺の横を抜けて距離を稼ごうとするのを、初動を〈シールドバッシュ〉で叩いて動きを封じる。

 〈影踏み〉中とはいえ、二メートル前後は動かれてしまう。

 壁際から逃がさないのがベストだ。


「後はアタシがっ! 地道に削っていけばいいんですね!」


 ルーチェが〈曲芸歩術〉で壁を駆け、〈鉄石通し〉でスマイルを攻撃する。

 スマイルの体表に刃が走った。


 体勢を立て直したスマイルへと、素早く逆側から飛んできたルーチェが斬り掛かる。

 スマイルがどうにかこの状況を脱しようと悪足搔きで暴れ出した動きを、俺が盾で往なして完封していく。


 ルーチェの四度目の刃がスマイルを斬る。

 ついにスマイルの表情が変わり、岩塊はバラバラになった。


【経験値を689取得しました。】

【レベルが41から43へと上がりました。】

【スキルポイントを2取得しました。】


 よし……余裕だな。

 このペースなら、順調に進めば〈夢の主〉の攻略まで狙えるかもしれない。

 〈百足坑道〉の〈夢の主〉もいいアイテムを落としてくれる。


「ふう……〈ダイススラスト〉じゃなくてよかったんですよね?」


「ああ、〈ステータス〉の兼ね合いって奴だな。〈ダイススラスト〉で六を引いても、ギリギリ一撃では倒せないんだ。それなら普通に殴った方が安定する。ルーチェの通常攻撃でスマイルを倒すのに四発といったところだからな」


 どうせ〈ダイススラスト〉で当たりを引いても二発必要なら、全部普通に殴ってしまった方がいい。


「そうですね……〈ダイススラスト〉は、二回に一回くらいは六を外しますし……」


 六分の一とはいったい……?

 さすがにそこまで極端に変わるとは思えないので、恐らく六が出る確率は現時点で【40%】くらいだとは思うが。

 いや、それでも充分おかしいのだが。


「土属性の魔石と……あっ! ちゃんとありますようっ! ここに来る前に、〈豪運〉を伸ばして〈幸福の天使〉を得ていた甲斐がありました!」


 ルーチェが声を弾ませて言い、スマイルの残骸から一本のナイフを取り出した。

 黒い輝きを帯びている。


 いきなりドロップ……それもナイフとは。


――――――――――――――――――――

〈黒鋼ナイフ〉《推奨装備Lv:45》

【攻撃力:+13】

【市場価値:四百三十万ゴルド】

 黒鋼のナイフ。

 飾り気のない性能だが、比較的入手しやすいため、黒鋼装備の冒険者は多い。

 黒鋼以上か以下かは、装備の質の目安の一つとなる。

――――――――――――――――――――


「四百万!? てっ、丁寧に扱わないと……! 雑に握っちゃいました!」


 ルーチェがそうっと刃を握り、俺へと手渡そうとする。


「こんなにあっさり四百万のナイフが手に入るなんて……」


「いや、ルーチェが装備しておくべきだ。その推奨レベルなら扱えないことはないだろうし、〈鉄石通し〉よりずっとダメージが通りやすいはずだ」


 ここの魔物は防御力が高めであるため〈鉄石通し〉が有効であるとはいえ、成金ラーナほど極端に防御力が高いわけでもない。

 そもそも装備の質が違い過ぎる。

 大人しく替えておいた方がいい。

 〈黒鋼ナイフ〉なら、スマイルを倒すのに三発もあれば充分だ。


「い、いいんですかぁ? こんな高価なアイテム、アタシが使っちゃって……!」


 ルーチェが興奮気味にナイフを振り回す。


 アイテムの価値でいえば、〈天使の玩具箱〉で俺達は六千万ゴルド分ほど稼いだのだ。

 とりあえずの繋ぎとはいえ、むしろ四百万ゴルドの武器を使わせているのが申し訳ないくらいだ。


 ……しかし、本当にルーチェの〈豪運〉は強力だ。

 黒鋼装備はドロップしやすいため、ルーチェの幸運力ならまあ一発で手に入るだろうと考えていた。


 ただ、いきなりピンポイントでナイフが手に入るとは思わなかった。

 これで〈百足坑道〉の探索が一気に楽になった。


 スマイルからどのクラス向けの装備がドロップするかは幸運力とは関係ないはずだが、もしかするとゲームから現実世界に置き換わる過程で、幸運力の対象範囲が拡大されているのではなかろうか。

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