第三話 城壁レベリング
翌日、俺は都市ロンダルムの近隣にある森へと来ていた。
ここには手頃な強さの魔物が出没すると事前に確認していた。
なるべく街に近い浅い場所を徘徊しておけば、万が一の事故が起きることもないだろう。
こっちは【Lv:1】なので、その手の事故は何としてでも回避する必要がある。
まずは低レベル帯を抜けないと話にならない。
城壁作戦でレベルを上げさせてもらおう。
「ゲコッ! ゲコッ!」
しばらく森を歩いていると、早速魔物が現れた。
青いぬめぬめとした身体を持つ、全長一メートル程度の魔物……ラーナである。
鳴き声から察する通り、カエルをモチーフとした化け物だ。
「〈ステータス〉」
俺は魔物へと剣を向ける。
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魔物:ラーナ
Lv :2
HP :7/7
MP :3/3
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〈ステータス〉には、対象の簡単なレベルとHP、MPを確かめる力もある。
他のステータスやスキルはわからないが、レベルだけわかれば大体は見当がつく。
「ゲコォッ!」
ラーナが飛び掛かってくる。
俺はそれを敢えて鎧の胸部で受け止め、弾き返す。
「〈城壁返し〉!」
鎧が輝きを帯び、ラーナが吹き飛んだ。
向こうの方がレベル上であったにもかかわらず、ラーナは身体が弾けて手足が飛び散った。
【経験値を2取得しました。】
【レベルが1から2へと上がりました。】
【スキルポイントを1取得しました。】
頭にメッセージが響く。
無事に初のレベルを上げることができた。
「……しかし、こうして見るとえげつないな」
重騎士の攻撃力は低い。
普通に戦えば、こちらのダメージもほとんど通らない。
泥仕合になっていただろう。
何なら〈下級剣術〉にスキルポイントを振っていれば、普通に殴り負けていた可能性も高い。
余計な体力を使えば、今日稼げる経験値が減少する。
効率的にサクサク行こう。
潰れたラーナの死骸の肉が溶け、青い石だけが残っていた。
水属性の魔石だ。
魔物は不安定なマナの塊であり、命を失えばその肉体は消え失せる。
そうして核である魔石だけを残すのだ。
「【Lv:2】の魔石……安いだろうが、まあ今は確保しておくか」
俺は青い石を拾い上げたとき、後ろから慌ただしい音が聞こえてきた。
「たすけっ、助けてくれぇ!」
振り返ると、こちらへ走ってくる、剣士の男が目についた。
俺と同じくらいの歳だ。
「冒険者か」
あまり狩場で冒険者同士がかち合うのはよくない。
余計なトラブルの許になる。
「ここっ、殺される! 殺されるぅ!」
剣士が悲鳴のような声を上げる。
彼の背後に、十近いラーナの姿が見えた。
「ゲェッ! ゲェッ!」
こちらを威嚇するように鳴いている。
魔物の群れの擦り付けはマナー違反もいいところだが、自身の命が懸かっているのだ。
仕方のないことだろう。
「俺に任せろ」
俺は剣士とすれ違うように前に出た。
「おっ、お前! ほ、本当に行けるのか? あ! そんな身なりで、実は名の通った冒険者だったり……!」
「実はさっき、生まれて初めてレベルが上がったところだ」
俺が正直に口にすると、剣士ががっかりと肩を落とした。
「だ、駄目じゃないか! 俺より全然弱っちいじゃないか! 新人があんな数の魔物捌けるわけないだろ! よ、鎧脱げ! そんなもん装備してたら、逃げられる相手も逃げられなくなるぞ!」
剣士が慌ただしく俺へとそう言う。
十近い数のラーナが飛び掛かってくる。
俺は剣を後ろに下げ、ぐっと身体に力を入れた。
「ゲェェェェエエエッ!」
「フンッ!」
〈城壁返し〉を発動させる。
俺に飛び掛かってきたラーナが、次々に爆ぜていった。
一体、また一体と。
【経験値を2取得しました。】
【経験値を3取得しました。】
【レベルが2から3へと上がりました。】
【スキルポイントを1取得しました。】
【経験値を4取得しました。】
【レベルが3から4へと上がりました。】
【スキルポイントを1取得しました。】
次々に俺のレベルアップを示す声が響いてくる。
ものの二分で、辺りは青いラーナの体液塗れとなっていた。
「フンッ!」
最後の一体を〈城壁返し〉で吹き飛ばす。
【経験値を2取得しました。】
【レベルが7から8へと上がりました。】
【スキルポイントを1取得しました。】
あっという間に【Lv:8】になってしまった。
これでスキルポイントは【7】溜まった。
【称号〈不動の者〉を得ました。】
ついでに称号を手に入れた。
何らかの条件を達成したことを称えるためのものである。
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〈不動の者〉【称号】
攻撃行動を取らずに十体以上の魔物を討伐した証。
静止状態での防御力を【+10%】する。
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これでまた〈城壁返し〉の発動条件を満たしやすくなった。
称号はスキルやスキルツリーを得る条件になることもある。
積極的に集めていく必要がある。
「ふむ、順調だな」
システムに関しても、今見た限りは〈マジックワールド〉と同一と考えて問題なさそうだ。
「た、助かったが……お前、何者だ?」
剣士は、森で妖怪にでも会ったかのような顔で俺を見ていた。
「命の恩人に酷い言いようだな」
俺はそう言いながら〈ステータス〉を開き、確認を行う。
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【エルマ・エドヴァン】
クラス:重騎士
Lv :8
HP :10/28
MP :4/11
攻撃力:7+5
防御力:24+5
魔法力:9
素早さ:9
【装備】
〈下級兵の剣〉
〈鉄の鎧〉
【特性スキル】
〈なし〉
【通常スキル】
〈城壁返し〉
【称号】
〈不動の者〉
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よしよし、各ステータスも問題なく伸びている。
これでもっとまともなレベル上げを行えるようになったというものだ。